中島厚志のフェローに聞く

第12回「IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト――日本にとっての課題」

本シリーズは、RIETI理事長中島厚志が研究内容や成果、今後の課題などについてRIETIフェローにたずねます。

シリーズ第12回目は、昨年『インダストリー4.0 ドイツ第4次産業革命が与えるインパクト』を出版した岩本晃一上席研究員を迎えて、IoTが与えるインパクトや日本にとっての課題とは何かなどについて、お話を聞きました。

インダストリー4.0への関心のきっかけ

中島 厚志理事長 写真中島 厚志 (理事長):
岩本さんはIoTとビッグデータについて、研究や知見を深められていますが、この分野に関心を持たれた経緯を教えてください。

岩本 晃一研究員 写真岩本 晃一 (上席研究員):
きっかけは、2014年春にドイツ大使館から突然レポートが送られてきたことです。最初パラパラ見たのですが、何が書かれているかよくわからなくて、そのまま放置していました。その年の夏、KDDIに勤めている先輩夫婦と一緒に旅行しながらグーグルのいろいろな話を聞きました。当時その業界で一番の話題は、グーグルが世界のどこかに持っていたデータセンターがダウンし、データが全部飛んでしまったことでした。しかし、グーグルは1週間後にそのデータを復旧したというのです。グーグルはすべてのデータセンターにバックアップを持っているのだろうか、いやそれはコスト上あり得ない、グーグルは一体どうやったのだろう、すごい技術を持っている、という話でした。同時に、グーグルはデータセンターに集まるデータを用いたビッグデータ解析という分野を、学問分野として確立した、グーグルはすごい、という話を聞きました。その話を聞いて、そういえば、そのようなことがあのレポートにも書いてあったなあ、と思い出して、パラパラとめくり返してみました。そして、身体が震えました。そのレポートこそが、Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE4.0, Final report of the Industrie4.0 Working Group, April 2013でした。

私は、ドイツが「欧州の病人」と言われた頃から、「独り勝ち」のドイツと言われるほど強い経済力を持つに至ったプロセスを解明し、日本の成長戦略に活かそうとしてきました。その課程で、ドイツ人気質にも触れてきました。彼らは非常に論理的で、いったん始めたことは必ずやり通す民族だと感じていました。国を挙げてプロジェクトを始めれば、時間はかかったとしても必ずやり遂げるだろうと思いました。

そうすると、日本の製造業は今でさえドイツに大きく離されているのに、もっと離されてしまう。これは大変だという大きな危機感を持ちました。その危機感を日本の人々に広く早く伝えたいという思いがありました。

当時、日本には、個々の分野の専門家はいましたが、全体を理解し、広く浅く素人向けに話せる人がいなかったため、その役割を担ったのが、技術の非専門家でした。技術の本質がわかっていない方々の情報発信は、非常にセンセーショナルかつミスリードでした。さまざまな言葉が踊り、今でもそれを信じ込んでいる人が多くいますが、非常に不正確です。

ドイツの製造業が急に強くなって、日本の製造業が急にだめになるという論調がとても多かったことも非常にまずいと思いました。客観的で冷静な目で事実を把握してほしいという思いがありました。

当時、ある出版社が本を書ける人を探していたので、私が手を上げたわけです。ほかの本は、ドイツはすごい、という内容が中心でしたが、日本のビジネスマンの関心は、それじゃあ自分の会社、自分の部署は何をやればいいんだ、自分は何をやればいいんだということにあったので、それに答えるような内容にしました。

またIoT/インダストリー4.0は単なるブームではなく、これまではパソコンやスマホだけがネットにつながっていましたが、これからは、さまざまな機械、自動車や家電などいわゆるマシンと言われるものはすべてネットにつながっていくという、まさにSF映画で見たような世界が実現するということです。あらゆるマシンがネットに結びつくということは、世界中で起きている現象なので、しっかりキャッチアップしていかなければ、会社も人も落ちこぼれていくだけです。そういうことを正確に伝えておきたかったわけです。

新聞記事では、これまで雑巾を絞ってきた企業でも、IoT/インダストリー4.0を導入することで、生産性が、2割、4割、6割といった規模で上昇すると載っています。これまで雑巾を絞ってこなかった企業だと数倍に達する可能性があります。IoT/インダストリー4.0を導入する企業とそうでない企業との間で、大きな格差が開く、というのが目の前の現実です。

