RIETI政策シンポジウム

急増するFTAの意義と課題-FTAの質的評価と量的効果-

イベント概要

  • 日時:2007年3月22日(木) 13:00-18:00、3月23日(金) 10:00-17:10
  • 会場:東京全日空ホテル B1F ギャラクシーの間 (東京都港区赤坂1-12-33)
  • 議事概要 Part I FTA条文による質の評価

    セッション1:財貿易:原産地規則

    [セッションの概要]

    本セッションでは、自由貿易協定(以下、FTA)における質的評価を原産地規則に着目しながら実証、事例、制度研究を交え、検証を行った報告がCheong氏から行われた。Cheong論文は、代表的なFTAをいくつか例として取り上げ、原産地規則と自由化の範囲におけるマーケットアクセスについて分析を行ったものであるが、本セッションでは、原産地規則についてのみ報告が行われ、自由化の範囲については次セッションで議論された。それに対してディスカッサントのEstervadeordal氏からも、世界の主要なFTAを例として挙げながらコメントが行われた。本セッションと次セッションに関してセッションチェアにより、東アジアで設立されたFTAは、一般的に見るとかなりカバレッジが低いということと、もう一方で、原産地規則がかなり厳しいという意味から、他のFTAと比べるとクオリティが劣るとまとめられた。

    [Cheong 報告の概要]

    Cheong報告では、「自由貿易協定における原産地規則」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 原産地規則は非常に厳格で複雑な規則であるが必要である。その理由として、貿易の歪みを防ぐため、また、多くの輸入部品の使用に関わらず、表面的に国内における最終財として生産をしているための原産地の不一致を減らすため、そして経済政策的に重要である。だが、原産地規則は保護主義的および政治経済学的な考え方をベースにしており、FTAからの利益を低減させている。
    2. 日本および韓国はFTAの質的側面において中国に立ち遅れている。中国のASEANとのFTAにおけるシンプルな原産地規則は中国のリーダーシップによって可能であった。現段階では、中国が東アジア経済共同体をリードするであろう。
    3. 現在アジア諸国は多くのFTAの締結をしようとしている。確かにそれは重要なことであるが、同様に、質の高いFTAを構築することが今後の課題になってくるであろう。

    Chenong報告に対して、Estervadeordal氏から以下のような議論が行われた。

    1. FTA比較分析のみならず、システムおよびメカニズム的な問題に焦点を当てることが重要なのではないか。望ましい原産地規則としては、貿易の歪みが回避されることがある。しかし、原産地規則がなぜ本当に重要なのであろうか。原産地規則の重要性として、FTAの激増、FTAからの産業の隔離、中間財製造者の保護、戦略的分野における投資の引きつけ、短期と長期の効果の違いなどがある。理論的には説明されているが、さらなる経験的な証明が必要なのではないか。
    2. 原産地規則の経済的影響として、貿易・投資・製造パターンを歪めることがある。原産地規則が貿易の歪みを回避することに使われることが経験的事実から示されているが、その反面、企業の行政手続きによる費用、特恵の低い使用率、最終および中間財の貿易パターンへの影響を負の側面として挙げることができるのではないか。
    3. 東アジアにおいて、複数のFTAの実施により、それぞれ異なる原産地規則が錯綜している。それによるスパゲッティボウル現象に対する政策的課題があるのではないであろうか。

    上記の討論に対し、以下のコメントがあった。

    1. 域内貿易を増やし、東アジアをどのように統合していけば良いのかを考えることが重要である。
      また、中間財の域内貿易を増やすためにどのような原産地規則にするかを分析することが重要である。

    上記の討論に対して、フロアから以下の質問が行われた。

    1. オーストラリア(豪州)とニュージーランド(NZ)における経済協力緊密化協定(CERTA)における原産地規則の自由化の度合いが高いとされている。さらに容易にするために地域バリューコンテントと関税分類変換のアプローチの違いは何か、そして、どちらのモデルを選択するとよいであろうか。
    2. 関税の低いものについては、FTAで関税を撤廃したとしても、原産地規則が妨げになって、実効上関税撤廃の効果がないのではないのか。

