RIETI-CEPR コンファレンス

コーポレートファイナンスとコーポレートガバナンス:日本と欧州の比較

イベント概要

  • 日時・会場:2005年9月13日(火) 於 経団連会館 パールルーム(1001号室)
          2005年9月14日(水) 於 経団連会館 国際会議場
          (東京都千代田区大手町1-9-4)
  • 開催言語:13日、英語(同時通訳なし)/14日、日本語⇔英語(同時通訳あり)
  • パネルディスカッション「企業買収規制:欧州からの教訓」

    まず、Jenny CORBETT(オーストラリア国立大学教授・CEPRリサーチフェロー)から、13日および14日前半のアカデミックコンファランスの成果について以下のコメントがなされた。

    1. 日本とヨーロッパのコーポレートガバナンスに関し、特に取締役会の構成やM&Aが企業パフォーマンスに与えるインパクトが統計的に識別できるかどうかについて、多くの研究成果が報告された。それらによれば、唯一の普遍的に妥当するコーポレートガバナンスのシステムは存在しないと結論付けられる。
    2. コーポレートガバナンス・システムは、一般的に金融市場の設計、敵対的買収規制、金融市場全体の規制と深く関係している。明らかに、これらの変化の集合は、それぞれの個別の変化に比べてはるかに大きなものとなる。そのうち、どの制度が最初に変化する必要があるかについては非常に活発な議論がなされた。

    続いて、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下のプレゼンテーションが行われた。

    1. 欧州における敵対的買収規制は、1968年に制定されたイギリスのシティコードに始まり、それはヨーロッパ諸国やアジアの一部で同様の規制を制定する際のモデルとなった。
    2. シティコードには全部買取義務、株主平等原則、取締役会の中立などの特色があるが、最も重要な特色は、それが裁判所によって強制されるのではなく、敵対的買収委員会と呼ばれる専門家の委員会によって強制される点にある。
    3. ECは敵対的買収に関する法制の整備を1980年代から進めている。当初の構想は全部買取義務に匹敵する、ブレイクスルー・ルールを導入するというものだったが、これにはヨーロッパ諸国の一部から激しい反対があった。そのため、2004年に採用されたECの敵対的買収規制の中には、ブレイクスルー・ルールは盛り込まれなかった。
    4. 日本は、過去20年間に多くの変化があった。まず、所有構造の変化が起こり、金融機関の株主としての存在感が薄れる一方で、外国人株主の存在が注目されるようになった。また、株式相互持ち合いの解消が進み、日本企業が大株主となるケースも減少した。さらに、M&Aが急速に増加し、最近では少数ながら敵対的買収もみられるようになった。
    5. 日本は、法制面ではデラウェア・モデルを採用した。これは、第1に日本の意思決定者がアメリカのロースクールで学ぶことが多く、法曹や経済官僚がイギリスよりもアメリカのシステムに慣れ親しんでいるためだ。第2に、デラウェア・モデルにおいては、経営者は企業防衛上の観点から合理的な理由があれば、買収防衛措置をとることができる。この点で、デラウェア・モデルは日本のステークホルダー・システムと相性がいい。
    6. 敵対的買収規制の改革は、コーポレートガバナンスのシステム全体の改革という幅広い文脈で考えなければならない。今後数年のうちにEU加盟国に導入されつつある規制は、各国それぞれの所有構造や支配構造に異なる影響を与えるだろう。導入する規制は全く同じでも、各国の結果は明らかではない。