中島:
「これは大変だという大きな危機感を持たれた」とのことですが、日本企業にとっての大きな危機感とは何か、もっと具体的に教えてください。

岩本:
日本企業は、IT投資で非常に遅れています。アメリカでは、新しいビジネスを作る方向にIT投資が進み、グーグルやFacebookなどという企業があっというまに大きくなりましたが、日本の場合は、IT投資がさほど行われず、しかもIT投資が行われるときは、人員やコスト削減の方になされてきました。

日本人経営者のIT投資に対する指向があまり変わっていない状態で、ドイツやアメリカが産業発展する方向にIoT/インダストリー4.0投資を進めていったら、日本との差はますます開いていってしまう。これまででさえIT投資で日本の企業は遅れているのに、それがもっと広がっていってしまうわけです。

インダストリー4.0のはじまり

中島:
なるほど。日本企業はIT投資でもっと頑張らなければいけませんね。

ところで、インターネットは前々からあるわけです。速度もずいぶん前から光ファイバーのスピードになっているし、ハードもそれなりのレベルにはとっくに来ていると思うのですが、なぜ今インダストリー4.0なのですか。また、ここ2年ぐらいで急にIoTが言われているのはなぜなのでしょうか。

岩本:
アメリカもドイツもPRの仕方がうまいのです。アメリカでいえば、GEのCEOがジェフ・イメルトという方に変わり、GEが持っていたファイナンス部門を全部売却しました。製造業に回帰し、インダストリアル・インターネットをやるという方針を彼が打ち出し、大々的にPRをしてきたわけです。

ドイツは、ちょうどシュレーダー改革がある程度飽和に近づいた状態で、政府も次の成長戦略を求めていた頃、SAPの会長をしていたカガーマンという人が、ドイツの科学工学アカデミーの会長に就任しました。その時に、彼がこのインダストリー4.0というプロジェクトを打ち上げました。

それがまさにシュレーダー改革に継ぐ向こう10年か20年にわたる成長戦略を求めていたドイツに合ったわけです。それで一気にさまざまな関係者が集まって、国を挙げてやろうということになりました。しかもインダストリー4.0というかっこいいキャッチコピーを作って大々的に宣言しました。インダストリアル・インターネットもインダストリー4.0も、単なるキャッチコピーです。そのようなイメージ戦略が彼らはうまいのです。

中島:
基本的なことですが、インダストリー4.0とIoTは結構オーバーラップしている考え方だと思いますが、必ずしも出所が同じではないですよね。IoTが言われたのはアメリカからですし、インダストリー4.0は、ある意味アメリカからの考え方を踏まえて出てきたということですか。

岩本:
ドイツの特徴として、ドイツの通信事情は非常に悪いので、彼らが想定するIoTは、工場の中です。ドイツは製造業の国ですし、工場の外での通信回線の事情が悪いので、製造業の工場の中に特化したIoTなわけです。機械が得意なシーメンス的な発想と言ってもいいと思います。だからインダストリー4.0という名称なわけです。しかもドイツの主流は、消費者の好みに合わせて製品を個別生産しようという「カスタマイズ生産」です。

対してアメリカのIoTは、通信環境も非常にいいので、GEのように、あちこちにセンサーを置いて、そこからデータを取ってきて、通信回線を通じてデータセンターに集め、ビッグデータ解析をやりますという手法です。グーグルなどデータ処理が得意な企業が考えそうなことです。ドイツもアメリカも、自分の国の置かれている環境に合った形でIoTを進めています。

かたや、日本のIoTは、工場のなかを「見える化」して、コストダウンや人員削減をしようという方向が主流です。徹底的に合理化・効率化を推し進め、ものづくりを突き詰めていくという、日本人らしい発想です。

ドイツとアメリカは、コストダウンはほどほどにして、売り上げを伸ばそうという発想ですが、日本は売り上げを伸ばさずに、コストダウンを追求するという点で、指向する方向が異なっています。

中島:
工場内のシステムを広げるようなやり方がドイツで、一般的な通信ネットワークをいろいろなところに適用するという動きがアメリカといっていいのでしょうか。

岩本:
はい、そうです。

中島:
ところで、インダストリー4.0を日本語に訳すと、第4次産業革命です。第1次が蒸気機関、第2次が電気、第3次がいわゆる電気電子、今回第4次がITですね。しかし、ITは90年代からIT革命と言われる動きが始まっています。そうすると、今新たなものが起きているわけではなくて、90年代からのIT革命の延長がこれから加速しだす可能性、あるいはものすごく大きな広がりを持つ可能性が出てきている。こういうイメージでよろしいのでしょうか。

