すでに感染した人々による感染防止対策について

関沢 洋一
上席研究員

新型コロナウイルスは冬に入って感染爆発の危機を迎えることになった。すでに指摘されているとおり、感染しても症状が軽い人々が大部分ではあるので、ICUや人工呼吸器やECMOといった重症者対応の医療が逼迫しないように、重症患者を増やさないことが最も重要なポイントになる。重症になりやすいのは高齢者であることはすでに分かっていて、高齢者を感染からどうやって防ぐかが最大の課題になる。

2つの興味深い研究

この1カ月の間に興味深い研究が2つあった。1つ目は、マスクを着用することの効果について検証したデンマークにおける5000人規模のランダム化比較試験(RCT)で、マスクを着用するように推奨された人々と、推奨されなかった人々を比べたところ、推奨された人々と推奨されなかった人々の間に新型コロナウイルスへの感染についての統計的に有意な差は発見されなかった[1]。マスクの効果としては、①感染した人々がマスクを着用することによって感染を広げない効果と、②感染していない人々がマスクを着用することによって感染者の放出したウイルスを遮断して感染を減らす効果が指摘されるが、②についてはエビデンスが見いだせなかったことになる。①による保護の可能性は否定されていないので、マスクをする必要性は依然として否定されていないし、マスクをすべきだとは個人的には思うが、マスクをすれば感染しないという保証はなく、マスクをすれば大丈夫(人と距離を置かなくていい、換気をしなくていい、たくさんしゃべってもいい)という発想は間違いであることが強く示唆されることになる。

2つ目の興味深い研究は、英国の医療従事者についてのもので、今年の春に行った新型コロナウイルスの抗体検査によって陰性だった11052名と陽性だった1246名を半年間フォローアップしたものだ。春の抗体検査で陰性だった人々においては、フォローアップ期間中に新型コロナウイルスの症状がでてPCR検査も陽性になったのは89名だった(症状がなくてPCR検査で陽性になったのが76名)。これに対して、春の抗体検査で陽性だった人々においては、フォローアップ期間中に症状がでてPCR検査も陽性になった人はいなかった(症状がなくてPCR検査で陽性になったのが3名)[2]。いったん感染して回復した人々が再感染しにくいということは仮説としてはすでに言われていたが、この研究によって、明確な証拠が示されたことになる。残念ながら、この研究はまだ査読を経ていないので、正式な論文として受理されるのを待つ必要が本来はあるのだが、コロナ対策の正念場がこの冬であることを踏まえれば、あまり待ってもいられないだろう。

まとめると、以上の2つの研究は、感染予防を進める上で、マスクだけに依存することは大きなリスクが伴う一方で、すでに感染した人々に協力してもらうことの大切さを示している。

春日局と竹千代の話

江戸時代の初めに、春日局が徳川家光(幼名は竹千代)の乳母になったのはあばた顔だったためという話を読んだことがある[3, 16ページ]。あばた顔というのは天然痘にかかって治ったことの証拠である。天然痘は幸いなことに今は消滅したが、死亡率は極めて高かった。その一方で、いったんかかって治れば、二度とかかることがないし人にうつすこともない。そこで、将軍家の跡継ぎが天然痘にかかるリスクを減らすために、天然痘から回復した春日局が乳母に選ばれたという。

以下のパターン0がこれを示している。家来が竹千代に直接接触しないようにして、春日局だけが竹千代に接触するようにすれば、春日局が天然痘のウイルスを保有している人々に接しても、春日局が感染しないために、竹千代も感染しないことになる。実際には徳川家光は天然痘に感染したのだが、大人になった後であった。

パターン0

現代版の春日局作戦

以下では現代版の春日局作戦を考える。パターン1は、老人ホームなどで、1人の高齢者に対して複数の介護者が接する場合である。この場合は、仮にマスクの感染予防効果が限定的であれば、複数の介護者の誰かが感染していれば(感染者は●で表示)、高齢者にうつるリスクは高くなる。

パターン1

パターン2は、高齢者に直接接触する人を1人にした場合である。例えば、食事を作る人と食事を運ぶ人に分けて、食事を作る人は高齢者に接触しないようにする場合である。この場合は、高齢者に直接接触する人が少なくなるので、高齢者が感染するリスクは減るが、リスクは依然として残る(オレンジ色の点線)。

パターン2

パターン3は現代版の春日局作戦と言うべきもので、すでに新型コロナウイルスに感染して回復した人(がついている人)だけが高齢者と接するようにしたために、高齢者の感染リスクは大きく下がる。感染リスクがあるとすれば、すでに感染した人がまれに再感染する場合、高齢者が誰か別の人に接触した場合、感染者が触ったものに触れる場合など、限定的になる。

パターン3

以上は老人ホームを念頭に置いて考えたが、幅広い応用が可能である。例えば、3世代世帯で、家の中に高齢者がいる場合で、たまたまその家で既感染者(回復者)がいれば、その人に当面の間は高齢者との接点になってもらう。外食産業であれば、顧客との接点を既感染者(回復者)に担ってもらう。より一般化すれば、多くの人々に接する役割、特に高齢者に接する役割を担う仕事を、既感染者(回復者)に優先的に受け持ってもらうことになる。

おわりに

現代版の春日局作戦は、シールド免疫[4]や免疫パスポート[5]という名前で議論されている。ただ、海外でも実行に移されているという話はあまり聞かないので、何か問題があるのかもしれない。とはいえ、速やかな検討に値する話だとは思う。

現代版の春日局作戦は、国が中心になって行わなくても、地方公共団体や企業のイニシアティブ、既感染者によるボランティア活動、高齢者施設や家庭内での工夫によって実現可能である。必要なのは、誰がすでに感染したかを明らかにすること(過去に感染したかどうかを調べる抗体検査や、今感染しているかどうかを調べるPCR検査を多くの人々に実施すること)と、すでに感染した人々を募って雇うお金、さらなるエビデンスの蓄積、ということになる。

引用文献
  1. Bundgaard, H., et al., Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers : A Randomized Controlled Trial. Ann Intern Med, 2020.
  2. Lumley, S.F., et al., Antibodies to SARS-CoV-2 are associated with protection against reinfection. medRxiv, 2020: p. 2020.11.18.20234369.
  3. 東京大学医学部・医学部附属病院. 感染症への挑戦:健康と医学の博物館第1回企画展. 2011; Available from: https://mhm.m.u-tokyo.ac.jp/pdf/MHM_Catalog01.pdf.
  4. Weitz, J.S., et al., Modeling shield immunity to reduce COVID-19 epidemic spread. Nature Medicine, 2020.
  5. Phelan, A.L., COVID-19 immunity passports and vaccination certificates: scientific, equitable, and legal challenges. Lancet, 2020.

2020年12月3日掲載