国際コンファレンス

Comparative Analysis of Enterprise Data

イベント概要

  • 日時:2009年10月2日 (金) 14:25-18:30
  • 会場:一橋記念講堂 [PDF:132KB] (東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター内)

議事概要

シンポジウムは長岡貞男氏(RIETI研究主幹・ファカルティフェロー/一橋大学イノベーション研究センター教授)の開会挨拶で幕を開けた。長岡氏は、日本の無形資産の蓄積が日本の経済成長のみでなく、世界の経済成長にも重要な役割を果たすこと、それを受けてRIETIと宮川努氏(RIETIファカルティフェロー/学習院大学副学長)が無形資産の計測を進めていることを紹介した。

また、今後無形資産の測定が会計制度や政策に大きな影響を与える可能性を示し、シンポジウムによる理解の深化が、今ある経済危機の克服のための重要なヒントとなると、期待をよせた。

基調講演

基調講演1 「店舗及び企業データを利用したビジネスロケーション分析から何を学べるか?」

Ron JARMIN (Chief Economist, U.S. Census Bureau)

Ron Jarmin氏は一般的に入手することができるデータとしてロケーション(地域)のデータに注目し、ロケーション情報を利用して、その地域の特性が企業のパフォーマンスに与える影響を推計する上での課題、分析結果を報告した。ロケーション・データはその利用のし易さや、競争環境の影響の集計が可能である点で利点がある。

また、大規模小売店舗の参入が地域の小規模小売店の雇用に与える影響の分析結果を発表した。分析には、まず店舗の位置情報が必要になる。そして、小売業に関する分析であれば、扱う商品(衣料品など)、企業の所有形態や規模などの特徴も必要である(その店舗が零細小売店か、大型チェーン店か等)。

分析の結果、大規模店舗の参入と退出が周辺の同じ商品を扱う零細小売店の雇用に影響を与えていることが分かったが、それは地理的に近い場所に立地している店舗に限られていた。

この結果は、企業のパフォーマンスを規定する要因にロケーションが重要な役割を果たす産業が存在することを意味している。

基調講演2 「無形資産のブラックボックス-企業に埋もれたデータを捕まえろ!」

Carol CORRADO (Senior Advisor and Research Director, Economics, The Conference Board)

Carol Corrado氏は、新しいデータが無形資産をとらえるために必要であることを、マクロとミクロの両方の視点から説明をした上で、イノベーション・プロセスを解明することの重要性を報告した。

アップル社のiPodは、アメリカのアップル社がデザインをしているが、生産工場は中国にある。その為、BEA(米国商務省経済分析局)はアップル社に対する適切な評価を下せずにいる。その1つは、ブランド開発や研究開発の資金が設備投資に計上されないことによる過小評価。2点目は、他国に製造を外注しているようなメーカーは輸入再販業者として扱われることである。この問題を解決するためにも、無形資産の集計を行う必要がある。

イノベーションは基礎的な科学研究から発展する技術的なイノベーションと、アイデアの着想からスタートする非技術的なイノベーションがあるが、イノベーション・プロセスの各段階は類似している。そのプロセスの中でも、業化をする上でのイノベーションが重要であり、その分析のために必要なのは、「共通の測定基準」に基づくイノベーションの計測と異なるタイプのイノベーションを分析するための「分類体系」である。

基調講演3 「無形資産投資の計測と生産性向上への役割」

宮川 努 (RIETIファカルティフェロー/学習院大学副学長)

宮川努氏は、マクロ、産業、企業の3つのレベルの無形資産の推計結果を通じて、無形資産の日本経済への影響を分析し、その結果を報告した。

アメリカと比較して、日本の生産性の成長は90年代半ばから止まっている。その要因には、IT資産の蓄積を補完する無形資産の蓄積が進まなかったことが考えられる。

無形資産はソフトウェアなどの「情報化資産」、R&D投資などの「革新的資産」、人的資産、組織資本などの「経済的競争能力への投資」の3つに分けられる。日本の無形資産額53兆円のうち、経済的競争能力への投資は2002年以降減少しており、かつ他の先進国と比べても低い。有形資産との比率をみても、アメリカが120%を超えているのに対し、日本は60%ほどである。産業別に推計した結果によると、日本のサービス業の経済的競争能力への投資は減少している。ただし、その構成要素である人的資産や組織資本は、企業内の活動であり、ミクロレベルで分析する必要がある。

そこで、日本と韓国、人的資産や組織資本のパフォーマンスへの影響を企業アンケートから測定した。推計の結果、日本は韓国と比べて、人的資源管理が柔軟であること、日本は組織改革、韓国は人的資源管理の改善が企業パフォーマンスにつながっていることがわかった。投資家の判断材料のためにも、各企業の無形資産指標の作成・公表が重要である。

Q&A

Q1:

(Corrado氏への質問)今後、アメリカでR&DをSNA(国民経済計算)に含めるなどのため、公的機関や民間レベルでイノベーション・サーベイを行う計画はあるか?

A1:

2012年か2013年にBEAはSNAにR&Dを含める計画があることを公表している。イノベーション・サーベイについては、正式には、行われる計画はない。しかし、研究者主導で調査を行う意欲がある。重要産業について、マーケティング・ディレクターにインタビューを試みる。

Q2:

(宮川氏への質問)無形資産投資が利益を生むことが分かれば企業は投資をする筈なのに、サービス業で無形資産投資が行われていないのは何故か?

A2:

2000年代にサービス業が行ったのは、人的資本を積み上げることではなく非正規雇用を採用し、労働コストを下げることで短期的に生産性を高めるという戦略であった。2000年代の前半にサービス業がとった方向性は、無形資産の蓄積とは逆の方向で生産性をあげている。

Q3:

(Jarmin氏への質問)人口密度を見る時、その店舗の周辺の特徴によって大きな違いがあるが、人口密度の高い地域の店舗には、どのような特徴があるのか?

A3:

我々は、人々は零歳企業の店舗に10マイル以上車を走らせて買い物には行かないという前提で、分析の範囲をその店舗から半径10マイルの範囲内に絞っている。大きな店舗に対しては、10マイル以上車を走らせて買い物に行くことも想定される点、消費者の行動パターンの変化を考慮して今後の分析を進めていきたい。

Q4:

(Corrado氏への質問)無形資産の減価償却の方法はどのように行うか?

A4:

無形資産の減価償却とは何かということであるが、無形資産の保有がどの程度の期間収益を生み出すかどうかということを考慮して、推計を行うことになる。

Q5:

(宮川氏への質問)無形資産の経済効果の国際的伝播・国際比較について

A5:

無形資産の経済効果の国際的な伝播については、我々は扱っていない。また、国際比較については、産業構造の違いなどの問題がある。このため、現在産業レベルの推計を進めている。