中国経済新論:中国の経済改革

新しい国有資産管理体制の確立

魏傑
清華大学経済管理学院

1952年西安市生まれ。1987年中国人民大学経済学博士学位取得。1996年6月より国家国有資産管理局科研所所長、中国国有資産管理学会副会長に就任。現在、清華大学経済学管理学院教授、国有資産管理局研究所所長、国家国有資産管理学会常務副会長などを兼任。研究分野は、社会主義経済理論と実践。

国有資産管理体制は経済体制の重要な構成部分である。このため、国有資産管理体制は、必然的に経済体制の状況に制約されると同時に、経済体制の変化と共に変化する。中国の国有資産管理体制は計画経済時代に作られたため、計画経済に見られる特徴をもっている。改革・開放以降、国有資産管理体制の改革が数回行われたが、市場経済に対応できるような体制になっておらず、今後、更なる改革が必要である。このような時代の要請に応えて、第16回党大会(2002年11月)の報告では、新しい国有資産管理体制の構築に関する内容が盛り込まれ、新しい国有資産管理体制について画期的な戦略的取り決めが提起された。具体的には次の5点である。

一、独立した国有資産管理の専門機関の設立

現在の国有資産管理体制における最大の欠陥は、国有資産を専門的に管理する機関がないことである。国有資産は最終的に全国民の所有であるが、国民一人一人が自ら国有資産を管理することは不可能である。このため、全国民を代表して国有資産を管理する専門機関が必要である。中国の憲法では、国務院(内閣)が国有資産の所有者の代表で、全国民を代表して国有資産を管理すると定めている。これは一見国有資産を管理する専門機関が存在するように見えるが、実際には、国有資産を管理する専門部門は存在しない。国務院が国有資産の所有者を代表すると言っても、総理が自ら国有資産を管理することは不可能であるため、行政組織に国有資産の管理権限を委任せざるを得ない。その結果、多くの政府部門が国有資産を管理することとなり、「多頭管理」になっている。「多頭管理」は「無頭管理」に等しい。「多頭管理」の下では、責任と権限の明確化はありえないのである。利益と権限の関係するものは争って管理しようとする一方、責任のあるものになると、なすり合いになり、誰も管理しようとしない。中国の国有資産管理体制の最大の欠陥はこのような「多頭管理」にある。「多頭管理」のため、国有資産に対する責任・権限・利益が不明確かつ非対称になる上、国有資産を活用できない一方、コントロールもできないという矛盾が生じ、中国経済の効率的な発展に深刻な影響を与える。

このため、国有資産の所有者を代表して権限を行使する一方、全国民のために責任をもつ国有資産管理の専門機関を設立しなければならない。国家国有資産管理局という国有資産管理の専門機関は以前にもあったが、十分かつ独立に権限を行使できる専門機関ではなく、財政部に属する二級の管理部門に過ぎなかったため、国有資産管理の職能と権限を十分かつ独自に発揮することができなかった。さらに、この組織は1998年の国務院機関改革により廃止された。このような理由で完全にかつ十分に独立した国有資産管理の専門機関の必要性が高まっているのである。

国有資産管理の専門機関がどこに属するべきかの問題について、学界で論争があった。主な意見は3つである。一つは、全国人民代表大会は全国最高の民意機関であるため、全人代の中に国有資産管理の専門機関を設立すべきとの意見である。二つ目は、憲法の規定により国務院は国有資産の所有者を代表するため、国務院に設けるべきとの意見である。三つ目は、国有資産管理の専門機関は、法律で国有資産の管理権限を与えられ、全国民を代表して管理する非政府機関であるべきとの主張である。そうすれば政府の行政介入を減らすことができる。三つ目の意見は、そもそも市場経済の下で、政府は特定の経済主体を代表してはならず、各経済主体に対し国民待遇の原則を徹底すべきであるという考えに基づいている。

この三つの意見のうち、どれが良いかについて、当初、私の考えは三つ目の意見に近かった。しかし、第16回党大会の報告に提案された国有資産管理の専門機関は政府の中にあり、国務院の管轄に属する。思案した末、私は第16回党大会報告の提案は正しいと思うようになった。なぜなら、中国のように政府機能が完全に転換しておらず、行政介入が依然多い状況の中、非政府の法定機関の場合、国有資産管理の重責を背負い切れないからである。このため、国有資産管理の専門機関を政府の中に入れるのは正しいことで、国有資産管理の役割を果たすのに有利である。私の当初の考え方は理想的すぎたかもしれない。もちろん、経済体制の改革と政治体制の改革の深化に伴い、将来、国有資産管理の専門機関も非政府の法定機関として存在することも可能となろう。

