国際コンファレンス

Comparative Analysis of Enterprise Data

イベント概要

  • 日時:2009年10月2日 (金) 14:25-18:30
  • 会場:一橋記念講堂 [PDF:132KB] (東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター内)
    • 基調講演
    • パネル・ディスカッション、閉会挨拶

    議事概要

    パネル・ディスカッション「グローバル化やイノベーションに対応した企業組織を探る」

    司会:宮川 努 (RIETIファカルティフェロー/学習院大学副学長)

    セッションの概要

    本セッションの目的は、世界各国の経営手法を比較し、今後の持続的な企業成長、経済成長のための新しいビジネス・モデルのヒントを見つけ出すことである。そのために、具体的に以下の問題意識を背景に、パネリストによる報告とディスカッションが行われた。

    1. IT革命以降の米国のビジネス・モデルは成功だったのか?
    2. アジアの国々のビジネス・モデルはイノベーションやグローバル化に対応できているか?
    3. ビジネス・モデルや企業パフォーマンスを計測する適切なmeasureは何か? またそのためのデータ整備はできているのか?
    4. 金融危機のために現在各国がとっている政策は、企業の生産性向上を通じた長期的な世界経済の再構築にとって有益となっているか?

    西村 淸彦 (日本銀行副総裁) 報告の概要

    • 市場での企業行動は、次の3次元でとらえることができる。それは、付加価値の源泉(製品イノベーションと工程イノベーション)、製品アーキテクチャ(モジュラーとインテグラル)、利益の源泉(水平の独占と垂直の囲い込み)の3つである。
    • 昨今の急速な情報通信技術の発達とグローバリゼーションは、企業行動に影響を与えている。
    • 今後、需要の減少へとつながる高齢化に対して、日本企業は適切な戦略を策定して行動する必要がある。
    • マクロ経済分析を行う際には、経済的な「ショック」を外生的な「構造変化」と見なすが、政策担当者としてはその内容をいち早く知ることが必要である。そのためにはマクロの集計値だけでなく、企業レベル、事業所レベルのデータを見ることが重要となる。

    大川 幸弘 (サービス産業生産性協議会事務局次長 / (財)日本生産性本部参事・経営開発部長) 報告の概要

    • 日本のサービス産業は、日本全体のGDP・従業員数のそれぞれ70%を占めている。また、製造業においてもサービス部門が付加価値の大きな部門となっている。したがって、日本のサービス産業の生産性を考えることは重要である。
    • サービス産業は、サービスそのものが見えないという「無形性」、提供と同時に消費される「同時性」、具体的なオペレーションが「ヒト」中心である、という特徴がある。したがって、マネジメントが複雑・困難である。
    • サービス産業におけるマネジメントの問題を解決するため、品質管理の測定、顧客満足のポイント把握、生産性測定の指標作りが必要である。
    • そのため、知識の共有や無形資産の形式知化等の「IT系」と、知識の創造や暗黙知の充実等の「人間系」とを相互に活用することが重要である。

    Keun LEE (Professor, Economic Department, Seoul National University) 発表の概要

    • 1980年代、韓国のTFPは日本の約60%であった。しかし、最近になって、韓国と日本のTFPの差は約10%に縮小している。ただし、産業ごとに状況は異なる。
    • TFPのキャッチアップの成果を決定づけている要因として、次の2つが考えられる。1つは、知識と技術の形式知化等の「セクター別イノベーションシステム」である。もう1つは、外部規律等の「企業レベルの学習と能力」である。
    • 生産性向上のための施策をする際には、産業間の違いを考慮に入れる必要がある。また、研究開発活動やインセンティブ制度等の国内におけるTFPキャッチアップの効果も考慮する必要がある。
    • 技術サイクルが短い産業に属する企業は、素早くて適切な意志決定と投資が重要である。概して、多くの産業と製品においてサイクルは年々短くなっており、意志決定のタイミングが製品の品質等よりも重要となっている。

    Eric BARTELSMAN (Professor, Faculty of Economic Sciences, Business Administration and Econometrics, Free University [Vrije Universiteit], Amsterdam) 発表の概要

    • 無形資産投資は、企業間で大きな不均一性が存在する。
    • 最適な無形資産投資率を想定して、政策を考えるのは難しい。その理由は次の2点である。1つは、企業と経済全体では「最適」が異なることである。もう1つは、スピルオーバー効果やクラウディングアウト等が存在するため、無形資産投資率の定義が難しいことである。
    • 最適な無形資産投資を考える上でヒントになると考えられるのは、企業レベルのデータを用いたクロスカントリー分析である。そのために、理論と、実証のためのデータを適切に考える必要がある。
    • 理論とデータは、無形資産投資の水準の増加に対して企業の成果の変動を示すものが適している。企業の成果の状態によって、最適な無形資産投資の水準は異なるからである。

    パネルディスカッション

    Q:

    日本のサービス産業の生産性を向上させるために何を重視すればいいのか。

    西村氏:

    • 製品イノベーション。
    • 人間の心理を考慮したサービス。
    • 全く関係ないと考えられていたサービスを組み合わせる。

    大川氏:

    • 顧客視点でビジネスプロセスを見直し、形式知化をして、豊富な暗黙知を作ることを繰り返す。

    Q:

