新春特別コラム:2022年の日本経済を読む~この国の新しいかたち

脱炭素・SDGs特許をAIで判定、浮かび上がる日本の技術ポテンシャル

長部 喜幸
コンサルティングフェロー

1. 環境課題の解決に向けて

世界各国が脱炭素化社会の実現に向けて舵を切る中、日本政府も2050年カーボンニュートラルの実現を宣言し、社会全体として脱炭素化社会の実現に資する取組が進められている。また、SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットにおいて採択された、脱炭素化と密接に関連する国際目標である。日本政府も全閣僚を構成員とするSDGs推進本部を内閣に設置するなど、産学官をあげて取り組んでいるところである。

これら目標の実現には、エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取組を、産学官が一体となり、大きく加速させることが必要である。また、産業界は、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある一方で、もともと省エネ技術に長けている多くの日本企業にとって、新しい時代をリードしていくチャンスでもある。

これら地球規模の社会課題の解決に向けては、イノベーションに密接に関連する特許情報を整理・俯瞰し、企業の経営層や国の政策・戦略立案者に届けることが重要といえる。しかしながら、特許情報は、その独特の表現や専門的な技術用語で記載されているため、経営層はもちろん一般の人にも馴染みがないと言わざるを得ない。特許情報を専門家ではない人々にも届けるためには、専門性の壁を超えるためのインターフェースが必要と筆者は考えている。

2. 脱炭素・SDGs関連の特許技術を可視化する

脱炭素技術やSDGsはカバーする技術範囲・産業分野が広く、また、通常の特許検索で使用されている特許分類には脱炭素技術やSDGsに係る分類コードが付与されておらず、脱炭素・SDGsに関連する技術を網羅的に捉えることは困難であった。さらに、扱うデータ量が膨大なことから、自然言語処理技術を用いて特許明細書から脱炭素・SDGs関連技術を判定できる手法の開発が望まれていたところである。

日本特許情報機構(Japio)の知財AI研究センターでは、共通特許分類(注1)のY02(気候変動緩和技術)およびY04(スマートグリッド関連技術)に着目し、当該分類が付与されている日本語特許公報を収集した。そして、脱炭素技術に知見のある技術者や特許技術者が、これら公報を目視確認の上、脱炭素技術に関連する適切な公報を選別して質の高い学習コーパス(AIの学習に用いるための、特許文章を大規模に集積した正解データ)を作成した。この学習コーパスを利用して、特許明細書の記載がY02、Y04の技術に包含されるか否かを判定するAIモデル(脱炭素関連技術特許判定AIモデル:Japio/PatentBERT-japanese-decarbonization、以下「PatentBERT-DC」という)を作成した。検証用データで精度を確認したところ、89%の精度が確認されている。

また、詳細は割愛するが、同様の手法により、特許明細書の情報から、特許技術がSDGsのどの目標に該当するかを推定するAIモデル(SDGs関連技術特許判定AIモデル:Japio/PatentBERT-japanese-SDGs、以下「PatentBERT-SDGs」という)も作成した(注2)。

PatentBERT-DCおよびPatentBERT-SDGsを用いた分析結果は、知財AI研究センターのサイトにて発表しているので、ご興味ある方はサイトをご参照いただきたい。

3. 環境技術でプレゼンスを示す日本

PatentBERT-DCを用いて、2019年のPCT国際出願(注3)について、脱炭素関連技術スコアランキング(注4)を作成した。一般的に、企業は海外展開を予定する技術についてPCT国際出願を行う傾向にある。また、特許ファミリー数の大きさや特許保護の地理的範囲が、特許の価値に関連するという研究は多々存在する(注5注6)。したがって、PCT国際出願は、企業が重要視している特許技術、価値の高い特許技術を示す指標となりえる。なお、対象を2019年に出願された特許に絞った理由は、通常、特許出願は出願日から1年6月経たないと公開されないため、解析時点で全ての出願が公開されているであろう2019年を選択した。