二、国有資産管理の専門組織の責任と権限の対称性の確保

中国の国有資産管理体制の大きな問題点の一つは、国有資産管理において分権制をとっていることである。すなわち、多くの政府機関が国有資産管理の権限を有している。例えば、国有資産の資産権は財政部、投資権は国家計画委員会、日常の運営は経済貿易委員会、人事権は大企業工作委員会にあり、その上、各企業の主管部門が業務を管理する。この結果、責任のなすり合いや権限の奪い合いになり、国有資産の効率的な管理が実現できない。

このため、国有資産管理体制改革の重要な課題の一つは、国有資産管理の専門機関の持つ責任と権限の一致、すなわち責任と権限が対称的になるように図ることである。これを実現するには、国有資産管理の専門機関は、資産だけでなく、人事も事務も管理し、出資者の持つべき全ての権限を行使しなければならない。すなわち、以前の国家国有資産管理局を反面教師にすべきである。旧国家国有資産管理局の資産管理の権限はごく限られていた。人事を管理する権限はもちろん、事務を管理する権限もなかったため、国有資産に対し効率的な管理ができなかった。こうした経緯もあり、第16回党大会報告の国有資産管理の専門機関は、資産だけでなく、人事と事務も管理する。これは非常に正確かつ英明な判断である。そして、国有資産管理機関は、出資者としてのすべての権限をもつべきである。そうなれば、国有資産管理の専門機関の責任と権限は対称になり、責任を果たすことができる。

三、国有資産管理に対する中央と地方の積極性の向上

中国の国有資産管理体制の一つの大きな特徴は、国有資産は中央の所有である一方で、地方がレベル別に管理することにある(「中央所有・地方分級管理」)。すなわち、地方政府は所有権を持たず、管理権のみを有する。このようなやり方は、国有資産の取引の際、社会コストが高すぎるという弊害を伴う。地方政府に国有資産の取引権がなく、中央政府だけが国有資産の取引を許可する権限をもっているため、国有資産の取引は、政府の管理体制に沿って下から上に管理階層の一つ一つに報告し認可を受けなければならず、取引効率が極めて低いだけでなく、取引コストも高い。特に、地方政府は国有資産の所有権をもたず、所有者の享受すべき利益を受けていないため、国有資産に対する地方政府の無関心や積極性の無さをもたらした問題に注目したい。この間実施された上場企業の国有株放出において、地方政府はあまり積極的ではなかった。中には放出を妨害するところもある。これは、上場企業のほとんどは地方政府の所管なのに、国有株放出による収益は全部中央財政に入り、地方政府と関係ないためである。この点から、国有資産管理の問題において、中央と地方の両方の積極性を引き出すこと重視すべきである。

それでは、どのように中央と地方の積極性を引き出すかが問題になる。経済学界では、中央所有、地方の分級管理の下で地方政府の積極性を引き出せないため、国有資産は中央と地方に分けて所有(中央と地方の「分級所有」)すべきという案が出されている。国有資産の分級所有という提案について、国有資産を中央政府と地方政府の間で財産権の分け合いをしなければならないという問題につながるため、複雑すぎて早期の実施は無理である一方、従来の中央所有・地方管理も良くないため、新しい方法にすべきだとの主張がある。第16回党大会の報告はこの問題について新しい案を出した。すなわち、中央政府と地方政府は別々に国有資産の出資者としての権限を行使する上、中央政府が出資者として権限を行使する対象は主としてインフラ、資源、国家民生に関わる国有企業の資産に限定し、これら以外の国有資産の出資者としての権限はすべて地方政府に委ねるとのことである。これは、確かに実施可能な案であると考えられる。この案は、財政権が分けにくいにもかかわらず分けねばならないという問題を避けることができるし、地方政府の積極性を最大限に引き出すこともできる。このため、出資者の権限から出発して中央と地方の積極性を論じた方が良い。さらに、中央政府が出資者としての範囲について制限を設けるやり方も正しい。