    これからは中国がTFPのキャッチアップをすると予想される。これに対して、無形資産の蓄積という観点から見た場合、韓国の企業の課題とは何か。

    LEE氏:

    • 韓国の大企業には影響ないと思われるが、零細企業や中小企業には影響がある。そのような企業が中国のキャッチアップに対抗するためには、特に技術力に注力することが重要である。

    Q:

    無形資産のデータを用いて分析を行う際に、どのようなデータと分析が求められるか。

    BARTELSMAN氏:

    • 無形資産としてどういうデータが適切かというのは、時によって異なる。
    • 1年か2年間の短い期間で十分なので、企業に業務内容についてインタビューを行ってデータを作ってはどうか。その際には、企業の登記に関するデータや、雇用者と従業員のデータ等、企業に関する詳細なデータも併せて収集することが望ましい。そうすれば、成功している企業の要因を特定できるかもしれない。
    • 各国の研究者が容易にアクセスできるデータベースが必要である。
    • 成功している企業としていない企業の差は何であるか、企業の不均一性が国レベルでどのように生産性に集計されるか、等についての分析に興味がある。

    東條 吉朗 (経済産業省商務情報政策局情報処理振興課長) 発表の概要

    • 無形資産と付加価値の関係は企業それぞれの経営戦略に関係しているので、一律に論じることは難しい。したがって、企業レベルあるいは事業所レベルのマイクロデータによる分析が必要である。また、それぞれの経営戦略に応じた無形資産の蓄積、涵養が必要である。
    • ベンチャー企業や中小企業の無形資産を経済全体のシステムの中でどのように活用するかが課題となっている。その解決策の1つとして、それらの無形資産を適切に計測、評価し、それを金融市場や資本市場で利用することが考えられる。
    • 現在の日本の統計法では、マイクロデータの活用について改善が図られている。しかし実態としては、プライバシーの問題等から、マイクロデータへの研究者等のアクセスは限られている。マイクロデータの開示、あるいはマイクロデータへのアクセスを容易にするために、統計に関する新しい匿名化の方法や集計方法を研究者と統計当局が一緒になって考えていくことが期待される。
    • インターネットが普及し、情報化が進んだ現代には、政府統計以外のデータも数多く存在する。このようなノンオフィシャルなデータを公式統計と組み合わせながら、企業データ、マイクロデータを活用した研究、あるいはそれを踏まえた政策論議をすることが重要である。

    パネルディスカッション

    LEE氏:

    • さまざまな経営手法が存在する現在、多様な視点を織り交ぜて無形資産に関するデータベースを作成する必要がある。

    東條氏:

    パフォーマンスにおいて各企業の分散を高めて経済を牽引させるという戦略と、そのような過度なリスクテークを制限するという現在の戦略を、BARTELSMAN氏はどのように整理しているか。

    BARTELSMAN氏:

    • 長期的な成長のためのリスクをとるべきである。

    フロアからの質問と回答

    Q:

    付加価値の源泉として製品イノベーションと工程イノベーションの2つを考えているが、一概にそう言えるのか。たとえば、再生可能エネルギーのイノベーションとして太陽光発電技術が考えられるが、再生可能エネルギーではない原子力発電を太陽光発電で代替する場合、発電コストが20倍になる。この場合、原子力発電から太陽光発電への代替は、新たな付加価値を生むと考えられるのだろうか。

    西村氏:

    コストや付加価値について考える際には、私的か社会的かを考える必要がある。政策決定者は、私的付加価値と社会的付加価値を同時に考慮し、経済の歪みを是正するとともにイノベーションを促進させなければならない。太陽光発電の例では、原子力発電と太陽光発電の最適な組合せは現在わかっていないので、私的・社会的付加価値を考慮しながら、適切なメカニズムのデザインが必要である。

    Q:

    知的財産権の保護ということについて、日本の政策がそれほどうまくいっていなかったのではないか。

    東條氏:

    特許の目的は以下の2つである。すなわち、アイデアの保護と、その健全な取引の利活用である。その2つのバランスをとるのは、多様なイノベーションの形態が存在する現在において、難しくなっている。一方、知的財産権に関する社会の関心は高まっており、新しいイノベーション活動の一環として特許を活用する意識は普及してきている。政府としては、適切に現状を把握し、経済のイノベーション、成長を損なわないようにうまくバランスをとりながら政策を決定することを今後も引き続き心がけていきたい。

    閉会挨拶

    及川 耕造 (RIETI理事長)

    今回のシンポジウムは、初のアジアでの開催となるCAED 2009 Conferenceのシンポジウムセッションとして開催した。

    無形資産はイノベーションの大きなバックグラウンドをなし、重要だと認識されつつもなかなかその実態をとらえにくい。そこで、世界中の知恵、RIETIでの研究成果等を踏まえて本シンポジウムを行いたいと考え、深尾先生、とりわけ宮川先生の御尽力を得て開催することができた。

    また、共催を引き受けていただいた一橋大学のグローバルCOE並びに協賛を引き受けていただいた多数の機関の御尽力により、本シンポジウムを開催することができた。関連の皆様には厚く御礼を申し上げたい。