わが国の加工貿易は、対外輸出入総額における割合で見ても、90年代初めの10%程度から2000年には51.7%にまで拡大し、わが国の対外貿易の持続的な発展にとっての重要な原動力となっている。そして、加工貿易のさらなる発展は、わが国の対外貿易の健全な成長を促すだけではなく、製造業などの発展や地域経済の繁栄を促し、また、外資利用の促進、国際的な先進技術や設備、科学的管理方法の導入、外貨の獲得、雇用問題の解決、さらに国際分業体制への参加を推進させることにも重要な役割を果たしているのである。しかし、加工貿易における不均衡構造が中国の経済発展に一定のマイナス効果を与えているのも事実である。本文は、わが国における加工貿易の不均衡構造とそのマイナス効果についての分析を行い、そのより一層の発展を図ろうとするものである。
1.不均衡構造の問題点
(1)不均衡な産業分布
中国における外資利用の大部分は海外からの直接投資である。そして、加工貿易は外資利用に伴って発展してきたのである。したがって、中国の加工貿易における産業分布は、外資利用における産業分布とは正の相関関係にあるのである。
中国の産業において、外国の直接投資に占める第一次産業のシェアは、長い間2%以下に留まっており、それとともに第一次産業における加工貿易の割合も非常に低くなっている。
直接投資の中で第二次産業のシェアが61.6%と最も高く、その大部分が一般的な労働集約型産業に集中している。そして、中国の加工貿易も第二次産業に最も集中している。その上、その成長スピードが非常に速く、多くの産業へと浸透し、加工製品の多様化・系列化という局面を迎えている。加工貿易は製造業の発展を大いに促し、紡績、機械、電子、化学工業といった産業が大幅な成長を実現した。しかし、現在、主導的な地位を占め、輸出の成長に最も貢献しているのは、服装や紡績、靴などに代表される労働集約型の業界である。
第三次産業への直接投資の割合については30%を超えているが、科学、教育、文化、衛生などの住宅産業以外での外資の増加のペースは非常に遅く、加工貿易の成長空間は殆ど存在していないのである。
このような加工貿易の不均衡な産業分布により、第二次産業における労働集約型製品の過剰供給が発生し、その上、国内における多くの同質の製品と互いに代替関係にあるため、競争力のない数多くの国内企業が経営不振に陥っているのである。
(2)低い技術レベル
中国の加工貿易の発展は、世界経済の構造調整と産業構造の段階的な高度化の結果である。70年代以降、先進諸国・地域は生産コストを抑え、利潤の最大化を図るために、労働集約型産業を相次いで発展途上国へと移転させた。また、1986年以降、アジアNIEsの通貨や日本円の切り上げもあり、こうした諸国の労働集約型産業における競争優位性の弱体化をもたらした。中国の加工貿易は、まさしくこのチャンスを活かし、NIEsから移転された労働集約型産業を受け継ぎ、発展の基礎を築き上げたのである。
しかし、中国の加工貿易の大部分は依然として労働集約型産業である。ほんの一部のハイテク製品(機械・家電製品輸出の70%、電子製品輸出の90%が加工貿易)の輸出に関し、加工プロセスにおける付加価値が低く、しかもコア技術と主要工程が外国企業に支配されているなどの多くの問題を抱えているのである。
(3)特定地域への一極集中
中国東南部の沿海地域は、最初に改革開放を実行した地域であるというメリットもあり、外国からの豊富な直接投資に恵まれ、中国でも経済活動水準の最も高い地域となっている。この地域は労働力が豊富で、品質も比較的高い。その上、工業用インフラの完成度や加工能力が高いということは、加工貿易の発展にとっての有利な条件を提供しているのである。同時に、この地域は、東アジアや東南アジア、マカオ、香港といった新興工業国・地域とも接しており、華僑の人口も多く、こうした地域と緊密な親縁および血縁関係を持っているため、移転されてきた労働集約型産業を継承するための有利な条件が整っていたのである。経済基盤に加え地域間関係や人的資本の優位性があったため、加工貿易を行う企業は主に東南沿海部、特に華僑が多い広東省や福建省に集中したのである。その規模は全国の加工貿易総額の90%以上も占めている。広東省の2000年の輸出入における加工貿易の総額は1201.6億ドルにも達しており、そのうち輸入が498.3億ドル、輸出が703.3億ドルで、それぞれ全国の加工貿易総額の53.8%と51.1%を占めている。