    日下部聡(前経済産業省経済産業政策局産業組織課長)から、以下のプレゼンテーションがなされた。

    1. 日本では、1990年代半ばから経済制度の改革が始まっている。その基本的なコンセプトは、経営者が取り得る組織法上の選択肢を増やすことと、その成否を決める市場機能を強化すること、この両方を同時に達成することだ。
    2. 組織法制の拡大は、経済の環境変化に応じたさまざまな会社組織の変革が行いやすい環境をつくることだ。独占禁止法、会社法、税制、倒産法制などの会社組織の再編に関連する制度の改革が、選択肢の拡大とコストの低下という視点で進められた。
    3. 選択肢の拡大に対して、それらを市場機能の強化によって選別淘汰するメカニズムとして、規制緩和、公益事業分野の民間開放、電力、金融、通信の規制改革などが行われた。また、最終的なガバナンス構造の選択はマーケットが決めるという前提の中でガバナンス構造の多様化も進められた。
    4. 以上の一連の動きによって友好的なM&Aはやりやすくなったが、一方で、敵対的買収のルールメイクは残されたままだった。これは、M&Aの大きなうねりの中で、各国で順次整備されてきた。
    5. 経済産業省・法務省の作成したガイドラインでは、イギリス型の全部買付義務を採用しなかった。友好的な買収に対する副作用を考慮した結果だ。その上で、買収防衛策を入れる際の2つの選択肢を示した。1つは、アメリカのように取締役会限りで防衛策を入れる代わりに、独立社外取締役の導入等をさせる方法。もう1つは、ヨーロッパのように株主総会の承認を得て防衛策を入れる方法だ。
    6. 日本の会社が何を選択するのかについては、来年の株主総会がポイントになるだろう。今後、証券取引所ルール、開示ルール、TOBルールの3つが補完されることによって、日本に新しいガバナンスの体系が生まれることを期待する。

    興津誠(帝人株式会社代表取締役会長)から、以下のプレゼンテーションがなされた。

    1. 日本企業の特徴として、株式相互持ち合いによって銀行が大株主となり、経営に規律を与えていたというのは、大多数の企業には必ずしも当てはまらない。銀行は、高度経済成長期に成長資金を提供したが、必ずしも企業に規律を与えていたとはいえない。むしろ、企業間競争が企業に規律を与えていた。同様に、M&Aが盛んになったとしても、それが企業に規律を与えるとはいえない。そうした意味で、ガバナンスとパフォーマンスは別物だと考えている。
    2. 戦後の貧困の中で従業員と助け合いながら経営してきたことが、会社は株主のものという意識を希薄にさせた。また、上場企業の株主についてはいつでもExitが可能なため、株主だけでなくステークホルダーの利害をバランスした経営をせざるを得ない。
    3. M&Aは事業再編成、企業再編成の手段の1つとして常に考えている。基本的に友好的なM&Aを考えており、敵対的なM&Aは全体のごく一部に過ぎないだろう。敵対的M&Aに対してどうすべきかについて、経営の委託を受けた立場から言えば、経営判断が第1だ。
    4. 独立社外取締役よりも、社内の取締役のほうが会社のことをよく知っている。独立社外取締役は、ほとんどの場合株式を保有していないが、社内の取締役は株式を保有していて株主と一体化している場合がある。
    5. 複数事業を手掛ける会社の多くは、黒字事業と赤字事業の両方を持っているのが実態だ。事業単位で赤字でも会社として黒字の場合は、労働組合との関係もあり、赤字事業の従業員を解雇することはできない。
    6. 日本には、買収後に黒字事業を全て売却し、赤字企業のみを倒産させたら買収金額を十分回収できるような会社がたくさんある。この点について、何らかの対処が必要だ。

