中国経済新論:中国の経済改革

所有権制度の改革:変えられぬ方向

周放生
財政部 財政科学研究所 研究員

2004年の夏、香港中文大学の郎咸平教授によるいくつかの有名企業に対する批判は、国内の経済学界と社会各界に激しい論争を引き起こした。その焦点は、中国の国有企業における所有権改革が行われるべきかどうか、そしてどのように改革を進めるべきかである。この論争の対象は、個別企業の改革に国有資産の流失が存在しているかどうかというミクロ的な問題から、国有企業改革の方向が正しいかどうかというマクロ的な問題に拡がってきた。

このような重大な問題に対して答えようとするならば、そのこと自身について論ずるだけではなく、中国の国情を考慮に入れなければならない。そのためには、国有企業の発展の歴史や、国有企業改革の実践、中国が経済移行期に置かれているという特性を考慮しなければならない。なぜならば、これらは国有企業改革の方向と経路を選択する際の決定要因となっているからである。その中で、次の問題が特に注目され、議論の焦点にもなっている。

一、中国の国有企業はなぜ所有権改革を進めるか

国有企業に資産損失の責任を引き受ける主体を取り入れるために、所有権改革は最も有効な手段である。周知のように、中国の国有企業改革は経営自主権の拡大と経営の請負制から始まった。長期にわたって、国有企業改革は経営自主権の拡大および行政と企業の分離を中心に行ってきた。1992年に、山東省の諸城市をはじめとする一部の小型国有企業において所有権の変更を伴った株式合作制改革のブームが起こった。しかし、株式合作制が国有企業、特に大・中型国有企業改革に適さなかった上、それ自身にも欠陥があったため、所有権に触れた株式合作制改革はやがて消えてしまった。その後、我が国は所有権の明確化、権利と責任の明確化、行政と企業の分離化、管理の科学化という現代的企業制度を作り上げるという方針を打ち出し、国有企業の株式制改革の試みを始めた。しかし、多くの国有企業が所有権改革に対して明確な考えを持っていなかったため、改革はほとんど看板の入れ替えだけに終わった。

国有企業改革の過程を振りかえってみると、いくら改革を行っても国有企業の経営状況は根本的改善が見られず、不良資産は増え続けたことがわかる。1997年に、国有企業はかつてない困難に直面し、大・中型国有企業の約40%は赤字に陥ってしまった。その原因は、上述の改革が資産に対する責任者の不在という国有企業の制度的な欠陥に触れていないことにある。ここでいう責任者の不在とは、国有企業が経営状態の悪化などの原因によって生じた損失が、国によって補填され、それに対して責任を引き受ける意思決定者や経営者がいないことを指している。

国有企業に資産の損失責任を引き受ける主体を取り入れるために、所有権改革は最も有効な手段である。所有権改革は、一連の制度設計を通じて、外国資本、民間資本、経営者資本を国有企業の経営管理に参加させ、国有企業を混合型所有制の企業に再編させ、相互制約のできる多様な投資主体を有する構造を作り出すことができる。所有権改革を取り入れることは、国有企業の制度改革の成功のカギとなる。投資が適切に行われ、明確な権利関係が確立されてはじめて、責任の所在が明らかになるのである。

各地における国有企業の所有権改革の実践もこの点を証明した。改革を経て、資産損失に対して責任を引き受ける人が登場してから、企業は経営、投資などの重大な方策に対して非常に慎重に考えるようになり、ほとんどの企業の経営状況が改善した。

1999年の共産党第15期4中全会において、国有経済の配置と構造に対して戦略的再編を行うことが決められた。国有企業は新たに参入する分野がある一方、撤退する分野もある。これを実現するために、国有企業の所有権改革は有効かつ重要な手段である。第16期3中全会に出された「帰属がはっきりし、権利・責任が明確で、保護が厳格で、移動が円滑な近代的財産権制度をつくる」や「国有資本、集団資本および非公有制資本等の参加する混合所有制経済を強力に発展させ、投資主体を多様化し、株式制を公有制の主要な実現形態にする」という政策目標は、中国における改革の実践に対する総括であり、いかなる疑問と変更の余地がない。