    この質問に対し、以下の回答が行われた。

    1. ビジネス環境の変化を捉えたメカニズムを導入する必要がある。投資と貿易をリンクしたものが必要であると考えるが、まだそのメカニズムは研究中である。

    セッション2:財貿易:農産物貿易の自由化

    [セッションの概要]

    本セッションでは、下記の問題意識を背景に報告が行われた。報告の内容は、自由貿易協定(以下、FTA)における質的評価において、センシティブ項目である農産物貿易の自由化の実証、事例、制度研究を交え、検証を行ったものであった。

    1. FTAの農産物関税撤廃交渉にあたり、農産物輸入における障壁に関していかなる問題があるのか。
    2. 欧米諸国、日本、韓国、そしてASEAN‐中国FTAにおける農産物自由化の状況はどのようになっているのか。

    この報告に対してディスカッサントの大賀氏から、日本のFTAにおける農産物貿易自由化の問題について農林水産省の基本方針を踏まえながらコメントがなされた。

    セッション全体としては、セッションチェアにより、質的に高いFTAは、農産物貿易の自由化が進展しない限り達成できないと取りまとめられた。さらに、他の国と比べて、どの程度自由化が進んでいるかという、クロスカントリーの比較分析が重要であり、日本の農業政策に関していえば、時系列的に見ていくと、かなり自由化が進んできているという印象があるが、他の国と比べると自由化度が低いため引き続き検討が必要であるとまとめられた。

    [Cheong 報告の概要]

    Cheong報告では、「主要自由貿易協定における農産物貿易の自由化」をテーマに欧米とアジアのFTAを比較しながら報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 主要な農業輸出国とのFTAは、農産物貿易については、さまざまな要素において利益と不利益が出てくる。
    2. 農産物の輸入においては関税よりさまざまな非関税障壁(以下、NTB)が用いられる場合が多い。そのためFTA交渉では、関税の除去と並行して衛生植物検疫措置の適用に関する協定(以下、SPS)、セーフガード、補助金などについての議論も重要になってくる。
    3. 基本的に、アメリカのFTA交渉における農産物関税撤廃においては、例外を認めない(しかしながら、豪州に対しては例外が認められた)。EU、日本、韓国におけるFTAにおいては農産物部門で、多くの例外が認められる傾向にある(日韓FTA交渉においては、農産物自由化が1つの難問である)。
    4. 広範囲の農産物自由化が達成されなければ、包括的で高い質のFTAを達成することはできないであろう。

    Cheong報告に対して、大賀氏から以下のような議論が行われた。

    1. 日本政府の農産物自由化において消極姿勢から積極姿勢への転換があった。2004年6月に発表された「FTA/EPA交渉における農林水産物の取り扱いについての基本方針」において、方向転換と対応方針を明確化し、同年11月「農林水産分野におけるアジア諸国とのEPA推進について~みどりのアジアEPA推進戦略~」において積極的対応姿勢を明示している。
    2. 日本の農産物の国境保護は、米・麦・酪農品・牛肉・砂糖など、特定品目に集中している。高関税品目の関税率の大幅引き下げの下では、これらの品目の国内生産の維持は困難であるといえる。しかし、二国間交渉では貿易の自由化の例外が可能なことがEPA/FTAのメリットといえる。
    3. 日本のFTAにおける農産物貿易の議論は、輸入だけではなく、輸出の促進にも着目して、アジアの中の日本という対アジア戦略を視野に入れている。日本としてのFTA交渉においても何らかの明確な戦略的方向性を持って議論することが必要と思われる。

    また、フロアから以下の質問が行われた。

    1. SPSが保護的措置として使われがちではないであろうか。もちろん生命および健康の保護のための措置として必要な権利ではあるが、さらなる改善が必要なのではないか。

    その質問に対し、以下の回答がなされた。

    1. 韓国において米国産牛の輸入が再開されたが、その輸入禁止措置はBSEの発生によるものである。FTAとその問題は、直接的に相関関係にはないが、その問題が解決されない限り米韓FTA交渉に臨むことはできないであろう。WTOにおけるSPSの規定は曖昧で分かりにくいのは確かである。そのため、SPSは農業の保護的措置として利用されるのではなく、きちんとした形で利用されるべきであると考える。

