コロナ禍とキャッシュレス決済:家計簿アプリデータの活用

小西 葉子
上席研究員

コロナ禍では外出自粛によるオンラインショッピングの増加、実店舗でも感染を恐れた現金授受の回避から、世界的規模でキャッシュレス決済の普及が促進されている。

経済産業省の報告では(注1)、2020年のキャッシュレス決済比率は、支出額ベースで29.7%、2019年と比較して2.9%上昇している。コロナ禍で民間最終消費支出が落ち込む中、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード決済のすべての決済手段において決済金額が伸びた。

本コラムでは、キャッシュレス決済の浸透は、利便性向上やポイント付与に加えて、「非接触による感染予防」という新たな付加価値を有したからだと考える。よって、株式会社Zaim(注2)の決済方法のデータを使って、決済回数ベースのキャッシュレス決済比率を計算し、業態比較を行う。

まず、コロナ禍でマスク等の感染予防品、日用品、食品を購入したスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、ホームセンターのキャッシュレス決済率を観察する。図1は4業態について、各月の家計簿アプリ利用者数を対象として決済回数ベースの決済比率を計算した。グラフの中の数字は、コロナ禍前の2019年1月(左)と直近の2021年12月(右)時点を示す。黄色が現金による決済比率で、薄い青色がクレジットカードによる決済、濃い青色が電子マネーによる決済である。キャッシュレス決済比率はクレジットカードと電子マネーの合計を記載している。4つの買い物場所で2019年1月時点と比較して現金による支払いが減っている。突出しているのがコンビニエンスストアで、72.7%がキャッシュレスによる支払いである(注3)。一方で、その他の3業態では、決済回数の8割以上が現金支払いだった。

図1 非接触決済の増加(買い物場所別:決済回数ベース)
図1 非接触決済の増加(買い物場所別:決済回数ベース)
[ 図を拡大 ]
出所:Zaim社の家計簿アプリデータの集計値より著者作成

次に、図2でカフェ、飲み会、洋服、美容院といったサービス支出におけるキャッシュレス決済比率を観察する。カフェ、飲み会、美容院は来店が必須なので、オンラインショッピングは含まれない。一方、洋服は実店舗販売とオンラインショッピングの両方を含むのが特徴である。いずれも、図1よりもはっきりとキャッシュレス化が進んだことが見て取れる。カフェは、20.1%、美容院が18%、洋服が17.1%、飲み会が11.2%ポイントアップした。洋服への支出はキャッシュレス決済比率が80.7%と突出し、とりわけクレジットカードでの決済が進んでいる。カフェと美容院は4割強がキャッシュレス決済である。一方、飲み会では現金支払いが8割を超えている。

以上より、単価が高い洋服や美容院でクレジットカード、単価が低いカフェやコンビニエンスストアで電子マネーの使用が進んでいることが分かった。

図2 非接触決済の増加(サービス支出別:決済回数ベース)
図2 非接触決済の増加(サービス支出別:決済回数ベース)
[ 図を拡大 ]
出所:Zaim社の家計簿アプリデータの集計値より著者作成

最後に、キャッシュレス化を別の視点で見てみよう。図3は、電子マネーへのチャージとクレジットカード支払額について、2019年1月を基準とした指数の推移を見ている。電子マネーへのチャージは、現金と銀行口座からの引き落としが該当する。2019年から右肩上がりで2021年12月には2.74倍になっている。

クレジットカード引き落としは、実店舗とオンラインショッピングでの購入が対象で、こちらも右肩上がりで1.36倍となっている。留意点は、電子マネーで支払った場合でも決済がクレジットカードにひもづいている場合には、カード決済に計上される場合があることだ。図1と図2で、電子マネーの決済比率が実感より低く、コンビニエンスストアで電子マネーが下がりクレジットカードの決済比率が上がっているのは、この点が理由の1つになる。

図3 電子マネーへのチャージとカード決済の推移(2019年1月=100)
図3 電子マネーへのチャージとカード決済の推移(2019年1月=100)
[ 図を拡大 ]
出所:Zaim社の家計簿アプリデータの集計値より著者作成

買い物場所、サービス別のキャッシュレス決済比率が明らかになり、キャッシュレス支払いがコロナ禍に増えていることが分かった。わが国では、2019年10月の消費税率引き上げに時の需要喚起・平準化政策として、2019年10月から「キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上の観点も含め、消費税率引き上げ後の9カ月間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業。)」が実施された(注4)。本コラムの結果からキャッシュレス・ポイント還元事業の貢献度を計測することは難しいが、コロナ禍でキャッシュレス化が進んだのは、この事業により中小事業所までキャッシュレス決済のインフラが普及していたことによるところが大きい。


※このコラムは、コロナ禍の消費動向を総括した、小西葉子他「コロナ禍での混乱から新たな日常への変化:消費ビッグデータで記録する2年間」RIETI-DP、22-J-006を基に加筆している。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/22j006.html

脚注
  1. ^ 経済産業省「中間整理を踏まえ、令和3年度検討会で議論いただきたい点」、2021年8月27日。
    https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_payment/pdf/2021_001_04_00.pdf
  2. ^ 日々の個人の家計情報が記録されており、記録手法はアプリへの手動入力の他、 レシートの自動読み取りを利用することで、より詳細な購入明細が記録できる。また銀行やクレジットカード、電子マネー、ポイント、通販サイト、証券口座やねんきんネット等ともサービス連携が行え、データの自動反映が可能である。2021年現在で 950 万ダウンロードを超える。
    https://zaim.co.jp/
  3. ^ 経済産業省の「商業動態統計」によると、コンビニエンスストアの2020年の市場規模は、スーパーマーケットの14.8兆円に次ぐ11.6兆円で、日本フランチャイズチェーン協会の「コンビニエンスストア統計調査」の同年結果によると全店ベースで客単価は670円、年間来店客数は 159 億 173 万人と決済回数が多い業態である。
  4. ^ 経済産業省 「キャッシュレス・ポイント還元事業(2019年10月~2020年6月)」
    https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/cashless_payment_promotion_program/index.html

2022年4月1日掲載