二、国有企業の所有権改革を如何に進めるか

非国有資本を取り入れることは、国有企業を混合型所有制企業に変えるためのカギとなる。国有企業における体制と機能の問題を解決するためにも、国有経済の配置と構造問題を解決するためにも、必ず所有権改革を通じて、国有企業を混合型所有制企業に転換しなければならない。リスクを負い、資産損失の責任を引き受けることのできる人格化した所有者が存在してはじめて、国有企業は本当の制度改革を実現することができる。

現在、導入の対象となる外部資本は(1)外資資本、(2)民間資本、(3)法人資本、(4)内部資本、の4種類がある。

外資資本に関しては、我が国はここ数年、国有経済の戦略的再編の対象となる産業と企業において、外資による国有企業の買収合併を積極的に進める方針を明確に出している。

民間資本に関しては、国が許す範囲内で、外資資本と同様に国有企業の所有権改革に参加できるようになっている。経済の安全性という角度から言うと、民間資本が国有企業の所有権改革に参加できる領域は外資資本より広いはずである。しかし、現実には、対外開放は対内開放より優先的されており、これは正常な状態ではない。例えば、外資に対してさまざまな優遇政策を与えても全く問題にならないのに、国有企業に出資する主体が民間企業と国有企業の経営陣になると、資産流失とすぐ批判される。このような事実は外資に傾く一つの例である。

法人資本は、すでに所有権改革を経て、有限会社、株式会社に転換した企業に加え、その他の国有資本も含む。国有資本の相互参入によって形成される多元化した投資主体は単一の国有投資主体より優れているだろう。

内部資本は、主に所有権改革を行う企業の経営管理者、幹部及び従業員の出資を指している。中小型国有企業の所有権改革にとって、内部資本は非常に重要である。

(1)~(3)の資本は外部資本になるが、4番目は内部資本である。所有権改革の際に、企業規模の大きさに応じて、外部資本と内部資本の合理的な組合せを決めなければならない。企業内部の経営管理者及び従業員が企業外部の人と同じように所有権改革に参加できるようにしなければならない。その場合は、機会の平等と競争の公正が大原則である。他方、外部資本を取り入れるために、株式の一定割合を外部資本に割り当てることによって、閉鎖的な所有権構造の形成を防がなければならない。

一般に、小型国有企業は所有権改革を行う際に、企業の経営陣と従業員の持株方式(内部者の持株を主とする)がよく選択される。これは当然の選択であると言える。第一に、改革前には多くの小型国有企業は経営効率が悪く、競争力が乏しかったため、外部資本(投資家)にとって魅力がない。第二に、小型国有企業は規模が小さく、従業員が比較的互いを熟知している。そのため、信用できる経営陣がいれば、このような企業文化は内部者の持株方式を選択させやすく、改革後にも比較的安定させやすい。第三に、小型国有企業は非国有企業に変わる場合が多いが、所有権の変化が生じた後、従業員の身分も変わることになる。労働契約に基づいて、従業員は労働関係を解除される際に、一定の経済的補償をもらえる。その場合、従業員の同意があれば、経済的補償は当該企業の株に転換させることが可能である。第四に、小型国有企業の純資産は少ないため、従業員への経済的補償を株に変えてから、従業員は過半数の株式を持ち、それによって経営への参加ができる。最後に、小型国有企業は生産性が低く、所有権と経営権の一元化は生産性の向上に適する。ここで注意しなければならないことは、小型国有企業は経営陣と従業員の持株方式を選択するとき、誰でも平均的に株を持たせることを避けるべきである。そうでなければ、昔の「大鍋飯」のような平均主義が再び発生してしまう。企業の経営陣と幹部は多くの株式を持つべきでるが、出資して得るべきであり無償で得ることが認められない。

小型国有企業の改革方式をそのまま大・中型国有企業に当てはめることはできない。大・中型国有企業の改革を行う際に、まず、本業と副業を分離させ、親会社と子会社との関係を市場取引の関係に転換した上、本業の再編と所有権改革を行うべきである。大・中型国有企業の資本金は主に外部から取り入れるべきである。それによって、開かれた所有権構造が形成できる。内部者による持株の目的は、内部の人が外部の人と平等に利益を獲得する権利を与えることに過ぎない。それゆえ、所有権と経営権の分離を確保するためには、内部者の持分に対して制限を設けるべきである。