    セッション3:サービス貿易

    [セッションの概要]

    本セッションでは、下記の問題意識を背景に報告が行われた。報告の内容は、自由貿易協定(以下、FTA)における質的評価において、サービス貿易の自由化の実証、制度研究を交え、検証を行ったものであった。

    1. 現段階におけるサービス分野での自由貿易協定の非メンバー国が、どのように協定に参加することを促進できるように構造や内容に共通性を持たせることができるのであろうか。
    2. GATS加盟国が、GATSに定められている以上の約束を協定でした場合、どのようになるのであろうか。
    3. ここで示された望ましい協定が、地域サービス貿易においてどれくらいの影響力があるのであろうか。

    [Findlay 報告の概要]

    Findlay報告では、「自由貿易協定におけるサービス貿易」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 協定に示されている、コミットメントのリスト、分野別の分類計画案の採択、分野別および水平コミットメントの相互作用、投資の扱いなどにおける広範囲に渡るアプローチの方法は、非加盟国への利益の波及効果を困難にしていると考えられる。自由化の段階はGATS 型の協定では頻繁には示されておらず、NAFTA型の協定のようなネガティブリストによる協定には示されている。
    2. NAFTA型を採用している協定は、サービス貿易においてリベラルなスタンスを示しているケースが多い。しかし、実際の協定は、垂直的または特定のコミットメントに影響を受けているため、協定の形態に関わらず分野別制限によってその効果は小さくなる。
    3. サービス貿易の自由化の協定の特徴は参加国によって異なってくる。自由化の度合いは途上国による地域協定ほど低いことを示している。興味深いのは、先進国と途上国における協定は比較的、先進国同士と比較しても、その度合いが高いことである。だが、分野別の除去も比較的大きいことを示し、実質的な協定への影響には常に重要ではないと考えることができる。
    4. 一般的に、適用範囲分野の狭さや欠如は、地域におけるサービス貿易の自由化を減少させる。

    Findlay報告に対して、木村氏から以下の議論が行われた。

    1. 正面から向き合うFTAの交渉が、サービス貿易における自由化を加速させるのであろうか。財貿易とは異なる非対称性、アメリカ以外にどの国がサービス貿易において積極的な協議事項をもっているか、国内政策との結びつきなど、本質的な交渉についての分析が必要であるのではないか。
    2. FTAの評価において、サービス貿易における差別的な要素の分析を、財貿易同様にするべきなのではないか。また逆に、それが、サービス貿易にとっては重要なのかを検証する必要があるのではないか。
    3. GATTにおいては曖昧ではあるが、外国人について定義付けられている。しかし、GATSでは詳しく定義付けられていない。概念的側面において、FTAにおける国家の概念がGATSで定められているものと異なっているのではないか。

    上記の討論に対して、以下の回答が行われた。

    1. サービス貿易における交渉において何が交渉されているのかを注意深く考える必要がある。相手の興味によって非対称性が生じてくるであろう。
    2. サービス貿易の自由化において、国内政治と誰が影響力を持っているかの問題が重要になってくる。保護されていた産業は傷つくであろうが総合的に見ると利益が伴う。

    また、フロアから以下の質問が行われた。

    1. サービスにおける原産地規則が制定された場合、複雑で厳格なものになるのか、それともすっきりとした内容になるのであろうか。
    2. 現在とは異なるタイプのサービス貿易制度を構築する必要があるのであろうか。それとも地域協定の場合、二国間協定などと異なり、インフラ投資に対してもっと地域的になり、サービスのタイプが違ってくるのか。
    3. サービス貿易の交渉において先進国が大きな関心を持ち、途上国はあまり関心がないという議論であったが、モード4における人の移動に関することになると結果が異なってくるのではないであろうか。

    その質問に対し、以下の回答が行われた。

    1. 原産地規則が自由化されるのか、それとも複雑化するのかはケースによるであろう。もしも今の投資の拡大がこのまま続けば、原産地規則を戦略的に使うことが多くなるであろう。逆に、そうでなければ戦略的に成り立たないであろう。
    2. 途上国もサービス貿易の自由化に大いに関心を持っていると思うが、個々の協定では見て取ることが出来なかった。ここでの分析では着目しなかったが、いくつかのFTAでは重要な課題であると考える。

