RIETI政策対談

第6回「これからの年金改革~社会保障国民会議中間報告からみえてくるもの」

RIETI政策対談では、政策担当者とRIETIフェローが、日本が取り組むべき重要政策についての現状の検証や今後の課題に対し、深く掘り下げた議論を展開していきます。

我が国では、年金、医療問題等、社会保障問題について課題が山積である。年金改革については、6月10日に社会保障国民会議が中間報告の答申を行った。第6回RIETI政策対談では、中間報告を踏まえ、これからの公的年金制度のあり方、制度の見直しについて、研究主幹であり、社会保障国民会議の座長である吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授とRIETIにおいて社会保障財政シミュレーションモデルの開発を研究している中田大悟研究員に論じていただいた。

(このインタビューは2008年7月14日に行ったものです)

対談のポイント

  1. 税方式対保険方式という図式はミスリーディング
    • 基礎年金の財源をめぐっては、全額税方式と現行の保険方式ということで議論されているが、税方式対保険方式という見方はややミスリーディングである。現行方式はそもそも税と保険料のハイブリット。給付の3分の1には税が投入されており、その割合を2分の1まで引き上げることも規定となっている。これをさらに100%まであげて全額税方式にするべきかどうかが議論されているが、冷静にデメリットとメリットを検討すべきである。(吉川教授)
    • 基礎年金の完全税方式化はわかりやすく、国民のコンセンサスを得られやすい。また、移行方式を正しく設定すれば実現可能だが、税対保険料という図式にとらわれず、現行方式との接続性を重視するなら、基礎年金給付にかかる国庫負担割合を2分の1以上に引き上げるという折衷案もありうる。(中田研究員)
  2. 社会保障国民会議の年金シミュレーションについて
    • シミュレーション結果によれば、税方式への移行のあり方によって消費税換算された負担の程度が異なる。シミュレーションにおけるケースB(過去拠出を反映させるケース)を税方式化の軸と考えることができる。(中田研究員)
    • ケースBを推奨する税方式化論者が多いのは確かだか、税方式年金の理念に照らせば、現在の低年金・無年金者に何の手当ても無いことが正当化されるかという問題もある。(吉川教授)
    • 今後、医療、介護他についても、給付と負担の水準を明確にしたシミュレーション結果が示されるだろうが、基礎年金の国庫負担と合わせて、財源として期待される消費税が持つ緩やかな逆進性の問題をどのように解決するかが課題。(中田研究員)
    • 未納問題は年金財政の課題というよりも、未納者自身の将来の生活の不安定性に関わる重要な問題。これをどのように解決していくかが重要。また年金記録問題などで年金制度の信頼性は大きく損なわれており、信頼回復は急務であるが、年金の財源問題とは別次元の問題であるから切り離して議論する必要がある。(吉川教授)
  3. 社会保障国民会議中間報告の意義
    • 基礎年金の財源に関して、税方式を主張する側も現行の制度の維持を主張する側も、殆どの問題意識を共有している。お互いに問題意識を共有しているのであれば、まず最初に研究者間、有識者間で一致点を見いだすことが重要である。(中田研究員)
    • 一致点については、専門家の間ではそれなりに形成されつつある。国民会議の議論は、その一致点を形成する為の土俵づくりに大きな貢献を果たしている。(吉川教授)
  4. 今後の社会保障国民会議の展望
    • 秋の最終報告に向けて作業を進めていく。年金についての大きな宿題として、財源方式について、全額税方式か現行方式(ハイブリッド方式)のどちらを我々は採用すべきなのかについて議論を深めていく。未納問題についてはもう少しきめ細かい議論が必要。生活保護についても踏み込んだ議論をしていかなければならない。年金に限らず、医療・介護他、それぞれの制度で低所得者層に関する手当てをしてきたが、制度ごとの対応になっているため、複雑で分かりにくくなっている。これを制度横断的に整理して、簡素で分かり易いものにする為の議論をする必要もある。(吉川教授)

川本明内閣官房参事官司会:川本 明(内閣官房参事官(社会保障国民会議担当)/前RIETI研究調整ディレクター):
本日は、RIETIで研究主幹をお願いしております吉川洋先生が社会保障国民会議の座長に就任されており、またRIETIでも年金を中心に社会保障に関する研究も一定程度蓄積されてきたことを背景として、政策と研究の対話の機会を持つことができ、大変ありがたく思っております。まず最初に吉川先生から、今回の社会保障国民会議が設置された背景や、その審議の状況、どういったことを目指してこれまで議論してきていたかといったことにつきまして、簡単にお話しいただければと思います。

社会保障国民会議とは

吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授吉川 洋(東京大学大学院経済学研究科教授):
社会保障国民会議は6月19日に中間報告の答申を行いました。この会議は、今年1月の終わりに、第1回目が開かれて、いわゆる親会議、それから3つの分科会、これは、第1が雇用や年金、第2が医療や介護サービス、それから第3がいわゆる少子化対策、家族政策をテーマにしていますが、これらを合わせて30回近く会議を開きました。

