企業の自然な淘汰? それとも不自然な淘汰?

植杉 威一郎
研究員

90年代後半以降最近に至るまで、日本では企業の正常な新陳代謝が行われていないとする声が多い。本来であれば市場から退出すべき企業が退出し、存続すべき企業が存続するはずだが、逆の現象が起きているというわけである。こうした現象は、日本の企業社会でnatural selection(自然淘汰)ならぬunnatural selection(不自然な淘汰)が起きていることを示している。不自然な淘汰の背景には金融機関の存在が指摘される。金融機関は、貸出先の危機が明らかになるのを避けたいので、経営再建の見込みが乏しい企業に対して貸出を継続もしくは拡大するインセンティブを持っており、その結果、退出すべき企業が存続することになる。

大企業での不自然な淘汰vs中小企業での自然淘汰

不自然な淘汰を裏付ける分析の蓄積は進んでおり、金融機関の行動も影響して日本経済でこうした現象が起きているのは確からしい。先行研究では、負債比率が高い、生産性が低いなどといったパフォーマンスの低い企業ほど、借入額を増やしていることを示しており、金融機関の貸出行動を背景とした不自然な企業の淘汰が起きていると主張している。

しかし、こうした不自然な淘汰が、日本経済において広く進展していると結論するのは早計であろう。まず、企業の淘汰に関するこれまでの分析のほとんどは、上場企業を対象とするものに限られており、企業数で日本全体の99%、雇用者数でも60~70%を占めるという中小企業を考慮していない。更に、不自然な淘汰に貢献しているとされる金融機関にとっての最大の関心は、貸出先企業の負債比率の高さや生産性の低さよりも、企業が元本と利子を払えなくなること、すなわち破綻が起きるか否かである。貸出先が破綻すれば金融機関は大きな損失を被るが、元本と利子を払い続けてくれるのであれば、金融機関が貸出を続けるのは合理的である。しかし、これまで分析対象であった大企業では、破綻は滅多なことでは起きないため、破綻する企業と存続する企業を比較した分析はこれまでほとんど行われてこなかった。

現在、RIETIの企業金融研究会においては、中小企業を中心とする企業金融の現状を実証的に明らかにする試みを行っている。我々は、この一環として、中小企業における淘汰のプロセスについての分析を行った。具体的には、1997年から2002年における、中小企業の延べ120万社の財務諸表のパネルデータを用い、破綻していく企業が貸出市場でどのような金利条件で借り入れを行っているか、破綻する企業が退出した後、存続企業の支払っている金利が、どのように変化するかを調べた。本データセットには、毎年数千社の破綻(6カ月以上延滞、実質破綻、破綻の合計)企業データが含まれており、統計的にも信頼性の高い分析が可能である。

分析の結果、以下のことが明らかになった。

  • 翌年に破綻する企業と存続する企業が前年に支払っていた金利を比較すると、破綻企業の支払金利が有意に高くなる(図参照)。
  • 高い金利を支払っていた破綻企業が退出する結果、存続企業の支払う金利は、企業年齢と共に徐々に低下する。
図 翌期に存続する企業と倒産する企業の金利の違い
図 翌期に存続する企業と倒産する企業の金利の違い

図では、生まれ年毎に分類された企業が年齢を重ねるにしたがって徐々に低い金利を支払っていること(一本の線を右に行くほど、同じ年に生まれた企業が年齢を重ねていることを示す)、翌年までに破綻する企業の方が存続企業よりも高い金利を支払っていることを示している。この結果は、信用リスクの高い企業が、金融機関から徐々に高い金利を支払うように求められ、最終的には破綻・退出に追い込まれるという意味で、自然淘汰が広範に起きていることを示唆している。もちろん、破綻する企業に対して金融機関が求める金利が、リスクに見合ったものかという問題がある。たとえば、破綻が100%確実な企業には、金融機関は貸し出しを引き揚げるか無限大の金利を求めるべきであり、1%に満たないプレミアムを得ることにはほとんど意味がない。しかし、破綻が近い企業を、財務諸表以外の情報を用いて他と区別し、より高い金利を支払わせているという意味で、金融機関は、貸付先企業の自然淘汰に貢献しているといえるだろう。また、こうした自然淘汰が、日本の90年代後半から2000年代初頭という、金融機関が不自然な淘汰につながる追い貸しを行うインセンティブの大きい時期に起きていることにも注目したい。

企業淘汰の全体を把握するための課題

いくつか更なる分析が必要な課題は残っている。
第一に、日本の全ての中小企業において自然淘汰が起きているわけではなく、この理由を知る必要がある。不動産業が顕著な例外であり、退出企業の方が存続企業よりも有意に低い金利を支払っている。これが、不動産業は、事業承継を円滑に行うための資産管理会社を多く含んでおり、通常の企業とは異なる要因で退出が決まるといった産業に特有な性質によるものか、あるいはバブルの影響を多く受けた不動産業では、追い貸しに伴う金利減免が行われていることなど、貸付を行う金融機関側の要因によるものかは、まだ分かっていない。

第二に、自然淘汰以外に金利と企業年齢との関係に大きく影響する要因がある。たとえば、自然淘汰の効果もあって、年齢と共に企業の支払金利が低下するのが通常であるが、東京や大阪の一部地域では、自然淘汰以外の要因により、企業が歳をとっても支払金利が低下しない。これには金融機関間の競争状態が影響していると予想できるが、具体的な因果関係は明らかでない。

最後に、先行研究で示されてきた大企業における不自然な淘汰と、今回得た中小企業における自然淘汰とをどのように整合的に理解するのかという問題がある。これまで強調されてきた大企業における不自然な淘汰が、下請企業との取引関係などを通じて日本経済のパフォーマンスを決める上で重要な役割を果たしてきたのか、それとも、数で勝る中小企業における自然淘汰の方が重要なのかということでもある。

これらの点を明らかにするべく、今後とも、企業金融研究会における研究を進めていきたい。なお、企業の淘汰だけではなく、リスクを反映した金利形成の過程も含めてもう少し広い視野で企業金融の効率性を考えたものとしては、近日中にRIETIからPAP(Policy Analysis Paper)として出す予定の「日本の企業金融は非効率的か:中小企業の金利に基づく検証」という論考を参照されたい。

2005年5月17日

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文献
  1. Sakai, K., Uesugi, I., and Watanabe, T., 2005, "Natural or Unnatural Selection? Evidence from Japanese Credit Market in 1997-2002," 未定稿

2005年5月17日掲載