日本における IT 投資が米国と比較して経済成長や生産性の上昇に大きく寄与していない。特に日本はIT利用産業において顕著にIT投資が遅れている。代表的なIT利用産業である流通業での IT 投資の動向をみると、米国では IT 投資・付加価値比率が 1991年以降急増しているのに対して、日本は1991年以降において、ほぼ横這いで推移している(Fukao et al., 2016)。
それではなぜ、IT利用が進まないのか。これも経営管理・人事管理の手法に問題がある可能性が高い。国際 IT 財団による「IT活用に関する企業研究」(2015年5月)によると、国内企業(615社)を対象にIT活用の実態と効果についてアンケート調査を行ったところ、IT活用上の目下の課題として「IT専門人材が不足している」、「IT部門とのコミュニケーションができる人材が不足している」の2つが最も重要な要因として挙げられたとされている。博士号取得者と同様、IT専門人材の確保・活用に失敗していることが、企業がITの導入に躊躇する原因であると推察される。
深刻な労働不足に直面している状況下で、今後も労働確保が難しいIT化の推進等に生産性の向上が強く求められている。乾ほか(2019)では、介護サービス供給者の中の介護保険施設サービス、中でもその主導的地位にある特別養護老人ホームの経営管理とそのパフォーマンスの関係を検証した。欧米の先行研究においても、経営管理の優れた事業者は労働生産性やサービスの質が高いことを見いだしている(Bender et al., 2018; Bloom et al., 2015)。先行研究をベースにしながら日本の運営実態に即した調査項目に変更(追加や削除)した経営管理・人事管理に関するアンケート調査を、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に立地する特別養護老人ホーム事業所を対象に実施した。その結果を使用して各老人ホームの経営管理・人事管理の水準を1点から4点の点数化(マネジメント・スコア)を行った。なお、点数が高いほど、経営管理・人事管理の水準が高いことを示す。
Bender, Stefan, Nicholas Bloom, David Card, John Van Reenen, and Stefanie Wolter (2018) "Management Practices, Workforce Selection, and Productivity." Journal of Labor Economics, 36, no. S1, pp. S371-S409.
Bloom, Nicholas, Renata Lemos, Raffaella Sadun, and John Van Reenen (2015) "Does Management matter in Schools?" Economic Journal 125, pp.647-674.
Fukao, Kyoji, Kenta Ikeuchi, Young Gak Kim, and Hyeong Ug Kwon (2016) "Why was Japan left behind in the ICT Revolution?," Telecommunications Policy, 40(5), 432-449.