新春特別コラム:2018年の日本経済を読む

人口減少を乗り切るための「地方庁」構想

小黒 一正 コンサルティングフェロー

新春コラムは執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものでは有りません。

1.転換する政治の役割

2018年は、明治維新(1868年)から150年目の節目の年である。維新で国の統治体制は大きく変わった。現在の「都道府県」制が完成したのは戦後だが、1869年の版籍奉還から数年後の1871年において「廃藩置県」が実行され、その原型が形成されたのは明治期である。つい最近まで日本の人口は増加し、政治の役割は「正の分配」であったが、人口減少や少子高齢化が進み、政治の役割は「負の分配」に転換した。 にもかかわらず、それに対応できない政治が機能不全に陥りつつあり、閉塞感に包まれる現状において、道州制を含む地方分権が政治的な調整コストの分散化や改革の原動力となると、筆者は考え始めている。

そこで、やや大胆な試みだが、その鍵を握るのが(広域地方計画を含む)国土形成計画やその基盤となる「地方庁」(仮称)の創設であるとし、その提言の概要を説明する(詳細は、小黒(2017)「道州制を含む地方分権に向けた国土形成計画の新たな役割と『地方庁』構想」『土地総合研究』第25巻4号, pp3-9を参照)。

経済のグローバル化や人口減少・少子高齢化が進む中、日本が直面している課題としては、急速に進む「人口減少」、空間的な側面での「地方消滅」、社会保障費の急増や財政赤字の恒常化に伴う「財政問題」の3つがある。従来型の政治の役割は、格差に配慮しつつ、成長と分配の狭間で、その「重心」を探すことにあったが、人口減少で低成長の時代に突入して以降、政治の役割は「正の分配から負の分配」に急速に変わりつつあるものの、それに対応できない政治は機能不全に陥りつつある。

この理由は何か。まず、経済の中核を担う市場は「効率性」を得意な領域とするが、政治や行政は「公平性」を得意な領域とする。たとえば、人口増の経済では、都市が過密となってスプロール化しても、新たに発生した課題や利害調整を地域経済の果実で局所的に対応することができるが、人口減の経済では、低成長で分配の原資も枯渇しつつあり、そのような部分最適のアプローチでの解決は難しい。また、人口増で高成長の時代では、効率性の視点から、国民所得倍増計画で太平洋ベルト地帯構想を中心とする産業の適正配置を促進する一方、成長で増えた富の一部を分配の原資に利用し、公平性の視点から、全国総合開発計画で後進地域に対する投資を重視する政治的な姿勢を示すことができたが、人口減で低成長の状況では難しい。

すなわち、「公平性vs効率性」の視点でいうならば、人口増の経済では、政治や行政は「公平性」を優先した政策や解決策を模索できる。ところが、人口減の経済では、部分最適が難しいため、全体最適のアプローチで柔軟な発想とスピード感をもち選択と集中を行いながら、「効率性」に重点を置いた政策や解決策が要求される。

「公平性」は政治や行政が得意な領域だが、「効率性」は政治や行政が最も不得意な領域であり、硬直した「議会制民主主義」にあっては、喫緊の課題が生じても利害調整に手間取り、結局、「改革先送り」となる傾向が強くなってしまう。人口減の経済はそのリスクをまともに被るだけに改革が足踏みする。政治や行政が中長期的な視野で、効率性を追求できる仕組みが求められる。

しかも、人口増で高成長の時代では、たとえば政策決定過程における視野が短期的などの原因でミスが起こっても、資源配分の失敗を取り戻す余力があるが、人口減で低成長の時代では政策決定のミスが致命的となる可能性が高まる。その代表が現下の厳しい財政である。理論的に公的債務残高(対GDP)は金利と成長率の大小関係などで決まるが、社会保障費の急増や恒常化する財政赤字により、200%超にも及ぶ公的債務残高(対GDP)は今後も膨張する見込みである。

2.地方分権と国土形成計画の新たな役割

では、我々はどう対処すればよいのか。そのヒントは過去の政策議論の中に既に存在しており、選択と集中を行うための枠組みを構築、すなわち、道州制を含む地方分権を一段と強化するしかない。制度改革を実施すれば全てが上手くいくというのは幻想に過ぎない旨の指摘もあるが、中央省庁再編・経済財政諮問会議の創設を含む首相のリーダーシップ機能の強化や選挙制度改革、さまざまな規制改革などが日本の政治の姿を徐々に変えてきたのも事実であり、急速な人口減少や少子高齢化が進む中、集権化と分権化の選別を行い、中央省庁が担う政治的な調整コストの一部を分散化する地方分権が残された大きなテーマであることは事実であろう。

にもかかわらず、地方分権は常に「総論賛成・各論反対」で中途半端なものになってしまう。その理由は、体力の弱い自治体を含め、地方分権の受け皿となる移行スキームや移行組織が存在しないからで、その鍵を握るのが「国土形成計画」「広域地方計画」や「地方庁」(仮称)などではないか、と筆者は考えている。以下、順番に説明しよう。

