執筆者 |
小滝 一彦 (上席研究員) /児玉 直美 (コンサルティングフェロー) |
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発行日/NO. | 2010年3月 10-E-014 |
研究プロジェクト | 企業統治分析のフロンティア:日本企業システムの進化と世界経済危機のインパクト |
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概要
コーポレート・ガバナンスと人的資本の関係は、従業員主権的なガバナンスと企業特異的人的資本投資が相互補完的であるとの理論的可能性が指摘されている。既存実証研究においても、コーポレート・ガバナンスと雇用調整などの人事管理の関連が分析され、コーポレート・ガバナンスと人的資本との補完性の存在が示唆されている。
本研究では、日本の主要大企業本社の企画・管理部門のマイクロデータを用いて、安定株主比率、ストックオプション、プロフィットシェアリング、役員定年制、内部昇進者によるコア管理職の独占、の5つのコーポレート・ガバナンスの指標を取り上げ、賃金関数との関連を分析した。
分析の結果、従業員主権的な企業では株主主権的企業に比べ、若年期においては賃金水準が高く、若年期から中年期においては賃金カーブの傾きが小さく、中年期から壮年期においては賃金カーブの傾きが大きいことが判明した。これらの賃金関数の特徴は、若年期に企業負担による企業特異的人的資本投資が行われ、中年期に企業がその人的資本からのリターンを収穫するとともに、この投資プログラムからの従業員の離脱を防ぐために賃金支払いが壮年期に後倒しになる、という企業特異的人的資本投資のモデルと整合的である。
概要(英語)
Theories of economic institutions predict that complementarity exists between the nature of corporate governance of a firm and the nature of its human capital investment. The complementarity theory insists that the commitment of a firm and its employees to invest in firm-specific human capital will be reinforced by the commitment of the firm to adopt stakeholder-oriented corporate governance. Using employer-employee matched data from the headquarters of large Japanese firms, this paper investigates the relationship between the wage-tenure profile of a firm and the nature of its corporate governance. Analysis of the wage-tenure profiles shows that firms with stakeholder-oriented corporate governance invest in firm-specific human capital more heavily than those with shareholder-oriented corporate governance.