中国経済新論:中国の経済改革

改革を動揺させてはならない

皇甫平

本名 周瑞金、1939年浙江省生まれ。元『解放日報』評論委員、元『人民日報』副編集長である。鄧小平の南巡講話に先駆けて、1991年末から1992 年初にかけて、改革開放の加速を訴えた皇甫平評論シリーズを発表し、一躍有名になった。市場化改革を巡って、論争が再燃している今、久しぶりに登場する皇 甫平評論が再び注目されている。

改革の中で直面する新しい問題は、更なる改革によって解決するしかない。

中国は再び歴史の重要な岐路に立っている。「全面的な小康社会」を構築する過程において、国内の矛盾が激化し、外国との摩擦が多発する時期に入っており、国内の世論には改革を否定したり、反対したりする議論が現れている。多くの人々は、改革の過程において現れたいくつかの新しい問題と新しい対立を、西側の新自由主義に追随した結果であると強く批判している。このような状況の中で、「姓資姓社」(資本主義か、社会主義か)という改革の本質を問う論争が再度提起されているように思われる。

われわれは歴史と現実、理論と実践を関連させながら、改革をめぐる問題を正しく観察し、分析しなければならない。

1980年代末から90年代初めにかけて、改革開放否定論が勢いを増した。そのときに、鄧小平氏は歴史的決断を下した。「計画経済イコール社会主義ではなく、市場経済イコール資本主義ではない。」「ポイントは「姓資姓社」問題だ。主として社会主義社会の生産力の発展に有利かどうか、社会主義国の綜合国力の増強に有利かどうか、人民の生活水準の向上に有利かどうかをその基準とすべきである。」「中国では右に警戒しなければならないが、主として左を防がなければならない。」

当時、江沢民を中心とする共産党の指導部は第十四回党大会において鄧小平氏の南巡講話の方針を貫いて、改革開放と現代化建設を新しい段階へと推し進めた。中国がすばらしい局面を迎え、国民が小康(いくらかゆとりのある)生活を実現できたことが、社会主義市場経済体制の改革を断固として進めてきたことと密接に関連していることには疑いの余地はない。

市場化に向けた改革は大きな成果を収めたが、いくつかの新しい問題、新しい矛盾も発生した。現在、国民は貧富格差や地域格差の拡大、生態環境の悪化、権力者の腐敗、社会治安の混乱、および医療、教育、住宅の改革の中で現れた医療費・教育費・住宅価格の高騰、就職難などの問題に対して、強い不満を持っている。時代とともに進歩し、現実問題を解決するという方針に従い、胡錦涛を総書記とする党の指導部は、科学的発展観という大局観を以て、「調和の取れた社会」(「和諧社会」)の構築を目指すという戦略を打ち出している。その本質は、鄧小平理論と「三つの代表」という重要な思想理論を継承し、発展させた上で、改革を堅持するという軸に沿って改革の過程で現れた新しい問題を解決することである。改革を更に深化させ、開放の範囲を拡大させ、社会主義市場経済体制を健全化させることは、必ず都市と農村、地域間、貧富間の格差問題や、社会と経済の発展の調和問題、経済・社会の発展と生態・環境保護の問題、対外開放と国内の発展の調和問題を包括的に解決することができるであろう。

一部の人は改革の過程で現れた新しい問題と新しい矛盾を市場化改革による結果であると非難し、改革を否定している。これは明らかに偏った主張であり、誤りである。経済体制移行期という歴史的背景の下では、多くの矛盾は主に市場経済が未熟であり、市場メカニズムが十分にその役割を果たしていないために生じたものであり、決して市場経済、市場メカニズム自身の欠陥ではない。貧富格差の問題は、市場化に向けた改革を通じて一部の人に先に豊かになってもらう政策のせいではなく、改革の過程で行政権力の介入によって一部の人が他者を犠牲にして暴利を得たためである。行政権力の力を借りて金持ちになり、弱者層の利益を損なうような行為は、まさに旧体制の弊害によってもたされたものであり、改革のせいにすべきではない。

社会における富の分配が不公平になっているという問題の発生と拡大も、決して改革によって生じたものではない。それは、むしろ改革が阻害されて、停滞し、目標に到達できないことによる必然的な結果である。さまざまな阻害要因の一つに、既得権を得た階層が改革全体の効率を「部門の利益」、「地域の利益」にすりかえることがある。その結果、権力の腐敗がますます深刻になってしまったのである。「一部の人が先に豊かになる」という「先富論」が賢明な戦略であることは歴史が証明している。「効率優先」という方針は旧体制を突破し、生産力を解放させるために重要な役割を果たした。こうした政策により、一部の人が豊かになってきただけではなく、社会全体の豊かさも増してきた。現在、わが国において1人当たりGDPは1500ドル程度まで上昇し、貧困人口は従来の3億人から2000万人にまで減少した。これは「効率優先」という改革開放のスローガンに「公平」という二文字も見え隠れていることを示している。貧富格差の縮小は、人為的に豊かになることを制限するのではなく、平等な権利を保護することと貧しい人が豊かになるスピードを加速させることを通じて遂げなければならない。改革の目的は裕福な人を貧しい人にさせるのではなく、貧しい人が豊かになることである。「裕福な人を憎む」という感情は貧富格差の縮小や、共に裕福になることには役に立たない。これは近代的な産業文明において自明の道理である。

