EBPM Report

中小企業への補助金は効果があるか:ヨーロッパの研究の紹介

関沢 洋一
上席研究員

中小企業を対象とする補助金・助成金制度は多くの国々で作られている。これらの制度の多くは単なるバラマキであることを目指しているものではなく、補助金を受領した企業の生産性の向上を通じて経済全体へのプラスの影響を実現することを目指している。それでは、実際のところ、中小企業への補助金は生産性の向上などの所与の目的を果たしているのだろうか。

システマティックレビューという研究形態を通じて、この問いに対して答えを出そうという研究が最近出された[1]。ちなみに、ここに出てくる番号(この場合は[1])は、ここで紹介している論文や書籍を指していて、この報告の一番下にある「参考文献」でこの番号に対応する文献が紹介されている。

システマティックレビューでは、リサーチクエスチョンと呼ばれる問いを立てた上で、あらかじめ検索用語を決めて、主として学術研究用の検索サイトを使って網羅的な検索を行うことによってリサーチクエスチョンに答えている既存の研究を探し出して、総合的な評価を加えようとするものである。以下ではこのシステマティックレビューを著者名に従って「Dvouletý論文」と呼ぶ。

1.対象研究の抽出

Dvouletý論文では、「公共的な助成金が企業のパフォーマンスにポジティブな影響をもたらしているか」というリサーチクエスチョンが設定された。対象となる研究は中小企業に関する2000年以降に出版された研究のうちEU域内で行われている政策に限定されている。

検索用語は、企業への支援を示す言葉(SME grantなど)、対象国、効果を示す言葉(雇用、売上など)、研究のタイプを示す言葉(回帰不連続デザイン(注1)など)の組み合わせとしており、社会科学の有名な検索サイトであるWeb of ScienceとScopusを使って、検索している。この結果として抽出された論文は318本あった。これらの論文の要旨を3人の著者が別々に見て本当に関係する論文を絞り込み、重要な論文を漏らしていないかをチェックし、最終的に残ったのは30の研究だった。30のうち半分は、傾向スコアマッチングなどのマッチング手法(注1)と差の差分析(注1)を組み合わせたものとなっている。

多くの研究では補助金等を受領した企業と、それらの企業と類似しているものの補助金を申請していない企業の間で比較していて、補助金等を受領した企業と、申請したけれども受領できなかった企業の間の比較は少ないとしている。ただ、後者の比較がもっと行われるべきと指摘されている。

2.レビューの結果

Dvouletý論文におけるレビューの主な結果は以下のとおりである。

企業の存続について検証した研究は3つあり、いずれも統制群(補助金を受領していない集団)に比べて、補助金を受けた企業の方が存続する割合が高かった。

雇用への効果について検証した20の研究のうち、18本は補助金が雇用の増加に効果があったとしており、効果が見いだせなかった研究は2つだけだった。

有形固定資産について検証した10の研究のうち、9つでは補助金の受領により有形固定資産の増加が認められ、効果が見いだせなかった研究は1つだけだった。

売上高については14の研究のうち、10の研究でポジティブな効果があったと報告しており、4つではネガティブな効果があったか、効果が見いだせなかったとしている。

生産性を反映する指標として、労働生産性については、13の研究のうち、6つの研究では補助金が労働生産性にポジティブな結果をもたらしたとする一方で、7つの研究では効果が見られなかったかネガティブな効果があったとしている。TFP(全要素生産性)については、12の研究のうち、5つの研究ではポジティブな効果が見られたとする一方で、7つの研究では効果が見られなかったかネガティブな効果があったとしている。

全体としては、企業の存続、雇用、有形固定資産、売上高についてはポジティブな効果がある傾向にあるが、労働生産性やTFPに対しては効果があるとするものとないとするものが混在しているとしている。このような結果に対する解釈として、生産手段の増加に比例して売上高が伸びる場合には生産性は上昇しないので、生産性の伸びは見られにくいのではないかとしている。たとえば、補助金を利用して雇用者数が10%増えても、売上高の伸びが10%であれば、売上高を雇用者数で割った労働生産性に変化はないことになる。

3.若干の注意すべき点

Dvouletý論文の結果をうのみにするのは好ましくない。Dvouletý論文の著者自身がこのレビューの結果の解釈にはけっこう慎重で、生産性について各研究間の結果のばらつきや補助金受領者のデータを収集しきれていないことなどいくつかの問題を指摘している。似たような問題は、私自身が経済産業政策のEBPMに関与して感じていて、補助金の受領者と不受領者の双方の雇用や売上高のデータが数年間にわたって相当高い割合で収集できないと分析結果に自信を持ちにくい。

また、Dvouletý論文では明確に指摘されていないが、仮にEU域内の全ての関連研究で公表されているものが網羅されているとしても、全てのプログラムが研究対象になっているわけではなく、効果がなかったことが判明した研究を公表していない可能性(公表バイアスと呼ばれる)もあるので、Dvouletý論文における全体的な評価は正確でないかもしれない。

また、今回の効果検証に使われた30の研究のうち、半分は、傾向スコアマッチングなどのマッチング手法と差の差分析を組み合わせたものであり、因果関係の検証という点では、ランダム化比較試験(注1)や回帰不連続デザインといった手法に比べると分析結果について信頼を置きにくい。この数年間に回帰不連続デザインによる研究が増えているので、今後は研究の信頼度が高まっていくと思う。

最後に、Dvouletý論文で指摘されている重要な点として、中小企業への補助金を付与されなかった企業に何らかの影響を及ぼす可能性が指摘されている(スピルオーバー)。Dvouletý論文のレビューの対象となった研究の中でこの可能性について検証した研究は1つだけで、補助金を受領した企業から距離で1マイル以内の同一産業の企業で補助金を受領しなかった企業において雇用が減少したことが示されていた[2]。新型コロナ登場前の日本のように人出不足が生じている状況では、一部の企業に補助金を付与してそれが補助金受領企業の雇用増につながっても、補助金をもらっていない企業においては逆に人を雇いにくくなり、経済全体で見た生産性向上にもつながらないことがあり得るので、政策立案に当たって十分に気を付けることが必要になる。

脚注
  1. ^ ランダム化比較試験、回帰不連続デザイン、傾向スコアマッチング、差の差分析についてわかりやすく紹介するお勧めの書籍としては、伊藤公一朗[3]、中室牧子・津川友介[4]、安井翔太[5]がある。
参考文献
  1. Dvouletý, O., S. Srhoj, and S. Pantea, Public SME grants and firm performance in European Union: A systematic review of empirical evidence. Small Business Economics, 2020.
  2. Cerqua, A. and G. Pellegrini, Industrial policy evaluation in the presence of spillovers. Small Business Economics, 2017. 49(3): p. 671-686.
  3. 伊藤公一朗, データ分析の力―因果関係に迫る思考法. 2017, 光文社新書.
  4. 中室牧子・津川友介, 「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法. 2017: ダイヤモンド社.
  5. 安井翔太, 効果検証入門:正しい比較のための因果推論/計量経済学の基礎. 2020: 技術評論社.

2021年2月25日掲載