    セッション4:直接投資

    [セッションの概要]

    本セッションでは、自由貿易協定(以下、FTA)における質的評価を分析するにあたり、直接投資(以下、FDI)の法制を、8件の二国間および地域的FTAを用いながら実証、事例、制度研究を交え、検証を行った。特に、8件のFTAを用いながら、外資および市場参入に関する制限、内国民待遇、許認可制、役員の構成、海外投資家の参入、技術移転などによるコミットメントの状況に焦点を当てた分析が行われた。

    [浦田報告の概要]

    浦田報告では、「自由貿易協定における海外直接投資における規制の分析」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. FDIにおける規制の基準として、日墨EPA および韓・チリFTAが、最もFDIにおいて制限的であった。日本とメキシコを比較した場合、メキシコはEPAパートナーである日本より一層厳しい制限を課している。韓・チリに関しては両国とも同等の厳しい基準である。韓・シンガポールFTAにおいては韓国がFDIに関してほとんどの分野で制限を残し、シンガポールは比較的に開放的である。日・シンガポールEPA、米・シンガポールFTA、米豪FTAにおいては低い制限基準である。これら制限基準は、それぞれのFTAパートナーによって異なる基準を用いている。たとえば米豪の場合、米国がシンガポール、メキシコ、カナダと結んだ場合より低い基準を課している。
    2. 国ごとに概観すると、カナダ、メキシコ、チリ、韓国においてはFDIが高い制限率を示しているのに対し、米国、シンガポールにおいては、比較的に開放的である。日本は一般的な見解に反し制限的ではない。
    3. FDIに対する制限を種類別に分析していくと、FDIにおける最も顕著な制限手段は外資と市場参入に対する制限である。またFTAが投資家に対して内国民待遇を与えることを求めているのに対して、いくつかの制限が残っている。カナダ、豪州、メキシコに関しては高い基準のFDIに対する許認可が存在している。
    4. FDIにおいて第一次産業(農業・鉱業部門など)と第三次産業(輸送・情報通信・金融部門)において最も多くの数の制限が存在していた。

    浦田報告に対して、Austria氏から以下の議論が行われた。

    1. いくつかの投資レジームはルールとしては発効しているが、実際はそれが実行されていない場合が多い。それは特に透明性の低い途上国において顕著に現れているがどうであろうか。
    2. トータルスコアの算出におけるウェイトが恣意的ではないであろうか。
    3. 各セクターにおけるウェイトはどのように算出したのであろうか。
    4. 東アジアは世界的生産ネットワークとして人気があり、相互主義の理論による比較優位を保つため、ある特定の産業に焦点を当てて世界的生産ネットワークに入り、さらに自由化されオープンな市場にしようとしているが、それは世界的生産ネットワークの中で危険をさらすようなものではないのであろうか。
    5. 発展途上国において第三次産業、特にサービス部門の自由化の優先権のようなものを与えるのはどうであろうか。
    6. カナダにおける結果は大変驚くべきことである。
      カナダのような先進国であればFDIのレジームが一層の自由化へと進んでいるのではないであろうか。

    上記の討論に対して、以下の回答が行われた。

    1. コミットメントと実行については将来的に扱っていきたい内容である。
    2. 集計したトータルスコアによるウェイトは恣意的のように見てとることができるが、他の研究でも行われていることが1つの理由である。実はFDIの金額をウェイトとして考えることが出来るのではないだろうか。
    3. セクターにおける集計は、単純平均によって算出した。
    4. 相互主義に関してはアメリカが積極的にFDIの領域で扱おうとしている。
    5. 途上国におけるサービス分野は重要である。その理由として生産ネットワークの大きな部分をサービスが占めるようになってきたからである。
      そのために途上国に対し、サービス分野における開放を呼びかけている。しかしこれもセンシティブな問題でもある。
    6. カナダについては算出によってそのような結果が出た。明確な理由ははっきりとしていない。

    セッション5:セーフガード

    [セッションの概要]

    本セッションでは、下記の問題意識を背景に報告が行われた。報告の内容は、12件の二国間および地域内自由貿易協定(以下、FTA)におけるセーフガード・メカニズムを比較分析した報告であった。