まず、(広域地方計画を含む)国土形成計画である。空間面での選択と集中という視点では、たとえば、「コンパクトシティ」「ネットワーク」という試みが存在する。この試みは、国土交通省「国土のグランドデザイン2050」に既に盛り込まれており、「地方都市においては、地域の活力を維持するとともに、医療・福祉・商業等の生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるよう、地域公共交通と連携して、コンパクトなまちづくりを進めることが重要」だと記載されている。すなわち、「コンパクトシティ+ネットワーク」構想である。

もっとも、この構想は「地方中枢拠点都市圏構想」や「集約的都市構造化戦略」などとも絡むが、集約エリアの指定プロセスが不透明であり、他の施策との整合性を欠いているとの指摘も多い。このため、政府は、各省庁の縦割りの排除を眼目に「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍総理、全閣僚参加)を2014年9月に立ち上げた。また、国土交通省は2014年、厚生労働省が進める地域包括ケアを視野に、都市計画で立地適正化計画を導入している。

ただ、人口集約施策の総合調整を強化するには選択と集中を図る選別基準が不可欠であり、国土形成計画法を改正し、「広域地方計画」(複数の都府県に跨る広域ブロック毎に国と都府県などが相互に連携・協力して策定するもの)において、集約エリアの指定や選択と集中の数値目標を定めることも重要である。

かつての国土政策では、全国総合開発計画などによる「国土の均衡ある発展」をスローガンとし、都市から地方への再分配がさまざまな形で実施されてきたが、地域開発主導の法律はその役割を終了し、2005年に国土総合開発法は国土形成計画法に改正された。現在は国土形成計画の「全国計画」(2015年閣議決定)や「広域地方計画」により、数値目標がない形で国土政策(2015年から2025年までの計画)が進められているが、急速に人口減少・超高齢化が進む今こそ、空間選択や時間軸の重要性が増しており、縮減時代の国土政策のあり方が問われている。

すなわち、人口集約施策の総合調整を強化し、集約エリアの指定や選択と集中の数値目標を定めるため、「国土形成計画」や「広域地方計画」を利用する試みが重要となってくる。なお、人口減少により消滅の危機に直面する自治体も多い状況では、全国の隅々までインフラを整備・維持し、フルセットの行政サービスを提供するという発想は捨て、基礎的自治体のスリム化を図りつつ、いまの自治体を念頭にした地方分権一辺倒でなく、道州制への移行も視野に置き、政策によっては中核都市・広域自治体や国に権限を集中させるような試みも重要となってくるはずである。すなわち、分権化と集権化の「重心」を探す必要がある。

3.道州制移行の受け皿としての地方庁

では、「国土形成計画」や「広域地方計画」で、集約エリアの指定や選択と集中の数値目標をどのように定めるのか。その決定や道州制移行の受け皿となる機関が「地方庁」(仮称)である。

筆者の提案では、地方庁は、各エリアの地方自治体のほか、各省庁の地方支分部局も束ねる機関で、企業でいうならば「持ち株会社」のような存在として設置する。道州制への移行も視野として、各エリアに地方庁を新設し、各地方庁にはそのエリアの知事と地方長官から構成される「コミッティー」を設置する。道州制の議論は都道府県の廃止を前提に検討することも多いが、不要な政治的混乱を回避するため、道州制移行で都道府県の廃止は前提にしない。

むしろ地方庁は、いまの「広域地方計画協議会」を拡充・機能強化するもので、各省庁の利害対立を回避するため、地方長官は各省庁の持ち回りとする。その際、地方庁は、中央省庁の内閣府と同様、各エリアにおける各地方自治体や各省庁の政策に関する総合調整を担う機関に位置付ける。このため、地方庁のコミッティーは、国の経済財政諮問会議に相当するものとし、各エリアの知事が様々な提案を行いつつ、それを地方長官が総合調整を行い、取りまとめる形で広域地方計画を定める。

図表
図表
(出所)筆者作成

また、地方庁は「国と地方のどちらの機関なのか」という疑問が呈される可能性があるが、筆者の提案では「各省庁の地方支分部局を束ねる機関」とし、国の機関に位置付けている(もっとも、後述のとおり、それは道州制に移行するまでの暫定的な措置で、最終的には地方の機関とする)。したがって、各省庁の地方支分部局は最終的には内閣(総理大臣や各大臣)の指揮下にある一方、たとえば近畿エリアでは、財務省近畿財務局は財務省と近畿地方庁の両者から指揮されることになり、指揮命令系統が二重になってしまう。

また、農林水産省地方農政局や国土交通省地方整備局が中心に担う公共施設やインフラの整備についても、地方庁が総合調整をすることで効率的な整備が期待できる一方、各地方支分部局が農林水産省・国土交通省と地方庁の両者から指揮されることになる。指揮命令系統が二重となる問題は地方庁の性質上、ほぼ不可避的に発生するものだが、現在の財務局は、財務省と金融庁の両者から指揮されている。すなわち、この問題は地方庁のみに発生する特別な問題ではなく、問題の解決には、(必要があれば)内閣府に各地方庁を指揮する特命担当大臣を設置することも考えられるが、特命担当大臣を設置せずとも、まずは各地方庁を内閣府の外局として位置づけることで対応可能と思われる。

