日本語タイトル:2次元カオス被制約カオスとイノベーションにおける時間:産業革命サイクルの分析

Two-dimensional Constrained Chaos and Time in Innovation: An analysis of industrial revolution cycles

執筆者 矢野 誠 (所長,CRO)/古川 雄一 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2019年2月  19-E-008
研究プロジェクト 市場の質の法と経済学に関するエビデンスベースポリシー研究
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概要

知的財産保護が産業革命の主因であるという見方は、経済史家ダグラス・ノース(1993年ノーベル経済学賞受賞者)らによって提示されたもので、広く受け入れられている。しかし、その後の数次にわたる周期的な産業革命の発生については、これまで、分析の対象とされてきていない。本論文では、これを産業革命サイクルと呼んで、そのメカニズムを解明する。

1980年代からのIT化の波を3回目の産業革命とみるのは、大方の見方である。現代社会が、今、第四次産業革命に踏み込もうとしているという見方もある。そのような視点にたって、日本やドイツでは、政府によって、第四次産業革命に向けた取り組みが進められつつある。

こうした現象を見て思うのは、なぜ、われわれの生活様式さえ、根本的に変えてしまうような技術革新(=産業革命)が波をなしてやってくるのかという疑問である。この波は時には100年以上の周期を持つもので、50年から60年という周期を持つコンドラチェフの長期波よりもずっと長い。

本論文では、知的財産権の保護とR&D投資に必要な時間(技術革新のための時間)に注目して、産業革命サイクルのメカニズムを明らかにする。そのために、この研究と平行してYanoにより発見された二次元の被制約カオスの理論が適用される。おもな結論として、産業革命サイクルの発生には十分な知的財産権保護が必要であること、さらに、技術革新に時間を必要とするならば、システムをより安定化させる(産業革命サイクルを発生させにくくする)ことが証明される。本研究の理論モデルによって、産業革命サイクルのような超長期のイノベーションサイクルとコンドラチェフのようなそこまでの長さはもたない長期波とが、マクロ動学モデルの中の一つの均衡経路に共存する現象であることが初めて明らかにされる。

この研究が明らかにするのは、イノベーションを通じた成長(厚生)とシステムの安定性とがトレード・オフの関係にあることである。知的財産権の保護はこのトレード・オフに作用し、保護を強めれば不安定的だが、高い成長を見込める。他方で、保護を低めればより安定的な経路が実現できるが、高い成長は見込めない。知的財産権の保護の程度は、このトレード・オフを考慮して決定される必要がある。

概要(英語)

Many issues in cycles and fluctuations cannot be explained without multiple state variables. Time needed for innovation is one such issue. This study uncovers, and provides a new characterization for, ergodic chaos with two state variables and builds a model of innovation highlighting time in innovation and intellectual property protection. We demonstrate that the explosive industrial takeoffs and Kondratieff's long waves over the past two centuries and a half may be explained as a single equilibrium phenomenon. Time in innovation tends to stabilize chaotic innovation dynamics. Intellectual property protection is a necessary condition for chaotic takeoffs from the no-innovation phase.