現在、ますます増大する国民の公共財への需要と、公共財供給の不足や低効率との間の矛盾は、すでに中国社会における主要な矛盾となっている。公共財とは国民のために政府が提供する社会サービスのことで、教育や文化、住宅、医療衛生、雇用の確保、社会治安、生態保護、環境保護などを指す。つまり、衣食の問題が解決されたので、国民は新たな不満を口にし始めたのである。例えば、政府の土地徴用によって住民が立ち退きを強制されることや、教育と医療の費用が高すぎること、住宅が高すぎて買えないこと、就職のできないこと、官僚の汚職や司法にかかわる腐敗事件が多すぎること、治安が悪く安全が保障されないこと、情報が非対称的で透明性が低いこと、やり方が民主的ではないこと、などである。これらの問題はまさに公共財供給の不足による問題に他ならない。民衆は、効率が高く、清廉潔白で、平等に参加することのできる、公平で透明な公共領域を求めている。

このように、改革に伴う多くの問題および矛盾の本質とは、体制移行の過程において、行政権力が市場による資源の配分に関与したことによって不公平が生じたことである。行政資源(特に公共財の供給)の配置における権力の市場への関与は、社会の富の所有と分配における不公平の原因となっている。権力の市場への関与は改革自身に歪をもたらしている。そもそも、市場メカニズムを発揮すべきではない一部の分野において、市場化を利用して金儲けをしようとする「偽りの改革」が現れている。他方、市場化を大いに進めるべき分野においては、市場化の改革はなかなか進んでいない。

土地の市場化を例にとって見ると、地方政府は土地使用権の持ち主が取引に参加する権利を排斥し、自らが市場取引の主体となった。これによって、地方政府と土地の開発業者は最大受益者になるが、使用権を持つ農民と住民は損害を被ってしまった。ここ数年、都市部における強制移転や農村部における農地の徴用を巡って、多くの民事紛争が起きている。それは、地方政府による土地徴用権の独占と土地の市場化の間の矛盾や、土地使用権の売買の市場化における政府の役割と権力行使の(法的)手続きにおける欠陥を端的に反映している。

改革の過程で見られた諸問題は、行政管理体制をはじめとする体制の深層の部分と密接に関係している。20数年来、中国の改革は技術のレベルで市場経済のやり方を手本としてきたが、市場経済の制度の本質にかかわる部分をそれほど取り入れていない。特に、生産要素の市場化に向けた改革が遅れていることは、経済体制改革だけではなく、政治体制、社会体制、文化体制などの各方面の改革の問題にも関連している。そのため、五中全会(共産党第16期中央委員会第5回全体会議)において採択された「第11次五ヵ年規画」の提案では、政府行政の管理体制の改革は各項目のトップに取り上げられた。中でも、政府の生産要素市場における独占問題を解決し、それを通じて要素の市場化改革を進め、市場経済化の全面的推進を実現することが優先課題となっている。役割の面から言えば、政府は利益の獲得主体から公共サービスの提供主体になるべきであり、公共資源、公共財を公開、公平、公正に国民に分配し、各市場主体が平等に競争できる市場環境を創造することに力を尽くすべきである。

中国は体制移行の肝心な時期にあり、これは社会構造の大きく変化する時期でもある。利益主体の多様化、考え方と認識の多様化はこの時代の特徴である。そのため、改革の深化という過程において、利益関係の調整に対する抵抗は必然的に大きくなる。改革の深さ、広さ、難しさ、そして複雑さも増しているが、われわれはイデオロギーにおいて伝統的社会主義の理論と計画経済の影響を受けているため、情勢の変化についていけず、問題が起こるたびに、イデオロギー的バイアスのかかった判断をしてしまい、その元凶を改革に求めることがしばしばある。一部の人は個別の事例を以て、改革の全体を否定するが、これも責任ある態度とは言えない。

われわれは思想を解放し、独立した思考と判断をし、断固として科学的発展観という大局観を以て、動揺することも、止まることもなく、ましてや後退のないように全面的に改革を進めていかなければならない。新自由主義に対する否定論を用いて改革の実践を批判することは、中国の改革の歴史を根本から否定し、また、鄧小平理論と「三つの代表」という重要な思想をも否定することになる。改革はさらに改善し、市場経済はさらに成熟していかなければならない。しかし、30年間の改革開放の実践は、「社会主義こそが中国を救い、改革こそが社会主義を救う」という不動の真理を証明している。改革開放を堅持することは人心が向かうところであり、市場経済の発展は大勢の赴くところである。経済を発展させることは人々の共通の願いである。時代とともに進歩し、思想をさらに解放することは避けて通れない道である。

2006年4月7日掲載

出所

『財経』2006年第二期(2006年1月23日)
※掲載にあたり先方の許可を頂いている。なお、和訳については当サイトの責任のもとに翻訳、公開している。

2006年4月7日掲載

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