企業の海外進出:成長の条件

伊藤 公二
コンサルティングフェロー

1 はじめに

1990年代以降日本経済が長期間停滞する一方で、中国、ASEAN諸国、グローバル・サウス等の新興国が世界経済の成長をけん引しており、成長する海外市場への進出は日本企業の成長に向けた重要な選択肢となっている。

Bernard and Jensen (1995)の先駆的な研究以降、輸出や対外直接投資など国際活動を行う企業の特徴について企業・事業所データを用いて解明しようとする研究が世界的に行われ、膨大な研究が蓄積されている(注1)。研究成果の概要については既にさまざまな文献で紹介されているが、本稿では、海外進出を開始する企業の視点に立ち、①海外に進出する企業の特徴、②海外に進出して成功する条件、に関連する研究成果を紹介する。

2 海外進出企業の特徴

これまでの実証研究から、海外に進出する企業の特徴として以下の点が広範に確認されている。

①国際活動を行う企業は一部の企業に限定される。
②国内企業よりも従業者数や売上高等の規模が大きく、生産性(全要素生産性、労働生産性)が高い。

これらの点を、『経済産業省企業活動基本調査』(以下『企業活動基本調査』)の調査票情報を利用して、日本企業について確認する。

図1は、2000年から2020年にかけての日本企業の海外進出状況の推移を示している。ここでは、若杉他(2008)にならい、企業を、①輸出企業、②海外直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)企業(海外子会社を保有する企業)、③輸出・FDI企業(輸出を行いかつ海外子会社を保有する企業、④国内企業(国内でしか活動しない企業)の4つに分類し、それぞれのグループに属する企業の推移を示している。

図1 海外進出状況別企業数の推移
図1 海外進出状況別企業数の推移
出典:『企業活動基本調査』から筆者作成。
図2 海外進出企業の業種構成
図2 海外進出企業の業種構成

経済のグローバル化が進展する中、国際活動を行う企業は増加傾向にあるが、2020年時点でも企業全体の約75%は国内でしか活動していない。なお、海外に進出している企業の中では、輸出だけを行う企業が圧倒的に多く、海外子会社を保有する企業は極めて少ない。これは、輸出を開始するより対外FDIを開始する方が、固定費が大きいことを示唆している。

2020年に国際活動を行っている企業7,272社の業種別構成をみると、製造業が4,851社(構成比66.7%)、卸売業が1,733社(同23.8%)で、この2業種で全体の9割以上を占めている(図2)(注2)。

図2は、若杉他(2008)にならい、2002年、2020年における労働生産性(付加価値/従業者数)について、企業の海外進出状況別の分布を比較している。いずれの年も最頻値を比較すると国内企業が最も低く、次いでFDI企業、輸出企業となり、多くの輸出・FDI企業が全般的に高い水準に分布している(注3)。

図3 海外進出状況別労働生産性(付加価値/従業者数)の分布の比較
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図3 海外進出状況別労働生産性(付加価値/従業者数)の分布の比較
出典:図1に同じ。

3 海外進出により企業は成長するか

以上の結果から、海外進出が企業の生産性向上をもたらすような印象を受けるかもしれないが、実証研究の結果は、海外進出が常に企業の成功を保証するものではないことを強く示唆している。

海外進出と企業の生産性の因果関係の検証は、2000年代における国際経済学の実証研究の主要テーマの一つであった。多くの実証研究は、生産性の高い、あるいは規模の大きい企業が輸出などの国際活動を開始するようになる、という国際活動の自己選択仮説を支持している。例えば、Bernard and Jensen (1999)が米国の製造業のデータを利用した研究では、調査対象期間中に輸出を開始した事業所と国内でのみ活動する事業所について、調査対象期間の初年度における従業者数や出荷額を比較しており、輸出開始事業所の水準の方が有意に大きいことを確認した。