四、国有資産運営に対する政府の行政介入の排除

中国の国有資産管理体制の欠点の一つは、国有資産の運営に対する行政介入が強すぎるため、国有資産の効率が低い点である。この問題については、すでに多くの改革を行ってきた。例えば、以前、国有資産を使用する企業を国営企業と称し、国の所有と国による経営を共に強調していたため行政介入が強すぎたが、その後、国有資産を使用する企業を国有企業に改め、国の所有のみを強調し、国による経営を強調せず、政府の行政介入を弱めた。さらに、第16回党大会の報告は、国有企業改革を強調せず、国有資産管理だけを強調し、国有資産管理体制を推し進めた。政府は国有資産の出資者に過ぎず企業の管理者ではないことを強調し、資産が全部国有である企業に対しても政府は出資者として存在するだけで過度に介入することができない。企業は完全たる独立法人であり、出資者は企業が独立法人の地位を有することを認めることが前提である。このため、政府は出資者としての権限のみ有し、企業の経営に介入することができない。企業は完全たる法人の地位をもつ実体であり、会社法の保護を受ける。政府を含むすべての出資者は、例え企業の唯一の出資者であっても、企業は完全な独立法人の資格をもっているため、出資者はあくまで出資者であり、企業が自分のものであると宣言してはならない。

国営企業から国有企業へ、さらには国有資産に変化したことは、大きな進歩である。それぞれの段階は企業に対する行政介入の減少を意味する。このため、この問題に対する第16回党大会の報告は画期的な進歩であると認識すべきである。国有資産管理体制の重要な方向は、政府の行政介入が減少し、企業が真の運営主体として存在することである。このため、国有資産管理体制を評価する時、企業に対する政府の行政介入が減少したかどうかを見極めねばならない。第16回党大会の報告は、企業に対する行政介入の減少に向けての出発点であり、我々は同報告の進歩と革新を支持すべきである。

五、国有資産の役割の正確な定義

非国有資産は利益の回収を求めるものであり、一方、国有資産は社会の効用すなわち社会機能の調節とバランスを求めるものである。言い換えれば、国有資産は全国民の資産として、全国民の公共利益のために活用されるべきであり、公共財や国家経済・国民生活に関わる資産としての形で存在し、国にとって社会・経済・生活を調整するための重要な手段である。したがって、国有資産は必ずしも国有企業という形態ではなく、社会・公共の利益のための形態、例えば社会保障、貨幣、公共インフラ、教育、各種公共サービスとしての形で活用することもできる。社会・経済の発展に有利であれば、国有資産はどのような形態をとっても良く、必ずしも国有企業でなければならないことはない。このため、第16回党大会報告は、国有経済の各種形態を検討することを提起した。第16回党大会報告のいう国有経済の各種形態は国有資産の各種形態のことを指すと私は考える。国有資産は様々な形で社会のために使うことができ、利用する方法は国有企業という形だけではない。実際、現状から見て、国有企業という形態は、国有資産にとって最良の形態ではない。これまで、我々は公有経済の各種形態を模索することを強調していたが、今回の第16回党大会報告では、国有経済の各種形態を検討することが提起された。これは大きな進歩と革新である。

第16回党大会報告の国有資産管理体制に関する論述は、戦略のレベルから、国有資産の歴史的使命を見直し、中国経済体制改革にとって大きな意味をもつ。これにより、国有企業改革において長らく抜け出せなかった苦境から脱出することができ、我々に新たな思考回路を切り開いてくれた。これは、市場経済に見合った国有資産管理体制の確立に有利であり、その意義は今後の改革開放の中から身近に体得することができよう。これまで、我々は、社会主義か資本主義か(「姓社姓資」)で国有資産の問題を議論し、社会・経済を調節する重要な手段としての国有資産の議論を重視しなかった。このため、なぜ西側諸国にも膨大な国有資産があるか、なぜ西側諸国も国有資産の問題を重視するか、ということをうまく説明できなかった。しかし、現在、考え方はすでに変わった。説明できなかった問題も明確に説明することができるようになった。第16回党大会の報告の指摘のように、我々は前人の思想を超越することができるし、後世の人も我々の思想を超越することができる。我々は時代と共に前進してこそ未来を切り開くことができる。そうでなければ、前に進むことは難しい。

2003年6月23日掲載

脚注
  • 第16回党大会の方針に沿って、中国国有資産監督管理委員会が2003年4月7日、正式に始動した。同委員会は、20以上ある国務院各部・委員会に加わった新機関で、7兆元近い国有資産の監督・管理を行う。同委員会の李栄融主任によると、同委員会は法律に従って国有資産の出資者としての職責を担うが、企業の生産経営活動へは直接関与せず、企業が現代企業制度確立を加速するための支援を行う。詳細については人民日報日本語サイトをご覧下さい。
出所

『研究動態』136期、清華大学中国経済研究中心、2002年11月11日

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2003年6月23日掲載

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