フェローに聞く

経済と命の両方を守るため、迅速かつ的確な一律の現金給付をどう実現するか(動画)

小黒 一正
コンサルティングフェロー

新型コロナ対策による「売上蒸発」は、日本経済に大きなダメージとなっています。
感染の拡大抑制のため、いま我々は「経済を守るのか、命を守るのか」というトレードオフ問題に直面しているが、その両立を図るためのヒントは何か。
RIETIコンサルティング・フェローである小黒一正法政大学教授が、不確実性のもとでの政府の支援策について提言します。

こちらのコラムも併せてご覧ください。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。


今回起こっている問題は大変深刻な事態だと認識しています。

直近で我々が経験した大きな問題は、90年代後半の金融危機、リーマンショック、東日本大震災がありますが、前者の2つは金融セクターがまず痛めつけられ、そこから貸し渋りなどいろいろな形で実体経済に影響を与えるという流れでした。東日本大震災もそうですが、まずショックが走ったあと、ある程度そのショックが確定し、あとはそれをどう修復していくかという事後的な問題だったわけですが、現在起こっている問題は、真の不確実性の領域に突入しているのだと思います。

経済学の領域ではありませんが、例えばワクチンが本当に開発できるのかどうか、医療のキャパシティをいつ突破してしまうのか、免疫が本当に長く機能するのかなどの問題もあるわけです。その中で感染者数が急増し外出制限など自粛要請が出されていますが、もしかしたら5月6日(*緊急事態宣言の期限)を過ぎてもこの問題が長引いていく可能性も十分あると思っています。

この状況で、深刻な経済問題が裏側にあります。

日本の全産業の1年間の売上げは大体1,600兆円ぐらいあり、1日にすると平均で4.5兆円ぐらいになります。経済産業省(と総務省)の出している「経済センサス」というデータによれば、真っ先にダメージを受けている観光産業、百貨店、飲食関係やその関連産業は、全産業の中で35%ぐらいを占めていることになります。1日4.5兆円の売り上げがある中で、これらの産業だけで1日平均1.6兆円あるわけです。

最近、東京商工リサーチが、3月分の前年の売り上げを100とした場合、どれくらい売上げが変化しているかというアンケートを実施しましたが、中央値が大体85まで下がっている、つまり15%売上げが減少している状況です。このアンケートに答えている企業はまだ余力がある方で、私が個別にヒアリングした感じでは、売上げが9割以上減少した企業もあるので、かなり深刻な事態になっていると思います。

もし仮に15%売上げが下がるとどうなるかというと、1日が1.6兆円の15%なので、1カ月続くとすると約7.2兆円売上げが減少する可能性があり、これが3カ月続けばゆうに20兆円を超える売上げが蒸発することになります。

これは裏側に雇用が存在するわけで、自粛は重要なのですが、じゃあ我々の生活をどうしていくのかというときに、政府が今打ち出している現金給付のようなものをどうするのかを考えていかなければならないと思います。その点についてはRIETIのホームページのコラムに私の考え方がありますので、読んで頂ければと思います。

Q&A

Q:まさに小黒先生がおっしゃるとおり「売上蒸発」が起こっていて、これをカバーするために政府が108兆円の緊急経済対策を打ち出して押し上げようとしていますが、これでは蒸発には十分効かないということでしょうか。

A:これは経済の問題ではなく、ウイルスとの闘いをどうするかが根本の問題だと思っています。その戦略について、経済的な影響とウイルス対策との融合がまだ十分ではないと思っていまして、何か経済的なショックが起こったときは「課税平準化理論」、最終的に家計でも企業でも負えないようなコストについては長期的な視点で政府がある意味保険会社のようになることですが、コストを分散できるのは政府しかないので、そこはある程度頑張って財政的に支えてコストを分散すべきだと思います。

問題は出口をどうしていくかですが、ちょっと見ていただきたいのがこちらの論文です。今われわれが直面しているのはトロッコ問題だと思うんです。トロッコ問題というのは有名なものですけれども、レールがあって途中で道が2つに分かれていて、右にいくと人がいるわけです、例えば1人2人。そして左にいくとまた人がいるわけです、3人か4人。そして、途中でレバーを切って右に行くのか左にいくのかを決めるのですけれども、その時に右にいったら例えば2人亡くなってしまう。左にいったら3人亡くなってしまうという状況があるわけです。今、我々が直面しているのは、経済を守るのかもしくは命を守るのかという、二者択一のトロッコ問題に似たような問題になる。

