まだまだ続くインバウンドブーム:OECD諸国内で2位の成長率
ここ数年、日本に訪れる外国人観光客数が毎年過去最高記録を更新しながら増えている。彼らが日本を訪れてくれるようになった理由には過去コラム小西(2016, [1])で指摘したように、観光プロモーション、ビザ緩和、交通インフラ整備などの日本が努力できる部分と、円安、原油価格安、他国の経済成長などの観光にとってラッキーな外的要因に依るところが大きい。まず世界の中での日本のインバウンド観光の現状を把握するためにWorld Bank Open Data(2018, [2])のデータを用いて近年の国際比較を行ってみる。図1はOECD36カ国の2010年のインバウンド者数を大きい順に並べたものである。日本は約860万人で17位であった。上位はフランス、米国、スペイン、イタリアと欧米諸国になっている。図2は2010年~2016年のインバウンド観光客数の年平均成長率(Compound Average Growth Rate, CAGR)を計算し、高い順に並べている。日本はアイスランドに次ぐ2位で成長率は約19%、人数は2400万人と大きく成長している。2つの図から、世界全体でみて、2010年時点でインバウンド観光客数が少なかった国が大きく成長していることがわかる。最新のJNTO(2019, [3])の調査結果では、2018年の訪日旅行者数は、約3,119万人であり2016年以降も成長していることがわかる。外国人旅行者はどこに滞在しているのだろうか?
観光地の魅力って固定的なの?:滞在先ランキングからの考察
もしも観光地としての各地域の魅力が季候、地理的特性、文化など長期間かけて複合的に形成されて、それらの評価が絶対的であるならば、観光地人気ランキングは固定的で変化が少ないだろう。図3は国土交通省の「宿泊旅行統計調査」の日本人旅行者と外国人旅行者の都道府県別の滞在者数を大きい順に上位15位まで並べたランキングである。この人気ランキングの変動をBatty(2006, [4])のランククロックで描画した。上位15位の構成要素が変化なくその順位も変動がない場合は同心円状になり、各円の色は1色ずつになる。中心の円が1位を表し外に向かって順位が進み、年は12時からスタートし時計方向に進み、12時の位置で2011年と2017年の比較ができる。日本人旅行者については、期間中6位までは各年単一色の同心円であった。また、2014年以降は後半の順位も同様である。一方、外国人旅行者は1位の東京都、2位の大阪府は同心円を描いたが、その他は交差が多く順位変動が盛んであった。また15位圏内への出入りも多いため円が途切れているのも目立つ。
日本人の国内旅行の滞在先は期間中の順位変動が少なく安定的であり、日本人にとっての行き先や人気は固定的である。対して、外国人旅行者の結果は、各地域の魅力が相対的で、短期的にも変動することを示している。
つまり、旅行者の嗜好は変化するし、地域による受け入れ側の努力も観光地としての人気に影響する余地があるということである。両者の滞在地域の違いは、日本人は東北、北関東に訪れているが、九州地方は福岡県と沖縄県のみが15位に入っているのに対して、外国人旅行者の滞在先は東北、北関東はなく、九州地方は宮崎県と鹿児島県以外が含まれている。
インバウンド旅行の成長株はどこだろう?
小西・西山(2019, [5])によると、期間中の年平均成長率は、日本人旅行者は0.11%で順位変動(図3)だけでなく、規模の変動もほとんどないことがわかる。一方、外国人旅行者は年率約25.2%で成長している。実際、どこが成長しているのかを見てみよう。表1はインバウンド旅行者の延べ宿泊者数の年平均成長率(2011年-2017年)についてまとめたものである。1位から順に香川県、佐賀県、奈良県、青森県、鹿児島県となっている。これらの地域は読者の方にとって日本の観光地として馴染みが薄いと思う。それもそのはずで、日本人旅行者の平均成長率は香川県、佐賀県、青森県はマイナス成長、プラスの奈良県と鹿児島県も1%以下である。また滞在者数の順位の推移も、鹿児島県以外は順位が下がっておりその順位もした1位から3位は下位に位置している。端的に言えば日本人があまり滞在していない地域である。それに対して、インバウンド旅行者の人数の順位変化は1位から4位まで平均で10位以上ランクアップしている。これらの地域の取組みの一部であるが、香川県は2年に一度「瀬戸内国際芸術祭」を開催し、県の観光HPの多言語化も進んでいる。佐賀県や青森県は海外の人気映画やドラマのロケ地となっている。現状インバウンド旅行者の4割は関西地方を訪れるため、奈良県はその需要を獲得している。鹿児島県は屋久島や温泉といった観光資源に恵まれており外国人、日本人にとって順位が同じであった。
インバウンド旅行者 成長率ランキング |
都道府県 | インバウンド旅行者 | 日本人旅行者 | ||
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年平均成長率 | 人数の順位変化 (2011-2017) |
年平均成長率 | 人数の順位変化 (2011-2017) |
||
1位 | 香川県 | 50.2% | 34位→22位 | -0.1% | 39位→42位 |
2位 | 佐賀県 | 48.2% | 35位→25位 | -0.8% | 45位→45位 |
3位 | 奈良県 | 45.4% | 39位→28位 | 0.6% | 46位→47位 |
4位 | 青森県 | 43.5% | 38位→29位 | -0.2% | 30位→28位 |
5位 | 鹿児島県 | 37.4% | 20位→18位 | 1.0% | 20位→18位 |
これから新たな観光地が生まれる楽しみがある
従来、訪日旅行者の滞在先は、ゴールデンルートと呼ばれる関東・関西の大都市に集中してきた。しかしリピーターの増加やSNSなど情報発信ソースの多様化から、もともとあまり観光客が訪れていない地方への分散や旅行客の増加が観察された。また、日本人にとっての「観光地」とは異なる地域に外国人旅行客が増加していることがわかった。もちろん、図3で示したように、日本人に人気のある地域は外国人の人気も高い。実際京都府では、インバウンドブームによる混雑を敬遠して日本人旅行者の足が遠のき、宿泊者数の減少が観察されている(京都新聞2019年3月4日, [6])。観光客が増えることにより最初に観察される負の影響は、混雑である。望ましいのは、日本人観光客が少なく、外国人が魅力を発見して新たな観光地として注目され、滞在先の多様化により混雑が平準化されるようなパターンである。そして、観光地としての整備が進み、その魅力に気づいた日本人も訪れるという好循環が生まれれば、地域の産業構造に観光業が主要業種として加わるようになるだろう。2011年においては、外国人旅行者の延べ宿泊者数の全体に占める割合は5%であったが、2017年には17%と3倍以上に伸びている。このままシェアが上がることで外国人旅行者の選択のインパクトが増え、日本に新たな観光地が生まれ、観光産業が活発な都道府県が増えていき、われわれの旅の選択も広がるならばこんな嬉しいことはない。