一方、海外進出が生産性の上昇をもたらす、という国際活動の学習効果仮説については、確認した研究と否定する研究が混在している。Bernad and Jensen (2004) は、米国の輸出開始企業について輸出開始後の生産性成長率を非輸出企業の成長率と比較したところ、両者の間の有意な差が確認されなかった。Girma et al.(2004)は、傾向スコアマッチング法により輸出開始企業と属性の近い非輸出企業を探し出し、両者の全要素生産性の推移を比較する(差の差分析)ことにより輸出の学習効果の存在を検証した。生産性については有意な差が確認されなかった。一方、De Loecker (2007)がスロベニアの製造業のデータを利用した実証研究では、輸出開始企業の全要素生産性は輸出を開始した後に大幅な上昇することを確認している。この他にも多くの研究が行われたが、仮説についての見解は一致していない(注4)。

4 企業の海外進出が成功するための条件

国際活動の学習効果は確認されない状況は海外進出が必ず成功をもたらすとは限らないことを意味する。では、どのような企業であれば海外進出を生産性の上昇に結び付けることができるのであろうか。

既存の実証研究では、海外進出に成功する複数の要因を示唆している。

4.1 研究開発活動・技術力の向上

製造業の企業の場合、一部の企業は技術開発や商品開発を目指して研究開発活動を行っている。こうしたイノベーションを目指す企業は海外市場に進出する傾向があり(Cassiman and Golovko 2011)、海外市場に進出しても成功する可能性が高い。例えば、Aw, Roberts and Xu (2011)は、台湾の電機産業の企業を対象に輸出と研究開発投資の関係を分析しており、輸出単独の学習効果は小さいが、研究開発投資を実施している場合は生産性を引き上げる効果が大きいことを示している。

外国企業の買収は、自社にはない技術力・研究開発力を入手し自社の技術力を向上させる有力な方法である。Stiebale (2016)は、欧州の企業の特許数について、クロスボーダーM&Aの対象となった企業とその他の企業を比較したところ、前者の特許数の方が後者よりも有意に多い。また、M&A企業の特許の内訳を見ると、投資国における特許数は増加しているが、投資対象国の特許数は微減であることを明らかにした。これは、M&Aにより獲得した経営資源を国内でのイノベーション創出に活用していることを示唆するものである。

4.2 商品の差別化・品質向上

海外進出の成功は、自社の商品・サービスを現地市場に適合させることが成否を左右する。このため、企業には商品を外国市場に合わせて差別化したり品質向上を図ったりすることが求められる。例えば、Hallak and Sivadasan (2013) によるインドの事業所の分析では、輸出企業は国内企業よりも品質マネジメントシステムを構築・運用するための規格であるISO9000を取得している割合が7.5%ポイント以上高く、輸出事業者の品質管理能力が国内事業者より高い可能性を示している。

商品の差別化・品質向上は海外市場で高い価格で販売することを可能とする。例えば、Kugler and Verhoogen (2012)は、コロンビアの企業のデータを利用して、輸出企業が国内企業よりも商品価格を高く設定する傾向があることを示している。また、Eckel et al. (2015) は、メキシコで複数の財を供給する企業データを利用して、製品の企業内シェアと価格の関係を分析している。差別化が可能な財については、企業内のシェアが高い主力商品ほど国内販売価格が高くなるが、輸出価格はさらに高くなる傾向があることを示しており、差別化された商品は海外で評価される可能性を示唆している。

4.3 事業の見直し

多くの実証研究は、海外市場への進出により供給する商品数が変化することを確認している。これは海外進出に併せて事業の見直しを行うことの重要性を示唆している。Bernard, Redding and Schott (2011) は米加貿易自由協定が締結される前後について分析し、米国の製造業における企業の製品数は自由貿易協定締結後に減少したこと、その一方、主力商品への集中度は上昇していることを明らかにしている。

一方、海外に子会社を設立したり買収したりする場合についても、事業の在り方を見直す必要があると考えられる。例えば、Arnold and Javorcik (2009)は、インドネシアにおいて、外資系企業に買収された事業所の全要素生産性はその他の事業所よりも買収3年後に13.5%高いこと、同時に雇用者数や賃金、設備投資も大幅に増加していることを明らかにした。この結果は、買収後に大幅な業務再編が行われていることを強く示唆している。

いずれの取組も短期間で着手・実行できるものではない。海外進出の前にどれだけ自社の事業を見直し、入念に準備をしておくかが、海外進出後の成否を左右する鍵となると思われる。