もし経済を守るために自粛を緩めると、また感染者数が増えて病院が用意したベッドがオーバーになり医療崩壊で人が死んでいく、もしくは人工呼吸器が足りなくなり亡くなる人は増えていく。他方で命を守ることにすると、経済がずっと疲弊していくわけで、最終的には売上蒸発も含めて経済が壊れていくプロセスに入ってしまうわけです。1年長引くと相当大変なことになると思います。また、事業では3カ月くらい経つと相当厳しいといわれている経営者の方がいるわけで、これが6カ月続くと相当厳しいということですね。

その時に抜けている視点は時間軸だと思うんです。あとどれくらい資源を集中してこの問題を解決していくのか、一種の戦略だと思うのですけれども、その時に今映しているスライドが参考になると思います。これはアメリカのFRBのエコノミストの方々が論文で書いているものですが、スペインかぜのときの教訓です。社会的隔離とか外出の制限とかありますけれども、そういったものをなるべく早くしかも長期間やった方が実はその後の雇用の伸びがいい。

スペインかぜは1918年でしたが、グラフで縦軸が1914年から1919年の雇用の伸び、横軸は人口10万人あたりの死者数になります。スペインかぜが流行った1918年で、トレードオフみたいになっている線がありますけれども、これ上の領域が結構重要なんですね。これ、都市をプロットしていまして、彼らが言っているのは、上にある都市というのは死者数が少ないんですよね。しかも雇用も実は伸びている。どういう都市かというと、感染症の基本は検査と隔離ですが、きっちりとなるべく早く対策をした方が、実はその後の経済も回復も早く死者数も少なかったという論文です。後ろにちゃんとした実証分析がありまして、関心があれば読んでいただければと思います。

1つあるのは、どういう優先順位で対策をしていくのかということ、場合によってはワクチンもないかもしれなく、最低でも1年半かかる可能性があると言っている中で、この問題をどのくらいの期間で解決していくのかの基本となる感染症対策をはっきりしてもらわないと、なかなか経済政策を打てない。中途半端に対策をして、自粛を緩めてまた感染が広がって、第2波、第3波が起きてまた自粛することで順次経済が痛めつけられる戦略か、最初に徹底的に1回対策をやって財政的サポートもちゃんとして問題を克服してしまって、あとは経済の機能的な回復を見せていく戦略の、どっちをとるのかを決めることが重要なのではないかなと思います。

Q:ありがとうございます。まさにトレードオフで、感染された方をどう守るのか、あるいは感染した方のケアのため緊急医療が崩壊してしまったら関連死も増えていってしまう、あるいは感染対策を取ろうとすると今度は経済の方が冷えてしまって、それこそ経済的な困窮による自殺であったり、あるいは会社が倒産したりとかいうダメージが出てくる、こうしたトレードオフのバランスをどう取るかを、今決めていく必要があるということになりますか。

A:はい。私はそう思っていまして、これはもう戦争で、日本経済全体を患者に例えれば、今は患者が相当危険な病気にかかっている状態だと思うんですよ。それで、一回入院して手術してその後社会に復帰していくコースを選ぶのか、下手に両立を睨んで、仕事もしながら、要するに経済活動もしっかりしながら、しかも少し病気への対応を不十分にすると、社会的な隔離とかあるいは検査と隔離という感染症の基本をもっと徹底的にしないと、最終的な命もなくなってしまう、あるいは仕事もできなくなる。今この選択が迫られていると思うのですけれども、私はもうやるのであればある程度一定期間集中的にこの問題の処理に資源を投入して、当然ワクチンにも大規模な投資をしていくべきだと思います。

他方で、今論争になっているものがいくつかあると思うんですけれども、一つは免疫が本当にどうなるのかという話です。ここも抗体の検査をたくさんして、本当に感染から回復した後に免疫ができているか、その期間は短いのか、もしくは一回免疫ができれば再びかからないのか。もし一回感染した後に免疫ができていれば、その人たちは経済活動ができるわけです。

