第5回

「金融再生プログラム」作業工程表の発表を受けて

鶴 光太郎
上席研究員

去る11月29日に「金融再生プログラム」(10月末公表)に時間軸を導入し、盛り込まれている項目それぞれについて、検討・実施のタイミングを明記した「作業工程表」が発表された。いくつかの異なった項目から成り立つ政策パッケージ、包括的改革を実施する場合、それぞれをどのような順序、タイミングで実施するかで、全体の効果が異なってくることがあるため、政策の時間軸を考慮に入れることは重要である。

今回の工程表をみると、来年3月末(決算期)が重要なタイミングになっていることがわかる。いくつかの資産査定の厳格化に関する具体的措置は3月期決算に間に合うように準備されており、銀行はこれまでにも増して厳しい評価制度の下、3月期決算で「通知表」をつきつけられることになる。そこで、「成績不良」の銀行は、いくつかのガバナンス強化策に則り責任を取らなければならないというのが、工程表の大きな流れである。今回の工程表の目玉の一つは、早期是正措置の関連で命令を受けた金融機関の自己資本比率改善までの期間を3年から1年に短縮することを新たに盛り込んだことである。2004年度に向けた不良債権の終結を目標とするためには必要な措置といえるが、迅速性への配慮は評価すべきと思われる。

一方、銀行の国有化につながる優先株の普通株への転換は、その具体的な諸条件についてのガイドラインをやはり年度末までに整備することになったが、その進め方には注意が必要であろう。たとえば、資産査定の厳格化に係る具体策が決まり、銀行の「通知表」が明らかになった後では、転換の具体的な条件は、むしろ、現時点での国有化を避けるような形で決定される懸念があるためである。また、国有化の条件が先に決まれば、資産査定厳格化の具体策が特定の銀行が国有化されないように甘く設定されてしまう可能性もある。つまり、資産査定厳格化→不良銀行の洗い出し→普通株への転換を有効なガバナンス・メカニズムとして機能させるためには、それぞれの具体化措置が互いに連関するのではなく、独立して決定されることがむしろ重要であろう。

最後に、今後の対応として盛り込まれている中小・地域金融機関の不良債権処理については、年度内を目途にアクションプログラムが策定される予定であるが、現在のところその方向性は必ずしも明確でない。こうした金融機関では、ここ数年その優劣がはっきりついてきており、定期預金等のペイオフ解禁などをきっかけとして預金者の選別という洗礼も受けている。主要行と必ずしも同じ手法が使えない不良債権処理という影の部分と、超優良であるいくつかの地銀が担うべき新たな役割は何かという光の部分は同時に検討していかなければならない問題であろう。特に、後者は、現在の不当な貸渋り、貸剥がしに対抗していくための方策としての新規参入促進という観点からも、外銀の役割などと並んで、大手銀行の横並び、カルテル体質打破の起爆剤になることを期待したい。

2002年12月2日

2002年12月2日掲載

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