EBPM Report

ビジネスプランコンペの事業開始・存続や事業拡大に与える影響について

小野塚 祐紀
研究員(政策エコノミスト)

本稿ではビジネスプランコンペの効果検証をしている研究の紹介をする。以下で紹介する研究では、審査の得点を利用した回帰不連続デザインや、一部の審査結果をランダムに決めるという実験によって、コンペに勝つ(もしくはコンペで次の審査に進む)ことの、新規事業立ち上げや既存事業の存続、事業の拡大への因果関係を推定している。対象となった者は比較的年齢の若い場合が多く、また、新規事業者、既存事業者のどちら(もしくはその両者)が対象になっているかは行われたコンペに依存する。コンペによって、コンペに勝ったり次の審査に進むことで、事業者は賞金を獲得したり起業家トレーニングを受講したりできることになっていた。事業者以下に述べる際の効果の有り/無しは統計的に有意/非有意であることを意味する。なお、すべて発展途上国で行われたものであるため、日本で同様の政策を考える際には注意が必要である。

Fafchamps & Woodruff [2017]はガーナでコンペを実施し、起業家トレーニングの効果を検証している。トレーニングは、5日間のコースとより個別の事業にカスタマイズされたトレーニングから構成されている。対象は20歳から40歳の事業主である。提出された事業計画の審査得点に比例する形で確率的に起業家トレーニングを受ける権利が与えられており、そのランダム性を利用して効果を推定している。トレーニングから14カ月後の時点でビジネスの成長に対する効果はないとの結果を示しているが、サンプルサイズの小ささや、カスタマイズされたトレーニングへの参加/不参加のコントロールがうまくいっていない部分もあり、解釈には注意が必要だと思われる。

Fafchamps & Quinn [2017]はアフリカ3カ国でコンペを実施している。対象は18歳から25歳の起業家を志望している者で、コンペ参加者の半分が学生であった。コンペで勝ち残った者には千米ドルが与えられた。審査員団がつけたランキングを利用した回帰不連続デザインにより推定が行われている。推定結果によると、コンペの半年後において、事業主である確率、常用雇用者数に正の効果がみられている。

Klinger & Schuendeln [2011]は、事業を始めたい者とすでに事業を行っている者を対象に中南米3カ国で行われたコンペの効果を推定している。コンペは3段階で構成されていた。まず、第1段階目の予備的な審査で選ばれた者は第2段階で起業家トレーニングプログラムを受け、フォーマルな事業計画を提出する。この事業計画で高得点を獲得した者は第3段階に進む。ここではメンターやコンサルタントとの一対一での補助を受けて事業計画書をさらに磨き、最終的に提出した事業計画で高得点を取った者が約9千米ドルを受け取った。審査得点を利用した回帰不連続デザインが用いられ、推定結果によると、新規事業と既存事業へ効果にはある程度の異質性がみられた。第2段階でのトレーニングは事業拡大により正の効果があった一方、第3段階でのトレーニングは事業の立ち上げにより正の効果がみられた。また、賞金獲得については事業の立ち上げにより正の効果がみられた。

McKenzie [2017]は、ナイジェリアで行われた大規模なコンペの効果を推定している。このコンペは、40歳以下で、新規事業の開始もしくは既存事業の拡大を目標としている者が申し込み可能であった。採択されたプランには平均して約5万米ドル相当(額は必要性の査定により変動)が付与された。付与は事業計画に沿っていることを条件として4回に分けて行われた。この論文では、このコンペの最終審査で中間層に対してランダムで採択/非採択の決定が行われたことを利用してコンペ応募から5年(全ての付与が終わってから3年以上)経過までの採択の効果を推定している。結果によると、コンペで勝つことは事業の立ち上げ、既存企業の存続の両方に正の効果があった。また、新規事業、既存事業の両方で、雇用、利潤、売り上げに対する正の効果があった。

賞金を与えるビジネスプランコンペの効果は、企業への現金給付の効果と強く関連している(零細企業への現金給付の効果については、例えばDe Mel, McKenzie & Woodruff [2008]を参照)。しかし、コンペに応募をしてくる起業家や企業の層は、一般的な起業家・企業とは異なる可能性には注意が必要である。また、通常、ビジネスプランコンペでは事業の実現可能性や成長可能性などが審査対象の一部となっているため、賞金を獲得した事業は平均的な事業よりも高い成長率を見せる可能性がある。審査員団が成功する事業を見分けることができるのかという問いについては、Fafchamps & Woodruff [2016]やMcKenzie & Sansone [2019]が取り組んでいる。

参考文献
  • De Mel, S., D. McKenzie & C. Woodruff (2008) "Returns to Capital in Microenterprises: Evidence from a Field Experiment", Quarterly Journal of Economics 123(4), pp. 1329-1372.
  • Fafchamps, M. & C. Woodruff (2017) "Identifying Gazelles: Expert Panels vs. Surveys as a Means to Identify Firms with Rapid Growth Potential", World Bank Economic Review 31, pp. 670-686.
  • Fafchamps, M. & S. Quinn (2017) "Aspire", Journal of Development Studies 53(10), pp. 1615-1633.
  • Klinger, B. & M. Schuendeln (2011) "Can Entrepreneurial Activity Be Taught? Quasi-Experimental Evidence from Central America", World Development 39(9), pp. 1592-1610.
  • McKenzie, D. (2017) "Identifying and Spurring High-Growth Entrepreneurship: Experimental Evidence from a Business Plan Competition" American Economic Review 107(8), pp. 2278-2307.
  • McKenzie, D. & D. Sansone (2019) "Predicting Entrepreneurial Success Is Hard: Evidence from a Business Plan Competition in Nigeria", Journal of Development Economics 141, pp. 1-18.

2021年3月11日掲載

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