COP17と今後の環境・エネルギー・資源戦略

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

COP17の成果とは何か?

新たな枠組みが出来、アメリカや中国を含む温暖化ガス主要排出国すべてを対象としたものが出来る。そして気候変動問題は、温室効果ガスなどの排出量を削減することが求められるため、新しい技術や製品・サービスが必要となる。今月行われたCOP17から今後の政策や企業に対して何が言えるのであろうか?

ダーバン枠組みまでの道のり

地球温暖化防止京都会議(COP3)(1997年)で採択された国際約束が京都議定書である。これは、2012年までの期間中に、先進国全体のCO2など温室効果ガス排出量を、1990年に比べて少なくとも5%削減することを目的としたものである。コペンハーゲンで行われたCOP15では、産業革命以降の気温上昇が2℃を超えると深刻な影響が出ると確認された。ここで決定されたコペンハーゲン合意とは、世界全体の長期目標として産業化以前からの気温上昇を2℃以内に抑えることや、先進国による途上国への支援などを内容とする。

COP15以前に各国が掲げた削減目標を足しあわせると、気温は3℃上昇するため、COP15は失敗であったと捉える向きも多い。しかし、90年代後半からの推移を考えると、過去15年では大きな進歩であった。今では、EUでは2005年に欧州連合域内排出量取引制度(EU-ETS:EU Emissions Trading Scheme)が実施され、アメリカでもリーバーマン・ウォーナー法案が議論され、オーストラリアでも今後取引が実施される。EU-ETSは取引量が経年で増えており注目を浴びている。さらに日本など多くの国や地域においても今後国内対策として用いられる可能性がある。

COP17の成果

2013年以降の約束については、これから国際的につくりあげる必要がある。先日、南アフリカ共和国ダーバンで開かれたCOP17では、いかに2013年以降に温暖化対策を更に進めるのか国際社会の判断を問われたものであった。結果として、新たな枠組み「ダーバン・プラットホーム(ダーバン枠組み)」が出来た。これは、アメリカや中国を含む温暖化ガス主要排出国すべてを対象としたものであり、2015年までのなるべく早い時期に交渉を終え、2020年に発効するものとなった。2012年前半に作業を開始し、参加国の排出義務をどのような仕組みで促していくか具体的な制度を決めていることになる。この主要排出国すべてを対象とした意義は大きい。京都議定書のようにAnnex Iと言われる先進国だけが義務を負う方法であれば、中国など多くの国が義務からもれることになる。しかも既にAnnex I以外の50カ国は、Annex Iの最も1人当たりGDPの低い国よりも高い収入を得ている。

また、中国は全ての国が参加することに加え、国の発展度合いを考慮して、先進国と新興国に差をつけることを条件に、2020年以降に法的拘束力のある削減義務を受け入れると表明した。このようにAnnex Iかどうかの区分を外せ、中国も将来への削減義務を表明したことは重要な進歩である。

また京都議定書から継続された議定書「第2約束期間(13年から17年(または20年)まで)」では、EUは入るが日本は入らない。京都議定書が、世界全体の排出量に占める割合の26%(2009年当時)をカバーしていたのに対して、第2約束期間では15%程度にとどまることになり、世界的な影響は小さくなる。延長された議定書がなくてもEUはEU-ETSを持続させるために義務を残すであろうと考えられるので、13年以降に排出量削減の法的拘束力がなくなる空白期間を避けるための処置と見ることができる。

更に、発展途上国の対策を支援する「緑の気候基金」を設置することに合意した。これで先進国が年間1000億ドル(約7兆7500億円)規模で拠出し、気候変動への緩和と適応のためや森林伐採の削減のための市場メカニズム、技術移転のための環境対策資金とすることが出来る。

今回、COP17以前には、京都議定書の延長は難しいのではないか、新たな合意も出来ないのではないかとの憶測があった。しかし、上記のようにある一定成果が挙げられたと言える。

これからの行方

CO2価格は、厳しい政策が導入されることで価格が上がり、そうでなければ停滞する。これから、いかなるやり方で長期的に大幅なCO2削減が可能になる制度ができるか注目される。しかし、問題はそれだけではない。現在、周知のように資源価格は上がっている。温暖化はもちろん重要であるが、今後、更に省資源・エネルギー利用削減といった複合的な問題をまとめて持続可能性の観点から考えていくことの重要性が増している。この状況を踏まえた上で、今後の排出量取引、環境税、二国間クレジット制度を作っていく必要がある。大きな環境・資源政策の変更で産業構造が変わることが期待できるが、大幅な削減目標が出来た際にどのように影響を与えるのか、しばしば規制強化のネガティブ側面が議論されるがポジティブな側面にも目を向けよう(脚注1)。

実際の温暖化の国際合意は少しずつにしか進まないが、ビジネス側の期待は大きいままである。2008年の金融危機以降、44%の企業が持続可能な社会のための環境投資を増やし、残り44%も環境投資を一定に続けている(脚注2)。

CO2削減の価値を見出す方法として、クリーン開発メカニズムのプロジェクトの実施や環境税、そしてEU-ETSなどの市場メカニズムが用いられている。現在、日本政府は、主要国が意欲的な目標で合意するとの条件のもとに、2020年までに温室効果ガスを1990年比25%削減、2050年までに90年比80%削減を目標としている。大幅な削減目標であるため難しい問題である。しかし、その解決法を見つけることができた場合には、問題が大きいからこそ、新しい技術や製品・サービスに多くの需要が生まれ、企業のビジネスチャンスは大きくなる。そのため社会的に注目を集めている。

石油などの資源価格が上昇しているということは今後、大量の資源を使う重工業や運輸業など多くの業界では、資源の利用効率を改善することで競争優位につながることになる。また、ガスなどの代替燃料へエネルギーがシフトしていくことにもなる。 企業は、この市場の変化を見越して競争優位を確保する必要がある。1つの方法は、企業活動が最終的な付加価値にどのように貢献しているのかを表すバリューチェーンの環境効率を高めることで、競合相手の企業以上の費用削減を達成することである。また環境負荷や環境リスクを削減することで費用削減を達成することができる。これには原料の使用量やエネルギー消費量、廃棄物処理費用が含まれる。そして、環境リスクを削減するためには、まず環境問題を予測して問題が起きる前に対応策を考え、新しい政策や規制が施行される前に実行することである。これには原子力問題も含まれるだろう。

さらに、製品の質で差別化を図ることで、競争優位を確保することもできる。新しい環境政策に迅速に応えることでイノベーションを促し、収益を上げることである。そして社会に貢献できているという意味で、信用やブランドイメージが上がる。とくに社内のモラルが上がることは離職率を低め、さらに新規採用における倍率を高め、優れた人材が集まることで、顧客満足度も上昇する。このように企業への新たな機会があることも考えた上での制度設計を考えることが望まれる。

2011年12月20日
脚注
  1. Managi, S. 2011. "Technology, Natural Resources and Economic Growth: Improving the Environment for a Greener Future." Edward Elgar Publishing Ltd.
  2. The Economist, Why firms go green, November 12th, 2011.

2011年12月20日掲載