国境と企業の境界を越えるアウトソーシング
―ミクロ・データによる日本企業の実態把握―

冨浦 英一
ファカルティフェロー

グローバルに展開する企業活動は、貿易や直接投資により国境を越えるだけでなく、アウトソーシングにより企業の境界をも越えるようになっている。本稿では、拙著『アウトソーシングの国際経済学』に基づいて、グローバル貿易の変貌、新・新貿易理論の登場による国際経済学の変革、日本企業のミクロ・データ分析から伺える海外アウトソーシングの影響などについて簡単に述べてみたい。

変貌を遂げたグローバル貿易

グローバル貿易は、近年、大きく変貌してきた。モノの貿易に限定しても、最終製品よりも中間財の割合が上昇している。更に、サービス貿易に視野を広げると、かつては企業の内部で専ら処理されてきた業務がデジタル化されて海外にアウトソーシングされるようになった。こうした国際取引は、海外直接投資により設立された子会社・関連会社との間で、つまり多国籍企業の社内でもはや完結するものではなくなった。国境を越えるだけでなく、企業の境界をも越えるので、その実態把握には、国内か海外かに加え、社内か社外かという視点も求められることになる。東アジアに展開した日本企業が張り巡らした緻密な生産工程の国際フラグメンテーション・ネットワークに沿って活発に行き来する部品や、世紀の切り替え時点の2000年問題を好機として活発化した米国からインドにアウトソーシングされるコンピュータ・プログラミングやコール・センター業務などが、こうした新しい国際分業の好例である。

新・新貿易理論の登場

国際貿易論の研究においては、今世紀に入ってから、同じ産業の中でも企業間に見られる異質性が企業の国際展開に与える影響に注目が集まっている。生産性の高い企業の方が輸出する傾向が強いのは、その主たる例である。海外直接投資をして海外で生産する企業は更に生産性が高い。輸出産業といっても自社の製品を直接輸出している企業はごく一部に限られ海外直接投資している企業は更に少ないことが、多くの国々でミクロデータにより確認された。このため、これまでの産業ベースの国際貿易理論に再考を迫られ、企業レベルへと分析単位が精緻化した。調達・購買側についても、海外直接投資により子会社・関連会社を設立して多国籍企業の社内で輸入する企業、海外の他社から輸入する企業、国内からのみ供給を受ける企業の順に生産性が低いというランキングがあることが理論的に示された。筆者らの研究により、生産性の順位付けに関するこの理論仮説が日本企業のミクロ・データによって実際に直接検証されている。貿易理論は、今世紀初頭において、このように新・新貿易理論の登場という歴史的転換期にあったといえる。

我が国における海外アウトソーシングの実態と影響

しかし、アウトソーシングを通常の統計で正確に把握するには困難が伴う。これまで用いられてきた産業連関表、貿易統計、国際収支統計とも、それぞれ一定の長所もあるが無視できない限界が目に付く。それらの問題に対処すべくRIETIが我々の研究プロジェクトのために独自に実施した企業アンケートによれば、日本の製造業企業のうち海外にアウトソーシングを行っている企業は、製造に限らずサービス業務のアウトソーシングを含めてみても、ごくほんの一部に限られること、日本企業による海外アウトソーシングは中国やASEANなど東アジア域内が中心であることなどが定量的に確認されている。今後は、経済産業省の企業活動基本調査統計による関連したデータの蓄積に期待される。

海外へのアウトソーシングは、日本を含む先進国の企業が、労働集約的な業務、特に単純労働集約的な業務を発展途上国の企業に出すことが中心であることから、先進国にとっては国内雇用への影響が懸念される。伝統的な貿易論におけるように、産業を労働集約型と資本集約型に分けて、先進国は資本集約型産業に比較優位を有し輸出を行うといった単純な議論では済まない。いわゆるハイテク産業であっても、インターネットを通じて遠距離でも業務が遂行できるのであれば海外アウトソーシングによって国内の雇用は発展途上国との競争にさらされるからである。もはやサービスは非貿易財という区分も、単純化としても意味を失った。筆者らのミクロ・データ計量分析によれば、海外にアウトソーシングを行っている企業では、実際に、生産労働従事者の比率が低く、非生産部門の中でも特に高度技能従事者の比率が統計的に有意に高い。非正規雇用比率の高さに表れた雇用のフレキシブル化とともに、国内労働市場への影響を注視すべきであろう。最近の円安や中国沿海部における賃金高騰により海外移転の流れに限界が近付いたようにも見えるが、コンピュータの一段の進歩、特に機械学習の発達により海外アウトソーシング可能な業務の範囲が一層拡張する予兆も近年見られることから、先行きには慎重な注意が求められている。

アウトソーシングは、単なる業務の委託・外注にとどまらず企業の境界とは何かという根本的な問題も我々に突きつけるものである。特に海外アウトソーシングは、国境の問題も伴うので、国際経済学と企業の経済学を架橋する分析テーマである。拙著が、全体として、アウトソーシングという切り口から見た国際貿易論と日本企業の現況の一断面を切り取った鳥瞰図となっていれば幸いである。

2015年2月13日掲載

2015年2月13日掲載

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