地域活性化の一翼を担う西条「酒まつり」
広島県東広島市に位置する西条地区では、10月12、13日の両日にわたって恒例の「酒まつり」が開催された(注1)。「酒まつり」は、伝統ある地域資源として継承されてきた酒造り文化のシンボルとして90年から実施されているもので、毎年10月上旬に開催される市を挙げての地域活性化イベントである。全国各地の約1000銘柄の地酒を味わえる酒ひろば、5000人の居酒屋会場などが設けられた他、各蔵元で行われる酒蔵イベント、神輿の練り歩き等々、西条地区の広範囲でさまざまな催しが行われた。両日の西条は多くの日本酒ファン、家族連れで賑わい、歩くのにも一苦労するほどであった。主催者側の発表によれば、2日間の来場者数は合計約24万人と、東広島市の人口(20万人弱)を上回る人出となった。
日本酒の輸出振興に向けて
国内における酒類全体の消費数量は、この十数年間、ほぼ一貫して減少傾向にある(図参照)。2000年代初頭に全消費量の約半分を占めていたビールも、消費数量、シェアともに、大きく低下させている。日本酒(清酒)の消費量も例外ではなく、2011年度のシェアはわずか7%程度でしかない。酒類全体および日本酒の消費量減少の要因としては、人口減少に伴う消費量減、消費者の嗜好の変化・多様化、多様な酒類の登場など、さまざまな要因が指摘できよう(注2)。
他方、酒類全体の輸出数量は2000年代前半こそ減少したものの、近年増加傾向にある。日本酒の輸出量については、2000年代を通じて一貫して増加している。これは、世界的な健康志向、和食ブームと相俟って、和食に合う日本酒が求められたこともあり、海外で日本酒の注目度が高まっていることが寄与しているものと思われる。しかしながら、日本酒を含む酒類全体の輸出数量は国内消費数量全体の1%にも満たないわずかな数量であり、輸出伸張の余地はまだまだあると考えられる。
日本政府としても、クールジャパン、日本再興戦略(注3)の一環として、日本酒などの輸出振興に向けたさまざまな取り組みを行っている。その中で、経済産業省により日本産酒類の輸出促進に向けて実施されている事業の1つとして、中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」(注4)がある。中小の酒造業者だけで輸出振興に取り組むには自ずと限界があるため、こうした国の支援制度は有用であろう。
西条地区においては、日本酒としては全国で初めて「西条酒JAPANブランド確立事業」が支援事業に採択され、3年間にわたり実施されてきた。過日、新ロゴマークとスローガン("Taste Japan")も決まり、「Saijo Sake」の統一呼称の下で、世界に向けてPRが行われている。「Saijo Sake」を名乗ることが認められるのは、「西条産地呼称清酒認証制度」による認証基準をクリアした銘柄のみである。
注2)消費・輸出数量の合計に加え、その内数としてのビール、清酒分のみを抽出した。
観光、イベントの経済効果
観光、イベントが地域経済、ないしは一国のGDPに与える経済的インパクトを検証した最近の実証研究をいくつか紹介する。Onder et al. (2009) は、トルコ西部の港湾都市イズミルのケースにより、1980~2005年までの時系列データで国際観光需要に影響を与える要因を検証したが、観光需要を決定するのは観光客発地国の所得、相対価格(為替)要因であり、受入国の経済発展、輸送インフラ水準などではないとの結果を得ている。したがって、政府はマス・ツーリズム以外に、自然、歴史、文化等受入国の特徴を生かした体験型観光(注5)を振興する施策を講ずるべきとしている。
また、観光業の発展は一国の経済成長に貢献すると考えられてきたが、「観光特化度」(旅行・観光経済部門のGDP/一国のGDP)の大きさによっては、観光業の成長が必ずしもマクロの経済成長につながらない可能性が示唆されている(Chang et al. (2010) )。観光業が発展すればするほど、経済から漏れ出す部分も大きくなると考えられるからだ(注6)。
日本での数少ない研究の1つとしては、齋藤・戸田(2004)がある。彼らは、世界各国を対象としたマクロデータを用いて、観光収入と経済成長の正の相関を確認した上で、受入国の観光収入を説明する供給側のモデルを推計した。その結果、為替レート、航空輸送力が有意な説明力を示したものの、受入国の経済諸変数(資本、労働など)については有意ではなかった。これはOnder et al. (2009) と概ね同じ結果である。
地域振興、日本再興を目指す酒どころのさまざまな取り組み
地域の酒蔵を観光資源として活用し、海外からの観光客誘致などにつなげるべく、酒どころ佐賀県鹿島市は「鹿島酒蔵ツーリズムR」を立ち上げている。こうした取り組みは全国各地で実施されている他、酒造り体験、地域の食文化・伝統工芸品を生かした連携など、さまざまな関連業界とタイアップした取り組みも見られる。
また、地元産の酒の消費量拡大を目指し、地酒による「乾杯条例」を施行する自治体も増加してきた。東広島市でも、本年7月1日より同条例が施行されている。こうした条例には賛否両論あろうが、地域振興を目指して、各地域が何とか地酒の消費を盛り上げようとする姿が見える。
日本酒の輸出振興と併せて、酒蔵ツアー、各種イベントの開催などにより、各地域が有する伝統ある文化・観光資源としての酒、酒蔵の魅力をできるだけ多くの人々に発信し、知ってもらい、体験してもらうことが重要であろう。産地の酒造業者、観光・商工団体、その他関連業界、行政などが連携・協力しつつ地域活性化を図り、そうした動きがオールジャパンに広がり、日本再興につながっていくことを期待したい。