国民会議の狙いは、その会議の名前にも出ていると思います。従来から政府、厚労省を中心に社会保障については、いろいろな議論がなされてまいりました。しかし、社会保障については課題山積ということで、何とかしなくてはならない、改革待ったなしというような状況になってきているのだと思います。そうしたいわば社会の要請、社会保障の実態を踏まえて、この会議は設置されるべくして設置されたのだろうと考えています。

そこで、従来の議論との比較でいいますと、1つは社会保障については、毎年度テーマごと、具体的には年金、医療、介護、これが中心ですけれども、来年度はこの制度の改正をするというようなことで、順繰りにそれぞれの改正を行ってきました。各々改革を実行する際には、厚労省の審議会等ではそれぞれ議論されてきたわけですけれども、いまひとつ議論の中身が一般の人々の間に伝わっていかなかったのではないか、そういう問題があったとわたしは考えています。

それを象徴するのが、今回の後期高齢者の医療制度改革だと思います。これはご承知のとおり、数年前に議論されて、法改正等も既に2年前になされていた。しかし、残念ながら準備不足といいますか、説明不足といいますか、いざ今年の4月1日にふたを開けてみたら、大騒ぎになると、こういうことだったわけです。ありていに言えば、従来は新しい年度が始まると、新聞の一面に、今年からあなたの生活はこういうふうに変わりますとか、そういうのが載って、みんななるほどこういうふうに変わるのかというようなことは知るわけですけれども、最後のルールの変更のところだけがぽんと直前に知らされるということで、いったいなぜそういう改正をしたのか、そもそもどういう問題があってこういう改正がなされるに至ったのか、そうした背景についてはそれぞれ審議会等では専門家の間で議論はされてきているわけですが、一般の人々には伝わっていない。

ここで今回の国民会議の中間報告で打ち出された大きな方向性について説明したいと思います。これまでの社会保障制度改革の流れを全体的にとらえれば、年金の04年度改正を始め、制度の財政的な持続可能性を高めてきたと評価できると思います。土台がぐらぐらしていては家は建たないという意味で、こうした改革は不可欠だったといえるでしょう。しかし、その一方で、非正規労働者の増大、年金未納問題、医療提供体制の劣化、出生率の低迷など、ある意味で日本の社会保障の空洞化を懸念させる問題も同時に進行したことも率直に認めなければならない。今求められているのは、これまでの改革の成果の上に立って、社会保障の機能強化の方向に大きく踏み出すことだ、これが中間報告のエッセンスといえるでしょう。

国民会議の特徴の1つは、社会保障にはいくつかの柱がありますが、それを縦割りで議論するのではなくて、しっかり横串を入れたこと。それから、第1分科会のテーマですけれども、社会保障をしっかりするためには、現役世代がしっかりしてなくてはいけないということで、現役世代の雇用等についても、社会保障との関連で議論しているということが挙げられると思います。さらに、国民会議という名前のとおり、わたしたちはできるだけ情報を世の中に発信して、社会保障に対する関心を高めてもらうということに努めてきたつもりです。

幸い、国民会議が設置された背景でもある、時代の要請といいますか、改革待ったなしという状況が一番大きいのでしょうが、国民会議の設置と並行して、新聞を中心にずいぶん社会保障の問題を大きく取り上げてくれていると感じています。今日のテーマの年金については、主要3紙が独自の提案もされたわけですし、年金だけでなく、新聞を読んでいると毎日のように、医療や介護も含めて社会保障に関する、しっかりとした解説記事が載るようになったと感じています。社会保障国民会議もそういう大きな、社会保障改革に向けての機運に合わせてそれなりに貢献できたのではないかと思っております。

川本:
それでは、中田さんの方からRIETIでの研究についてご紹介いただくとともに、今吉川先生からお話があった今回の国民会議の中間報告を、研究者の立場でどのように評価されておられるかというところを、お話しいただければと思います。

RIETIにおける年金問題の研究

中田大悟研究員中田 大悟(研究員):
RIETIとしましては、設立当初から社会保障問題には常に関心を寄せていたのですが、こと年金に関しては3年ぐらい前、吉冨前所長の時代から本格的に研究を始めました。その頃に私もちょうど年金の研究を行うためにRIETIに移ってきました。RIETIでは、いわゆる年金のシミュレーションと経済との関係を、シミュレーションモデリングで明らかにしようという研究をずっとやってきました。それまでも自分も研究者として、2004年の年金制度改正にはそれなりに理解があったつもりですが、それらの研究を通してより年金の制度、それから2004年改正に対する理解が深まるということがありました。

今の私の現状認識なのですが、先ほど吉川先生が言われたように、最近はやっとメディアの方々も理解が進んできたと言いますか、浸透してきたのですが、2004年改正というのは非常に大前進の改革だったというのは間違いないのだろうと考えています。

