企業統治分析のフロンティア

アンケート調査

日本企業の事業ポートフォリオとグループ化に関する調査結果

経済産業研究所コ-ポレートガバナンス研究チーム(プロジェクトリーダー:宮島英昭早稲田大学商学学術院教授)は、東京証券取引所1部上場企業(金融保険業を除く)を対象に、企業の事業ポートフォリオ・グル-プ化と企業統治についてのアンケート調査を実施し、回答企業数は251社にのぼりました。

本調査の目的は1990年代以降、急速に多様化が進展した日本企業の(1)事業戦略(選択と集中、多角化と専業化)、(2)戦略的グループ展開(M&A、分社化、完全子会社化)、(3)組織特性(内部組織/グループ組織の権限委譲やモニタリング)の実態を解明することにあります。

今回の調査は、財務省財務総合政策研究所による2002年時点における同様の調査をフォローするものですが、特に本調査では、2002年初め以降景気回復が長期化し、財務体質の改善が相当進んだとみられる中、日本企業がどのような事業戦略・組織戦略を選択しつつあるかに着目しています。

アンケート結果の総括

本調査で示唆された主な結果は以下の通りです

  • 「既存事業からの撤退」や「経営資源の集中」、すなわち「選択と集中」が進展、加えて「関連事業への多角化」をも同時並行的に進める企業が増加している。
  • 多角化の手段としては、子会社の設立など社内の経営資源を活用する多角化に加えて、5年前との比較においては、M&A(買収・合併)など外部の経営資源を活用した多角化が増加している。
  • M&Aや子会社設立による多角化、事業拡大・海外展開の進展の結果、「企業のグル-プ化」が継続的に進展している。連単倍率(=連結売上高/単体売上高)は80年代半ばの1.3倍から近年では1.7倍近くにまで上昇した。
  • グループの規模が相対的に拡大するなか、既存の関連会社や子会社については、本体への吸収合併、100%子会社化が進んでおり、本体の(グループ企業への)コントロール力を強化しながらグループ化を進めている様子が窺われる。
  • 本体(親会社)内部の組織形態の変遷をみると、事業部制組織から職能別組織への回帰が一部に見られるなど、従来型の職能別組織がとる企業がほぼ4割近くを占めている。他方、分権的組織形態をとる他の6割のうち、5年前に話題となったカンパニ-制(擬似分社)の採用は一服したが、M&Aを通じた組織再編成を背景として、純粋持株会社は着実に増加している。
  • 分権的組織の採用企業では、部門ごとのパフォーマンス監視などを目的に導入される、社内資本金制度、社内倒産制度などの採用比率は概ね上昇している。また、同制度の採用企業では実際の権限移譲度も高い。5年前に比べて、権限の移譲、財務面の管理の強化、誘因の提供などをセットにして組織編成を進める企業が増加している。
    事業部(社内カンパニーも含む)と子会社への権限委譲度を比較すると、とくに人事面での子会社への権限委譲度が高く、また、近年戦略意思決定における権限委譲も進展している。この結果は、子会社化の狙いが、経営の自立性の上昇による子会社のイニシアティブの上昇にあるという見方と整合的である。