Research & Review (2007年12月号)

国際制度としての地域貿易協定―日本の経済連携協定の比較分析―

小林 友彦
京都大学大学院法学研究科博士課程

日本が近年締結している経済連携協定(EPA)は、締結国間の貿易自由化を目指すにとどまらず、多様かつ深化した規律を有する。そのため、締結すれば完成するというものではなく、発効後に継続的な運営・実施を必要とする。言い換えれば、いかなる制度及び構造を具えるかが、EPAという条約体制が実効的に機能するか否かを左右する。しかしながら、こうした制度的側面については、北米自由貿易協定(NAFTA)や欧州共同体(EC)等に対する個別の研究があるのみで、包括的な先行研究が見当たらない*1。筆者はEPAを含む地域貿易協定(RTA)一般について制度的側面を法的に分析するための予備的考察を行ったので*2、以下その概要を紹介する。

RTAの制度的側面に関わる論点

具体的には、少なくとも以下のような論点がある。第1に、他条約との関係の整序である。WTO協定との整合性を確保するのみならず、他のRTAとの適用関係を調整する必要がある。第2に、運営制度の設計である。それぞれ独立した国際制度であるRTAの数が増加すれば、それらを維持運営する政府の費用や、新たな制度に私人が対応するための費用も増大する。第3に、事後の変更への対応である。多角的枠組みを追求するWTO加盟国にとって、RTAの締結は最終目的ではないため、RTAは永続的・固定的な制度ではありえない。それゆえRTAは、締結後に生じる状況変化に対応していくための制度も必要としている。

方法論の整備の必要性

締結相手国ごとに多様な特徴を有するRTAについて*3、ただ横に並べても散漫になるため、分析視角を適切に特定することが先決である。上述の拙稿では、第1に、WTOとの整合性に注目する「WTOサイド」からの分析に偏らず、既存のRTAのあり様を虚心坦懐に眺めるという「RTAサイド」からの分析を行った。第2に、RTAの比較分析の切り口として、(1)対象とする特定の国Xが他国Y(Y:A、B等)と締結したRTA(RXY:RXA、RXB等)同士の比較、(2)Y国が第三国Z(Z:P、Q等)と締結したRTA(RYZ:RAP、RBQ等)とRXYとの比較、(3)X国がY国との間で締結したRTA以外の貿易関係条約(TXY)とRXYとの比較、という三次元での複合的分析を行った。第3に、それぞれのRTAの各種制度に「対外的側面」を有するものと「対内的側面」を有するものがあることに配慮し、その双方について分析した。

日本のEPAの制度的特徴

さしあたり日本を対象として(X=日本)、当時日本が署名又は批准していた7本のEPAに焦点を当てて分析を加えた。なお、RTA以外の貿易関連条約としては、通商条約を取り上げた(T=通商条約)*4

日本が締結したEPA(RXY)同士の比較のみでなく日本が締結したEPA(RXY)と日本のEPA締結相手国が第三国と締結したRTA(RYZ)とを比較したことによって、日本のEPAの制度・構造の特徴が、その締結相手国がすでに有している「型」と密接に関連していることが示唆された。また、同一の他国について日本が締結したEPA(RXY)と通商条約(TXY)とを比較することで、締結相手国ごとのEPAの差異よりもEPAと通商条約という条約形態の間の差異が大きいことが示唆された。

結果として、日本の締結したEPAの制度的側面における特徴として、以下のような知見が得られた。第1に、他条約との関係については、WTO協定との整合性の確保に周到に配慮している。これと対照的に、WTO協定以外の他条約との関係については不明確性が大きい。第2に、運営制度については、運営費用を固定させないという趣旨から意思決定機関や運営機関の権限・会合頻度について柔軟な運用を可能としている。他方で、それは実際の運用の不確定性を内包しており、かえってコストを増大させる可能性がある。第3に、事後の状況変化への対処法については、EPAの「改正」に関しては柔軟性が大きい一方で、「加入」に関しては柔軟性が乏しい。

今後の交渉・再交渉への示唆

以上の分析から、今後のEPA締結交渉又は再交渉のために以下のような実践的示唆が得られた。

第1に、他条約との関係については、WTO協定のみならず、租税条約等の一定の種類の条約について、総則規定において整合性を十分に明確にすることが望ましい。将来それらの条約とEPAとの抵触が締約国間で又は第三国との間で問題となった場合、調和的なEPA解釈又は運用が担保されると釈明する途を開いておくためである。

第2に、維持運営のための制度については、柔軟であればあるほどよいわけではない。例えば、技術的な問題だと思われる会合頻度についても、日本のEPA締結相手国が第三国と締結したRTAの多くは定期的開催を定めていることからすれば、経済連携に関する接触の機会が第三国と比べて少なくなることの影響について留意が必要であろう。

第3に、事後の変更に関しては、これまで挿入されたことのない加入規定の機能について、再検討の余地がある。まず、加入規定を挿入したからといって、直ちに加入を容認することにつながらない。他方で、当該RTAの開放性をアピールできる*5。さらに、実際に加入を認めても差し支えないような場合であれば、新規に締結交渉するのと比べて政府にとっても私人にとってもコストの削減が期待できる。

脚注
  • *1…一般的な論点については、渡邊頼純監修・外務省経済局EPA交渉チーム編著『解説FTA・EPA交渉』(日本経済評論社2007)、115―134頁参照。
  • *2…拙稿「国際制度としての地域貿易協定―日本の締結した経済連携協定の制度・構造の比較分析を題材として―」RIETI Discussion Paper Series 07-J-037、2007年9月。
  • *3…尾池厚之「日本のEPA交渉の展開と展望―日本型EPAの確立と新たなる挑戦―」『貿易と関税』645号(2006)、25頁も参照。
  • *4…友好通商航海条約、通商協定等を総称する用語として用いる。
  • *5…バグワティも、RTAがGATT体制のbuilding blockとなるための条件として挙げた。Jagdish Bhagwati, THE WORLD TRADING SYSTEM AT RISK (Harvester Wheatsheaf, 1991), at 77.

2007年12月20日掲載