特に、マクロの年金財政そのものの頑健性は相当に強化されている。この意味で、公的年金が破綻するような認識は根本的に間違いです。マクロ経済スライドが名目額で下限があるとか、その辺の問題はいろいろあるかと思いますが、基本的なメカニズムとしては頑健性が確保されている。もちろん問題は当然残されていて、労働市場に与える歪みであるとか、制度間の不公平であるとか、未納・未加入、それから運用・積立の改善といった課題はもちろん問題は残されているのですが、ただ、それらは、マクロ経済スライドというパワフルな調整機能があることによって、財政破綻に直結するような問題ではない。これらの問題というのは、基本的に、冷静に議論を進めていって、できるところから改善すればいいだろうというのが、わたしの基本的な認識です。

ということで、できるところから始めればいいわけですが、今先ほど挙げたような未納問題であるとか、労働市場の歪みの問題というのは、基本的に、基礎年金の財源選択によって粗方解決可能という意味で、基礎年金財源の負担の設計をどうするかということが最も重要な論点、課題になります。

そうしますと、今回の国民会議試算の、それから中間取りまとめとシミュレーションに関しては、基本的に議論の出発点として非常に意義があるなと思っております。財源選択の在り方もこれから後で議論になるかもしれませんが、税それから社会保険というところの議論はありますけれども、もっといろいろ多様に、今回のシミュレーションをステップにして議論されていいのだろうというふうに、私としては思っております。

川本:
それでは、本日のテーマである年金を中心に、より具体的な論点で議論を進めていきたいと思います。

吉川:
各論に入る前に、もう少し総論的なことを説明してよろしいですか?

川本:
どうぞお願いします。

年金制度の基本的な論点は基礎年金の財源である

吉川:
今中田さんから年金、年金制度にはいろんな問題があるけれども、基礎年金の財源が最も基本的な論点になるというお話がありました。この基礎年金の財源をめぐっては、ご承知のとおり、いわゆる全額税方式と、現行の保険方式ということで、大いに議論されています。今回われわれも国民会議でシミュレーションを行いました。

ただ、1つだけここでコメントさせていただくと、まず税方式対保険方式という言い方は、ややミスリーディングで、わたしはこの問題をあまりに、源氏か平家かという感じに捉えるのは問題じゃないかと考えています。と言いますのは、当たり前のことですが、現行方式でも3分の1は税が入っているわけです。さらに公費の部分を2分の1まで引き上げるということは既定になっているわけです。

振り返って考えてみると、国民全体をカバーする皆保険、これはわたしは理念として正しいと思っているのですが、皆年金ということからすると、これを100%の保険でまかなうということは、非常に難しいと思うのです。というのは、保険料を払う事が難しいような人が、必ず世の中にいるわけです。従って、皆年金を制度として維持する以上は、やはり何らかの公費あるいは税金の投入が必要になる。これは明らかで、だからこそ日本でもそうなっているということですね。

ですから、年金の保険方式とはいっても、100%保険方式ということはあり得ないし、既に3分の1は税金なのですから、ハイブリッドなわけですね。2分の1まで税金にすることはコンセンサスですが、それをさらに100%にするか。つまり全額税方式にするべきかどうか、これが現在議論されているわけです。ハイブリッド方式と、いわゆる全額税方式というのは、先ほども言いましたけれども、源氏か平家かというようなことではなくて、わたしは冷静にメリット、デメリットを検討すべき2つの案だというような認識を持っています。

中田:
実は、その認識は私も共有しております。私はノーマティブな姿としては、恐らく完全税方式が最もわかりやすくて、国民の理解も得やすい最良の選択肢であるし、移行方式を正しく設定すれば実行可能な案だろうと思います。ですが、現実これまで引きずってきた、運営してきた年金制度があるわけですし、先ほど税と保険料のハイブリッドだというお話がありましたけれども、社会保険と税というのがどれだけ違うのかという観点もあります。

確かに給付と負担が緩やかにリンクしている、していないという部分はあるかもしれませんが、経済学的な見方で見れば、ペイロールタックスや生涯ベースで見た消費税負担とあまり見分けがつくものでもない。純粋な保険と税であれば違いは明白ですが、社会保険というものにはそもそも税も投入されて、混合的な要素を常に持っていますので、あまりそこで、先ほど言われたように、源氏と平家のような闘いを繰り広げても、何ら生産的な議論は生まれないだろうと私も思います。

ですので、今の社会保険方式との接続性を非常に重視しながら、わたし個人的には、これは最後結論で述べればいいなと思っていたのですが、今、国庫負担を3分の1から2分の1までいかにして上げるっていうところでも議論は非常に盛んですが、これをさらに7割や8割まで、もしくは9割まで行ければ一番いいとは思いますが、計画的に増額していく。そうすることで、パートタイマーへの適用拡大も容易になっていくであろうし、国民年金保険料を低く抑えることができます。