5 まとめ

本稿の締めくくりにあたり、企業規模の重要性について強調しておく。国際活動を行う企業は規模が大きく生産性が高いこと、規模の大きい企業が国際活動を開始しやすいことは既に触れたが、では、規模が小さいまま国際活動を行うとどうなるのであろうか。

伊藤(2021)は、経済産業省『工業統計調査』のデータを利用して、2003年に輸出を開始した事業所について、規模別に輸出を継続している事業所の割合の推移を示したところ、輸出開始1年後より事業所規模により存続率の差が確認された。従業者数50人以下の事業所の存続確率は輸出開始翌年には約7割にまで低下し、開始から3年後には半数以上の事業所が、7年後には4社のうち3社が輸出から撤退している。一方、従業者数が50人を超えると輸出継続率は大幅に改善し、2010年でも半数以上の事業所は輸出を継続している。

図4 輸出開始事業所の規模別輸出継続率の推移
図4 輸出開始事業所の規模別輸出継続率の推移
出典:伊藤(2021)。

しかし、ただ規模が大きくなれば良いという訳ではない。伊藤(2021)では、輸出撤退事業所になる確率も推計しており、従業者数が撤退確率を引き下げる効果を確認している。従業者数が1%増加することにより輸出撤退事業所となる確率は5.6~12.9%低下する。一方、従業者数を売上高に変えて推計したところ輸出撤退確率を引き下げる効果が確認されなかった。これは単純な規模の拡大が重要なのではなく、相互につながりあう人的資本の蓄積が重要であることを示唆している。実際、3で提起したさまざまな取組を実行するには、高度な能力を備えた人材が相当数必要になる(注5)。企業は人的資本を蓄積した上で海外進出を検討することが望まれる。

また、中小企業が海外に進出しない主な理由は、人材の他、ノウハウ、資金など経営資源の不足である(中小企業基盤整備機構 2006、中小企業庁 2016)。海外進出に必要な経営資源が不足する場合は、支援施策を有効に活用することが期待される(注6)。

脚注
  1. ^ 国際活動に関する企業の異質性(heterogeneity)に関する理論・実証研究の成果については、Wagner (2007, 2012), Bernard, Jensen, Redding, and Schott (2007)、Melitz and Redding (2014)などのサーベイ論文により包括的にまとめられている。また、田中(2015) による丁寧な解説が参考になる。
    日本企業の国際活動に関する異質性については、若杉他(2008)以降様々な研究が行われている。
  2. ^ ただし、『企業活動基本調査』は金融・保険、建設などの業種は調査対象としていないので、日本の海外進出企業を網羅しているわけではない。
  3. ^ 若杉他(2008)では、企業活動基本調査のデータを利用して2005年の労働生産性(売上高/従業者数)について企業の海外進出状況別の分布を確認しており、図2とほぼ同じ形状を示している。
  4. ^ 輸出の学習効果を検証した研究についてはWagner(2007)によるサーベイ論文が詳しい。業種や輸出先・直接投資先による効果の相違など、どのような条件で学習効果が確認されるかを検証する研究も広範に実施されている(Wagner 2011)。
    対外直接投資の学習効果についても結論は一致せず、学習効果が確認できる条件を明確にしようとする研究が行われている。例えば、Hijzen et al.(2011)はフランス企業のFDIについてマッチングと差の差分析により効果の分析を行ったところ、全要素生産性を引き上げる効果は検証できなかったが、先進国への水平直接投資を行う製造業やサービス業では国内の雇用拡大効果が確認された。
  5. ^ 例えば、Aw, Roberts and Xu (2011)は規模が大きい企業が研究開発を開始する傾向があることを示している。
  6. ^ 多くの先進国では、企業の海外進出支援策として、コンサルティング(進出前・進出後)、展示会・顧客とのマッチング、資金援助(融資、貿易保険)、人材育成支援等の施策が整備されている(Ito 2013, European Economic and Social Committee, European Union 2018)。
参考文献
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  • 若杉隆平・戸堂康之・佐藤仁志・西岡修一郎・松浦寿幸・伊藤萬里・田中鮎夢(2008),「国際化する日本企業の実像-企業レベルに基づく分析-」RIETI Discussion Paper 08-J-046.

2026年2月18日掲載

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