イベント概要
2005年9月14日(水) 於 経団連会館 国際会議場
(東京都千代田区大手町1-9-4)
- 基調講演 1、基調講演 2
- パネルディスカッション「企業買収規制:欧州からの教訓」
基調講演 1
Colin MAYER(オックスフォード大学教授・CEPRフェロー)から「Corporate Governance: Mobility and Convergence」と題した以下の報告が行われた。
- ヨーロッパ諸国の所有構造は著しく多様である。イギリスでは、年金基金や保険会社のような機関投資家がブロックシェアを保有しているのに対し、他の多くのヨーロッパ諸国では、独占的なブロックホルダーの手中にある所有権が高い水準で集中している。家族や個人が独占的に保有し、企業が相互に持ち合う部分も大きい。
- 伝統的な家族や株式相互持ち合いの構造はもはや適切ではなく、解体される必要がある。ECは、金融サービスのクロスボーダーな取引がより活発に行われるような、より統合されたヨーロッパ金融市場を創りだせるよう努力している。ECが成し遂げようとしているクロスボーダーの取引形態の1つは、企業に他のヨーロッパの国の企業を買収することを認めるというものだ。もしそうするなら、公平な競争の場を創ることが不可欠だ。
- 強制買付けルール、等価ルール、閉め出しルール等は、公平な企業買収市場を創出するために重要なものだ。これらは、企業買収のプロセスを明白にし、異なるクラスの株主に異なる価格が提示されることを防ぐことを通じて、少数株主の権利を保護する。
- ヨーロッパにおける企業買収指令と企業買収コード(シティ・コード)を通じたプロセスでは、アメリカのように裁判所を通じて少数株主を保護する必要はなく、また、全ての企業買収は同じルールに従う。
- EC委員会は、十分に機能する企業買収市場を創出するにとどまらず、ヨーロッパ企業の統治構造を変化させ、特に、既存の所有構造を解体しようと試みた。こうしたEC委員会による試みは、大部分においては成功しなかったものの、企業の所有と支配に関係した重要な進展があった。
- しかし、これらの変化は、EC委員会から生じたものというより、主として欧州裁判所が下した判決の結果生じたものだ。また、特に、欧州裁判所のこれらの判決は、企業が法制のタイプを選択することが出来るということに関係している。すなわち、EC委員会のように統一的なガバナンス構造を求めるのではなく、多様性やある種の実験を許容すべきだ。
- ヨーロッパにおけるコーポレートガバナンスの特徴やそこで実施されつつある政策には、現在日本で議論されているものと深く関係しているものがある。特に、ヨーロッパにおけるガバナンス構造の多様性と、多様性が生み出す企業の効率性の改善における問題は、現在日本で議論されている問題とかなりの類似点を持っている。日本は、企業支配制度における多様性を認識し、改革の実験を促進する一方、株主の権利の保護を強化すべきだ。
基調講演 2
宮島英昭(RIETIファカルティフェロー・早稲田大学商学部教授・ファイナンス総合研究所副所長)から「Changing J-type Firms and the Role of M&A in Corporate Governance」と題した以下の報告が行われた。
- この10年の間に日本型として特徴付けられてきた日本企業の統治構造に大きな変化が生じた。第1に、メインバンク、株式相互持合、内部者からなる取締役会などの特長は、いまや大きく変化している。しかも、それらの企業のガバナンスの仕組みは大きな多様性を示しつつある。従って、日本企業はもはや同質的ではない。第2に、ガバナンスの仕組みのうちでは、企業と外部の投資家との関係の変化が大きく、マーケットベースに移行している。他方、第3に、取締役会改革や業績連動的報酬の導入は注目されて入るものの、それほど大幅に進展しているわけではない。これについては、依然としてこれまで指摘されてきた日本企業に固有の特徴を残している。
- 日本では、M&Aが1997年を境に急速に件数、金額とも増加している。アメリカではコングロマリット化が多角化の非効率性を生み出した結果、1980年代に集中と選択の方向でのM&Aが進み、さらに90年代には規制緩和とイノベーションを背景に通信、金融、航空といった分野で盛んにM&Aが行われた。現在の日本では、この2つの現象が同時に起きていると考えられる。M&Aは、現在企業成長と事業再組織化の重要な手段になっているし、マーケット・コーポレート・コントロールもしだいに日本に定着しつつある。