国民年金保険料は2017年まで段階的に1万6900円まで引き上げられて固定されることが決まっていますが、これは貨幣の限界効用が高い低所得者にとってみれば、免除措置があるとはいえ、非常に高い保険料です。しかも名目額では賃金上昇率に合わせて増えていきますので、そう遠くない将来、名目額で2万円を突破するでしょう。そういう保険料水準じゃなくて、もう少しみんなが払いやすい水準にまで落としていく。それでいて、基礎年金の所得再分配の機能は強化していく。今回のシミュレーション結果、さらには中間報告・取りまとめを巡る議論を踏まえて、そういう方向を検討するのも、1つ重要な現実的な対応なのではないかと思っています。

吉川:
中田さんは今のお話の中でも、考え方としては100%全額税方式が一番わかりやすいとおっしゃったんですが、ただ理念として考えた場合、税金でファイナンスするとした場合、お年寄りというのはばらつきが大きいですから、豊かなお年寄りもいらっしゃるわけですね。そうした経済的に恵まれたお年寄りにも、税金でファイナンスをして基礎年金をお渡しするのか。これはどうなのかという議論があります。その点については、どういうふうに考えられますか?

中田:
基礎年金だからこそ、税でファイナンスすることがなじみやすいだろうと思っています。これがたとえば2階の報酬比例部分の年金を税でファイナンスするとなると、これは問題が大きいと思うのですが、基礎年金は扶助的な要素が非常に強い、あくまでも所得再分配の為の年金ですので、それは皆で等しく薄く支え合おうという考え方が出てもおかしくないだろうと思います。

吉川:
豊かな高齢者にも一律に、税でファイナンスした年金給付を渡すというのは、どうでしょう、リーズナブルなのでしょうか。全額税で賄う制度としては、最終的なセーフティネットである生活保護というのもあるわけです。現に、年金も含めて低所得あるいは経済的に困った人たちの問題を解決する上では、生活保護との関係を整理しなくてはならないと指摘されているわけです。基礎年金について、税で全額ファイナンスしたときに、給付の面で、経済的に恵まれた高齢者への給付についての問題をどう考えるか。

中田:
基本的にはそれは国民の選択の問題であるので、高額所得者には削るべきだという意見が国民の多数を占めるのであれば、当然ある程度のところから削るということも可能であろうと思うんですね。ただ、そこで保険料対税という対立図式が適当じゃないなと思うのは、たとえば今の社会保険料方式であっても、やろうと思えば国庫負担が入っている3分の1、2分の1のところにあたる給付を、高額所得者の方にはご遠慮願うということができると思います。

であれば、あまり社会保険だから、もしくは税であるからということを議論するよりも、この国の年金方式がどういう所得再分配の形を目指すのか、どういうリスクのカバーの仕方を目指すのかということを明確にすることの方が非常に重要だと思います。

吉川:
私が伺いたいのは、中田さんは先ほど考え方としては100%完全全額税方式のほうがわかりやすいとおっしゃった。しかし全額税でファイナンスする場合に、給付の面で経済的に恵まれた高齢者にも全額税でファイナンスした基礎年金を一律に給付するというのは、理念、考え方としてわかりにくいという議論もあるわけです。そこのところを、理念としては全額税方式がわかりやすいとおっしゃったことに対して、繰り返しになりますが、中田さんのご意見を聞きたいのですが。

中田:
確かにそういう意見もあるとは思うのですが、年金の体系の選び方というのは、それぞれの国で選ぶことです。

吉川:
中田さんご指摘のとおり、現行制度でも先ほどの国庫負担3分の1の部分については同じ問題があるというのは、おっしゃるとおりです。いずれにしても、白か黒かということで現行方式の修正、それからいわゆる全額税方式、過剰な綱引きをするのは、あまり生産的ではないという点については、われわれ2人意見が一致したようです。次にシミュレーションの議論に移りましょうか。

国民会議の年金シミュレーションについて

中田:
そうですね。所得階層という問題が今出ましたので、それにまつわる点を。

今回の社会保障国民会議は、税の問題に関しては、それ自体を正面から議論するのではなくて、社会保障の面からアプローチするということが基本だと思うのですが、ただ今回のシミュレーションで非常に明らかになってよかったなと思う点があります。シミュレーション結果によれば、税方式化への移行のあり方によって負担の程度、たとえば消費税で負担した場合の消費税換算率が違います。

また、今回の中間取りまとめでは、まだ出ていませんが、今後、医療・介護においても、将来像ごとにどれだけの負担が必要になり、それが消費税換算でいかほどか、という議論が、当然出てくるのだと思います。そういう社会保障負担の消費税換算を考えていくと、消費税の持つある程度の逆進性の問題が常に出てくる。年金のシミュレーションでも、基礎年金の消費税方式化は低所得者の負担を増すという結果が示されていますが、しかし、これをもって基礎年金の国庫負担を上げる、もしくは完全税方式化の議論が否定される、ということではないのだろうと私は思います。

