地方公社(住宅・道路・土地)の財政的課題と組織改革

赤井 伸郎
ファカルティフェロー

近年、公共投資を提供する手法・組織の非効率性・制度疲労が問題視され、その改革が進められている。地方においては自治体本体の改革も重要課題であるが、自治体が100%出資する外郭団体も、その組織改革が急務となっている。全国的に共通して改革の中核的対象とされているのは、特別法人とよばれ、土地開発公社、地方道路公社、住宅供給公社から構成される。以下では、これら地方3公社の財政上の課題と改革のあり方を議論する(この議論の詳細は、赤井(2005a)および赤井(2005b)を参照)。

土地開発公社の財政的課題

土地開発公社とは、自治体が、公共事業用地として土地を先行取得する目的で設立された公社である。地価高騰の時代には、その柔軟性から公共用地の先行取得とそれに伴う効率的な公共事業の促進という意味で一定の役割を果たしたと思われるが、バブル崩壊後、時代にあった組織の改変がなされてこなかった。

『平成15年度土地開発公社事業実績調査結果概要』総務省(2004)によると、土地開発公社の平成15年度末(2003年度末)の保有土地は、金額ベースで6兆3556億円(前年度6兆7032億円、対前年度比5.2%減)となり、面積ベースでも2万4854ha (前年度2万6667ha 、同6.8%減)となっている。しかしながら、長期保有土地の状況をみると、金額ベースでは5年以上保有土地については1.1%減少しているのに対して、10年以上保有土地については、前年比18.2%の増加となっており、活用されないまま放置されている購入後10年以上の塩漬けの土地が大幅に拡大していることになる。

さらに、現在保有している土地の時価は簿価よりもはるかに低く、土地購入のために公社が借り入れた資金を返すだけの資産は公社には残っていない。この土地開発公社の借金は基本的に母体自治体によって債務保証されており、将来の住民の負担につながる「公的不良資産」となるケースが少なくない(福岡県赤池町は実際に土地公社の債務が原因で財政再建団体に陥った)。筆者の行った推計(赤井・金坂(2004)および金坂・赤井(2005)参照)によると、全国の都道府県と市の約700の公社における不良資産額(資産保有額(簿価)―時価)は、2001年度末時点で計約2兆5000億円に上る。直近の推計はなされていないが、ほとんどの地域で、地価がいまだ下落傾向であり、不良資産額は増加している可能性が高い。

住宅供給公社の財政的課題

住宅供給公社は、国および地方公共団体の住宅政策の一翼を担う公的住宅供給主体として、地方住宅供給公社法(昭和40年6月公布・施行)に基づき設立された。現在、47都道府県および公社法施行令で指定した10市において、57公社が設立されている。資産・負債(2002年度末)を見ると、資産が約3兆4000億円、負債が3兆3000億円ある。経常利益では、57公社のうち、37公社がフローで赤字であり、経営の厳しさがわかる。ストックで見れば、4公社を除いてすべての公社で黒字であるものの、これは会計上、資産価値を建設時の簿価で計測しているためであり、実態を踏まえたものとはいえない。借入に対して地方政府が損失補償の責任を負う必要のある債務は5000億円ほどになる。未処分の分譲資産は2002年度時点で約3442億円(谷・森・河野(2003))あり、その後の時価下落によりさらに拡大しており、負債に見合うだけの資産価値には乏しい。実際、北海道や、長崎、千葉で、債務超過が明らかとなり、特定調停が始まっている。今後も数多くの公社がこのような財政問題に直面する可能性は高い。

地方道路公社の財政的課題

地方幹線道路の整備を推進していくことを目的として、昭和45年に国において地方道路公社法が成立され、その事業主体として新たに地方道路公社が創設された。現在、都道府県と人口50万以上の市で43の公社がある。資産・負債(2002年度末)を見ると、資産が約5兆9500億、負債が3兆8650億である。当期利益では6公社がフローで赤字であるが、その他の公社は黒字である。ストックで見れば、和歌山県を除いてすべての公社で黒字であるものの、これは会計上、資産価値を建設時の簿価で計測しているためであり、将来、負債に見合うだけの、キャッシュインフローがあるのかどうかは不明である。債務超過部分は、予定よりも長い期間の利用料徴収か、税金投入、もしくは将来世代への負担増が必要となる。借入に対して地方政府が保証する債務は2兆2650億円ほどになり、住宅公社の5倍、土地公社の1.5倍にもなる。全国145ある道路のうち、フローの収入/支出比率が1を下回る道路は全国で20もあり、負債に見合うだけの資産価値(正確には、将来に向けた料金収入の現在価値)には乏しい。当初計画の台数と現在の利用台数を比較した達成率(谷・森・河野(2003))で見ても、観光路線で特に低く、達成率が10%台のものもある。

時代にあった公社組織の改廃と、将来負担を明らかにする会計制度の整備を

上記では、地方3公社に着目し、それらに潜む財政的課題を整理した。地価が下落する現在、土地の先行取得の価値は乏しい。民間住宅が豊富に供給される現在、公的住宅の直接供給の存在意義はますます乏しくなっており、仮に政策資源の投入を続けるとしても補助金給付で対応可能なのではないかという議論は十分にありうる。また、道路整備が進む現在、むしろストックの管理が重要な課題であるが、これには民間事業者の活用も可能である。このように、時代の変化により地方3公社の役割は終わったのではないかという基本的視点に立って改めて真剣な検討を行うべきであり、組織の改廃を視野におく必要がある。

また、過去の債務に関しては、今後の公社収益の改善はほぼ望めない現在、財政負担は先送りすることなく、その額を公表し住民の判断を仰いで、母体自治体自身が責任を持って早期に処理していくことを検討すべきである。現在の会計制度では、時価評価でも、資産の評価には再取得価格が使われるが、真に財政負担の推計に必要なのは、既存の住宅や道路が将来的に生み出すキャッシュインフローとの比較である。それを前提とする会計制度を適切に整備することが急務である。

2005年11月1日
文献
  • 赤井伸郎(2005a) 「地方公社(住宅・道路・土地)の実態と課題」フィナンシャルレビュー 2005MARCH 76-123 財務省財務総合政策研究所
  • 赤井伸郎(2005b) 「自治体財政の破綻を招く地方公社の惨状」週刊エコノミスト 2005年10月17日号 91-94
  • 赤井伸郎・金坂成通(2004) 「土地開発公社の不良資産の動向およびその要因:(1)(2)」地方財務 9月号、10月号
  • 金坂成通・赤井伸郎(2005) 「都市別土地開発公社の不良資産の推計とその要因分析」『応用地域研究』に近日掲載
  • 谷隆徳・森晋也・河野俊(2003) 「地方3公社の経営実態」日経地域情報No.429

2005年11月1日掲載

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