脱炭素関連技術スコアランキングを、出願人国籍別について示す(表1)。なお、ここでいう出願人国籍は、第一出願人の居住国のことをいう。また、同様にPatentBERT-SDGsを用いて、SDGs関連特許出願のスコアを国別に集計し、ランキングを作成した(表2)。ここでは、環境に関連性の高い目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)と目標13(気候変動に具体的な対策を)に着目して紹介する。

表1 脱炭素関連技術スコア・各国ランキング(2019年、PCT国際出願)
出願国 出願件数(順位) スコア
1 日本 52693(3) 15866.9
2 中国 59193(1) 13331.5
3 アメリカ 57499(2) 13127.5
4 ドイツ 19358(5) 7346.9
5 韓国 19073(4) 5539.8
6 フランス 7906(6) 2886.7
7 イギリス 5773(7) 1281.3
8 オランダ 4055(10) 1111.6
9 スウェーデン 4202(9) 1097.5
10 スイス 4627(8) 945.6
表2 SDGs関連特許出願・各国ランキング(2019年、PCT国際出願)
出願国 出願件数(順位) 目標7スコア(順位) 目標13スコア(順位)
1 日本 52693(3) 7490.7(1) 5431.2(1)
2 中国 59193(1) 5961.6(2) 3004.4(3)
3 アメリカ 57499(2) 5868.2(3) 4948.4(2)
4 ドイツ 19358(5) 4052.5(4) 2295.6(4)
5 韓国 19073(4) 2580.8(5) 1436.2(5)
6 フランス 7906(6) 1181.1(6) 1076.5(6)
7 イギリス 5773(7) 694.3(7) 607.3(7)
8 スイス 4627(8) 544.5(8) 505.1(9)
9 オランダ 4055(10) 456.6(9) 520.2(8)
10 イタリア 3278(11) 363.6(10) 389.8(10)

日本は、出願件数では中国および米国に次いで3位であるが、表1から、脱炭素関連技術については最も多くPCT国際出願を行っていることがわかる。また、表2から、SDGsの目標7および目標13の観点でも、日本は、最も多くのSDGs関連特許出願を行っていることがわかる。

以上のとおり、脱炭素および環境に関連するSDGs目標の分析から、日本企業は環境保護に関連する技術開発・特許出願に長けており、2050年カーボンニュートラルをはじめとする世界規模の環境保護のために、日本企業が貢献できるポテンシャルは多いにある。

SDGsは2030年までの国際開発目標であり、カーボンニュートラル宣言の「2013年度比、46%削減」目標も2030年度に達成する目標として設定している。2030年まであと8年であり、目標の達成には、新たな技術開発を開始するのはもちろんのこと、現時点で存在する技術も有効に活用してゆく必要がある。そのためには、どの技術がどこにあるのかを把握しなければならない。今回紹介した、脱炭素・SDGs関連技術の可視化は、2030年度に向けた国や企業の政策・戦略立案に必須の客観的エビデンスを提供するものである。

脚注
  1. ^ Cooperative Patent Classification (CPC):国際特許分類(IPC)を拡張したもので、欧州特許庁と米国特許商標庁が共同で管理している。
  2. ^ 前原義明,久々宇篤志, 長部喜幸,特許ドメイン特化型BERTによるSDGs関連特許技術の「見える化」,情報処理学会 第249回自然言語処理研究会,2021年7月
  3. ^ 特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願。ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える。「国際特許出願」とも呼ばれる。
  4. ^ AIモデルによる技術推定を行うと、脱炭素やSDGsのラベルとともに推定値が算出される。推定値は0から1の値をとり、1に近づくほど推定の確からしさが上がる。各PCT国際出願の推定値の積上げを各国の「スコア」として算出した。
  5. ^ Harhoff, D., F. M. Scherer, and K. Vopel (2003), "Citations, Family Size, Opposition and the Value of Patent Rights", Research Policy, 32(8): 1343-1363.
  6. ^ Lanjouw J. O., A. Pakes, and J. Putnam (1998), "How to Count Patents and Value Intellectual Property: The Uses of Patent Renewal and Application Data", Journal of Industrial Economics, 46(4): 405-432.

2021年12月22日掲載

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