岩本:
はい、そういう意味です。アメリカの経済学者、マイケル・ポーターは第3次IT革命と呼んでいるぐらいです。これまでずっと進んできたIT化のトレンドの先だということをポーターは言っていますが、そのとおりです。これまでIT化が進んできて、パソコンが出現し、スマホが現れ、その延長として、さまざまな機械がインターネットにつながっていきますという、インターネットが拡大するトレンドのさらなる延長ということです。

中島:
それで、あるところからは次元が変わってくる可能性があるのでしょうか。

岩本:
はい、そうです。だからこそ、改革(Reform)ではなく、革命(Revolution)と呼ばれています。これまでネットにつながるものはパソコン、スマホだったのが、自動車がつながり、家電がつながり、工場のロボットがつながり、そのつながっていく先がどんどん増えることによって、これまでできなかったことが新たにできるようになります。しかも、早く、大量のデータ処理が可能になることで、変化が一気に加速していくということです。

IoTを広げるために必要なこととは

中島 厚志理事長 写真中島:
次に、岩本さんの現在の活動状況を教えてください。

岩本 晃一研究員 写真岩本:
本を出版した縁もあって、11月からRIETIでIoTの研究をやらせていただくことになりました。今考えている研究プロジェクトの名前は、「IoTによる生産革命」というものです。現在日本で、IoT分野において、社会的なニーズがありながらほとんど何も手がついてない大きな分野が2つあります。

1つ目は、ドイツも同様ですが、まだほとんど本格的な導入がされてないため、どういう場所、どういうケースにどういうシステムを導入すれば、どのぐらい生産性が上がるか、あるいは利益が出るか、どのくらい生産性があがるか、という数字が何もありません。その数字がない状態で、役所でも民間企業でも議論しようと思っても、ベースになるデータが何もありません。そういう基礎的なデータを整備していきたいと考えています。データを整備することは、RIETIの基本的な役割だと思います。将来に渡って引用され続ける基礎的なデータの整備を目指したいということが1つです。

もう1つは、大企業は放っておいてもいずれIoT/インダストリー4.0システムを導入しますが、放っておいたら導入が進まない地方、中小企業への導入を促していくことが大きな役割だと思います。

たまたま10年ぐらい前からの知り合いで、石川県加賀市の市長さんがいます。加賀市は石川県で唯一人口消滅可能性都市になった市で、市長が何かやらなくちゃいかんと思っていたところ、私の本をご覧になったそうです。それでIoTによる地方創生をやってくれと頼まれました。先日、2015年の国勢調査結果が発表されましたが、5年前の国勢調査時に比べて、石川県は1万5000人の人口減少だったそうですが、そのうち最大の減少が加賀市の4500人でした。

加賀市はもともと温泉の町でしたが、観光客がピークに比べて今は半分ぐらいになっています。今ちょうど台湾との直行便が小松空港に週3便通るようになり、金沢まで新幹線が通り、台湾や東京からの観光客が増えつつあるところなので、加賀市で、可能な限りIT化した日本版DMO作って、観光客の誘致をしたいと思っています。

中島:
DMOとは何ですか。

岩本:
Destination Management Organizationといい、一体的に地域全体の観光マネジメントを行うもので、もともと欧州にありました。それを日本に合うよう修正して導入しようということで日本版DMOと呼ばれています。増加する外国人観光客を地方に誘致するための切り札とされているものです。

私は、IoTを使った地方創成を、「地方創生4.0プロジェクト」または、英語でIoTにちなんで、「IoRE:Internet of Regional Economy」などという名前を勝手に付けて呼んでいます。これから、その名前を日本中に広げていこうと考えております。

また、中小企業は、IoT/インダストリー4.0は自分たちには関係ないという思い込みと、どういうシステムをどのぐらい導入すれば、どのような効果が出るのかということが、前例がないために、自分の会社にとってどのようないいことがあるのか、わかりません。そのため、前例を作ることを目的として、研究会に中小企業の方々と、IoT/インダストリー4.0システムを提供する企業側に入っていただき、中小企業の何社かをモデルケースにして、こういう中小企業であれば、このシステムを導入すれば、このぐらい生産性が増える、このぐらい利益が出るというのを数字で出したいと思っています。そうしたモデルとなるケーススタディを積み重ねる方法で、世の中の中小企業に対して、IoT/インダストリー4.0はメリットが大きいということを示していきたいと思います。

