日本語タイトル:多次元人的資本投資のモデル:不確実性のもとでの特定方向への投資と一般投資

A Model of Multi-Dimensional Human Capital Investment: Specific vs. general investments under uncertainty

執筆者 市田 敏啓  (早稲田大学)
発行日/NO. 2011年7月  11-E-056
研究プロジェクト 「国際貿易と企業」研究
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概要

本論文は個人の人的資本投資に対する方向性のインセンティブに関して、理論モデルを用いて分析している。特に、これまでの人的資本に関する先行研究が、主に一次元の問題(労働力は全ての職業において均質で、教育によって大きさのみ変わるという仮定:例えば、高卒のまま働きに出るのか、それとも、大学に行ってスキルを蓄えてより収入の高い仕事に就くのかという選択問題)を扱ってきたのに対して、本論文でのモデルにおいては個人が多次元のスキル(大学卒業後につく職業によって、自らの労働力の強さ・大きさは異なっている:例えば人によって数学の才能と音楽の才能は生まれながらに異なっているし、その後の教育によって、その絶対的大きさも相対的大きさも変わっているだろう)を持っている時の人的資本投資行動の方向性(どういう大学や専門学校に行くのか、数学と音楽とどちらの才能をどれだけ伸ばすのか)の決定要因を将来の財(数学の力を使ってつくられるものと音楽の才能を使ってつくられるもの)の相対価格に不確実性がある世界のもとで分析を行った。

最初に得られた結論は、個人の比較優位が強い場合(数学の才能が音楽の才能に比べて著しく低い場合など)には、リスクの大きさや個人のリスクに対する態度がどうであるかに関わらず、自分の得意なスキルに特化した人的資本投資を行うということである。次に、一般投資(数学と音楽のスキルを両方とも伸ばすようなケース)はどのようなケースに起こるかを調べた。基本的には一般投資はその人的資本投資の効率性(もとのスキルをどれだけ伸ばすことができるか)が特化型の投資効率性と比較してそれほど悪くない時に、比較優位の強くない人々(数学のほうにも音楽のほうにも秀でていると言うことがないような、器用貧乏のケース)の間で起こることが分かった。しかしながら、一般投資は必ず起こるわけではなく、あくまでも投資効率パラメーターの値次第であり、特化型投資しか生まれないケースも存在する。最後に、リスク嫌いの程度が大きくなると、自らの生まれながらの比較優位と逆方向に特化型投資を行う人々が出てくることが分かった。そして、興味深いことに、そういう投資の結果、生まれた時と投資後の比較優位が逆転してしまうようなケースも存在することが判明した。これは、投資の方向性としては、生まれながらの才能を生かせていないという点で、社会的には非効率を生んでいるといえるだろう。



概要(英語)

Specialization and the division of labor are the sources of high productivity in modern society. When worker skills are multi-dimensional, workers may face a choice between general versus specific human capital investment. Given that individual agents face uncertainty in the relative output price, what are the optimal strategies for heterogeneous individual agents in human capital investment? In the absence of insurance markets, general investment gives an option value for changes in the environment. We analyze a model in which workers are born heterogeneous and are endowed with two-dimensional skills in different sectors, to determine if incentives exist for workers to invest in skills in which they had originally excelled or struggled. We find that some workers choose to invest in their weaker skill, via specific human capital investment, provided that the scale of the risk is big and that the parameter of relative risk aversion is greater than one. We find that there exist agents whose optimal human capital investment decisions reverse their ex ante comparative advantages ex post.