貸出市場への政府介入は正当化できるのか:特別信用保証制度の効果を検証する

植杉 威一郎
研究員

政策金融改革の議論に必要なもの

現在、政府系金融機関が果たすべき役割に焦点を当て、政策金融改革が進められている。改革に際しては、なぜ政府が企業に対する資金の流れに関与するかを整理する必要がある。経済学の理論では、借り手のリスクを負担する、借り手に関する情報を生み出す、といった理由から政府の介入が正当化される。しかしながら、政府介入の妥当性を巡る議論は、理論的な整理にとどまり、介入の経済効果が実証されないままになっている場合も多い(注1)。今回は、90年代末に実施され、その効果について賛否両論がある特別信用保証制度を取り上げ、実証分析を行った結果を報告する(注2)

政府介入としては空前の措置だった特別信用保証

バブル以降の不況期において、日本政府は、これまでにない規模や内容で、銀行貸出市場への介入を行ってきた。これらは、経済学者が政府介入の意義を考える上で、重要な素材を提供する。中小企業を対象として実施された特別信用保証制度はその最たるものである。これは、98年秋をピークとするパニック的な信用収縮とその結果としての中小企業倒産の増加などに対応するために、新たに設けられた制度である。規模(保証枠30兆円、当時の中小企業向け貸付額の約1割)、時限性(98年10月から2001年3月)、審査基準(破綻、税滞納などのネガティブリストを満たさない限りにおいて保証提供)などのいずれにおいても、日本のみならず世界的にも例の少ない大規模な貸出市場への介入である。この制度は、当時、中小企業への直接貸付を行う政府系金融機関よりもはるかに大きな役割を(良きにつけ悪しきにつけ)果たすことが予想されていた。それだけに、政策当局では、この劇薬ともいえる制度の実施に慎重な向きも少なくなかったといわれている。

具体的に、特別保証制度を実施する場合に想定されていた、2つの相反する効果を整理しておこう。まず、政府部門が借り手企業の信用リスクを引き受けることによって、民間金融機関による貸し渋りを緩和し、収益性の高い事業を企業が行えるようにする前向きの効果がある。97、98年頃の日本経済では、相次ぐ金融機関の破綻もあって銀行の貸出態度は非常に厳しく、中小企業に対する貸し渋り・貸し剥がしの事例が頻繁に報告されていた。特別保証には、厳しい銀行の貸出態度を緩和する役割が期待されていた。しかし、同時に、負の側面も懸念されていた。収益性の低い企業しか特別保証を利用しないという逆選択、銀行からモニタリングされないのに乗じて特別保証利用企業が怠けるというモラルハザードがその典型である。これらの問題は、担保を提供する場合が少なく、申請件数が膨大で事前の審査を保証協会が十分に行えなかった可能性のある特別保証制度においては、特に深刻だったと考えられていた。実際に、企業が「特別保証付き貸付を得て株に投資した」、「特に使い道はなかったが、借りられるというので保証付き貸付を得た」、「保証付き貸付を得て1カ月で倒産した」などという例が、新聞で報じられている。

経済にプラスの効果をもたらしていた特別信用保証

果たして、いずれの効果が勝っていたのだろうか。今回は、これら2つの効果のうちいずれが大きいかを検証するため、特別保証利用企業・非利用企業のうち2003年まで存続している約3500社を追跡し、保証利用前後におけるパフォーマンスの変化を調べた。その結果、特別保証利用企業では非利用企業に比べて、

・負債比率・長期借入金の比率が増加する一方、短期借入金比率が減少している
・借入金ほどではないが設備投資も大きい
・ROAで測った収益率が、特に信用リスクの低い企業で改善する。全体でも収益率の改善が見られる

という結果が得られた。政府が企業の信用リスクを負うことによって、銀行が貸し出しを増やし、企業が収益性の高い事業を行うという効果が、モラルハザードや逆選択によって企業が収益性の低い事業しか行わないという効果を上回っている。特別信用保証制度は、中小企業の効率性を改善するのにプラスの効果があったといえる。これは、貸出市場における政府の介入の妥当性を示す証拠にもなる。

今後の検討課題

ただし、将来金融危機が生じた際に、同様の介入で良いということにはならない。第1に、存続企業における効率性の改善というベネフィットにとどまらず、退出する企業の比率が特別保証の利用によって有意に低下したか、退出する企業は果たして退出するに足る程パフォーマンスが悪かったのかという点についても検証が必要である。(注3)更に、特別信用保証による代位弁済は2.1兆円に上るといわれている。もちろん、全額が財政支出につながるわけではないが、金融危機を回避したことも含め、全体の効果に対する必要な財政支出はどの程度かという議論もあるだろう。第2に、リスクの高い企業で制度のプラス効果が見られない点を改善する必要がある。リスクの高い企業からは高い保証料を取る、担保を求めるなど、信用保証を与える条件を厳しくして、企業が収益性の高い事業を実施するように仕向けるのが1つのやり方だろう。

信用保証制度について、中小企業庁では、部分保証や弾力的な保証料率の導入を含め、政府の関与の効果をより高めるための取り組みが進んでいると聞く。我々の研究内容が、何らかの形で今後の政策立案に生かされることを期待したい。

2006年2月7日
脚注
  • (注1) 政策投資銀行による融資が企業の設備投資をどの程度促進したかについては、花崎正晴・蜂須賀一世、1997、「開銀融資と企業の設備投資」、現代マクロ経済動学(浅子・大瀧編)第11章などの実証研究の蓄積がある。また、中小企業金融公庫の最近の政策評価報告書では、公庫貸付が企業のデフォルト率にどう影響したかについての評価がなされている。
  • (注2) 詳しくは、Iichiro Uesugi, Koji Sakai, and Guy M. Yamashiro, 2006, "Effectiveness of Credit Guarantees in the Japanese Loan Market," RIETI Discussion Paper, forthcomingを参照。
  • (注3) 使用したデータでは十分な数の退出企業が存在しないので、デフォルト率が保証利用によって有意に変化したかどうかの検証は難しい。もっとも、特別保証利用企業においても、業績の良い企業が存続し、悪い企業が退出するという自然な淘汰のメカニズムは機能しているようである。

2006年2月7日掲載