    Paul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)から、以下のプレゼンテーションがなされた。

    1. コーポレートガバナンスは、金融システムが家計セクターから調達した資金を生産セクターに効率的に配置することを確かなものにするメカニズムだ。コーポレートガバナンスがよければ、金融システムはより強く効率的なものになるだろう。つまり、コーポレートガバナンスは独立したシステムではない。
    2. 完璧なコーポレートガバナンスは存在しない。コストを最小化してベネフィットを最大化するような正しいバランスを見つけることが政策的、社会的な目標だ。
    3. 日本のコーポレートガバナンス・システムは、段階的だが重要な進化を経験している。コーポレート・コントロールの市場は、より閉鎖的なものから、より開放的で競争的なものに進化している。
    4. 日本のコーポレートガバナンスの変化は、厳しい経済環境の中で起こってきた。バブルの崩壊や10年に渡るデフレの中で、日本はデフレ・スパイラルに陥った。コーポレートガバナンスの変化は、一方でこれらの環境の変化に支えられ、他方でこれらの変化を後押しし、相互に作用した。
    5. 日本のコーポレートガバナンスに関する研究プロジェクトは、まだ終わっていない。政策担当者やこのプロジェクトに関わる人々は、引き続き、旧来のシステムから新しいシステムへの移行を容易にすることに関心を寄せる必要がある。ただし、労働者と経営者の協力的な関係など、旧来のシステムのよい特徴は可能な限り残す必要がある。
    6. 敵対的買収は、どんなシステムに対しても重要な役割を持つ。しかし、それはコーポレートガバナンスのごく一部にすぎず、必要悪かもしれない。また、それは所有構造が変わることによって大きな裁定機会となる時に起こる傾向がある。
    7. 労働者と経営者の間に暗黙の契約がある場合、敵対的買収者が現れてその契約の存在を否定し、ステークホルダーから富を奪うかもしれない。こうした問題の解決策の1つとして、年功賃金を成果主義に変更するなど、暗黙の契約を明示的なものにする方法がある。
    8. 委員会等設置会社の新設は、関心の持てる新たな発展だ。このシステムの発展は促進される必要があり、社外取締役は強化される必要がある。
    9. 労働者市場、特に経営者市場の流動性があれば、コーポレートガバナンスはよく機能する。なぜなら、経営者が自ら経営する企業からExitできれば、彼らが本当にその企業に必要な改革やM&Aに抵抗することが少なくなるからだ。

    Jenny CORBETT(オーストラリア国立大学教授・CEPRリサーチフェロー)からMarc GOERGEN(シェフィールド大学教授)に対して以下の質問がなされた。

    1. デラウェア・システムの概要について教えて頂きたい。
    2. 異なるタイプの企業防衛法制、および少数株主保護法制が所有構造にどんな影響を与えるのか、法制の変更が所有構造とガバナンス・システムにどのような影響を与えるのかについて解説を加えながら教えて頂きたい。

    これに対し、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下の回答がなされた。

    1. デラウェア・システムは、イギリスのシティコードとは反対に、裁判所が判決を下すことを通じて機能する。
    2. 異なるタイプの企業買収規制が所有構造に与える影響については、全部買取義務に集中してお話したい。日本は、ヨーロッパ諸国のケースと違って、全部買取義務を導入していないという事実に注目すべきだ。もし、日本が全部買取義務を導入し、株主平等の原則と結合させれば、ブロック・ホルダー・システムの点で、支配権の移転コストが高まってしまう。

    Jenny CORBETT(オーストラリア国立大学教授・CEPRリサーチフェロー)から日下部聡(前経済産業省経済産業政策局産業組織課長)に対して以下の質問がなされた。

    1. なぜ、日本はコート・ベースのシステムを選択したのかについて、ご意見を頂きたい。
    2. 日本の人々は、敵対的買収法制における少数株主の保護と、敵対的買収のしやすさのトレードオフをどのように評価するのかについて、個人的なご意見を伺いたい。

    これに対して、日下部聡(前経済産業省経済産業政策局産業組織課長)から以下の回答がなされた。

    1. 敵対的買収の中には、現在の経営陣よりも高い企業価値を実現する提案もあれば、低い企業価値しか実現できない提案もある。買収防衛のルールは、前者には機能せず、後者には機能するというものが望ましい。デラウェア・ベース、あるいはコート・ベースのシステムは、企業価値のベースとしてまず経営者が判断し、さらに株主が判断し、最終的には裁判所が判断し得るシステムだ。このアプローチは、質のよいM&Aは実現し、質の悪いM&Aの実現を妨げるという観点から、尊重に値する。他方、TOBルールにおいて部分的な買付を排除するアプローチは、透明度が高くわかりやすいが、部分的な買収でも企業価値を高めるような提携案もあり得る。したがって、プロセスの透明度や簡素さよりも企業価値をベースとした判断を重視し、デラウェア・ベースを選択した。
    2. M&Aをなるべく迅速に進めていくことと、少数株主や労働者の権利の保護については、バランスをとるのが難しい問題だ。日本における現在の制度設計の選択は、どちらかといえばM&Aの迅速化を旨としたようなルールメイクを選択しているように思う。ただ、この点はまだ十分に議論されておらず、労働者保護と少数株主保護を友好的M&A、敵対的M&A、それぞれについてどう設計し直すかというのはオープン・クエスチョンだ。これから日本でも話題になる議論だと思う。