所有権改革の方式を選択する際に、大・中型国有企業は次の3点に注意しなければならない。第一は、改革後に、条件のそろった大・中型国有企業は株式上場を目標にすべきである。第二は、大・中型国有企業は徹底的な所有権改革を行うべきである。第3は、大・中型国有企業は明確な目的をもって、戦略的投資家を迎え入れるべきである。

国有企業の所有権改革を評価する時、最も議論を引き起こしやすいのが経営陣と従業員の持株である。経営陣と従業員の持株は国有企業の所有権改革の一つの選択肢であり、とくに小型国有企業にとって良い選択肢であるため、それをすべて否定すべきではない。ここで次の3点を明確にしなければならない。

第一は、経営陣と従業員は外部資本と同様に平等に扱うべく、次のルールを守らなければならない。まず、持株に対する彼らの法律上の権利を剥奪してはいけない。2003年11月、政府は『国有企業の所有権改革の規範化に関する意見』(以下『意見』と省略)を公布し、その中で次のように記している。「経営管理者は、国有企業の所有権の譲渡する、財務審査、離任の際の監査、資産整理、資産評価、入札価格の確定などの重大事項の意思決定に参加してはならず、国有企業の所有権を勝手に自我売買することを厳禁する」。また、「企業業績の悪化に対して責任を負うべき経営管理者による該当企業の所有権の買い付けを認めない」。

第二は、国有企業の所有権改革に参入する際に、外部の人と内部の人は同様なモラル・ハザードに直面している。利益のために資本が動いているため、道徳レベルを基準にすれば、異なる性質の資本の間に優劣の順を付けることはできない。

第三は、経営陣と従業員の持株は、一般的に言われているMBOとは異なる概念である。先進諸国によくあるMBOは企業の再建とTOB(株式公開買い付け)に対する防衛のための手段である。中国におけるMBOの場合、そのインセンティブ効果と制度変革における意義がより重要である。

三、国有企業改革のために支払ったコストは国有資産の流失に当たるか

いかなる改革もコストを払わなければならないが、国有企業改革も例外ではない。中国の国有企業の現状を見ると、所有権改革に伴うコストは7つの部分から構成されている。第1は、企業の持つ社会機能を分離するためのコストである。第2は、企業が抱えてきた定年退職者の社会保障機能から生じるコストである。第3は、国有企業従業員が労働契約を解除する際に発生する経済的補償である。第4は、所有権改革を行う際に、リストラや早期退職などの内部人員に対する保障の費用である。第5は、経営困難に陥った企業における労働者賃金の未払い、医薬費、借入などの費用である。第6は、回収不能となった債権である。

国有企業の所有権改革のコストは国有資産の流失と言うべきではない。国有資産の流失とは何か。改革をしようとする企業に対して、まず監査及び評価を行い、そのうえ改革のためのコストを差し引いてから、残りの国有資産に値段をつけて売り出す。その際に、もし公開入札を行わず、人為的に評価価値より安値で売り出してしまったならば、これは国有資産の流失というのである。

例えば、ある国有企業は資産評価が3億元、債務を除く純資産が6000万元、従業員が500人としよう。改革に当たり、企業は労働契約を解除する際に発生する経済的補償を1人当たり3万元とするなら、1500万をコストとして計上しなければならない。また、資産損失、未払いの賃金・医薬費・社会保障諸費用、リストラ・早期退職者にかかわる費用は2500万元と計算する。それらのコストを差し引いてから、残りの2000万元は当該国有企業の資産に当たる。もし譲渡金額が2000万元より明らかに低くなる場合は、国有資産の流失が生じるかもしれない。国有資産が流失したかどうかを判断するときに、総資産評価額の3億元や純資産の6000万元を基準にしてはならず、2000万元を基準とするべきである。