むしろこれは税の問題です。特に、わが国の税体系の所得再分配機能が非常に薄い、たとえば、給付つき税額控除もないという中で、年金であれ、医療であれ、社会保障負担を消費税で賄っていくと、確実にそういう人たちにしわ寄せが来るでしょう。これから消費税負担で社会保障の財源を賄っていくのであれば、そういった点について、しっかり議論しなければいけない、準備をしておかなければならないと私は思います。その点が非常に透けて見えるシミュレーションになっているなと、わたしの目には見えました。

また今回のシミュレーションでの、基礎年金租税方式化への移行案、ケースAとケースCに関しては、やらなければならないシミュレーションであったかもしれませんが、現実性、実行性という点で見れば非常に薄いものに思えます。そうすると、ケースBというのが税方式を考える際の1つの軸になるのだろうと思います。ケースBでは、足元で3.5%、将来時点で5%少々の消費税負担ということが示されていました。

しかし、これは数字の出し方の問題で少し細かい話になるのですが、注意して見なければいけないのは、これは完全賦課方式で消費税を課したときの消費税率だということです。2004年制度改正の非常に重要だったところは、100年間で財政の均衡期間を区切って、その期間内の積立金の積み上げと取り崩しで、世代間の負担を平準化しようというとことでした。消費税3.5%ということで、賦課的に消費税率を課す事ができれば、非常に導入の敷居が低いともいえる負担水準なのですが、これを平準法でとるともう少し高い消費税率になるはずです。そういうところはもう少し注意深く見られるように、国民に対する注意喚起があってもいいと思います。

それと同時に、消費税が上がると、物価にも当然跳ね返りますので、それが年金給付の物価スライドに反映されることで、一概に、高齢者の消費税負担がすべて高齢者の純負担になるというわけではないという点は、今回のシミュレーション結果を公表する際に、もう少し丁寧な説明が必要ではなかったのかなという気がしています。

吉川教授と中田研究員吉川:
そうですね。国民会議ではご承知のとおり、シミュレーションを年金についてやったわけです。全額税方式についてもシミュレーションをやっているわけですが、ご指摘のとおり、A、B、C、3つのケースをやっている。これは人によっては余計なケースまであえてシミュレーションしているというようなコメントをされる方もあるのですが、われわれとしては、何が余計かというのは主観的なところがあるので1つだけしかやらないと、これまた恣意的だと言われてしまいますので、できるだけ幅広くいろんなケースについてシミュレーションしたということです。われわれはフェアなシミュレーションだったと考えています。いずれにしも、バックデータもすべて公開しているわけですから。

今中田さんからはBのケース、これは過去の保険料未納期間に応じて給付を減額していくケースであり、財政的には一番小さくて済むケースになるわけなのですが、これこそが一番全額税方式において現実的なケースであるというお話がありました。何が現実的と考えるかというのには、主観性がありますが、わたしがいろいろ世の中での議論を聞いていると、確かに全額税方式を言われる方々の中には、本命はBのケースだとおっしゃる方が多い。それはそれで結構ですが、ただこの場合にどうでしょうか。過去の未納に応じて給付を減額するわけですね。

そもそもこうしたことも含めて年金の改正について議論されているときに、既に中田さんが正しく指摘してくださったように、マクロで言いますと、04年改正でマクロ経済にスライドが入ったために、財政のサステナビリティは格段に高まった。しかしながら、未納の問題が大きな問題として残っている。とりわけ、将来いわゆるアリとキリギリスで、キリギリスになってしまうような未納者の問題、これをどうするかというのが、大きな関心あるいは改革のポイントだと思うのです。

それに照らして考えると、全額税方式の場合、未納については給付をカットするB方式について、この点はどういうふうに考えられていますか? 全額税方式のプロポーネントというか、提唱者の方々は。中田さんもそのお一人かなと思うのですが。

中田:
未納期間が給付にある程度影響を及ぼすというのは、仕方ないだろうと思います。そもそも、私を含め、税方式を主張する論者というのは、社会保険料という名目で取っているものを、税という名目に置き換えるだけだという認識が非常に強いのだと思います。

吉川:
しかし、そこがほんとの置き換えで何も変わらなかったとしたら、そもそも何のために改革をするのかいう話になりませんか?
社会保険庁対国税庁の話だと言われれば、それはそれなりに1つの理由になるのかもしれませんが。

中田:
防ぐべきは将来の生活保護世帯の急増であると思います。今の足元の生活保護世帯の数というのは、それは防げた部分もあるかもわかりませんが、年金との関わりで言えば、今の高齢者が受給している年金額は、一定の貧困転落防止機能を果たしていると言えるでしょう。しかし、今の若年層の未納世代は、失われた10年、15年の中で納付の機会を奪われてしまったような人たちであり、今後も未納を続ける可能性を考えれば、年金保険料を税に置き換えることによって、彼ら彼女らが将来受給世代になったときに、わずかでも生活保護世帯になってしまう人が減るのであれば、実行する価値はあるのではないかなと思います。