    Jenny CORBETT(オーストラリア国立大学教授・CEPRリサーチフェロー)から興津誠(帝人株式会社代表取締役会長)に対して以下の質問がなされた。

    1. 日本において企業再組織化がより容易に、かつより早く行われるために、改革されるべき経済システムの他の側面の問題があるかどうかについて、ご意見を頂きたい。
    2. 高齢化が進んだ日本の労働者に対する経済的保障は、今やその雇用の維持だけではない。この要因は、経営者の企業再組織化に対する姿勢にどのように影響するのかについて、ご意見を頂きたい。

    これに対して、興津誠(帝人株式会社代表取締役会長)から以下の回答がなされた。

    1. 経済システムについては、金融システムにおいて地方銀行の不良債権処理がまだ進んでいない。地方銀行は、今後再編の必要がある。また、郵政の民営化も、民営化後に個人家計部門の貯蓄が経済全体に回るようになるかどうかについて、疑問を持っている。
    2. 労働者は、大企業の正社員グループと、パートタイマーや派遣社員のグループと、ニートに近いグループに三極化しつつある。ニートについては、どのように再教育して労働の場に持っていくかということが大事だ。企業再編については、それによって従業員の職がなくなっても、年金などの社会保障があれば問題ないが、それには将来の年金制度の再編成が前提になる。年金のポータブル性の悪さも改善すべきだ。

    Jenny CORBETT(オーストラリア国立大学教授・CEPRリサーチフェロー)からPaul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)に対して以下の質問がなされた。

    1. 日本における機関投資家の役割に関連して、彼らはコーポレートガバナンスにおいてどのような役割を果たしているのか、海外の機関投資家と日本の機関投資家の役割には違いがあるのかについて、ご意見を伺いたい。

    これに対して、Paul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)から以下の回答がなされた。

    1. メインバンクや取引先などのリレーションシップ・インベスターから機関投資家や個人投資家などのアームズ・レングス・インベスターへのシフトが起こっている。後者のグループにおいて、日本人株主と外国人株主は、動機や思考方法などが非常に類似している。しかし、日本経済と構造改革に自信を示しているのは外国人の方だ。日本の個人資産の大部分は依然として現預金であり、日本人は自国の株式市場により積極的に参加すべきだ。
    2. 日本の株主総会が変化している。経営陣に対する要求が増え、外国人株主がより積極的に行動している。最も注目すべきは、厚生年金連合会が経営陣による議案の29%に反対票を投じたことだ。これらの傾向は今後数年続くとみているし、よい進展だととらえている。

    会場から以下の質問がなされた。

    1. 日本の株式市場は外国人の買いに依存しすぎていると思うが、日本の投資家による株式保有を促進する方法についてご意見があれば伺いたい。

    これに対し、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下の回答がなされた。

    1. 日本人の投資家から資金を株式市場に回すには、無理に資金を引き出させて株を買わせるのではなく、デフレ傾向のマクロ環境を変えることが必要だ。ミクロレベルでは、たとえば銀行で株を買えるようにする等、家計が株に投資しやすくすることでリスク資産を保有することを魅力的にする必要がある。

    続いて、会場から日下部聡 前経済産業省経済産業政策局産業組織課長に対して以下の質問がなされた。

    1. 全部買取義務を導入しなかったのは、部分的にしか買収しなくてもよい意図を持っている買収候補に配慮したためとのことだが、これまでのエビデンスを見る限り、その配慮が不必要なグリーンメーラーを寄せ付けた結果になっているのではないか?
    2. 実際問題として、敵対的でしかも十数パーセントしか取得しないケースでは、最終的に成功しないし、いろんな形でベネフィットを得てExitされてしまう形になっているのではないか? また、全部買取義務がなければ、100%取得してもいいと思っている自信のある買収者が、それを裁判で証明する必要が出てくるが、それはコストではないか?

