第16回

小泉政権信任と二大政党化が意味するもの

飯尾 潤
ファカルティフェロー

今回の総選挙結果は、2つの側面に要約される。1つは自民党と公明党の強固な連合が、これまでになく強力な野党となった民主党の挑戦を退けて、勝利を収めたこと。もうひとつは、全体として自民党と民主党の議席占有率が90%を越え、二大政党化の傾向が顕著になったことである。

与党連合の勝利と小泉純一郎政権の継続における3つのポイント

まず前者の与党連合の勝利と小泉純一郎政権の継続についてみる。第1のポイントは小泉人気の継続である。森内閣発足直後であった前回の総選挙と比較すれば、自民党は議席をわずかに増加させている。特に比例区においては、自民党が嫌われるという状況をある程度克服して、かなりの程度議席を伸ばした。小泉首相以外に特に無党派層から自民党に支持を集めてくる政治家がいるとは考えにくく、その意味で小泉政権の継続は、首相の人気によるところが大きいといえよう。もっとも安倍晋三幹事長が爆発的な人気を獲得して、かつての小泉ブームが再来するという状況にはならず、しかも両者の支持層はほぼ完全に重なるといわれるので、安倍人気の寄与は限定的であった。

ただ、この勝利を詳細に検討すると、別の側面が浮かび上がる。第2のポイントである自民党と公明党の協力の深化である。自民党政権の継続は公明党との密接な選挙協力なしには不可能であった。今回の選挙では、多くの自民党候補が後援会名簿を公明党に渡すなど、選挙の根幹に関わる部分で協力がなされた。また一部の自民党候補には、比例区選挙で公明党への投票を呼びかけるという行動まで見られた。また公明党が小選挙区に候補を立てた10選挙区のうち9選挙区を確保したということは、自民党支持者が公明党候補に投票する率も、決して低くはなかったことを示している。こうした点から自民党と公明党との連合関係は、単に政権を共有するというレベルを超えて、選挙レベルにおいても密接不可分なまでに深化したということがいえよう。その点で総選挙によって、公明党の政権内における発言力が重みを増すと予想できる。

さらに第3のポイントとして、与党連合の勝利にもかかわらず、自民党と民主党を比べると、両者の集票力が拮抗し始めていることが指摘できる。各選挙区にあると考えられる公明党票を、自民党候補から差し引けば、実際に小選挙区で当選した自民党候補のかなりの部分が、民主党候補に敗れるという計算ができる。また比例区においては、自民党が復調しているものの、民由合併の効果もあって、民主党が第一党になるなど、民主党の攻勢が目立っている。そこで自民党は公明党との協力がなければ、民主党に破れた可能性が高いこと、表面的な好条件(好景気、高い内閣支持率など)にもかかわらず、自民党の当選者数が、過半数に満たない程度にとどまったことは、今後の政治の動きを見るときに、自民党にとって大きな課題を残したといえる。

二大政党化についての3つのポイント

次に後者の二大政党化を見ると、まず第1に、中小政党の没落が指摘できる。総選挙での敗北を受けて解党を決めた保守新党が典型であるが、共産党や社民党も壊滅的な打撃を受けた。こうした政党の不振には小選挙区制の定着という要素もあるが、比例区においても獲得票数を落としているところから、中小政党の支持基盤が失われつつあると考えざるをえない。衆議院選挙の意義が政権の選択にあることが理解され、公明党のように政権に関する明確な態度を示す場合はともかく、曖昧な態度で自身の生き残りだけを掲げても、得票することが難しくなったのである。

第2は小選挙区制の定着と、民主党の伸張である。民主党と自由党の合併は小選挙区における選挙ゲームのルールに則ったものであり、これにより与党である自民党がただ1つ大きな勢力を保ち、挑戦者である野党側が分裂しているという状況はかなりの程度改善され、民主党は政権批判の受け皿となった。このことは小選挙区比例代表並立制の導入後3度目にして、選挙制度の持つ特徴が明確になったことを意味する。ただ民主党は大きく議席を伸ばしたものの、自民党との議席差は、110のうち40を詰めたに過ぎず、相変わらずその差は大きい。次の総選挙に向けて、どのように体制を整えるのか。魅力的で明確な政策的な選択肢の提示、日常政治活動の充実による地方組織の整備、政権交代の必要性を切迫感を持って訴えかけるイメージ戦略など、課題は多い。

そして第3のポイントは、政権公約(マニフェスト)ブームと相まって、選挙結果と政策の枠組みの選択との連動が、強く主張されたことである。これは、政策の選択と、政権の選択、選挙における候補や政党の選択が連動するという当然の前提が、ようやく日本の選挙においても機能し始めたことを示す。個別に見れば、未熟な側面が目につくとしても、ともかくも政権と政策をセットにして、与野党が激突したということの意味は小さくない。

今回の選挙結果は具体的な政策決定場面に変化をもたらすのか?

こうした総選挙結果を、政策面から見るとどうであろうか。はじめに述べたように与党が、いわゆる絶対安定多数を衆議院で占める勢力を維持したということは、小泉政権の信任を意味する。自民党、あるいは与党全体で議席を減らしたことなどを問題にする向きがあろうが、たとえ逃げきりであっても勝利は勝利である。また自民党内でも小泉批判勢力に、引退したり落選した議員が多く、小泉批判勢力に勢いは見られない。その意味で、少なくとも次の参議院選挙までに、小泉首相の地位に大きな変化が見られることは予想しにくい。もしそうしたことが起こるとすれば、むしろ政策的な失敗が表面化するなど小泉首相の責めに帰されるような出来事が生じた時であろう。

そこで政策的には、小泉首相の政策が基本的に継続し、自民党が政権公約を掲げたことの意味がこれから効いてくる。つまり総選挙翌日の記者会見で小泉首相が述べたように、マニフェスト対決となったということは、勝った側の政策には自ずと重みが出てくるということである。
各党のマニフェストを比較すると、自民党は最後までマニフェストという形にするかどうか迷っていたことも反映し、特に民主党のマニフェストに比べれば抽象的な表現が多く、具体性において問題があった。しかしそれでも、これまでの総花的で、何ら検証可能なところのない「選挙公約」とは、大きな違いがある。自民党の政権公約の内容が、飛躍的に急進化したわけではない以上、「小泉改革」の進展に目の覚めるような変化が見られるわけではないだろうが、懸案がずるずると先送りされる状況は少し改まり、次第に結論が出て実行に移される改革課題が増えてくるものと予想される。

問題は、与党としての勝利であるにもかかわらず、与党連合としての選挙前における統一的な政権公約がなかったことであるが、これについても政権協議のなかで、一歩進んだ政策調整が行われつつある。また自民党が伝統的に行ってきた政策形成・政策調整システムが、マニフェストを前提にしていないという問題についても、「重要政策実行委員会」の設置など、それなりの体制が組まれつつある。まずは年末にかけての予算編成など、具体的な政策決定の場面で、どのような変化が起こるのかが注目される。

2003年11月18日

2003年11月18日掲載