中国経済新論:中国の経済改革

「貧富格差の現状合理説」を正す

呉忠民
『中国経済時報』

農村部の支えがなければ、中国の現代化が今日の局面に至ることはまったく想像もできなかった。しかし、こうした事実にもかかわらず、中国の農民達はますます拡大する二元経済構造に生きることを余儀なくされつつある。これは、明らかにあらゆる公正の基準に違反しているのである。

ある報道によれば、わが国の統計学者の一人は、「総体的に見ると、現在の中国の貧富格差は合理的である」と発言した(注)。その理由として、「中国は典型的な二元経済構造の国であり、ジニ係数という一般的な標準は中国にあまり当てはまらないのである。非二元経済的な国家にとって、ジニ係数は通用するかもしれないが、中国の場合、農村部の人口が総人口の大多数を占めており、従って、ジニ係数の有効性もそれなりに考慮する必要がある」という。わが国の貧富格差の現状をいかに認識するべきかという問題に関して、一つの代表的な見方とも言えるが、残念なことに、こうした判断は、事実とは一致していないだけではなく、誤解を招きかねない。

こうした判断はなぜ、成立しないのであろうか。実際、現在の中国における二元経済構造は、人為的に作られたものであり、一種の非公正的かつ非合理的な現象である。歴史の角度から見ると、中国の農民達が現代化に対する貢献度と社会からの報酬が大きく乖離したことで、二元経済構造が強化されるに至っているのである。工業化を全力で推進するために、1952年から1986年にかけて、価格格差を通じて、政府は農業部門から密かに5823.74億元に及ぶ巨額の資金を吸い上げていた。それに徴収された1044.38億元の税金を加えると、34年間で、農業部門から国家が6868.12億元の資金を吸い上げたことになる。1960年代、国全体の財政収入が年平均でわずか数百億元に過ぎなかったことを考えれば、これはいかに巨額であるかが分かる。

農村部の支えがなければ、今日の中国の現代化建設がこのような局面に至るという状況は、非常に想像しにくいものである。しかし、中国の農民達はますます拡大する二元経済構造に直面しなければならず、これは、公正の基準から見ると明らかに望ましくない。現在の多くの社会経済政策は、二元経済構造を維持、あるいは強化するためのものである。例えば、戸籍制度は、一種の社会身分制度を維持、あるいは強化するためのものであり、雇用政策は都市部と農村部で異なる対応を見せている。また、社会保障政策も両者間の乖離を維持、あるいは強化するものでもある。こうして、中国の二元経済制度は強化され、一種の非公正の典型ともいうべき現象が生まれたのである。

そう考えると、先述した統計学者のロジックは、明らかにおかしい。つまり、二元経済構造が深刻であればあるほど、それによる社会不公正も拡大し、ジニ係数がもはやその意義を失い、貧富の格差がそれゆえにその合理性を増したということになるからである。

さらに深刻なことに、こうした判断には、彼自らも予想しなかった一つの前提となる観念が潜んでいるのである。すなわち、現在の状態は合理的であり、本来、人と人との間における不平等、そして農民の貧困は当然であるというものである。すなわち、中国社会の貧富格差を計算する場合、農民をある特定の枠組みから排除すべきという見方である。こうした観点は、少なくとも一つのことを見落としているのである。つまり、中国の農村部の人々も中国の公民であり、中国社会の総体の貧困格差を判断する場合、間違いなくこうした人々を社会の一員として付け加える必要があり、彼らの存在を無視することができないことである。そうでない場合、中国社会における貧富格差の判定は、最小限の信憑性すら持っていないのである。

現在の中国社会における貧富格差が果たして合理的であるのか。これに対して、多数の標準で総合的に判断するべきであるが、その中、ジニ係数は一種の総合的な指数である。大多数の専門家の研究成果によると、中国現在のジニ係数は、0.458以上であり、0.49と主張する一部の学者もいる。0.458で計算する場合、中国のジニ係数は合理的な範囲をすでに超えている。その他の方面の指標もこうした問題の深刻さを物語っている。

都市部と農村部との格差に関しては、まさしく前述した統計の専門家がわれわれに信憑性の高いデータを提供してくれたのである。仮に再生産に利用する費用を除いて、そして都市部の人々の福祉水準を算出すると、中国の都市部と農村部との格差は実際、5:1、あるいは6:1まで拡大しているという。この数字は、もはや世界トップとなっている。業種別の収入格差に関しても、その差は非常に大きい。北京市統計局の調査によると、2001年、北京市86個の業種の中で、給料の最高の業種と最低のそれとの格差は、6.6倍にも及んでおり、2000年よりこの差は、1.9倍も拡大したという。所得の大きい順で中国の国民を五つの階層に分類して見ると、総戸数の20%を占める富裕層の収入は、中国社会全体の収入の51%以上を占めているのに対して、20%の低収入者の割合が中国全体の収入に占める割合は、わずか4%前後に留まっている。中国社会の多くの人々は、貧困格差を中国社会における深刻な社会問題であると見なしている。例えば、中国社会科学院『2003年:中国社会情勢分析と予測』での調査によると、指導層の幹部は2002年における諸問題の中で、収入格差を一番深刻であるとみなし、それに関連している失業問題は第二位になっている。また、異なる都市部住民を対象とする調査においても、収入格差の拡大が第三位、それと密接な関係を持っている失業問題が第一位になっている。

これまでの分析に基づいて、われわれはある結論を容易に導くことができるであろう。すなわち、全体的に見ると、現在の中国社会における貧富の格差は間違いなく、正常と言える限度を超えており、すでに不合理的な状態を見せているということである。

貧富格差は、中国社会における一つの深刻な社会問題として、中国社会の安全な運行と健全な発展に非常にマイナスの影響を及ぼしている。中国共産党と中央政府は、中国人民に「共同で豊かになる」ことを約束している。中国共産党第十六回大会においても、「小康社会」を全面的に建設する基本内容の一つは、「十数億の人々に豊かさをもたらすこと」である。従って、われわれは、貧富格差の問題を回避するべきではなく、さらに貧富格差問題の深刻さを意図的に隠すこともできない。この問題を十分に認識してこそ、初めてそれに全力で取り掛かり、問題の解決を図ることができるのである。

2003年5月6日掲載

脚注
出所

中国経済時報「"貧富差距現状総体合理"的判断有誤」
※和文掲載にあたり中国経済時報の許可を頂いている。

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2003年5月6日掲載

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