    これに対し、日下部聡 前経済産業省経済産業政策局産業組織課長から以下の回答がなされた。

    1. 全部買付義務のメリットとデメリットについては、議論が分かれるだろう。部分買付を容認するシステムの下では、グリーンメーラーや強圧的な2段階買収を容易にするという点が指摘される。一方、全部買付義務というのは、TOBが友好的であろうと敵対的であろうと、一律に課されるルールになっているようだ。ただし、部分提携を可能にするさまざまな制度もあり、友好的な部分買収に関するルールメイクについて理解が足りない部分もある。
    2. 全部買付義務なら全てまともな買収提案なのかということについては議論があるだろう。全部買付義務について、友好的な部分買収に対するデメリット、それから全部買付義務であっても必ずしも当初の提案がその企業の企業価値を反映していない可能性があるという論点の2点について、今のところまだ決着がついていない。

    続いて、会場からPaul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)に対して以下の質問がなされた。

    1. 企業金融統治改革のプロセスは未完であり、まだ40%から50%の段階だと仰られたが、主にどんな種類の改革がこれから起こるのか?

    これに対し、Paul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)から以下の回答がなされた。

    1. 起こされるべきは、更なる制度上の、あるいは規制上の変化ではなく、むしろ制度の進化だ。コーポレートガバナンス・システムは単なるルールや制度ではなく、もっと規範に関するものだ。重要なことは、日本のシステムが旧来のユニークな特性を持つシステムから、アングロ・アメリカン・システムの要素を持つようなシステムへと進む歴史的転換を迎える中で、我々はそのプロセスの比較的前段階にいるということだ。
    2. 10年後か、15年後か、20年後かには大きく異なった所有構造を見るだろう。現在、外国人株主は株式の23%を所有するが、投資信託はわずか4%、年金基金や年金信託も4、5%に過ぎない。これらの数字は、10年後、あるいは20年後にはもっと大きくなっているだろう。よって、システムの中で働く力は現在とは異なる次元に達する可能性があり、企業統治も今日我々が目にしているものとはかなり異なったものになるだろう。

    会場から以下の質問がなされた。

    1. 平均的な日本人は今後、株主重視の市場に向かうことに抵抗すべきなのか、それとも推奨すべきなのか、あるいは、それは既成事実で、何もすべきことはないのか?

    これに対し、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下の回答がなされた。

    1. 学術的研究の大多数は、M&Aがターゲットのシェアホルダーに対して非常によいニュースであるということで合意している。ターゲットのシェアホルダーは通常、M&Aの取引で非常に高額なプレミアムを得ている。特に、ブロックホルダーと少数株主を同等に扱う国ではそうだ。一方、買い手側の株主は、良くて損得なし、しばしば大きな損失を被っている。我々は、M&Aの役割について、この種の取引を促進すべきか否かについて、多くの議論をしてきた。

    続いて、日下部聡(前経済産業省経済産業政策局産業組織課長)から以下の回答がなされた。

    1. まず、経営者の問題意識が10年前に比べてかなり変わってきている。ライブドアとニッポン放送の買収劇が行われた後、日経新聞が会社は誰のものかという質問を機関投資家と日本の経営者に行った際に、日本の経営者の100%が株主のものだと答えたのが象徴的だ。
    2. 次に、日本の株主総会はかなりの程度活性化するだろう。今年の株主総会において、買収防衛の効果がある議案について、日本の機関投資家が具体的なボイスを出し始めている。
    3. さらに、日本経済全体を見渡すと、株式市場を活性化して時価総額を上げていかないと経済全体が回っていかないという事実がある。少子高齢化の具体的な処方箋として、株式市場が活性化し、株主価値が上がり、年金資産が増えていくというルートが非常に重要だ。
    4. 以上を総合的に勘案すると、今後も株主重視型の議論が強くなると予想される。ただし、その反面で、株主以外で会社の価値の創出にコミットしている取引先や従業員などのステークホルダーも見直されるだろう。

    次に、興津誠(帝人株式会社代表取締役会長)から以下の回答がなされた。

    1. 株主重視ということは、経営者もみんなわかっている。ただし、前回の株主総会のように防衛策に近いことは全て反対するような、株主100%といったスタンスには疑問を持っている。したがって、他のステークホルダーとのバランスを考えていかざるを得ないと思う。