新春特別コラム:2022年の日本経済を読む~この国の新しいかたち

「2040年問題」「2054年問題」をどう乗り切るか

小黒 一正
コンサルティングフェロー

コロナ危機とマズローの欲求5段階説

2022年という新しい年が始まる。2020年・21年は、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、日本や世界が翻弄された2年間であった。

初めての緊急事態宣言において、一律10万円の現金給付が迅速かつ円滑に支給できなかった反省を踏まえ、2021年9月にはデジタル庁がスタートする等、コロナ危機を契機に一定の改革が進んだ課題領域もあるが、残念ながらこの2年間で、従前(コロナ前)から存在していた人口減少や財政・社会保障改革といった本質的な課題に対する国民の認識は弱まってしまったようにも思われる。

これは、心理学の理論である「マズローの欲求5段階説」から見ても仕方ないことかもしれない。この理論によると、人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」という5段階のピラミッド状の序列になっており、下位の段階の欲求が満たされない限り、より上位の段階の欲求を満たす行動をする心理的な余裕が生まれない。

ピラミッドの下層に位置する段階は、まさに「生理的欲求」「安全の欲求」であり、新型コロナウイルスはわれわれ人類の生命の安全性を脅かした。このような状況の下で、中長期的な課題である人口減少や財政・社会保障改革への対応などの議論を深める余裕が生まれるはずもない。

しかも、最近では南アフリカで初めて報告された新たな変異株(オミクロン株)に対する危機感が世界中に広がっており、日本でも第6波が到来する可能性も否定できない。しかしながら、ワクチン接種や治療薬の開発が進み、コロナ収束の「糸口」が見えてきた側面もあるのではないか。

生産年齢人口1200万人減少の衝撃

このような状況のなか、先般(2021年11月30日)、総務省は「2020年国勢調査」の確定値を公表した。今回の国勢調査において、最も衝撃的であったのは、生産年齢人口(15歳―64歳)の減少スピードである。国勢調査において、生産年齢人口のピークは1995年の約8,716万人であるが、2020年で約7,508万にまで減少していた。1995年から2020年の25年間において、生産活動を主に担う生産年齢人口が約1,200万人も減少していたことを意味する。

しかしながら、これは2040年問題の序章に過ぎない。そもそも、人口問題でこれから日本経済は「2025年問題」「2040年問題」「2054年問題」に直面することになる。

では、これら3つの問題とは何か。周知のとおり、まず「2025年問題」は、団塊の世代が全て75歳以上になり、それ以降、医療費・介護費の膨張圧力が一層増す分岐点の年である。国立社会保障・人口問題研究所の「将来人口推計」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)によると、2025年に75歳以上の人口は2,180万人になる。そのときの全人口の予測が1億2254万人のため、全人口の17.8%が75歳以上となるという試算である。

図表:75歳以上人口(右目盛)と現役人口(20歳―64歳、左目盛)の予測
図表:75歳以上人口(右目盛)と現役人口(20歳―64歳、左目盛)の予測
(出所)国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)から筆者作成

2040年問題と2054年問題

では、「2040年問題」とは何か。それは、2025年から2040年という僅か15年間において、現役人口(20歳ー64歳)が約1,000万人も減少するという問題である。既述の「将来人口推計」では、2025年に6,634万人となる現役人口(20歳ー64歳)が、2040年には5,542万人にまで減少するという試算結果になっている。年間平均の減少スピードは約73万人であり、これは1995年から2020年における生産年齢人口の減少スピード(年間平均48万人)よりも大きい値である。この事実は、積極的な移民の受け入れでもしない限り、日本経済は深刻な労働力不足に直面する可能性を示唆する。

しかも事態が深刻なのは、生産年齢人口が急速に減少するにもかかわらず、75歳以上人口は(2030年代に増加が一時落ち着くものの)2054年まで増加を続けるという問題である。これが「2054年問題」(筆者が講演等で説明している問題で仮称だが)であり、既述の「将来人口推計」において、75歳以上の人口は2054年に2,449万人となり、全人口に占める75歳以上の割合は約25%に達する。すなわち、国民4人のうち1人が75歳以上の高齢者になり、人類の歴史上、日本は「超々高齢化社会」という未知の領域に突入する。

そのとき、財政や社会保障はどのような姿になっているのか。現役世代(20歳―64歳)の租税や保険料の負担能力にも限界があり、まったく異なる姿になっている可能性も否定できない。現在のところ、65歳以上の人々を高齢者と定義することが多いが、75歳以上を高齢者と定義するように変わっているかもしれない。

いずれにせよ、コロナ収束の「糸口」が見え始めている今、コロナ禍で議論が停滞してしまった財政・社会保障改革の方向性を含め、人口における3つの問題(「2025年問題」「2040年問題」「2054年問題」)にどう対処するのか、われわれは改めて考える時期にきていると思われる。

2022年という新年が始まる今、「2025年問題」に対応する時間は3年しかない。この対応はもはや手遅れの可能性が高いが、その先には「2040年問題」や「2054年問題」が待ち構えている。人口減少・少子高齢化の世界的なトップランナーである日本がこの3つの問題をどう乗り切っていくのか、真剣な議論が望まれる。

2021年12月22日掲載

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