新春特別コラム:2021年の日本経済を読む〜コロナ危機を日本経済再生のチャンスに

日本の魅力は最下位?

清田 耕造
リサーチアソシエイト

目を疑うような結果

通学中LINEで連絡を取りあう大学生。スターバックスでiPhoneを見つめる会社員。ティファニーで結婚指輪を探すカップル。西友でお買い物をするお母さん...新型コロナウイルスの感染拡大により外出の機会は減っているものの、これまで目にしたことのある光景だろう。これらに共通しているのは、サービスの提供者がいずれも外資系企業という点である。外資系企業のサービスは私たちの日常にすっかり溶け込んでいる。

国連の組織の一つである国連貿易開発会議(UNCTAD)の発表によれば、2019年、日本のGDPに占める対内直接投資額(ストック)は4.4%であり、世界201カ国中最下位の201位だった(UNCTAD, 2020)。対内直接投資とは外資系企業による投資を意味しており、この比率が最下位ということは、日本は外資系企業のプレゼンスが世界で最も低い国であることを意味している。この結果は、経済の規模を考慮すると、外資系企業にとって、日本は世界で最も閉鎖的な国、あるいは最も魅力のない国であることを示唆している。もちろん、この比率が高ければ良いというものではない。また、日本企業が十分な製品・サービスを提供できていると言えるのかもしれない。しかし、最下位というのはいくら何でも低すぎだろう。ちなみに、200位は北朝鮮だ。目を疑いたくなるような結果である (注1)。

ファクターX(エックス)

対内直接投資、すなわち外資系企業の参入には雇用の維持や拡大、技術・ノウハウの波及、新しい製品・サービスの提供など数多くのメリットがあることが知られている。もちろん、外資系企業の参入により競争の激化など、懸念すべき点がないわけではない。しかし、一般に、対内直接投資のメリットはデメリットを上回ると考えられており、多くの国は外資系企業の誘致に積極的である。日本も例外ではなく、前政権、そして現政権においても、対日直接投資拡の拡大が重要な政策課題のひとつとして位置づけられてきた。これまでにも、規制緩和や法人税の引き下げなどビジネス環境の改善のためさまざまな取り組みが行われてきており、対日直接投資は2012年末の17.8兆円から2019年末には33.9兆円とほぼ倍増した。これまでの取り組みそれ自体は評価されるべきだが、それでも最下位にとどまってしまっている。

なぜ対日直接投資はここまで極端に少ないのだろうか。この疑問に答えるため、これまでに数多くの研究が行われてきたが、その理由を突き止めるまでには至っていない。経済の規模や所得水準だけでなく、地理的な要因、言語の違い、各国間の歴史的な関係などを考慮しても、対日直接投資の低さは説明できない。日本固有の何らかの要因が働いていることは確かだが、それが何なのかは解明されておらず、いわゆる「ファクターX」のままとなっている。

ただし、全く何も手がかりがないわけではない。例えば、世界全体の直接投資の傾向を見れば、創業環境が良好な国ほど、対内直接投資が多い傾向にあることが確認されている(Hoshi and Kiyota, 2019)。そして、世界銀行のビジネス環境調査によれば、日本の創業環境は世界の平均以下である(World Bank, 2020)。現在、政府は法人設立手続きの簡素化に向けた取り組みを進めており、2021年2月には法人設立における全手続きがオンライン化・ワンストップ化で可能になる予定である。このような取り組みが実際に機能し、そしてそれが世界に認知されれば、海外から日本への投資は拡大する可能性がある。また、熟練労働と資本のフローの国際的な移動には正の相関が確認されている(Jayet and Marchal, 2016)。このため、高度外国人材の受け入れが進めば対日直接投資も拡大するかもしれない。もちろん、諸外国も同様にビジネス環境の改善に力を注いでいるため、これらの取り組みだけで対日直接投資が爆発的に増えるとは考えにくいが、日本のビジネス環境の魅力を高める上での重要なステップになりうる。

ポスト・コロナを見据えて

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界の直接投資は落ち込んでおり、2020年下半期は前年同期比30%以上の下落が予想されている(OECD, 2020)。しかし、新型コロナウイルスの流行が収まれば、世界の直接投資もまた活発になるだろう。少子高齢化が進む我が国において、国内だけで成長の展望を描くのは難しい。外資系企業の誘致を進めることは、海外経済の活力を取り込む助けとなる。政策的には、ポスト・コロナを見据えて、中央政府と地方自治体の連携を深めつつ、現在の取り組みを着実に進めること、また、その取り組みを世界に広く知ってもらうことが重要になるだろう。国際金融都市の確立を目指すなら、さらに大胆な目標設定が必要になる。並行して、研究者自身も、対日直接投資拡大のための処方箋を提示すべく「ファクターX」の解明を進める必要がある。

世界には、私たちの知らない優れた技術や素晴らしいサービスがまだあるかもしれない。外資系企業の参入を通じてそれらが日本に入ってくれば、私たちの生活はより豊かなものになるだろう。新型コロナウイルス感染拡大以前は、規制緩和もあり、訪日外国人が増加した。訪日外国人の急増により問題も生じたが、全体として見れば日本経済の成長の一助を担い、また観光地としての日本の魅力を世界に伝えることにつながった。ポスト・コロナの時代は、日本に来る外国「人」だけでなく外国「企業」にも視野を広げることで、私たちの暮らしがより充実したものになり、日本の新たな魅力の発信につながることを期待したい。

脚注
  1. ^ なお、UNCTADの発表した数値と内閣府の発表した数値には乖離があり、内閣府の発表では、対日投資残高・GDP比率は2019年末時点で6.1%となっている(内閣府対日直接投資推進室, 2020)。この数値をもとにすれば日本は最下位から脱するが、それでも198位と、世界的に見て低いことに変わりはない。
参考文献
  • 内閣府対日直接投資推進室(2020a)「対日直接投資の現状と今後の進め方」,令和2年10月26日,対日直接投資促進のための中長期戦略検討ワーキング・グループ第一回会議資料(資料3).
  • Hoshi, Takeo and Kozo Kiyota (2019) "Potential for Inward Foreign Direct Investment in Japan," Journal of the Japanese and International Economies, 52: 32-52.
  • Jayet, Hubert and Lea Marcel (2016) "Migration and FDI: Reconciling the Standard Trade Theory with Empirical Evidence," Economic Modeling, 59: 46-66.
  • Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (2020) "Foreign Direct Investment Flows in the Time of COVID-19," OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19), OECD: Paris.
  • United Nations Conference on Trade and Development (UNCTAD) (2020) UNCTAD Stat, Geneva: UNCTAD.
  • World Bank (2020) Doing Business Data, Washington, D.C.: World Bank.

2020年12月24日掲載

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