概要
研究開発投資の効率性の分析は、Grilichesによって始められた、これに対して本論文では、この研究開発投資の効率性に関して、Bloom et al. (2019)の異なるアプローチを使って実証を試みる。彼らのアプローチは、標準的な内生的経済成長モデルで使われる、アイデア生産関数を利用している。アイデア生産関数では、研究開発効率性は、生産性上昇率/研究開発者数で表されるので、マクロでみると、研究開発者数の増加に対して、生産性上昇率はほとんど上昇していないので、研究開発効率性は低下していると見られる。彼らはこの現象がミクロ的な技術開発の過程（半導体や医薬品における技術進歩）にも生じているかどうかを検証し、多くの技術開発において研究開発効率性は低下しているとの結論を得ている。本論文では、彼らの試みを、産業別のデータを利用して実証分析を行っている。実証分析は2つの方法で行われている。まず20年間（1995年から2015年）の産業別データから直接研究開発効率性を計測すると、研究開発効率性の低下（後半の10年の研究開発効率性は前半10年の研究開発効率性よりも低い）は産業毎に異なることがわかる。日本の場合は、この計測を、JIPデータベースを利用して行っているが、EUKLEMSデータベースを利用して英米仏独と比べると、製造業に関しては日本の研究開発効率性の低下は、他の先進国ほどではない。しかし情報サービス産業における研究開発効率性の低下は、先進国中最低となっている。次に計量的に研究開発効率性を計測すると、研究開発効率性がプラスであることは確認できるものの、後半の10年間が有意に低いという結果は得られていない。以上から日本の場合、研究開発の効率性が顕著に低下しているとの証拠はないが、今後とも、研究開発投資の規模だけに注力するのではなく、効率性にも留意する必要がある。
概要（英語）
Following Bloom et al. (2019), we measure R&D efficiency at the industry level with a simple knowledge production function. We use not only the latest version of the Japan Industrial Productivity (JIP) database but also the EUKLEMS database. We find that R&D efficiency measured directly remains positive in the Japanese manufacturing sector, as would be expected under a simple endogenous growth theory. When we divide the period for estimation into two decades, we find that the direct measure of R&D efficiency declined in the second decade in many advanced countries. In particular, there is significant decline of R&D efficiency in the Japanese information service industry. However, we are not able to confirm the decline of R&D efficiency in the Japanese manufacturing sector in the econometric studies. From these results, there are two implications. First, the decline of R&D efficiency means decreasing returns with differences in scale in a knowledge production function. Second, the R&D policies that focus on the scale of R&D are insufficient. The government should implement R&D policies that address the decline and R&D efficiency differences between industries.
