RIETI政策シンポジウム

急増するFTAの意義と課題-FTAの質的評価と量的効果-

イベント概要

  • 日時:2007年3月22日(木) 13:00-18:00、3月23日(金) 10:00-17:10
  • 会場:東京全日空ホテル B1F ギャラクシーの間 (東京都港区赤坂1-12-33)
  • 議事概要 Part III 望ましいFTA政策の構築へ向けて:質的評価と量的効果分析の含意

    パネルディスカッション

    パネルディスカッションでは、議論を前半と後半の2つに分け、前半は主にWTOの枠組みにおける自国のFTAの問題、後半は東アジアの地域統合の問題を取り上げた。

    前半ではコーディネーターの浦田秀次郎氏から以下の2点が論点として提起された。

    1. 自国のFTA政策における戦略
    2. FTA政策に対する質的な評価

    Inkyo Chenong氏(Inha University)から韓国におけるFTAの進行状況についての報告が行われた。現在韓国は、チリ、シンガポール、EFTAとの間にFTAを締結し、さらにASEAN9、また米韓FTAについては3月30日には合意に達する予定である。それとともに、インド、メキシコ、カナダと交渉を行っている。カナダとメキシコに関しては米韓FTAの結果を伺っている様子で、日韓FTAに関しては米国との交渉が終了次第に再開されるであろうという報告が行われた。さらに韓国におけるFTAの戦略としては2003年に工程表が導入されて以来、それに従ってFTA交渉が進められている(日本は遅れている)。工程表には、具体的に質的に高い包括的FTA、中規模国から大規模の国へ、農業・自動車・繊維を除いて高い質、センシティブセクターを入れて85%から90%のFTAへと導くというコメントが行われた。

    豪州のFTAについての報告がChristopher Findlay氏(University of Adelaide)から行われた。豪州にはNZ との間における長いFTAが、ベンチマークとしてあるが、近年、米国、タイおよびシンガポールと締結を行い、今後、ASEAN、中国、日本と交渉を開始する予定であると報告された。豪州のFTA戦略としてはFTAおよびWTOを同時並行で行い、自由化と多角化を進行し、それとともに豪州が締結するFTAのベンチマークになる原則をつくり、そのシステムを広めることを目指したいとコメントが行われた。

    中富道隆氏(経済産業省)から日本のEPAの取り組みについての報告が行われた。現在日本はシンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリと締結を行い、タイ、インドネシア、ブルネイに関しては大筋合意であり、現在交渉中なのが、韓国、ASEAN全体、GCC、ベトナム、インド、それから豪州であると報告された。WTOとEPAの関係については、日本のEPA戦略というのは、WTOと車の両輪ということで進めているとコメントされ、その理由としてメンバーが普遍的である、ユニバーサルであるということ、メンバー全体を規律するルール作りができる、紛争処理のメカニズムが確立しているというWTOのメリットが上げられた。今後、日本の戦略としては、ASEAN+6の東アジア大のEPA を進め、またその先には大国や資源国等とのEPAも、WTOのラウンドの進展を見ながら注意深く検討していく必要があるとコメントが行われた。

    Antoni Estevadeordal氏(Inter-AmericaDevelopment Bank)からは世界におけるFTAの流れを特にアジアとラテンアメリカを比較して報告が行われた。ラテンアメリカとアジアにおけるFTAの結びつきのきっかけについて比較すると、ラテンアメリカは構造改革で貿易・政策の要素が強く、アジアにおいては改革・自由化と市場の要素が強い。FTAは今後、二国間と地域を区別する必要性があり、そこからどのようにしてお互いを結びつけることができるかを考える必要性があるとコメントが行われた。

    フィリピンにおけるFTAについての報告がMyrna Austria氏(De La Salle University)から行われた。フィリピンの二国間協定は日本とだけであり、もちろんAFTA加盟国ではあるが、今後、アメリカとの交渉も始めていく。今後のFTAの戦略としては、まず、世界的競争、持続的成長、貧困の軽減のための効率的な分配などにおける国内政策の目的との整合性があるのかということが1つある。もう1つは、WTOとFTAのメカニズムを同時並行で推進していくということである。どちらの考え方にもメリットがあるが、二国間協定は貿易転換効果なども生じるためデメリットの面も多々あるというコメントが行われた。