吉川:
完全に、100%税方式に移行してから後の将来の世代にとっては確かに違うということですね。

中田:
そうです。

吉川:
ただ、B方式では、既に船が出ていると言いますか、乗りかかっている未納者については、救わないということになるわけですよね。

中田:
はい。

吉川:
そこが全額税方式の理念からするとやや問題なのではないですか。全額税方式を言う人は、B方式こそが本命で、AとCというのは誰も念頭にないケースだとおっしゃる方が多いのですが、未納の人について、給付をカットするというのは、理念に照らして、矛盾する面があるのではないかと思います。

中田:
少し細かい話になりますけども、もう既に受給世代になっている人たち、もしくはこれから直近の受給世代になる人たちにとってみても、国庫負担を100%に持っていく、もしくはそれに近い形に持っていくというのは、非常にメリットがあることだと思っています。現行制度では、基礎年金の給付は国民年金保険料の免除率に応じて減額され、保険料全額免除の場合は国庫負担分の給付だけが受け取れることになっています。わたしは、これは1階部分の年金を「基礎年金」と称するにしては、少しおかしな話だなと思っています。

基礎年金というのは、あくまで扶助的要素の強い、所得再分配のための年金のはずです。そこに報酬比例の考え方が入ってしまっている。しかし、国庫負担を引き上げれば、免除を受けていた人たちの給付は上がっていき、結果的に基礎年金に基づく所得再分配機能も向上します。過去の未納の人たちには恩恵は無いですが、免除申請をしてきた人たちにはそういうメリットもある、ということは国民に主張してもいいのかなと思います。

吉川:
そうですね。今中田さんがおっしゃったとおり、現行制度には免除制度がありますが、受給資格の年限には、免除期間はカウントされるのだけれども、給付はカットされてしまうわけですね。基礎年金の理念に照らしていかがなものかとおっしゃるのは、わたしもそう思いますね。もちろんそういう場合に常に出てくるモラルハザードの問題は、気を付けなくてはいけないのだけれども、何らかの事情である期間、経済的にほんとに困窮している人、それで免除が適用された場合には、ただ期間が受給期間の年限に参入されるというだけではなくて、その間は給付カットの対象にならなくてもいいのではないかと思います。

中田:
先生が最近、事実上の税方式という言葉をよく使われているかと思いますが、やはりそういう部分を強化していくというのも重要だと思います。

吉川:
今、中田さんがおっしゃったのは、結局は現行制度でも、免除という制度があって、免除者については、結局税で給付を将来面倒見るわけですから、ある意味では低所得者にターゲットを当てた事実上の税方式ということですね。ですから、現行方式を主張する人たちも、未納の問題はもちろん大いに問題視しているわけで、そこのところに改革のメスを入れなくちゃいけないというわけですね。

具体的には免除の適用、拡大等々ですが、厚生年金の適用を拡大するというとことを別にすると、低所得者のところは、実質上の税方式の拡大ということだろうと思うのですね。ですから、どうなのでしょう、現在基礎年金は3分の1が国庫負担、これを2分の1まで引き上げることは、既定路線になっているとけれども、もうちょっと税金の比率を上げてみるというオプションもあっていいのではないかということを先ほど中田さんが言われたのではないかと思いますが、どこまでという数字の問題はあるけれど、結局、似たような考え方ですよね。未納のところに手当をすると。手当をすると言っても、税金で手当てすることになるわけでしょうから。

現在既定路線になっている2分の1、プラスアルファと言った時、アルファはどれくらいかというのは、人によっていろんな考え方があるかもしれません。アルファがプラス50%っていうのがいわゆる全額税方式になるわけですけれども、未納問題のところに、2分の1を少し超えてプラスアルファをするというのは、まさに中田さんが言われているような考え方だろうと思います。

税方式論者も社会保険料方式論者も未納問題等の共通の問題意識を持っている

中田:
最初の話に戻ってしまうのですが、基礎年金の財源については、税なのか、社会保険なのかという二項対立の図式で捉えられてしまいがちなのですが、わたしが考えるに、税方式を唱えている方でも、絶対にノーマティブに税じゃなきゃいけないのだと考えている方は、恐らく少ないのだろうなと思います。社会保険方式を主張される方、現行の制度の維持を主張される方も、結局お互い話し合ってみると、問題点としてあげられるのは未納であったり、負担の不公平感だったりで、その問題意識は税方式論者も社会保険料方式論者もすべて共有しているわけです。ですので、お互い問題意識を共有していて、しかも思ったより税とか社会保険だとか、そういうものに固執していないのであれば、一致点を見いだすことは可能です。まず最初に、研究者間、有識者間で一致点を見いだすというのが一番重要だと思います。

