中国経済新論:中国の産業と企業

中国自動車産業発展研究報告

江源
中国国家統計局 工業交通司

一、自動車産業が高度成長期に突入

2002年にWTO加盟を果たして以来、中国の自動車産業は輸入車による激しい衝撃を受けるどころか、逆に爆発的な成長を実現した。今年に入ってから、自動車生産はさらに大幅に拡大し、自動車産業の経済成長に対する貢献度は明らかに上昇している。

今年は中国で自動車産業が誕生してからちょうど五十周年に当たる。この50年の間に、自動車産業は飛躍的な発展を遂げた。自動車の生産台数は、1971年の10万台から、1980年に20万台、1992年に100万台、2000年に200万台、2002年に300万台をそれぞれ超えたが、今年はさらに400万台を突破する見込みである。この二十年、自動車産業の発展は明らかに加速する傾向を見せている。1970年から1980年までの自動車生産台数は1.5倍に増大した。1980年から1990年までは1.3倍、1990年から2000年までは3倍まで拡大している。さらに、2000年から2010年までの自動車生産台数は4倍以上に拡大するであろうと予測されている。2010年には、中国の自動車総生産台数は1000万台を超えるとみられている。

図1 中国の自動車生産台数(1970年-2010年)
図1 中国の自動車生産台数(1970年-2010年)
(注)2003年と2010年は予測
(出所)中国統計信息網2003年6月2日「汽車産業已成為我国工業第五大支柱」

この30年間にわたって、中国における自動車生産は好況と不況を繰り返してきた。1971年から1993年の間で、中国の自動車産業が30%台の成長を実現したのは、その中の6年間であるが、一方でそのうちの8年はマイナス成長を記録した。こうした不安定な経営環境は自動車産業の発展に多くのマイナス影響をもたらした。1991年以来、中国の自動車産業はかつてない最長の成長期を迎えた。1994年から1998年までの成長率は比較的低かった(1.5%-7.3%)が、WTO加盟が確実になるにつれ、自動車産業は再び10%以上の成長率を取り戻した。2002年、WTOの正式加盟が実現すると、自動車の生産台数は325.1万台にも達し、前年より38.8%も増加し、この十年間で最も速く成長した一年となった。今年の第1四半期、自動車生産台数は102万台で、昨年の同時期より54.7%増加した。この十年間で、中国の自動車産業は激しい変動期から脱出し、基礎を固めながら、安定した高度成長期に突入したのである。

二、自動車産業が中国工業を支える五つ目の柱となっている

1999年以降、自動車産業は工業全体の成長率を上回っている。2002年の、自動車産業の工業全体の伸びに対する寄与率は11%であったが、今年の第1四半期に13.6%まで上昇した。工業部門全体の中で、成長に対する寄与は電子・情報産業(通信設備、コンピュータ及びその他の電子設備製造業)に次ぎ、二年連続して第二位であった。自動車産業は現在、工業成長の牽引役となっている。収益率から見ると、2002年、自動車産業の工業全体の利潤増加への寄与率は19.3%にも達しており、全業界のうちのトップとなっている。今年の第1四半期でも、この寄与率は13.2%であり、石油採掘業に続き、第二位である。

数十年、とりわけ最近の十数年の速い発展によって、自動車産業はかつての機械工業の中での一つの小さい業界から、国民経済における主要業の一つにまで発展した。自動車製造業が工業全体に占める割合は絶えず上昇している。1990年の自動車製造業の売上は工業全体の2.2%であったが、その割合は1995年に3.3%、2000年に3.9%、そして2001年と2002年にはそれぞれ4.4%と5.2%にまで上昇し、今年の第1四半期では6.2%へさらに上昇した。自動車製造業の利潤総額の工業全体に占める割合の上昇傾向はさらに顕著である。自動車製造業の利潤総額が工業全体の利潤総額に占める割合は1990年の3.6%から、今年の第1四半期には、10.3%まで上昇している。自動車製造業の税金総額も工業部門全体の税金に占める割合は1990年の1.1%から今年第1四半期には6.4%まで上昇した。

図2 工業全体に占める自動車製造業の割合
図2 工業全体に占める自動車製造業の割合
(出所)中国統計信息網2003年6月2日「汽車産業已成為我国工業第五大支柱」

売上の業界順位では、自動車製造業は1990年の第15位から、2001には、食品加工業及び非金属鉱物製品業を抜いて第8位になり、2002年には石油加工業を抜き、第7位にまで上昇した。今年の第1四半期には、自動車製造業の売上が紡績業と電気機械、機材製造業を上回り、電子・情報産業、電力業界、鉄鋼業、化学工業に続き、中国の工業を支える五つめの柱となっている。

