サーキュラーエコノミーの取り組みとルール作りで日本は世界をリードせよ

田辺 靖雄
コンサルティングフェロー

6月15日、日欧産業協力センター主催で「サーキュラー・エコノミーと資源効率性(CEREP)~成長志向型の資源自律経済戦略とは」と題するウェビナーが開催された。
スピーカー/パネリストは以下の方々である。

筆者はモデレータを務めた。

サーキュラーエコノミー(循環経済)は実は日本でも長い歴史のある概念である。古くは1999年に当時の通商産業省が循環経済ビジョンを発表しており(2020年に改訂されている)2001年には循環型社会基本法が施行されている。しかし、近年EUでの取り組みが注目され話題になることが多く、それに呼応するように日本でも再び関係官民での議論、取り組みが進んでいる。2023年3月には経済産業省で「成長志向型の資源自律経済戦略」と題する文書が策定された。
20230331010-2.pdf(meti.go.jp)
2023年4月のG7気候エネルギー環境大臣会合でもCircular Economy and Resource Efficiency Principles(CEREP)と題する合意文書が採択されている。
Annex002.pdf(meti.go.jp)
そのような中で、今回、日本、EU双方の政策当局者、民間の取り組み者が一堂に会してそれぞれの立場の取り組みを紹介し合い、取り組みをさらに進め高めようとの方向が確認された。また、今後の日本とEUの政策面での協力の方向性も議論され、日EUグリーンアライアンスにふさわしい有意義なウェビナーであった。

各スピーカーからのイニシャルプレゼンテーションのポイントは以下の通りである。

欧州委員会のCiobanu-Dordea 局長からは、主に2020年3月に発表されたCircular Economy Action Plan 2.0に沿ったEUの取り組みについて説明があった。 The EU's new Circular Economy Action Plan is out! | European Circular Economy Stakeholder Platform(europa.eu)
その中で、サーキュラーエコノミーは2010年代からの取り組みの歴史の中で、2019年以来グリーン・ディールの一環に位置付けられていること、その取り組みの特徴としては2軸があるとして、①セクター別の規制変更に取り組み中であること(バッテリー、パッケージング、自動車等に関して規則立法提案がなされている)、②製造業の主たる特徴をサステナビリティ、サーキュラリティ、資源効率にすること(サステナブル製品のためのエコデザイン提案(ESPR: Regulation on Ecodesign for Sustainable Products)等がなされている)等が紹介された。このような取り組みの中でlike-minded partnerである日本に対する期待が強く表明された。

経済産業省の田中課長からは、1999年循環経済ビジョン、2001年の循環型社会基本法以来の主に3R(リデュース、リユース、リサイクル)中心の取り組みの成果(廃棄物の最終処分量:1990年109百万トン→2019年13百万トン)(欧州を上回る取り組み実績)が紹介された。また、今後量から質重視の取り組みが必要になるとして、サーキュラーエコノミーの取り組みによるCO2削減、重要鉱物資源に係る経済安全保障を目指すべきこと、そのために規制対応・標準化、金融、スタートアップ支援等に取り組むことが示された。さらに、サーキュラリティのデザインの標準化、サーキュラーエコノミーのためのデータ互換性等の面での日EU間協力が示唆された。

Policy HubのBauer Directorからは、繊維セクターのサーキュラーエコノミーの取り組み促進のための団体であるPolicy Hubの取り組みが紹介され、今後の課題としてトレーサビリティの確保、中小企業を含めた多様な事業者への考慮、今後の(繊維分野のサーキュラーエコノミーに関する)立法措置の実施(フリーライダーの回避等)が重要になるとの指摘があった。

エアークローゼット天沼社長からは、同社のユニークな事業(レンタルファッションのサブスクリプション)の紹介があり、そのビジネスモデルにおけるICTの重要性に触れつつ、サーキュラーファッションとして、今後海外展開や事業領域拡大による成長を目指すとの意欲表明がなされた。