吉川:
今、中田さんがおっしゃったことには、わたしも完全に同意します。若干敷延させていただきますと、中田さんが今おっしゃったようなことは、専門家の間ではそれなりのコンセンサスになっていると思います。それから、今おっしゃったようなことが土俵だとすれば、その土俵づくりには実は今回の国民会議、シミュレーション等も含めて、それなりに貢献したのではないかと私は思っているのです。どういうことかというと、04年の年金の制度改正、マクロ経済スライドの意味合いが、必ずしもよく認識されないで、結局ある種の全額税方式を主張される方の一部には、次のような考えがあったと思います。

未納の問題があり、保険料を納めるべき人が納めていないため、言ってみればバス会社でバス料金を払わないでただ乗りしている人がいるために、いつかバスは走らせられなくなっちゃうと。あるいは、食堂で言えば、食い逃げされて、いつか食堂はつぶれてしまうというような認識があって、であれば、税で賄ったほうが、この際いいのではないかという認識があったのだと思います。しかし、それは正しくない。

まず第1に、これはやや比喩的にいえば、前払いの制度なのですね。払わないと、後で給付をもらえないということですから、食券を買わなきゃ食べられない。バスで言えば、先に切符を買う制度なわけです。払わない人がいるために財政的に制度が回らなくなってしまうと考える人も多いのですが、04年にマクロ経済スライドが入ったために、サステナビリティは極めて高くなっている。ですから、バスは走る。レストランはつぶれない。これが1つある。

では、未納は問題でないかというと、結局未納者自身の問題、キリギリスの問題なのですね。繰り返しになりますけれども、税方式を主張される方々の中には、このままだと財政的に年金がつぶれてしまうので、この際税で賄わないと駄目なのではないかというふうに思っていた方が、結構いるのだと思います。

それについては、今回国民会議の議論もそれなりに貢献をして、わたしはそうした誤解がかなり解けてきていると思います。正しい土俵が設定されて、真の意味での未納問題、キリギリスの問題としての未納問題を、どういうふうに解決するのが一番いいのかと、関心を持っている人たちが冷静にテーブルについて議論を始めたということだと思っています。

中田:
未納問題、未納率の高さが財政破綻につながるという誤解は常にあって、わたしはRIETIに来て、年金財政のシミュレーションモデリングから始めたものですから、かなり前の段階から、マクロ経済スライドと有限均衡方式のもとでは、年金財政自体はつぶれることはないのだということは理解できていました。私のように職人的にシミュレーションをやる研究者の間では、それは意外と当然であったわけですけど、普通の一般の経済学者の間では、その辺の意識が共有されていなかったというのは間違いないと思います。

吉川:
そうだと思います。中田さんは、これはお世辞ではなくて、先駆的な方のお一人だと思います。一般的にマクロ経済スライドに対する認識は、驚くほど低くて、中田さんも指摘されたとおり、経済学者の間でも認識は必ずしも浸透していなかった。年金の専門家や社会保障の専門家の間でもその認識は必ずしも深まっていなかったのです。ただ、幸いそれが最近はメディアも含めて、正しい認識になってきたということではないでしょうか。

川本:
1点わたしのほうからコメントさせていただきます。今回の中間報告では、シミュレーションの基礎となったデータも公開していますし、研究者の方々、専門家の方々に対しては信頼度を高めた面もあったかと期待していますが、他方、一般国民の方々にとっては、未納問題に象徴されるように、やはり依然として制度が危ないという認識はまだ残っているのではないかと思います。冒頭に吉川先生が指摘されたこととも重なりますが、この社会保障の問題をどうやって社会的に共有していくかというところの課題はまだ残っていますし、国民会議の1つの役割もそこにあるのではと感じます。

吉川:
わたしも年金の議論、楽観しているわけじゃないですよ。記録問題、あるいは、社保庁問題です。残念ながらこれまで話してきたような、年金の財政的なサステナビリティ、あるいはミクロで見ても未納者のキリギリス問題、こうした制度上のいわば本質的な問題とは全く違った次元で、例の記録問題とか社保庁の問題というのが、極めてシリアスな問題として出てきた。これは公的な年金制度全体を揺るがす問題であることは間違いない。

だからと言って、公的年金制度をやめますかというと、もちろんそれがいいわけではないわけで、そんなことをしたら、国民全体がルーザーになってしまいますから、これは乗り切るしかないわけです。それを乗り切った上で、さらに年金制度をどう改革するかということで、これまで2人で話してきていたわけです。

これまでの国民会議の議論というのは、政府全体として記録問題等に現在取り組んでいるわけですから、それとは別の次元で制度全体のやらなくてはならない改正について議論してきたわけです。いずれにしても、私も制度そのものについて楽観しているわけではない。

川本:
本質的な論点について、建設的な議論を進めていただきありがとうございます。最後の取りまとめとして今後についての議論に進みたいと思いますが、その前に今の吉川先生の提起された信頼問題について、もし中田さんのほうで何かご意見があればお願いします。