中島:
そのシステム導入の費用はどのくらいなのでしょうか。

岩本:
中小企業が導入するものですから、数百万円ぐらいの規模でないとだめでしょう。機械学習を付けて、これまでいわゆる職人の勘でやってきたものを、まさに全部ネットでつなげて、数学でいう最適化を図ることができると思います。

中島:
そういったものが数百万円で導入できるのでしょうか。

岩本:
実際にはまだ開発されていません。現在、IoT/インダストリー4.0システムを提供している大手メーカーが開発しているのは何十億や何百億という、大企業向けなので、それでは中小企業には普及が進みません。だから中小企業向けの数百万円のものをこれから開発していかないと中小企業への導入は進まないため、それを促すような研究会をやってみたいということです。

中島:
数百万円規模だと、中小企業に導入の意欲は起きるのですか。それともそもそも中小企業はITを嫌いなのでしょうか。

岩本:
統計にも出ていますが、中小企業の方はビッグデータやクラウドという言葉を聞いたことがないという経営者が半分ぐらいいます。東京にいるとわからないかもしれませんが、地方に行ったら、そんな言葉は聞いたことがないという経営者がほとんどです。

この前もある地方都市で講演をして、その後懇親会で話をしましたが、その地域の中小企業の方々は、今のIoTブームが早く過ぎ去ってほしいと言って、頭を低くして耐えているという話を聞きました。世の中でIoTが言われていることは聞いてはいる。でもそれが何かわからない。それを自分のところに導入したらどんないいことがあるか、わからないという状態です。

中島:
やはり中小企業に知見を持ってもらうところから広げていくということですか。

岩本:
そうですね。まず、中小企業にとっていいものなんだということを知ってもらうことから始めないとだめだと思います。

ドイツも事情はまったく同じです。ドイツは、「ミッテルシュタンド4.0プロジェクト」というプロジェクトを国を挙げて進めており、中小企業向けのインダストリー4.0を組み込んだ生産ラインを作り、周りの中小企業に来てもらって、触って、使ってもらって、こんなにいいものだと体感してもらおうとしています。それを彼らはテストベッドと呼んでいますが、去年末からこの年始にかけて、全国に5カ所作りました。最終的には全国三十何カ所に作る予定です。

テストベッドで実際に物理的な生産ラインを作るとなると、お金もかかりますし、どこにそれを作るのかという話にもなります。もし予算をもらっても、中小企業向けのインダストリー4.0を組み込んだ生産ラインを開発できる人は、日本の地方にはいないでしょう。そこで私は日本なりのやり方を考えてきました。RIETIで研究会を開いて、これまでIoT/インダストリー4.0を開発してきたメーカーの方々に来てもらい、中小企業向けの数百万円のシステムをみんなで考えてもらいます。結果、メーカーの売り上げにもなるのではないですかということです。

中島:
先ほど、どういうシステムを導入すれば、どのぐらい生産性が上がるかといったベースになるデータが何もないとおっしゃっていました。どうして日本より5年ほど先行しているドイツでもまだないのでしょうか。実績はあまりすぐには出ないということですか。

岩本:
ドイツが指向しているのは、カスタマイズ生産と呼ばれていますが、消費者の好みに合った単品生産の生産ラインで、この生産ラインのシステム自体がまだデモ用しか開発されていません。ドイツでも実証試験中のものであっても、本格的に導入されているところは、まだないと思います。

中島:
それでは、日本はキャッチアップできる可能性が十分あると見るのか、それともこれから導入するにしても、まだ何年もかかるということでしょうか。

岩本:
日本の場合は、先ほど挙げました大手メーカーは、大企業向けのある程度の水準のものは、すでに形が見える状態にまで開発が進んできています。日本のメーカーが開発しているものはカスタマイズ生産とは違うものです。その次は中小企業向けに数百万円のものを作ればいいと思います。それを普及することができれば、キャッチアップできる可能性は十分にあると思います。