利潤総額に基づく自動車製造業のランキング順位の上昇幅はさらに顕著である。1990年の第12位から、2000年の第5位、2001年には第4位に上昇し、今年の第1四半期には、電力と電子・情報産業を抜いて、石油と天然ガスの採掘業に次いで、初めて第二位になった。

現在、中国の自動車産業は国際化の一途を辿っている。一つは国内自動車市場の国際化であり、輸入車に対する関税障壁がますます低くなり、国内自動車市場はますます開放に向かっている。もう一つは自動車産業自体の国際化であり、中国のWTO加盟後、世界の主要自動車メーカーはいずれも直接的あるいは間接的な方法で中国自動車産業に参入した。また、中国の主な自動車メーカーも国外の自動車メーカーと合併あるいは協力していることにも国際化の影響が現れている。2002年末の時点で、資本金から計算すると、自動車産業における外資の割合は24.4%であり、工業部門全体の22.1%という割合を上回っている。とりわけ、乗用車製造業では、外資が占める割合が33.7%にも達している。産業の国際化によって中国の自動車産業の技術レベルは1970年代から一気に90年代初期に突入したと見られる。最後の一つは、中国自動車産業の世界における地位がすばやく上昇していることである。2001年、中国の自動車生産台数はイタリア、ブラジルやメキシコなどを上回っており、世界第8位である。2002年には、さらに韓国、スペイン、カナダを追い越し、世界第5位となった。今年の中国の自動車生産台数はさらにフランスを抜き、アメリカ、日本、ドイツに次いで世界第4位の自動車生産国になることが予想される。

三、自動車産業の発展を支える自動車の個人購入と消費構造の高度化

1990年以前、中国の自動車市場は公用車がその多くを占め、需要自体がきわめて少なかった。70%の需要が政府、事業単位の公用車、30%が企業の商業用車であり、自家用車は殆どゼロであった。1990年から2000年にかけて、公用車の割合が減少し、商業用車がシェアを拡大し、また個人による乗用車購入が始まった。2002年には乗用車販売のうち個人購入が占める割合が初めて50%を超え、60%前後に達した。その中でも、最も活気の溢れる北京市の自動車市場では個人購入が90%近を占める。最新の統計によると、2002年末の時点で、中国の自家用車の所有率は百世帯当たり2.8台であり、昨年度より大幅に上昇したものの、欧米先進国との間に依然大きな格差が残っている。しかし、自家用車に対する需要が公用車を大幅に上回っていることは、中国自動車産業の持続的高度成長にとって良い機会を提供しているのである。

自動車の消費構造から見ると、乗用車の割合が明らかに上昇しているのに対して、貨物トラックの割合が年々減少している。自動車全体に占める乗用車の割合が1991年の11.4%から2002年に33.6%まで上昇したのに対して、貨物トラックの割合は63.8%から33.7%にまで減少した。先進諸国の経験から見ると、自動車のうち乗用車が占める割合は、通常70%前後である。従って、今後20年間、乗用車が自動車産業全体の発展を後押しする傾向が続き、乗用車が自動車に占める割合はさらに拡大していくであろう。

国際乗用車市場に関する研究によると、車の価格の一人あたりGDPに対する比率(R値)が2~3倍まで下がるとき、乗用車が急速に家庭に普及するという経験則がある。これは多くの国で見られた法則であり、日本、韓国も同じ経験を経ている。現在、中国の北京、上海、広州と深センなどの大都市のR値がこの水準に接近しており、個人が乗用車を購入する爆発的な成長期にすでに突入している。

四、自動車産業チェーンはすでに中国で最も潜在力のある産業へと成長した

自動車産業の産業関連度は非常に高く、自動車産業の発展度は国家の総合的な経済力を反映する指標の一つである。また、IT産業のほかに、欧米先進諸国が支配する少数の産業の一つが自動車産業である。自動車産業は機械、冶金、電子、ゴム、石油化学などの業界の強い牽引役となっている。計算によると、自動車産業の生産高が関連産業と直接関連する度合いは1:2で、間接的に関連する度合いは1:5である。現在、中国における自動車産業チェーンの生産高が一定規模以上の企業による工業生産高に占める割合は20%に達している。更に、IT技術が自動車に大量で使用されるようになって、電子システムが高級乗用車の総コストに占める割合が70%、普通乗用車の場合で30%にも達する。IT技術と自動車産業との結合は、中国IT産業と自動車産業の共同発展を促し、中国新型工業化の象徴になっている。

自動車産業の高度成長は、自動車の販売、アフター・サービスや自動車ローンなどのサービス業界の爆発的な成長をもたらした。公用車の時代、自動車は普通の消費財ではなく、従って、現在のような意味での自動車販売市場はもちろん、自動車ローンもまったくなかったに等しい。中国のWTO加盟に伴い、外資による自動車サービス業への参入が許可されるようになり、この自動車産業チェーンからつながる重要な産業がこれから空前の発展を実現し、社会から巨額の資金を吸収し、大量の新しい雇用を作り出すであろう。