    NZにおけるFTAについての報告がRobert Scollay氏(APEC Study Center)から行われた。NZと豪州のFTAは歴史も古く、単なるFTAとも異なり、労働の制限、法制の統一化、共同でスタンダードの作成など、1つの市場と化している。NZは市場も小さく、WTO型の多角化よりもFTAのほうが、交渉が容易であることから、今後WTO交渉に対して圧力は余りかけないであろうという報告が行われた。しかし、豪州とは市場が統一されているように見えるが、競合もある。それゆえにNZ の今後を考えると他国から乗り遅れないようにFTAを構築していく必要があるとともにASEAN+6 並びにAPECにまたがるFTAを構築していきたいというコメントが行われた。

    Jeffery J. Schott氏(Peter G. PetersonInstitute for International)からはアメリカにおけるFTAについての報告が行われた。アメリカは戦後、多角的交渉において全てに要求をしつづけてきたが、NAFTAについてはカナダから話がもたらされた。アメリカの今後の政策としては、他国に立ち遅れないように、多角・地域・二国間を共存させて進行し、政治的・経済的な外交の目的を達成させていくであろうというコメントが行われた。

    後半ではコーディネーターの浦田秀次郎氏から以下の2 点が論点として提起された。

    1. 地域的FTAの構築の見通し
    2. 構築する上での障害とその克服法

    Inkyo Cheong氏からは、一番大きな障害としては、余りにも多くのFTAが混在していることが上げられ、大きく地域的なFTAを達成するべきであるとコメントされた。また、ASEAN とのあり方ではASEAN+6 よりもASEAN+3のほうが望ましいとの見解を示した。その理由として上記同様にASEAN+3で足元を固めその後、広げていくのが良いという意見を示した。

    Christopher Findlay氏はASEAN+3かASEAN+6にするかという議論に対して、ビジネスの環境および状況を見て判断をするべきというコメントが行われた。特に生産ネットワークと域内貿易の取り扱い方が、それを決める判断の基準になるとし、その点で将来にわたってアメリカを地域的枠組みに入れるかは自然と判断されるだろうという意見が出された。

    中富道隆氏からも同様に、ビジネスの実態を見るべきであるという意見が出された。東アジアに関しては域内貿易の割合が北米を越え、EUと比較しても遜色ないほど非常に高く、経済の結びつきは既に強いという意見が出された。経済の実態と合ったかたちで進めることができるかということが次の問題になり、ASEAN+6は十分に実現可能なネットワークであるというコメントが行われた。また、東アジア・アセアン経済研究センターを設立することについて、統合の理論的な基礎や政策調整の基礎として重要な役割を果たすものとして日本が支援していくという報告がなされた。

    Antoni Estevadeordal氏によってFTAAからの経験的な報告が行われた。FTAAの交渉は南米諸国およびアメリカ、カナダなどが参加して1994年に立ち上げられたが、これはその前に二国間で行われていた努力がなければ成し遂げることが出来なかったことであるというコメントが行われた。現在、FTAAは地域の方向性を位置付ける青写真となり、二国間の交渉を促進させている。そのためFTAAの基本的な構想がなければ現在のような流れにはならなかったかもしれないという議論が行われた。

    Myrna Austria 氏からは、ASEAN+6が適当であるという意見が出された。しかし、ここには異なる枠組みが多くあるため、早急に現段階で何が起こっているかを把握し、共通枠組みを構築することが重要であるというコメントが出された。また原産地規則の問題や、調和することなどを視野に入れて、潜在的な市場の力を強化する必要があるというコメントがなされた。

    Robert Scollay氏からはアメリカとの統合の問題に対して、東アジアから一歩出て統合を進めるべきであるという意見が出された。その理由として、経済的に利害が錯綜し、地域の中でさまざまな協定が錯綜しているため、地域のパートナー間では発展しないという考えを示した。そのためASEAN が統合の中心となり、それとともに中国がどれくらいのスピードで進歩するかが重要になるであろうとのコメントが行われ、同様に台湾の問題も外すことが出来ない内容であると指摘が行われた。

    最後にコーディネーターの浦田秀次郎氏から、今後もFTAの質的側面およびその影響を研究する必要性についてコメントがあり、終了した。