新型コロナ対応をめぐるいくつかの提案

木村 もりよ
医師、パブリックヘルス協議会理事長

関沢 洋一
上席研究員

新型コロナウイルスの感染者の急増に伴い、医療逼迫が叫ばれている。この状態がいったんおさまったとしても、年間を通じた総死亡者数が最も多い冬になれば更に深刻な状態が起きることが懸念される。そこで、新型コロナウイルス対応について、来年の春頃までを念頭において、いくつか提案することにした。

1.ボランティアによるワクチン接種を促進する

現状では、医療従事者は、コロナ患者の対応とワクチン接種の対応という2方面での対応を同時に迫られている。このうち、コロナ患者の対応については医療従事者による対応は不可欠であるが、ワクチン接種については、イギリスなどの例を見る限り、医療従事者がすべて行う必要はない。

そこで、集団接種において、問診ボランティアと接種ボランティアという2つのボランティアを設ける。ここでいうボランティアは無給で仕事をするという意味ではなく、医師と看護師以外で問診を行ったり注射をしたりする人々をさす。地方自治体の職員が想定されるが、それには限定されない。こういう人々に一定時間の訓練を受けてもらった後で、問診か接種に有給で携わってもらう。医師は問診も接種も行わず接種会場に1~2名のみ滞在し、ボランティアで対応しきれない場合、たとえば、何らかの疾患があったり苦情があったりした場合、アナフィラキシーが起きた場合などのトラブル対応に特化する。

このような方法の1つの問題として、ボランティアによる接種を怖がって、接種希望者が減ることがある。これを防ぐために、大規模な集団接種の会場において、看護師による接種ラインとボランティアによる接種ラインを分けて、後者による接種を許容した人々に対してのみ、何らかの謝礼(現金や商品券など)を提供するようにする。

現在のところこのようなボランティアによるワクチン接種は違法である(医師法第17条)。そこで、臨時国会を開催して、医師法を改正するか、来年春まで有効な特別法を制定する。

2.医療機関におけるワクチンの個別接種をやめる

日本では集団接種と職域接種以外に医療機関で個別にワクチン接種が行われている。この個別接種は日本医師会からの要望で決まったもので、必ずしも合理性を有さないことが指摘されている[1]。このことは、集団接種や職域接種が順調に進み、医療逼迫が懸念される現状では顕著であり、本来であれば患者対応に携わるべき医師や看護師がワクチン接種に携わるという合理性に欠ける状況になっている。また、医療機関による接種は院内感染のリスクもある。そこで、医療機関における個別接種は一部の例外(すでに1度接種した人の2度目など)を除いてやめて、集団接種と職域接種に一本化する。

3.くじびきでコロナ専用病院を決める

8月23日に田村憲久厚生労働大臣と小池百合子東京都知事が東京都内の全医療機関にコロナ対応を求めた。これ自体は望ましい方向だと思われるが、それぞれの医療機関がコロナ患者を少しずつ受け入れる場合、コロナ以外の患者と動線を分けるのが難しく、院内感染のリスクが高くなることが指摘されている。

そこで、地域ごとに、候補となる病院の中からくじびきでコロナ専用病院を決める。コロナ専用病院からそれ以外の病院に入院患者を転院させ、加えて、もともと入院の必要性が乏しい人々には退院を促す。コロナ専用病院とそれ以外の病院の間で、専門に応じて医療従事者を派遣しあうことにする(呼吸器系の医師をコロナ専用病院以外からコロナ専用病院に派遣して、それ以外の医師をコロナ専用病院からコロナ専用病院以外に派遣するなど)。コロナ専用病院において経営上の不都合が生じないように、最終的には国が資金拠出元となって、地方公共団体や地域の医師会がコロナ専用病院を支援する。

4.定期健康診断とがん検診を延期する

勤労者の定期健康診断と40歳以上のメタボ健診を年に1回行うことが法律上で定められているが、健康診断が重大疾患を予防する効果についてはエビデンスがなく[2]、不要かどうかはともかく、少なくとも不急であるとは言える。がん検診については、喫煙者に対するCTスキャンを除いて、寿命を延ばす効果が認められない[3]。そこで定期健康診断とがん検診については来年の春まで原則として行わないことにする。定期健康診断の延期については法改正が必要かもしれないので、臨時国会で対処する。

5.コロナ診療マニュアルを作成する

今後新型コロナへ診療の中核を担うのは感染症の専門医ではなく、新型コロナについての十分な知見がない開業医などの医療従事者になると思われる。そこで医療従事者向けのわかりやすいコロナ診療マニュアルを作成し、最新の知見が反映されるように頻繁に改定されるようにする。

たとえば、コロナ患者は仰向けで寝かせるよりもうつ伏せの方が望ましいという指摘があり、海外のガイドラインで言及されたり、最近の論文でうつ伏せによる人工呼吸の利用や死亡の低減が報告されたりしているが[4]、日本の治療現場ではまだ広まっていないように思われる。鵜呑みにすることは適当ではないものの、吟味した上でこうした知見をマニュアルに盛り込んでいくことが望まれる。

6.公共交通機関などにおける会話の自粛を国や地方公共団体が求める

公共交通機関における会話は、たとえマスクをしている場合であっても、空気感染を通じて、見知らぬ第三者に感染させる可能性を否定できない。そこで、国や地方公共団体のトップから、公共交通機関など見知らぬ第三者に感染させるリスクがある場所(エレベーターなど)において会話を自粛するように国民に求める。

以上の取り組みの多くは国で一律に決める必要はなく、地方公共団体主導で行えばいいものであるが、法的な制約を取り除いたり巨額の資金を拠出したりするのは国でないとできない。国が制約を取り除いた上で、実際に行うかどうかは、地域の実情に応じて地方公共団体が判断していくことが望まれる。

引用文献
  1. 辰濃哲郎, 日本医師会の病巣にメス. 文藝春秋9月号, 2021.
  2. Krogsbøll, L.T., K.J. Jørgensen, and P.C. Gøtzsche, General health checks in adults for reducing morbidity and mortality from disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2019(1).
  3. Prasad, V., J. Lenzer, and D.H. Newman, Why cancer screening has never been shown to “save lives”—and what we can do about it. BMJ, 2016. 352: p. h6080.
  4. Ehrmann, S., et al., Awake prone positioning for COVID-19 acute hypoxaemic respiratory failure: a randomised, controlled, multinational, open-label meta-trial. The Lancet Respiratory Medicine, 2021.

2021年8月27日掲載

この著者の記事