図3 自動車ローンの新規契約額
図3 自動車ローンの新規契約額
(出所)中国統計信息網2003年6月2日「汽車産業鏈已成為我国最有発展潜在力的産業群」

どのような産業にも導入期、成長期、成熟期と衰退期が存在する。中国の自動車産業の数十年間の発展プロセスを見ると、1990年代の発展は明らかに70年代、80年代より速く、また21世紀の最初の十年間はさらにそれを上回るであろう。規模が絶えず拡大する中、成長のスピードが絶えず加速していくことは、中国の自動車産業がすでに高度成長期に突入し、スケールメリットがすでに現れ、中国の自動車産業がすでに投資と生産拡大という良性の拡張段階に入ったことを物語っている。

五、中国の自動車産業を制約する三つの大きな問題

現在の中国自動車産業は、歴史上で最も長い高成長期にあり、自動車産業の成長スピードの速さ、そして取り囲む条件の良さは多くの専門家及び業界の人々の予想を超えている。しかし、こうした楽観的なムードの中、われわれは中国の自動車産業が三つの大きな問題によって制約されている事実をきちんとと認識しなければならないのである。

1)依然としてR&D能力を持たない自動車メーカー

近年、中国の自動車産業が速い発展を実現したにもかかわらず、昨年発売された数十モデルの新型車の大部分は、合弁企業がノックダウン方式で輸入し、市場にすばやく送り出したものである。自動車、とりわけ乗用車の新製品の開発と販売などの重要な工程は殆ど外国メーカーに支配され、中国の自動車メーカーは多国籍企業に従属することになるリスクを抱えている。中国の自動車産業の発展を目指して、韓国モデル(産業主導型、すなわち自主開発型)を採用するか、それともブラジル・モデル(産業依存型、すなわち外資主導型)を採用するかという議論は中国国内で大いに展開されているが、実際、中国の自動車産業は知らぬ間にすでにブラジル・モデルへと収斂されていった。ドイツのフォルクスワーゲン社は昨年、中国で50万台の自動車を販売したと発表したが、その台数の中には子会社である上海フォルクスワーゲンと一汽フォルクスワーゲンという中国最大の乗用車生産企業によるものが含まれている。広州本田と上海GMも日本ホンダとアメリカGMにとっては、全世界で最も収益性のよい子会社となっている。自動車メーカーのコストの大部分は、外国側に対する自動車部品の購入と技術開発費用の支払いである。自動車メーカーが儲けた巨額の利潤の中から、外国側はさらに多くの部分を持っていくのである。

2)自動車産業の分散した状況がいまだに改善されてない

自動車産業は規模の経済性が大きく作用する産業である。世界の自動車産業の発展の歴史を見ると、自動車メーカーの数は絶えず減少し、そして少数の独占企業に集中するという発展傾向がある。1964年から2000年までの36年間、世界の乗用車を生産する主要な企業数は52社から一気に10社前後にまで減少した。現在の世界では、六つの多国籍企業集団と三つの独立した自動車メーカーからなる「6+3」の局面がほぼ形成されている。この六つの多国籍企業集団の年間自動車生産台数はどの企業も400万台以上であり、一つの企業だけで中国全国の自動車生産台数を上回っている。しかし現在、中国の自動車メーカーは100以上もあり、全国の27省(市)が自動車、17省(市)が乗用車を生産しており、さらに23省(市)が乗用車の生産ラインを整備している。多くの地方政府が自動車産業を現地の支柱産業と見なし、高い収益性を見込んで、新しい自動車プロジェクトを次々と立ち上げるのである。自動車産業の競争が不充分で、自動車プロジェクトからの営利があまりにも簡単に得られるため、政府主導型の投資行為と地域間の保護主義がいまだに深刻であり、地域を越えたM&Aは非常に困難となっている。

3)自動車消費環境の改善が要請されている

最近の二年間で、「乗用車の個人購入の奨励」が政府による内需拡大政策の一環として進められてきた。自動車ローンに関する規制緩和や、自動車価格の自由化などの政策が相次いで実行されたことで、自動車が中国の一般家庭に入る時期が明らかに早まった。しかし、高すぎる税負担と不合理な費用の徴収といった現象は依然として深刻である。また、自動車の暴利を抑制し、国際慣例への移行及び消費者権益を保護するためのリコール制度などは、自動車業界の反対に遭い、幾度も却下されている。国家機関の公務用車に対する改革も多くの抵抗に直面しており、自動車産業政策にはまだ一貫性が欠けたままである。

2003年7月7日掲載

出所

中国国家統計局工業交通司 江源、「中国汽車産業発展研究報告(一)(二)(三)」
※和文の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

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