議論を聴いた上で、筆者のテークアウェイは以下の通りである。

第一に、サーキュラーエコノミーとして目指す方向性はEUも日本も同一である。
サーキュラーエコノミーを目指す背景にある問題意識は、気候危機、資源制約、特に昨今指摘される経済安全保障リスク(サプライチェーン・レジリエンス)であり、それはEU、日本共通である。EUは、特に近くEU議会で採択が予定されるバッテリー規則にみられるように、サプライチェーン・レジリエンスの意識が強い。すなわち、同規則によりグリーントランジションに不可欠なバッテリーの供給を確保するため、重要原材料であるニッケル、コバルト、リチウム等の回収・リサイクル、そしてそれらのリサイクル材の使用を義務付けることで、中国依存のリスクに対応しようとしている。これに対して日本では脱炭素に資するリサイクルという意識が強い。田中課長からは、ヴァージン材とリサイクル材を比較すると、アルミニウムで66%、鉄鋼製品で79%炭素強度が低くなる等のデータが紹介された。いずれにせよ課題認識が共通していることは今後の国際協力、日欧協力にとって重要な基盤である。

第二に、サーキュラーエコノミーの取り組みでの日欧の好対照な面が指摘できる。
日本では1990年代からの法制度に基づく官民関係者の実際の取り組み努力のおかげで、世界でも最高水準の3Rの達成度がある。さらにエアークローゼット社のようにユニークな新ビジネスモデルも成立している。ただし、このような日本の先進性は世界的にはあまり知られていない。
これに対して近年のEUは、サーキュラーエコノミーのコンセプト作りとその世界浸透力に関しては、日本に比して一日の長があると思われる。上記EU側の説明にあるように、EUはサーキュラーエコノミー戦略として矢継ぎ早に分野ごとの法制度化を進めつつあり、これの対外周知努力に余念がない。特に最近は、2022年2月以来ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにロシアのエネルギーへの依存から脱却する方針は確固たるものになり、これに連れてグリーントランジションを進めるために必要なソーラーパネルやバッテリー等の重要原材料をほとんど中国に依存している状況への問題意識が強くなり、この対処としてのサーキュラーという意識が内外に表明されるようになっている。
日本としては大いに日本の高い実績、パフォーマンスを対外的に説明する努力を強化すべきであろう(例えば日本の容器包装リサイクル法は1997年から施行されているが、EUとしての同様の規則提案は2022年11月になされたばかり)。

第三に、サーキュラーエコノミーの実際の取り組みを高度化するためにICTの活用が重要であることが認識され、EUが先んじてこの分野の取り組みを始めているが、ここには日欧協力のポテンシャル、有効性が大いに存在している。
EUの取り組みとして特徴的なのは、デジタル製品パスポート(DPP)である。これは製品のライフサイクルにおける製品情報(環境負荷、循環性、懸念物質等)をデジタル的に製品に付すことで環境性能を高め、また規制順守を進めようとの取り組みで、今後製品ごとに順次データ・アーキテクチャー等の仕組みが制度化されようとしている。EUはさらにこの仕組みを国際的にも広めることを考えている。
日本ではこれまで豊富な3R取り組み実績があり、そのデータも蓄積されているはずである。EUと同様の考え方の基に、これらを有効活用する仕組みを日本でも導入し、そして田中課長の指摘するようにEU等との互換性を持たせ、日本の高いパフォーマンスが世界的に広まることを目指すべきである。 最近経済産業省主導によりOuranosエコシステムという欧州のGaia-Xに相応する企業・産業間データ連携を目指す取り組みが始まった。
我が国のデータ連携に関する取組をOuranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)と命名しました (METI/経済産業省)
これを活用して日EUパートナーシップの下に相互運用が可能なシステム的な取り組みによりサーキュラーエコノミーモデルが世界的に広まることを目指すべきである。

日本は技術で勝ってビジネスで負けると言われることが多い。サーキュラーエコノミー等の社会性・環境性のある事業、取り組みの世界では、取り組みで勝ってルール作りで負けるということにならないようにしなければならない。そのためにも日EUパートナーシップは欠かすことができない。

(文中の各スピーカーのコメントは筆者の理解に基づくものである。)

2023年6月27日掲載

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