Economics Review

日本経済は今、大きな岐路に立っている。90年代から続く長期低迷、閉塞感から抜け出せない中で、ITバブルの崩壊、テロ事件の発生が重なり、誰もが将来への不安感を募らせている。家計、企業、政府それぞれがあるべき姿を見出せないまま、もがきながら暗中模索している状況といえよう。経済社会状況が安定している場合であれば、これまでの延長線で物を考えることでこと足りるかもしれない。しかし、経済が大転換しつつあるときは、経験・現場主義が、逆に、取り返しのつかない失敗を生む危険性をはらんでいる。むしろ、変革期の重要な指針になるべきものは、分野を問わず学問的根拠に基づいた「理論」であろう。複雑な現象を解きほぐし、その本質をえぐり出していく「理論」こそ、既成観念にとらわれない骨太の指針を生み出していくために必要不可欠なものである。経済学の有用性が問われて久しいがその中には、わずかであるが「砂金」のようにきらきら輝き、現実経済の解明及び運営に新たな光を当てるものがあることを忘れてはならない。筆者はかつて、「経済セミナー」(日本評論社)や「ESP」(経済企画協会)の誌上で、最新の経済学と現実経済の接点を探ることを目的としたエッセイを連載していたことがある(こちらを参照)。この連載でも、こうした有用な経済学研究(Economics Research)を紹介しながら、現実の経済、政策にどのようなインプリケーションを持つかを考えていきたい。そして、「理論」が指針となり、実践されることで、日本経済に新たな展望が開けることを期待したい。