それからPCR検査をもっとたくさんやった方がいい。無症状の人はPCR検査をすればある程度わかるわけですよ。何らかの証明書みたいなのものを出す、PCR検査が2回・3回連続陰性とか、感応度の問題があるので100パーセントでないことは理解していますが、そういう人については順次社会的活動を自由にしていく。

特に物流とか食料とかが非常に重要なので、こういったところについても1日にどれくらいできるかというのはありますけど、私の計算では1年間でもし日本の人口全分全員にですね、PCR検査をすると1日35万件やらないと難しいんですよ。だけど6カ月やれば50パーセントは十分活動できるわけですよ。逆に今度は1日10万件ずつやっていくと、半年くらい経つと20パーセントくらい活動できるようになる。全人口のです。

その辺はきちんと政府で数字を詰めてやってもらう必要があると思うんですが、自由に移動できる、活動できる感染していない人たちを今度どう増やしていくのかも考えていく、そういうものを全部一緒にして対策を組んでいくということが必要なのではないか。経済的サポートも、期限を区切ってであれば1年間くらいは相当なものができるはずなので、その期間は全面的にサポートするということをやっていくと。

ただ、状況が変わったら、要するに抗体ができるとかできないとか、ワクチンが開発できるとかできないとか、いろんな条件が瞬時に変わっていくことに連続的に対応できる臨機応変な体制をどう作っていくかが重要かと思います。

Q&A

Q:トレードオフの話については、まず手当が先、命を救うことが大事で、医療的な対策をきっちりやって、これはもう戦争なんだから、ここでまず一回収めてその後V字回復をするという形の方が望ましいというお話だったと思うのですが、封じ込めの間の経済的なサポートについては具体的にどのようなものが考えられるのでしょうか。

A:政府は社会保険料や納税の猶予をしていますが、これは当然やるべきだと思います。社会的隔離をしているときに一番重要なのは、まず収入が途絶え始めている家庭が存在しているので、そこに大胆な現金給付をしてくことだと思います。

私は財務省出身なので、従来の状況であれば、ある程度選別的な形で条件付き現金給付をしていく、要するに真に困っている方々だけに所得情報などを入手しながら選別的に給付していく、ということもやるべきだと思いますが、現在はあまりにもその影響が複雑で、瞬時に政府はその状況を入手することができません。

一つあるとすれば、例えばまず一律に国民一人当たり10万円を現金給付してしまって、そのやり方はコラムの方に書いてありますが、ネットを使って、我々は通知カードをもっているので、国民ひとりひとりはみな自分のマイナンバーを知っているわけです。通知カードには氏名や誕生日が書いてあるので、例えば政府が専用のサイトを作って、(申請者は)マイナンバーを打ち込んで誕生日を暗証番号にして中に入る。

このサイトは、そこはSEの協力が必要と思うのですが、今マイナポータルの裏側にはマイナンバー等の情報があるわけで、そこと照合する形で、この人はマイナンバーと打ち込んだ生年月日が合っているから大丈夫ということで、次に銀行の振込口座のサイトが出てくる。そこに自分の銀行の名前と口座名を入れれば、あとは口座に自動的にお金が振り込まれるというような仕組み、そういうものを早く作っていくべきだと思います。そうしないと生活が成り立たなくなる方々が増えてきているので、まずそれはすべきと思います。

あとは資金繰りの対策をすべきと思います。今は感染症の専門の方たちの対策が政府の対策として出てきていると思うのですが、重要なのは、その対策もやりながら経済的な自由な活動をどう取り戻していくかということになると思います。

そのためには対策のチームメンバーの中に、経済的な専門家の方たちが入って議論していくことが必要で、当然社会的隔離や自粛というのは重要なのですが、感染していない人をどう特定してその人たちが自由に活動していけるのかの仕組みについても検討していくことが今早急に求められていると思います。

繰り返しになりますが、今我々が直面している問題は、ウイルスとの戦争だということです。したがって、一つの戦略に固執するというのは非常に危険です。例えばワクチンができるかできないかという不確実性の問題もありますし、抗体が長続きするのかしないのかという問題もあります。そういった中で、当然経済も回して行かなくてはならないわけですから、柔軟な発想で経済をどう回していくのかも含めて、臨機応変に対応していくということが今我々に求められていると思います。クラスター対策は重要なのですが、今そのフェーズは大きく変わってきているので、柔軟な発想で戦略を変えていくということが必要だと思います。

2020年4月20日掲載