四、国有資産の流失をどのように評価するか

国有資産の流失は国有企業改革の過程における悪現象である。それは、取引性流失と体制性流失に分けられる。

いわゆる国有資産の取引性流失とは、取引の過程において、資産価格の過小評価に基づく割安の譲渡、裏操作、詐欺、腐敗などの行為によって、国有資産が流失してしまったことを指している。ここ数年、国有企業改革は所有権改革に触れ始めたが、所有権改革の際に、成熟した、科学的な、既成の規範がないため、試行錯誤しながら改革を進めてきた。そのため、非規範的、非厳密的、非公開的な操作はしばしば行われてきた。さらに、一部の人は体制の隙を狙い、国有資産を横領しようとする。その結果、取引性流失は発生してしまった。現在、このような流失はすでに人々に注目されている。それに、法律の完備、監督の厳格化、国有企業改革の操作の規範化が加わり、このような国有資産流失は抑制されつつある。

一方、体制性流失は、国有企業におけるコーポレート・ガバナンスの不備、投資戦略の失敗、管理の混乱などの体制性要素によって引き起こされている国有資産の損失あるいは移転である。体制性流失は取引が行われていない場合に発生する。国有企業の所有権が変わっておらず、体制にかかわる問題であるだけに解決には時間がかかるため、体制性流失は見落とされやすい。国家審計署が公表した大量の国有資産流失の事実はそれに当たる。取引が行われていないからといって、国有資産の流失が生じていないとは限らない。国有資産の体制性流失は不透明かつ複雑な構造を持つため、見落とされがちである。

国有企業改革は国有企業の特殊性を反映して大変複雑であり、前例のない状況のもとで模索しながら進むしかない。そのため、ルールの確立を含めて、改革の過程は試行錯誤の過程である。非規範的な試みによって多くの不正行為が発生しかねない。中でも国有資産の横領によって、国有資産が流失してしまうことも事実である。

しかし、所有権改革は必ずしも国有資産の流失をもたらすとは限らない。国有資産の流失を防止するために、次のことが重要である。第一は、投資家は適切に責任を負うことである。第二は、改革の過程に規則を完備し、公開性を保ち、そのうえ改革の方案を決める際に、従業員代表会をはじめさまざまな関係者から意見を充分に聞き、債権者の同意を得てから実行することである。第3は、経営陣が自社株の買付に参入するならば、ルール制定の過程にかかわってはいけない。これに関して、前述の『国有企業の所有権改革の規範化に関する意見』はすでに明確に規定している。第4は、経営陣と従業員が持株を取得する資金は合法であることである。前述の『意見』に、「経営管理者は国有企業の資産を買付ける資金を調達するとき、『貸付規則』に従わなければならず、当該企業や他の国有企業から借入してはならない。また、これらの企業の財産権と実物資産を融資の担保などにしてはならない」と明記している。

国有企業の所有権改革で生じた国有資産の流失現象は、決して国有企業改革、特に所有権の制度改革を否定する理由になってはならない。国有資産の流出が発生する時、我々は国有企業の所有権を譲渡する規則を厳密に研究し、内部者と外部者による国有資産の横領を防止することに努めるべきである。国有資産の流出を恐れるあまりに、国有企業改革を止めてしまうことをしてはいけない。

所有権改革は国有企業改革の唯一の内容ではない。国有企業改革にはそのほかにも、労働雇用制度改革、親会社と子会社の分離、社会機能の分離、債務再編、コーポレート・ガバナンスの構築などの改革が含まれている。国有資産管理体制の改革や国有経済の戦略的再編なども国有企業改革と関連している。

郎咸平教授によって引き起こされた今回の論争はよいことである。一部の感情的な意見もあったが、各界の人々は国有企業改革に関して、さまざまな意見を示した。これによって、国有企業改革におけるさまざまな問題が明らかになり、これに対して真剣に対応しなければならないという認識が高まった。その上、これまでの経験を踏まえて、進行中の国有企業改革を再評価できた。今回の論争を通じて明らかになったように、国有企業改革の目的は、市場化改革を通して国有企業の効率を高めながら、一部の人による国有資産の横領を防止することである。

2006年3月27日掲載

出所

「経済観察報」、2004年9月18日
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

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