    1. GATTおよびWTO 下におけるセーフガードの構造と特徴とは何であろうか。
    2. どのように異なった特徴が、国際的セーフガード(GATTおよびWTO)と二国間および地域的セーフガード(FTA)のメカニズムには存在するのであろうか。
    3. 12件の選別されたFTAの中で、どのセーフガードが保護貿易的で、またそうではないであろうか。

    [小寺報告の概要]

    小寺報告では、「自由貿易協定におけるセーフガード・メカニズムの比較」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. FTAにおけるセーフガードには、自由化の程度が高い順に、(1)セーフガードがない型、(2)WTO型、(3)NAFTA型、(4)GATT型、(5)ヨーロッパ型に区分できる。
    2. ただし、セーフガードがない型としては韓・チリFTAがこれに当たるが、韓・チリFTAには、農産品に対して極めて緩やかなセーフガードが存在しており、その点の捉え方いかんでは、(4)と(5)の間のランクになるかもしれない。
    3. またセ-フガードメカニズムというのは自由化のセ-フティバルブの役を果たしている。つまり、セーフガードを緩やかにすることによって、逆に物品貿易の自由化を高度化する、という政策が考えられ、この意味では、物品貿易全体を数値化してウェイトをつけ、その中でセーフガードを位置付けないと本当の意味は分からないかもしれない。
    4. ウェイトをつける場合、全体の物品貿易自由化の中でセーフガードの比率をどのようにウェイトづけをすればいいかというあたりが問題になってくるだろう。この問題を考える際に、2点考慮しなければならない。1つはリバランシングの措置ができることとセーフガードの発動が経過期間中に限定されることである。リバランシングができるということは、実際には発動できないことを、また経過期間中に限られるということは、いくら緩やかなものであっても、あくまで一時的なものであることを意味する。つまり、物品貿易の自由化の観点からは、あまり考慮しなくても良い制度かもしれない。

    小寺報告に対して、小林氏から以下のような議論が行われた。

    1. 日本における二国間セーフガード交渉においては、WTO一般セーフガードと比較し、発動条件・措置内容に関してより厳格な規律とすることに努めている。このため日本のEPAをWTO型に分類する小寺教授の分析については、同じ認識を共有。
    2. EPA二国間セーフガード交渉において、経済産業省としては以下の点にプライオリティを置いている。すなわち(1)二国間セーフガード措置の発動要件として輸入の絶対的増加等のWTOプラスの規律を盛り込むこと、さらには(2)国内セーフガード(非譲許のためWTOセーフガード措置の対象とならない産品の一方的関税引き上げ)をEPA二国間セーフガードの規律対象とすること等である。
    3. 我が国初のEPAである日星EPA発効から5年以上が経過し、これまで締結してきたEPAの内容を分析・再評価する指標が必要となってきている。二国間セーフガードの数値化による比較分析に関する小寺教授の更なる研究成果を期待している。

    上記の討論に対して、以下の回答が行われた。

    1. 日本政府が現在、国内的なセーフガードに焦点を当てているという問題は興味深い。この問題は今までほとんど議論されてこなかった。途上国を相手にセーフガードを考える場合には、この国内的セーフガードの問題は、大変重要なポイントだろう。

    また、フロアから以下の質問が行われた。

    1. NAFTAにおいてアメリカがセーフガードを課した際、FTAパートナーに対して優先的な待遇を与える。これは経済学的に理論的根拠があるのに対し、WTOにおいては懐疑的な判断をされてしまう。

    この質問に対して以下の回答が行われた。

    1. 制度的にはWTO上のセーフガードとFTA上のセーフガードは違う。しかし実際に輸入品が急増してくる場合には両方のセーフガードを同時に発動することが多い。このような場合に論理的にはFTA上のセーフガードは発動しないで、WTO上のセーフガードだけを発動するということが可能かという問いである。WTO では調査段階で、FTA相手国からの輸入を調査したがセーフガードの発動対象としなかった場合について、WTO協定違反の判断をした。もしFTA相手国産品の調査をしないで、WTO上のセーフガードだけを発動した場合に、WTO協定上許されるかどうかは興味深い問題であるが、即答することはできない。