2 調査の結論(続き)
名目GDPでは、日本は2024年ドイツに抜かれ、第4位になった。サイズ(人口、企業数)が日本の2/3しかないドイツに抜かれたことは、円安の影響などで説明できない深刻な問題がある。IMF(国際通貨基金)の予測では、2026年にはインドにも名目GDPで抜かれて、世界5位に後退するとされている。
「定時が来たらさっさと帰って家の前庭で延々とおしゃべりしている」「キリスト文化なので日曜日は完全休日」「夏休みとクリスマス休暇はたっぷり2週間以上取る」というのがドイツに駐在する日本人の評価だが、「ドイツ人は働かない」のに、なぜ「独り勝ち」と呼ばれるほどドイツ経済は強いのか。
その背景には「隠れたチャンピオン」と呼ばれる強い中小企業の存在があるとドイツ政府の人間から聞いた。なぜ、中小企業が「独り勝ち」と呼ばれるほど強い経済力を作り出したのか。私は興味で一杯になった。
そこで私は、2009年からコロナ前の2021年までの12年間、ドイツ現地調査を、毎年、時には年2回、繰り返してきた。本稿でご紹介するのは、長年にわたるドイツ現地調査の集大成である。
現地調査は、「目から鱗(うろこ)」の驚きの連続であった。日本では当たり前と信じていたことがドイツでは違っていた。例えば、
① ドイツ企業の多くは、陸続きで隣接する低コストの東欧諸国に工場を移転せず、コストが高いドイツ国内で生産し輸出する方を経済合理性の下で選択していた。当時、コストの安い海の向こうの中国に大挙して工場移転していた日本とはまるきり反対であった。隣接する国のコストが安ければ、工場を移転することが「経済合理的」だと信じていた私は信じられなかった。日本企業の判断は間違っているのかと思った。
② ドイツでは、中小企業が大企業を凌ぐパフォーマンスを発揮していた。私は、パフォーマンスが低いから中小企業なのだと思っていたが、ドイツではそうではなかった。こんなに強力な中小企業群が存在し、それが国の経済を支える中核を成しているとは信じられなかった。日本では自動車と電機が国の経済を支える両輪と言われてきたが、そのように国の経済を支える企業は大企業だと信じて疑わなかった。中小企業は庇護すべき弱い企業群だと信じていた。
ドイツは日本と同じものづくりの国であり、少子高齢化が進み(図1)、国内市場が縮小している点も同じである。だが、ドイツは、GDPは順調に伸び、労働生産性、雇用、賃金の3つが恒常的に伸びているのは世界の中でドイツだけである。その要因は、製造業の輸出、特に中小製造企業の輸出が大きく貢献している。一方、日本のものづくりは海外生産比率を高めていき、今や自動車では約半分が海外生産となっている。
ドイツには、「隠れたチャンピオン」と呼ばれる強い中小企業がいる。国内で生産し、外国に輸出して付加価値を国内に落としている。
「隠れたチャンピオン」とは何なのか。なぜ「隠れたチャンピオン」が強いのか。その要因を解明する。また、企業リーダーの考え方が日本企業とは大きく違っている。また中小企業に対する公的な支援体制が日本とは大きく違っている。
さらにドイツは「インダストリー4.0」構想およびそれに付随する「ミッテルシュタント4.0」「Work4.0」などを国全体を挙げて推進しており、AIデジタル技術が中小企業に積極的に導入され、リスキリングも国全体で積極的に実施されている。
2009年からスタートし、コロナ前までの12年にわたるドイツ現地調査の結果は、ドイツ人は「人が欲しがる商品を開発し、それを高い値段で外国人に売る」という基本に忠実だったことがわかった。着実に利益に結びつくことだけをしているので、大して働かなくても大きな利益を得る。
ドイツ人は、働き方に知恵を使い、効率良く、要領よく稼ぐため、人生をエンジョイできる。比較して、日本人は個人を犠牲にして、ただひたすら盲目的に、意味のない仕事にも一生懸命にあくせくしているだけのような気がする。
ドイツの各種の制度、仕組み、慣行などが日本に導入され、日本の中小企業の競争力を高め、「失われた30年」を止め、再び日本経済が輝く日が来ることを期待している。
*商業登記簿ベースの企業数
(IMF2025年推定値)
注)ドイツは日本に比べ、総労働投入量が、
0.732×0.834=0.610
しかないのに、名目GDPは、1.165倍もある
すなわち、日本人の生産性(1人当たり1時間当たり)は、ドイツ人の52%しかない
0.610÷1.165=0.52
OECD(32カ国)は、参加国が共同して国際的に開発した学習到達度問題を、15歳児を対象として実施している。PISA調査(注1)は、2000年に最初の本調査を実施し、以後3年ごとのサイクルで調査が実施されている。
PISAの2000年結果 日本人15歳
読解力 世界8位
数学的リテラシー 世界1位
科学的リテラシー 世界2位
PISAの2018年結果 日本人15歳
読解力 世界11位
数学的リテラシー 世界1位
科学的リテラシー 世界2位
PISAの2000年結果 ドイツ人15歳
読解力 世界21位
数学的リテラシー 世界20位
科学的リテラシー 世界20位
PISAの2018年結果 ドイツ人15歳
読解力 世界15位
数学的リテラシー 世界15位
科学的リテラシー 世界11位
結局、日本の何が問題なのか? 15歳時点で、世界で最も優秀な日本の子供たちが、そしてドイツの子供たちと比較して、こんなに大きな差を持つほど才能あふれる日本の子供たちが、大人に成長し、社会に出て集団で働き始めると、なぜ、上述したようにパフォーマンスが大きく落ちるのだろうか、なぜドイツ人に比べて生産性が半分しか生まれないのだろうか。その原因は、「日本人の働き方がおかしい」としか言いようがない。
日本人は、働くこと自体に知恵を使わず、意味のないことに必死で働かされている。逆に言えば、ドイツ人は要領がよく、働くことに知恵を絞り、目的に向かって最短コースで到達している、と言える。日本では、ドイツ人の1.4倍の人数が、1.2倍の時間を投入し、総労働投入量=1.4×1.2=1.68倍の総労働を投入し、その結果現れる日本のGDPは、ドイツのGDPの85%しか生まれない(2025年米ドル換算)のであるから、日本人の働くエネルギーの向かう方向付けが間違っているとしか言いようがない。
この方向付けは、企業の指導者が行うものである。すなわち、企業経営者の判断がおかしいのである。逆に言えば、本来、ふさわしくない人が企業経営者になっている、企業内での人の選抜方法が間違っているのである。
2023年の社長の年齢分布は、70代以上が35.4%(前年33.3%)と、初めて30%台後半に達した。このほか、60代、50代、40代、30代以下はすべて前年より低下し、70代以上だけが上昇した。
経済学および経営学では、社長の年齢と企業の業績との間には因果関係を容認するモデルはない。そして米国企業では、社長の年齢と企業の業績とは無関係である。だが、日本企業では、社長の年齢が上がる程、企業の業績が悪化する。それは一体、何を意味しているのだろうか。昭和の古い価値観を持つ社長が、優秀な若者のエネルギーを無駄に浪費させているとしか考えられない。
(次稿に続く)