中国経済新論:中国の経済改革

中国の改革から学ぶべきものとは

李佐軍
国務院発展研究センター

経済学博士 国務院発展研究センター学術委員会秘書処処長、弁公庁科研処処長。主な研究分野は、人間本位の発展理論、三農問題、地域産業の発展、企業戦略のイノベーションなど。

中国は30年間の改革を通じて貴重な経験と教訓を得た。これらの多岐にわたる経験と教訓は中国だけでなく他の国にとっても大いに参考になる。以下、各種関係をどう取り扱うべきかという視点から中国の改革から学ぶべきものをまとめる。

まず、改革と発展の関係である。改革が発展を促進する場合もあれば、また発展を損なう場合もある。改革は、相応しい時機と安定した秩序の下で、多くの人の積極性を活発化させ、多くの人に利益をもたすのであれば、発展が促進できる。逆に改革が良い時機を逃し、正しい方策をとらず、多くの人の積極性を発揮させず、多くの人に利益をもたらせない場合、発展は損なわれるだろう。幸いなことに、中国の大多数の改革施策は発展を促進する効果を挙げており、旧ソ連と東ヨーロッパの一部の国家の「発展なき改革」とは明らかにに異なっている。改革自身は目的ではなく、発展こそ目的である。中国は発展しながら改革を進め、改革の発展の効果を実現できるよう努力すべきである。

第二に、改革と開放の関係である。改革と開放は相互に促進しあう関係にあり、両者の関係をうまく協調できれば、改革は一層順調に進む。1978年以来、中国は改革と開放の結合を堅持してきたからこそ、改革が開放を促進して、開放が逆に改革を促進するという好循環が形成できたのである。これは中国の改革が良い成果を遂げた秘訣である。閉鎖的な環境でも内部改革を行うことができるが、非常に困難である。これに対して、開放された環境の下では、外部の競争圧力を利用するだけではなく、国外の経験を参考し、国外の各種の生産要素(例えば資金、技術、人材と管理など)を導入することを通じて、国内の改革を押し進めることもできる。

第三に、改革と安定の関係である。改革は現有の体制と制度に対する重大な調整と変更であり、現有の利益構造を変えることであるため、必ず社会の安定にある程度の影響を与える。また改革を進めるに当たり、当然一定の代価を払うことになるであろう。改革が順調であれば、直ちに発展の効果と利益がもたらされ、社会安定のための物的基礎と制度環境を提供することができる。したがって、改革者は改革と安定のバランスを求めるべきである。社会の安定を維持するという前提の下で、中国は「漸進改革」、「増量改革」(市場価格などの新しいルールは従来の生産枠に適用させず、新たに増える部分に限って適用すること)、「経済改革優先」、「改革実験」などの戦略をとって、改革を進めてきた。また、中国における改革は、利益を損なうグループに対して補償を行い、改革と発展のスピードと社会の受容能力のバランスを重視してきたからこそ、「社会の安定を通じて改革と発展を推進し、改革と発展を通じて社会の安定を保つ」という改革目的を実現できた。

第四に、効率と公平の関係である。改革は効率を高めるが、公平をもたらす場合と逆の場合がある。効率と公平の一致は、改革にとって有利な条件である。中国の改革はかなり長い時期に「効率優先、公平も配慮」という原則に沿って進められた。その狙いは改革初期の「平均主義」の束縛を打ち破ることであった。しかし、実行期間が長すぎたため、現在の深刻な社会不公平という問題を招き、民衆の強烈な不満を招いてしまった。そしてこのようなことは社会の安定と調和に悪影響を与えて、人々の改革に対する評価を落している。これは中国の改革から得られる一つの重要な教訓である。そのため、改革は必ず公平と効率両方に配慮しなければならない。

第五に、部分と全体の関係である。改革は参考すべき対象が存在しないため、試行錯誤を繰り返しながら進めていく以外に方法はない。改革の初期、伝統的な体制の影響により、全面改革の推進が難しかったため、現実的な選択としては部分から突破するしかなかった。しかし、部分的改革が進むにつれて、時機をとらえて全面改革に転換すべきである。そうでなければ体制と制度が歪められ、一連の「後遺症」が形成してしまいかねない。中国の改革は先に部分的改革、後に全面的改革(例えば先に農村改革、後に都市改革、先に沿海開放、後に全面開放、先に部分的実験[点]、後に全国展開)という戦略をとったゆえに、良い効果を得た。しかし、中国の経済、政治、文化、社会の四位一体の改革と都市、農村の調和改革は依然として様々な問題が存在しているように、全面的改革は比較的遅れており、部分と全体の関係を協調することはまだ努力が必要である。

第六に、短期と長期の関係である。改革は空間の合理的配置の問題であるだけでなく、時間の合理的配分の問題でもある。時間の合理的配分は主に短期と長期の関係として表れる。改革は短期的改革もあれば、長期的改革もあり、短期効果もあれば、長期効果もある。したがって、短期と長期と両方に配慮すべきである。「試行錯誤」、「順序漸進」に象徴されるように中国の改革は短期的改革と短期効果を非常に重視し、短期効果を通じて長期効果に累積しようとしている。しかし、中国の改革はまだ長期的改革と長期効果への配慮が足りないため、高難度の根本的な改革が残され、未来の改革の不確実性が増加している。

第七に、中央と地方の関係である。改革は中央だけでなく、地方にも関係がある。中央と地方は改革の主体であり、改革の対象でもある。中央と地方は共通の利益もあれば、権益の衝突もある。改革に際し、中央と地方が協力できれば、改革が促される。この面において、中国の改革は経験があって、教訓もある。改革初期、中央は地方へ「権限を下放」し、大いに地方の積極性を発揮させたが、いくつかの副作用を生んだ。その後90年代に「分税制」と一部の政府部門に対する「垂直管理」の実施により、中央の財力が強化された。そのため地方の権力と利益が弱まり、特に一部の郷・鎮と県レベルの政府は明らかに財力と権力の不足が現れて、地方の積極性が損われた。同時に裁判所や流動人口の管理などの面において地域間の協調は明らかに不十分である。

最後に、政府と民衆の関係である。政府と民衆は微妙な関係にあり、両者は共通の利益がある一方で、利益対立もある。民衆は納税者で、政府は公共サービスの提供者であり、理屈から言えば政府は民衆の政府で、両者の利益は一致するはずである。しかし政府は人間で構成されているため、政府も「経済人」のいくつかの特徴を持っている。制度の設計が不合理な場合、政府は損得計算に基づいて、自身の権利の最大化につとめ、民衆の利益と一致しない行動を取るかもしれない。政府は改革の組織者であると同時に、改革の対象でもある。中国の改革は政府と民衆の関係を処理する上で成功もあれば、失敗もあった。成功とは政府が改革の推進者として、民衆全体の利益のために貢献したことである。一方、政府自身の改革が大幅に遅れてしまい、一部の官僚の「レントシーキング」問題が深刻で、腐敗現象が横行することなどは改革の失敗の現れである。したがって、正しく政府と民衆の関係を処理するためには、まだ長い時間が必要である。

2008年12月11日掲載

出所

中国経済時報
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

2008年12月11日掲載

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