今後の展望

中島:
今後の研究についてお聞かせください。

岩本:
昨年に出版された本『インダストリー4.0』は、広く浅い本だったので、もっと深掘りしたものを次に出したいと思っています。そして、RIETIでの活動で得た知見を、BBLセミナーやRIETIの機関紙、ディスカッションペーパーの形にしていこうと思っています。1年半後ぐらいになるかもしれませんが、ドイツ人の専門家にも日本に来ていただき、国際カンファレンスで成果を発表して、第2弾につなぐことを目標にしようと思っています。

中島:
第2弾とはどういうことでしょうか。

岩本:
私は若い頃に、政策研究という分野があるということを知りました。日本ではほとんど存在しないのですが、アメリカでは政権が変わると、政権を担っていた人々がさまざまなシンクタンクに移って政策研究をやって、政権が変わると、またその人たちが政権に入っていく。そういう政権を担う人々が、政権についていない間に行う政策研究という非常に大きな分野があるということを知りました。私は、若い頃から学術研究で努力をされてきた方々と競争してもとても無理ですが、政策研究であれば、経験もあるのでやっていけるのではないかと思うので、これから政策研究の分野を深めていきたいと考えているところです。

中島:
それはインダストリー4.0と関係ある分野ですか。

岩本:
今はインダストリー4.0を私なりにいけるところまではいってみたいと思います。しかしある程度いってみたら、また別のテーマにいくかもしれません。

中島:
岩本さんがRIETIでやっていこうと考えていることを少し詳しく教えていただけますか。

岩本:
さきほど、IoT/インダストリー4.0分野において大きく2つの分野が全然手つかずの状態にあると言いました。政策当局や調査機関や民間企業が議論をしようと思っても、その議論のベースになる数字やデータがほとんどない状態ですので、そういったデータを整備するということが大きな考え方です。

具体的には、ある程度のサンプル数の企業に対して、アンケート調査を実施しようと思います。日本の経営者はITに関する理解が世界的に遅れていると言われているので、IoT投資に対して、どれほど理解が進んでいるか。また実際にIoTに対して、どのぐらいの投資をするか。また、どういう分野にIoTを使うかという、IoTの進捗状況を計測できるデータを取っていきたいと思っています。

さらに、IoTが導入されることで、就業構造がどのように変化するかという調査も行いたいと思います。たとえば、あなたの会社では、IoTの製品が普及すれば、どういう職種がなくなって、どういう職種が新しく生まれるか。あなたの会社では、どういう職種からどういう職種に人事異動または配置転換をするのかなどという質問を繰り返すことで、日本の将来の就業構造をある程度予見できるのではないかと思います。

経済面としては、あなたの会社が提供するIoTシステムがいろいろな会社に導入されれば、どのぐらい生産性が高まるか、どのぐらい売り上げが伸びるかを質問したいと思います。それを日本全体に拡大することによって、日本全体の生産性や付加価値がどのぐらい上がるか推定することができるのではないかと思います。

単年度ではなく、ある程度定点観測をしたほうがいいと思うので、何年かおきにアンケートを繰り返すことによって、日本でIoTがどういう形で普及し、将来がどうなっていくか、多少は予測できるのではないかと思います。

中小企業について、日本はドイツのように、予算を要求して予算を地方に配分し、テストベッドを開発するという手法では、時間もお金もないので、IoTシステムを開発しているメーカーに研究会に入ってもらって、メーカーの人たちが実際に中小企業の現場に行き、この中小企業であればこういうシステムがいいなどと助言してもらい、中小企業にそのシステムを導入すれば、どのぐらい利益が出るか、実際に試算してもらおうと思います。

そのようなモデルケースの試算を、全国の中小企業の方々に、セミナーや機関紙などで公開していけば、自分のところもこういうシステムを導入すると、どれほどの利益が出るかわかっていただけ、それが全国の中小企業への普及につながっていくと思っています。

中島:
いま世界は大変な時代の転換期にあるようです。今後とも、RIETIのみならず、世の中をリードして、IoT、ビッグデータ、インダストリー4.0の新しい時代に向けて先導していただけると期待しています。本日はどうもありがとうございました。

岩本:
ありがとうございました。

※岩本晃一上席研究員が、急速に拡大するInternet of Things(IoT)ついて、さまざまな視点で考察していく新連載「IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト」が始まりました。

中島・岩本2ショット写真
2016年1月18日開催
2016年2月9日掲載

2016年2月9日掲載