新春特別コラム:2018年の日本経済を読む

日本の新たな国際収支の天井
~求められるプロセスイノベーションと成長フロンティアの開拓~

中島 厚志 理事長

新春コラムは執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものでは有りません。

回復する世界経済と貿易摩擦の兆し

2017年は世界経済が順調に回復する年となった。堅調な米中経済の寄与が大きいものの、主要国での金融緩和政策継続と世界的な低インフレ・低金利の持続、原油・資源価格の緩やかな上昇も世界経済の成長を下支えした大きな要因である。多くの新興国は資源国であり、石油・資源価格の持ち直しは景気回復に大きなプラス材料となった。

また、ハイテク製品が大きく伸びていることも明るい材料である。世界の半導体販売高や日本のロボット出荷額は過去最高を更新して急伸している。新型スマホの発売などに加えて、自動車などの電子化とIT化の急速な進展が背景にある。

この傾向は2018年にかけても続くように見える。主要国での緩和気味の金融政策は継続する見込みで低金利は持続しよう。また、地政学リスクはあるも、緩やかな世界経済成長を背景に原油・資源価格も安定した推移が見込まれる。ハイテク製品への需要も、AI時代を迎える中でIoTやロボットなど一段の盛り上がりが期待される。

世界経済の回復とともに新興国の輸出も伸びている(図表1)。新興国にとって、対先進国向けの輸出伸長は経済成長の大きな原動力であり、その伸長は先進国と新興国双方ともに経済が回復していることを示している。

図表1:世界の名目経済成長率と輸出増減率
図表1:世界の名目経済成長率と輸出増減率
(注)名目, 前年同期比
(出所)IMF, Oxford Economics

いまのところ、2000年代初めの10年間で急上昇した世界貿易に占める新興国の割合の減少傾向は止まっていない(図表2)。しかし、図表1にみられるように、2017年第2四半期以降新興国の輸出は2年半ぶりに先進国の輸出増加率を上回っており、世界貿易に占める新興国シェアが増加に転じるのも時間の問題となりつつある。

図表2:世界貿易における途上国の割合
図表2:世界貿易における途上国の割合
(出所)IMF

もっとも、新興国の輸出伸長が好ましいばかりとは限らない。先進国に、新興国からの輸入増や対外直接投資の増加などで自国産業が空洞化し、雇用が奪われるとの懸念が増すと、せっかくの新興国経済の回復も不安定化しかねないからである。

米国の為替報告書が監視リスト国に指定した中国、日本、韓国、ドイツとスイスの5カ国を例にとると、いずれの国に対する米国の貿易赤字割合も膨らんでおらず、今のところこの5カ国に対して米国が貿易不均衡の是正を強く求める謂れは乏しいように見える。しかし、不均衡是正の動きを強めかねない兆しがないわけではない。

たとえば、米国の消費財輸入に占める中国の割合は高水準が続くばかりか、ふたたび上昇に転じている(図表3)。当面は大規模減税を旨とする税制改革が成立しており、米国がすぐに景気後退に陥るようには見えないが、景気が減速する事態となれば生産の米国内回帰や人民元高の要求などが強まることになりかねず、油断はできない。

図表3:米国の消費財輸入に占める中国の割合
図表3:米国の消費財輸入に占める中国の割合
(注)消費財は除く食品・自動車。対中輸入割合は米国の消費財輸入に占める対中輸入の割合で4四半期移動平均
(出所)米BEA

新「国際収支の天井」の克服が日本の課題

米国の基準からみれば、日本の国際収支も警戒水域にある。経常収支黒字の対GDP比が中国以外では一番低く、米国の対日赤字が安定した推移となっている点は安心材料ながら、2017年以降の日本の経常収支黒字は、米国為替報告書が名指しする5カ国の中で唯一増加基調にある(図表4)。

図表4:経常収支/GDPの推移
図表4:経常収支/GDPの推移
(注)季節調整済
(出所)各国統計

ちなみに、日米貿易摩擦が深刻化していた90年代前半の円高相場にどの位の貿易摩擦要因が内在していたかを計量すると30円弱となり、驚くほど大きな結果が得られる(図表5)。もちろん、当時と現在では日米を取り巻く経済環境が異なっており、経済・貿易摩擦の度合いによっても為替相場への影響は大きく異なるのは当然である。しかし、円相場が貿易摩擦に敏感なことは心得ておく必要があろう。

図表5:ドル円相場:貿易摩擦持続の場合の推計
図表5:ドル円相場:貿易摩擦持続の場合の推計
(注)説明変数は円ドル金利、原油価格、日米株価、日本の貿易収支、米国の対日貿易収支、貿易摩擦ダミー。
(出所)財務省、日銀、日経、米エネルギー省、米Census Bureau、Dow Jones、Thomson Reuters

現状の先進国経済は総じて好調であり、新興国の輸出増に対しても保護主義の一層の広がりはあまり見られない。しかし、契機となりうる動きがいくつか見られる点を勘案すれば、日本としても安心はできない。

経済・貿易摩擦の広がりを防ぐには、基本的には国際収支余剰の減少や為替相場の安定が肝要であろう。それは、日本にとっては、世界経済や他国の経済成長に依存する成長から、人手不足もバネとして内需にウエイトを置いた経済成長を志向していくことに他ならない。

もちろん、人口減少で市場は飽和しており、内需中心に成長することは容易ではなくなっている。しかし、米国や中国では技術革新を背景として、自動車や宿泊場所などを貸し出すシェアリングエコノミーやスマホでのキャッシュレス決済といった新たなビジネスモデルやサービスが続々と登場し、広がっている。まさに、大きなイノベーションを構成するプロセスイノベーションが起きているということであり、全く新しい需要の創出は新たな成長フロンティアの開拓にもつながっている。

現在の日本経済の回復は17年12月まで持続していると見られるが、そうであれば61か月連続の景気拡張となる。これは、73カ月間の「いざなみ景気」(02年2月〜08年2月)に次ぐ戦後2番目の長さであり、2018年も続くとの見方が多い。

しかし、そこには国際収支の新たな天井が控えていることを認識する必要がある。それは、かつてのように不足する外貨が経済成長の天井を画することではない。逆に、対米国を中心に輸出や対外直接投資などでの国際収支余剰が一定の範囲を超えて大きくなりすぎると、貿易摩擦や自国通貨高を通じて経済成長を抑制しかねない事態である。

2018年の日本経済の成長は、この新たな国際収支の天井による限界にどう向き合い、突破するかに掛かっている。そして、その方向は企業の賃金増が消費の拡大を招く内需主導型経済成長を実現することにあり、国内でプロセスイノベーションを促進させて成長フロンティアの開拓と成長を実現することにある。

2018年1月4日掲載

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