- M&Aはポジティブな効果を持っているが、そのM&Aが日本で順調に起きているのか、それともまだ足りないのかといった面から見ると、事業再組織化、あるいは、経営の規律のメカニズムとしてM&Aは十分に利用されていないと考えている。制度的な要因としては、第1に安定株主がM&Aの制約になっていると考えられる。第2に、メインバンク関係による制約の可能性もある。銀行は少なくとも2002年くらいまでは不良債権の顕在化を避けるために、自行の顧客企業が合併の対象になることを避けていたかもしれない。暫定的な推計結果からも安定保有や強いメインバンク関係がM&Aの定理を制約しているという結果が得られた。要するに、M&Aは増加しているものの、制度的な要因によって必要な事業再組織化が制約されている可能性がある。
- これまでの実証研究からいうと、日本企業は多様化している。この認識の含みは、第1に法的には、画一的な規制を強行法規として制定することは非現実的なことだ。第2に主要な改革の対象は、持ち合いを維持し、銀行との関係が強く、コーポレートガバナンス改革が遅れている企業群だ。しかし、こうした企業群には市場の圧力が加わらない構造になっている。そうしたなかで、M&Aが企業の事業再組織化、あるいは、経営の規律付けに少しずつ役割を演じつつある。そうした環境を前提にすると、M&Aの入り口の部分で一律に余りにも厳しい規制を課すと、改革が必要な企業群に対する企業買収やリストラの圧力を引き下げるという意味で問題を含む可能性がある。
以上2つの基調講演に対し、会場から以下の質問がなされた。
- 実際には日本企業はアメリカの方に向かっているが、日本の社会の構造も経済の仕組も、アメリカより、ヨーロッパの大陸の方にはるかに近い。そういう中にあって、果たして現在の日本のコーポレートガバナンスが進んでいる方向は正しいのか。
- ヨーロッパの企業買収指令やコーポレート・ヨーロッパというものを日本企業は余り学んでいないのか。
質問の(1)に対し、宮島英昭(RIETIファカルティフェロー・早稲田大学商学部教授・ファイナンス総合研究所副所長)から以下の回答がなされた。
- どちらの方向が正しいかというのは難しい問題だ。敵対的買収をかけてくる人の中にはグリーンメーラーもいるし、適切な経営計画を持っている人もいる。グリーンメーラーの介入を阻止するために、M&Aの入り口規制を厳しくした上で経営者が簡単にポイズンピルを利用できない仕組みを創るというのがEUだ。この場合、事業再組織化にポジティブなM&Aを排除してしまう可能性がある。それに対して、アメリカの仕組みでは入り口の規制を緩くし、その代わりにポイズンピルで守ることが出来るため、事業再組織化の可能性を下げることはないがグリーンメーラーは阻止できない。どちらの仕組みもメリットとデメリットがセットになっており、メリットだけの組み合わせはない。
- 実態的にはメイヤー教授がいわれるような側面もあり、また法的にも判例が積み重なっていないため、アメリカ的な制度を入れるのが難しい面がある。とはいえ、他の制度をここまでアメリカに似せた方向で変更している以上、EU型の制度を取り入れるとすれば、整合性に関する工夫が必要だ。
質問の(2)に対し、Colin MAYER(オックスフォード大学教授・CEPRフェロー)から以下の回答がなされた。
- 3つの問題をセットで考える必要がある。第1に企業買収、第2に株式相互持ち合いやその他の支配メカニズムの構成、第3に唯一の規制体系を求めるべきかどうか、あるいは、異なる規制体系の間に選択の余地を持たせるべきかどうかだ。
- 企業買収について言えば、伝統的には企業数に対する敵対的買収の件数の比率はアメリカよりもイギリスのほうが多かった。両者の最も大きな違いは、少数株主の保護がアメリカでは裁判所を通じて行われ、イギリスではワンセットのルールに基づいて行われるということだ。
- 株式相互持ち合いは、非効率性を促すことがあるかもしれないが、企業セクターの変化を強制することは大きな混乱となりうる。株式相互持ち合いには安定性といったメリットもあり、株式が分散して保有されるような形態がアメリカでうまく機能しているからといって、他のシステムでもうまく機能するとはいえない。
- 異なるタイプの企業が存在するなら、それらに単一の規制体系を課することはできない。企業が異なる規制体系を選択することを認めるべきだ。ヨーロッパでは、実際に企業が従うべき規制体系を選択しており、十分に株主が保護されるのであれば、最も有益な結果をもたらすとみている。
- 基調講演 1、基調講演 2
- パネルディスカッション「企業買収規制:欧州からの教訓」