第15回

産業再生機構の支援企業の第一陣決定をどうみるか?

鶴 光太郎
上席研究員

8月28日、産業と金融の一体再生を目指した産業再生機構が第一陣の支援企業として、ダイヤ建設、九州産業交通、うすい百貨店を決定した(更に、9月1日には、三井鉱山も追加)。支援企業の具体名が公表されたときの大方の反応は、想定されていたよりも「小粒」というものであった。筆者の印象としても、今回の支援企業の第一陣決定は、その後の銀行の案件持込を加速させる起爆財としては残念ながら弱いと言わざるを得ない。

第一陣の選定は今後の産業再生機構の命運を握るという意味で失敗できない。かつ、その存在意義を十分アピールできるだけの大型案件であるべきという、産業再生機構自身の思惑と外部からの期待は強かった。しかし今回の選択については、国民に二次負担をかけないために資産査定の徹底化を行った結果、再生の見込みがはっきり立つ企業が残ったと考えられる。

しかし、産業再生機構が債権を買い取れるのは、2005年3月までで、あと1年半しか残っていない。銀行側は産業再生機構のスタンスを案じ、産業再生機構に案件を持ち込めば自分たちの債権放棄額が当初計画よりも大きくなるのでは、また、最終的に再生に失敗した場合の産業再生機構とのロスの配分を巡り不利になるのではないか、という思惑から、案件の持込には消極的といわれている。

また、今回の決定をみる限り、公的機関としての関与のあり方として本来期待されている役割が十分生かされていない。産業再生機構の重要な役割として、メインバンクと非メインバンクの利害が対立して企業再生が進まない場合、中立的立場で債権を買い取り、集約することが挙げられる。しかし、今回のケースでは、政府機関が大口の債権者となっていたので債権放棄を行うことが難しく、それが企業再生を遅らせていたことがむしろ浮かび上がった(九州産業交通:民間都市開発推進機構、三井鉱山:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))。この場合、民間の自助努力だけでは再建は難しく、産業再生機構が関与したことで再生の道が開けたのは事実であるが、「公」の無責任、失敗を「公」が尻拭いしている感もぬぐえない。また、ダイヤ建設の場合も、公的資金注入を受けた、りそな銀行を支援するという意味で、「公」が「公」を助けているといえる。これは、民間の利害関係の対立を解きほぐすという本来の公的役割からは乖離している。さらに、産業再生機構が支援する企業は、産業再生法が適用されたダイエーのように、再生できなければその影響がかなり広範囲に及ぶ企業であることが前提であるはずだ。一方、今回のケースは、九州産業交通、うすい百貨店など地方色の非常に強い企業が選ばれている。

産業再生機構の活動状況をみると、日本では事業再生のマーケットが十分発達していないので、自分がその「お手本」になろうとする意欲が伝わってくる。それは、支援決定の記者会見における、「バス会社や地方百貨店再生のモデル・ケースとしたい」という関係者の発言にも現れている。企業再生のプロフェッショナルが集められた産業再生機構の意気込みは高く評価したい。しかし、その支援のあり方が民間による企業再生の「お手本」になるかどうかは疑わしい。仮に企業再生に成功しても、それは産業再生機構の持つ特異性によるものかもしれないからである。だからといって、今後、産業再生機構が他の地方のバス会社や百貨店をどんどん支援していくのも適当ではないであろう。不動産・建設、地方のバス事業、百貨店などの「構造不況業種」を単にリストラだけで再生することは難しい。

今後、産業再生機構は、銀行間の利害対立をうまく解きほぐした模範例となる支援企業をできるだけ早く発表し、銀行側に産業再生機構に案件を持ち込むメリットを十分認識してもらうことが重要である。それとともに、産業再生機構が個々の支援企業の置かれた状況、個性に応じた新たなビジネス展開にどこまで関与できるかが最終的な企業再生を成功させる大きなカギである。

2003年9月5日

2003年9月5日掲載

この著者の記事