中田:
信頼問題ということに関して、直接のコメントになるかどうかわからないのですが、ただ、基礎年金を税方式にしたからといって、この年金記録の重要性や、オペレーションの問題がなくなっていくわけではないということは、確認しておいたほうがいいと思います。そのためにやる税方式化や国庫負担の増大ではないだろうということです。仮に、完全に税方式化したとしても、たとえば居住年数をもとに基礎年金を給付するというのであれば、新しく居住年数カウントシステムみたいなものを税金ないしは保険料で作らなくてはならないわけです。

そうすると、税方式と社会保険料方式の違いは、その新しいシステムで今後の記録の管理をしていくのか、もしくは現行の保険料拠出でカウントしていくシステムをリフォームして管理していくのかという違いであって、本質的な議論にはならないということは確認しておいたほうがいいのかと思います。

吉川:
全く同感です。今の信頼問題というのは、財源方式とは独立の問題であるということを確認しておいたほうがいいと思いますね。

川本:
ありがとうございました。最後に、今後の社会保障国民会議、これは年金の問題を超えるかもしれませんけれども、少し自由に吉川先生のほうから展望をお話しいただいて、それに対して中田さんのほうからお話しいただいて、それで締めくくろうと思います。

対談する吉川教授と中田研究員、司会の川本参事官

今後の社会保障会議の展望は

吉川:
わかりました。6月19日にまとめたものは中間報告ですので、秋に向けてわれわれ国民会議として最終報告に向けて作業を進めていくことになっています。今日われわれが話をしました年金については、大きな宿題として、財源方式について、いわゆる全額税方式か現行方式、ハイブリッドですが、基本的な財源の方式としていったいどちらをわれわれは採用すべきなのか、こういうことについても議論を深めていくことになると思います。

それから、未納問題、これについてももう少しきめ細かい議論をしなければいけないと思います。未納が問題になるのは、本人、とりわけ低所得の方々についての問題ということになるわけですけれども、それを税でいわばセーフティネットとしての基礎年金をつくるとすると、最終的なセーフティネットとしての生活保護、これは全部税でファイナンスされているわけですが、そうしたものとの関係もはっきりさせる必要があります。

これは実は年金だけではなくて、医療とか介護も関係するわけで、生活保護の場合には、医療については現在すべて生活保護のパッケージの一部として、100%税でファイナンスして、面倒を見る形になっているわけですが、わたしは生活保護についても、国民会議で少し踏み込んだ議論を最終報告に向けてしなければいけないのではないかと考えています。

現在は、低所得の方々に対して、それぞれの制度ごとにさまざまな手当をしているわけです。年金については免除の制度があります。それから、医療保険についてもさまざまな保険料等の減額とか免除の制度があります。現在いわゆる後期高齢者医療について政府与党で見直しているわけですけれども、そういうのもありますね。

それから、高額療養費制度というのが医療保険の中にあるのですが、これについてもやはり所得水準による違いがあります。それから、少し前から医療と介護合算での月額上限の制度もできました。これも所得水準に応じたものです。それぞれ制度の趣旨はわかります。なるべく低所得の人の負担は小さくしよう。それは正しいと思うのですが、ただ制度ごとにやっているので、制度が複雑になってしまっているわけです。

制度が見えにくくなるというのは、大きなデメリットだと思います。税の場合に簡素ということが、1つの原則になっているわけですが、社会保障についても簡素ということが、今後1つの原則になるべきなのではないかと思います。そういう低所得者に対するさまざまな制度上の手当を制度横断的に見ますと、どうもわかりにくくなってきていて、しかも生活保護との関係もはっきりしないところがある。ここをどういうふうに考えるのか。これも社会保障国民会議として、秋の最終報告に向けて1つの宿題になっているのではないかと思います。

先ほど指摘してくださったとおり、このほかに医療や介護については、将来的に、マクロ的に見てどれくらいコストがかかるのかということについても、シミュレーションを行うことになっておりまして、こうしたことも含めて秋に向けて作業を進めていくことになっています。

川本:
RIETIの研究課題としても、今のようなお話は大変これから参考になるのではないかと思いますが、中田さん、いかがでしょうか?

中田:
年金に関しては、最初に言ったとおりですが、冷静に議論を進めていけば、絶対に意見の一致は見られると思います。少なくとも研究者レベルでは見られるだろうと思っています。その意味で、社会保障国民会議の議論を1つの出発点にして、次は医療・介護をいかに安定化させていくのか、国民が求める安心に応えていくのか、そして国民に安心を提供しつつ、国民経済を引っ張っていく、けん引していくような立派な産業に育てていくのかということが、これから議論されなければいけないのだろうと思います。

そういう意味では、これから秋に向けての社会保障国民会議の議論というのが、非常により一層注目度を増すし、われわれ研究者も、それからメディアの方にもお願いしたいですが、より多角的なまなざしで議論を見守っていきたいというふうに思います。

取材・構成/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2008年8月1日

2008年8月1日掲載