さらに、地方庁を設置せずとも、平成6年の地方自治法等の改正で創設された「広域連合」等で十分に対応できるのではないか旨の疑問もあるかもしれないが、広域連合は、構成団体からの財政的な独立性がなく、責任の所在も不明確で、急速に進む人口減少や少子高齢化を乗り切るために必要となる「選択と集中」を行うための総合的な政策を打ち出すだけの権限や、政策の誘導に必要な財源をもっていない。どうしても部分最適な対応になってしまう。この問題の克服には、地方庁を設置して各エリアの意思決定や政策の一元化を図る必要がある。

その際、広域地方計画は各エリアにおける「骨太方針」のような位置づけに改め、地方庁では、国の予算編成や規制改革などと連携しつつ、各エリアの規制改革や予算編成も同時に方向づけるものとする。そのため、以下のような政策についても推進する。

まず1つは、「地方交付税の分権化」も進める。現在、地方交付税の配分基準は総務省が定めているが、人口減少・少子高齢化のスピードは各エリアで異なり、一律の基準で配分することには限界がある。また、2050年の人口が2010年と比較して半分以下となる地点が、現在の居住地域の約6割を占める状況では、明治維新後に廃藩置県でその原型を形成した「都道府県」という枠組みでも、中長期的に地域経済の活力を維持するのは期待し難しい。このため、地方交付税の一定割合(例:30%)を人口比例などで地方庁に移譲し、各地方庁が独自の配分基準で、各エリア版の地方交付税や広域地方計画に沿った一括交付金などとして、各々のエリア内の地方自治体に配分する仕組みに改める。その際、地方交付税が不交付団体である東京都の人口は、この配分基準から除くのが妥当であると思われる。なお、地方交付税の全てを移譲しない限り、制度上、総務省自治財政局が地方交付税を配分する一方、各地方庁も地方交付税相当を配分することになる。その場合、たとえば近畿地方庁がメリハリのある配分を行っても、総務省自治財政局が(特別交付税等を利用し)その効果を相殺する戦略を実行する可能性もあり、そのような戦略を回避するためには、地方交付税の全てを移譲する必要があるかもしれない。

もう1つは、「規制改革の分権化」も進める。国家戦略特区をはじめ、規制改革に伴う法改正等は中央省庁主導で行っているが、各エリア内しか法的効果が及ばない形式のものについては、地方庁にも規制改革の法改正案を作成・提案する権限を付与し、当該法案は内閣府が地方庁の代理で法令協議を行った上で国会に提出できる仕組みに改める。

ところで、このような取り組みと同時に、権限と財源の都道府県への委譲や移譲の検討を行うため、かつての地方分権改革推進委員会のような組織を新たに設置する必要があるかもしれない。それがない状況で、このような改革を進めても、中央省庁間の代理戦争を地方庁で行う格好になってうまく機能しない恐れや懸念が残るためである。これは中央省庁再編で内閣府等の機能強化を行ったものの、内閣府や内閣官房が十分な調整機能を発揮できず、「ホチキス留め」の役割に留まりがちなのと同様の懸念が存在するためである。また、かつての北海道庁と北海道開発局のような二重行政がより広範な地域で発生してしまう問題も回避しなければならない。このため、地方庁がうまく機能するための環境整備を行う観点から自治体への権限と財源の委譲や移譲も十分に検討・進めていく必要がある。

いずれにせよ、各地方庁は、上記の分権化された地方交付税や規制改革を利用しながら、それと整合的な形となるよう、選択と集中を図る選別基準を含む「広域地方計画」を策定し、それに集約エリアの指定や選択と集中の数値目標を盛り込む。

これが政治的に最も難しいが、国が直接決定するよりも、各エリアの地方庁が決定する方が政治的な調整コストは少なくできるはずである。政治の役割が「正の分配から負の分配」に転換し、たとえば政治が100の「負の分配」を行う必要があるとき、国が直接-100の分配を行うよりも、10の地域(エリア)が-10の分配を行う方が政治的な調整コストは少ない。また、特定のエリアで数値目標が盛り込めないならば、そのエリアが他のエリアとの競争に敗れるだけである。

急速な人口減少・超高齢化がもたらす影響が顕在化し本格化するのはこれからが本番であり、その現実を直視し、果敢に選択と集中をしない限り、日本に未来はない。その鍵を握るのが国土形成計画(広域地方計画を含む)や地方庁(仮称)の創設であり、明治維新から150年目の節目のいまこそ、たとえば2035年頃を目標として、最終的に道州制に移行する政治的なコミットメントを行い、地方庁はその行政府、コミッティーは内閣に相当するものに位置付け、新たに道州議会を設置するシナリオや工程表も同時に定めてはどうか。いま日本の叡智が試されている。

2017年12月27日掲載

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