人づくり革命に性格スキルの視点を

鶴 光太郎 プログラムディレクター・ファカルティフェロー

昨年の12月8日に政府は「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定した。その中には、現政権の目玉政策である、「人づくり革命」への取り組みも盛り込まれている。今後、更なる検討が行われる予定であろうが、検討項目をみても、各教育段階における「無償化」の文字が躍るばかりで、人づくりの根幹を形成するはずの人的資本、能力、スキルといった言葉がキーワードになっていないことは残念だ。

カギとなる性格スキル

「人生100年時代」でカギとなる能力・スキルは性格スキルであると筆者は考えている。性格スキルについては、心理学、経済学の分野において、学力テストで測れる「認知能力」(以下、認知スキル)に対し、個人的形質に関連し、「非認知能力」と呼ばれてきたものだ(なお、性格スキルについては、以下の議論も含め、2月初刊行予定の拙著(『性格スキル―人生を決める5つの能力』祥伝社)で詳細かつ包括的に論じており、参照されたい)。

性格スキル=非認知能力は、心理学の世界では5つの因子(ビッグ・ファイブ)に分解できることが概ねコンセンサスとなっている。それらが組み合わさって性格が形成されていると考えるわけだ。「開放性」(好奇心、審美眼)、「真面目さ」(目標と規律を持って粘り強くやり抜く資質)、「外向性」(社交性、積極性)、「協調性」(思いやり、やさしさ)、「精神的安定性」(不安や衝動が少ない資質)の5つである。こうしたビッグ・ファイブの人生への影響については、アメリカが中心ではあるがさまざまな実証研究が蓄積されてきている。中でも、「真面目さ」が職業人生に大きな影響を与えることがわかっている。性格スキルに着目するのは、それがどのような職業を選んでも等しく重要な役割を果たすのみならず、成人してからも伸ばすことができることが分かっているからだ。

一方、学力を示す認知スキルは、プロフェッショナルのように複雑な仕事になるほど重要性が増すことがわかっている。興味深いのは、性格スキルはそれ自体、人生のパフォーマンスに好影響を与えるばかりでなく、認知スキルを高める効果もあることだ。つまり、性格スキルを伸ばすことは人生に対して一石二鳥の効果を持ち得るのだ。

学校の成績や学力テストと相関の高い「真面目さ」

たとえば、性格スキルと学校の成績との関係をみてみよう。これまでの研究をまとめたメタ分析では(注1)、やはり、ビッグ・ファイブの中では「真面目さ」とGPA(Grade Point Average、各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値)の相関が圧倒的に高くなっている。この相関は知性とGPAの相関とほぼ同じ程度であった。つまり、「真面目さ」は知性と同じくらい成績に影響する可能性があるのだ。

また、同じ分析で、初等、中等、高等教育に分けてビッグファイブの因子とGPAの相関関係をみているが、初等教育では性格スキルよりも知性とGPAの相関関係が圧倒的に高くなっている。しかしながら、中等、高等教育では知性と成績との相関は半減以下に低下している。一方、「真面目さ」はどの教育段階でも成績との相関の強さは変化しておらず、中等、高等教育段階では知性と同じ程度の相関の強さとなっている。つまり、「真面目さ」と成績との関係は変わらないが、大きくなるにつれて知性との関係は弱くなるのだ。

全国的な規模で行われる共通学力テストについてもこれまでの研究は「真面目さ」に関連するいくつかの側面が学力テストのスコアを予測する上でも重要な要因であることを明らかにしている。ここで興味深いのは、「真面目さ」の影響について、成績と学力テストは異なるということだ。たとえば、教室の中で「真面目さ」結びついているような行動は学力テストのスコアよりも日頃の成績の方により強く影響を与えることを明らかしている分析がある(注2)。

以上をまとめると、性格スキルの中でも「真面目さ」は成績・学力を向上させるためにも重要であることだ。小さい時は頭の良さだけで良い成績が得られたとしても、中学、高校と上級の学校に進むにつれて頭の良さだけではだめで、目標に向かって粘り強くやり抜く「真面目さ」が重要になる。ただ、日頃の成績についてはこつこつ型の「真面目さ」の役割は大きいが共通学力テストに対しては「真面目さ」だけではなかなか通用しない面もあるといえる。いずれにせよ、勉強ができるようになるためにも「真面目さ」を養うことが大切であるのだ。

上記で紹介した分析は、性格スキルの重要性を示す数多くの研究の一例に過ぎないが、リカレント教育も含めたあらゆる教育段階において、性格スキル向上が意識され、それに向けた具体的な取り組みが検討されることを期待したい。

脚注
  1. ^ Poropat, A. (2009) "A Meta-Analysis of the Five-Factor Model of Personality and Academic Performance," Psychological Bulletin 135(2), pp.322-338.
  2. ^ Willingham, W., J. Pollack, and C. Lewis (2002) "Grades and Test Scores: Accounting for Observed Differences," Journal of Educational Measurement 39(1), pp.1-37.

2018年1月18日掲載

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