「通商白書2006」の刊行にあたり、まずもって、御協力をいただいた多くの方々に心より感謝申し上げる。以下では、この度の通商白書作成という貴重な機会に恵まれた者として、簡単に所感を述べさせていただきたい。
「もはや『戦後』ではない」と言われたのは、昭和31年の経済白書である。それは「戦後復興を成し遂げた」という勝利宣言ではなかった。むしろ、「戦後復興を終えた日本が、これからも経済成長をしていくことは決して簡単ではない」という覚悟を求める言葉であった。そして、それからちょうど50年が経過し、日本は世界第2位の経済規模を誇るまでに成長したが、その成長過程は、まさに昭和31年の経済白書が提言した日本経済の「近代化」の過程であったともいえよう。
では、これから先はどうであろうか。これまでの延長線上で経済成長を遂げていくことは期待できるのであろうか。
グローバル化がいよいよ私たちの身近な問題となり、アジア諸国の台頭がひしひしと実感され、少子高齢化が著しく進展する。そうした大きな変化の中にあって、いかにして日本は今後も経済成長をしていけるのか。こうした問題に正面から取り組もうという意気込みをもって、今年の通商白書は作成された。
通商白書の構成を概観すれば、国際経済がどのような変貌を遂げつつあるのか(第1章)、特に国際経済システムの変化の中心ともいうべきアジアで何が起こりつつあるのか(第2章)、といった問題に分析を加え、その上で、取り組むべき課題について論じている(第3章)。
より具体的には、(1)第1章において、国際経済の動向を概観した上で、国際的な経常収支不均衡の拡大や原油価格上昇に伴う新たなオイルマネーの動向の分析等を通じて、国際資本移動の活発化を中心とした経済のグローバル化の姿を描き、(2)第2章において、アジアのダイナミズムを概観した上で、日本企業による国際事業ネットワーク形成が分業面・貿易面において、いわば「水平的」なアジアを創出しつつある状況をミクロからマクロにわたる複層的な視点から分析するとともに、国際事業ネットワーク形成に際して重要な進出先となっている中国とASEANの状況を分析し、(3)第3章において、以上の調査分析を踏まえて、企業活動の場(フィールド)の自由化・調和・安定化と事業拠点間を結ぶ「ビジネスコスト距離」の短縮等を通じた国際事業環境整備の推進、生産性向上を伴う我が国への対内直接投資の拡大、人的資本の育成・活用、「複線的」構造に立脚した「投資立国」の実現、という4つの取組について論じた。
こうした分析を通じて、「いかにして日本は経済成長をしていくのか」という問題に対して「大きな構造変化の中、(1)グローバル化をいかした生産性の向上(GDP成長)と、(2)国際投資の構造的・質的転換による『投資立国』の実現(所得収支の拡大)、によって『持続する成長力』(「可処分所得=GNI」の持続的成長)を実現することが、私たちの未来のために求められている」というメッセージを今年の通商白書は打ち出した。
こうした中、特に、アジアにおいて「水平」的な分業・貿易構造が進展しつつあることとその意味を複層的視点から明らかにしたことや、GDPのみならず所得収支を含めたGNI(=「可処分所得」)に着目して「複線的」構造に立脚した「投資立国」の議論を提示したことは、本通商白書のポイントとなろう。
もちろん、振り返ってみればまだまだ探求すべきポイントも多く、「今後の日本がいかにして経済成長をしていくのか」という問題への対応のあり方を基礎づけたいという当初の意気込みがどこまで具体的な姿となったかについては、読者の皆様の御批判を待つほかはない。
しかしながら、私たちの「知恵」と「実行力」とを発揮すれば、明るい日本経済の姿を描くことが決して不可能ではないことを通商白書が提示したことは、私たちを勇気づけるのではないだろうか。今回の通商白書は、日本の未来に向けたエールである。第58回目を迎える今年の通商白書が、明るい日本の未来を切り拓いていくための一助となれば幸いである。
*なお、「通商白書2006」(市販版)の表紙には、次のような暗号化されたメッセージが記載されている。是非、解読にトライしていただきたい。
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