(4)非対称的な利益配分
加工貿易は、海外の投資企業の経営に有利な条件を提供し、一般的な貿易関税や非関税障壁などの制約を回避し、中国の安価な労働力を十分に利用することを可能にしたのである。そのため、外資企業は、中国に輸入した材料に基づいて加工を展開することを積極的に進めている。生産要素価格がその限界収入に相当するという原則に基づき、海外の投資企業は資本収入や管理・技術収入を、そして中国側は労働収入や一部の資本収入(合弁の場合)を獲得している。
しかし、実際にはこうした利益配分の構造は非常に歪んでおり、中国側の収入は外資企業により非常に低く抑えられているのである。また、外資企業に対する過度な優遇政策の結果、外資企業は非合理的な収入を増加させている。加工貿易におけるR&D、製品のデザイン、製造、販売、運輸・流通、そしてアフターサービスからなるバリュー・チェーンにおいて、中国はいまだに部品・補助部品の簡単な加工や組み立てといった労働集約的な段階に留まっており、産業チェーンが短く付加価値も非常に低くなっているのである。統計によると、「来料加工」において中国側は輸出総額の7~9%の収入しか得られず、その他の付加価値の多くを外国側が獲得しているのである。また、「進料加工」の場合、原材料の購入と完成品の販売のいずれも外国側が支配しており、また価格も外国側が支配しているため、外資企業は移転価格や利潤を移転させる手法を利用し、中国側に大きな損失をもたらしている。加工貿易における輸出製品の中でも、ローカル・コンテンツの割合は非常に小さくなっている。中国の完成品の加工貿易において、国産の割合は35%にも達せず、言い換えれば加工貿易における1ドルの輸出製品が中国国内にもたらす付加価値はわずか0.35ドルに留まっているのである。
(注)来料加工:原材料を供給、製品を引受、加工賃のみ決裁。進料加工:原材料を供給、製品を買取、輸出入とも決済の対象となる。
(5)一貫性に欠けた政策基準
この十数年間、中国は一貫して輸出主導の貿易戦略を実行し、輸出による外貨の獲得を奨励してきた。「両頭在外」(市場や原材料を海外に依存する)、「大進大出」(生産要素の輸入拡大による製品輸出の拡大)に特徴付けられる加工貿易は、輸出による外貨獲得の主要な手段となっている。そのため、外資を大量に取り入れ、そしてさらに多くの外貨を獲得できるよう加工貿易に関する多くの優遇政策が適用されているのである。
加工貿易に関する基本的な優遇政策は主に三つある。第一に、加工貿易における原材料に対して保税政策を実施すること。第二に、加工貿易において輸入された原材料に対して、寛容な貿易政策を実施し、きわめて少数の「敏感製品」以外で、輸出のために輸入された原材料であれば、輸入に対する数量制限を実施しないこと。第三に、国家の規定で免税の対象となっていない少数の輸入製品以外で、加工貿易において外国から輸入された設備に対して関税と「輸入環節増値税」を免除することである。
一般的な貿易方式と比較すると、加工貿易に対する優遇政策はあまりにも多い。付加価値税の還付に対し、原則的に「ゼロ税率」が適応され、つまりは「税金の全額還付」が行われていた。1994年以前、わが国は輸出製品に対し全額の税金還付を実行していた。しかし、管理能力が不十分であったため、大量の「税金漏れ」現象が発生し、国家財政に深刻な影響を与えてしまったのである。そこで、我が国は、1995年、1996年と、2年連続で輸出還付税金率を低くし、製品の輸出に対して「免除、補償、返済」といった方法を適用したのである。そして、調整により、普通の貿易方式での輸出製品に関しては、8%の税率(税率17%と税還付率9%の差額)が適用された。しかし、加工貿易では輸入原材料に対し免税が採用されるため、加工後の輸出製品に含まれる税率は一般の製品より遥かに低くなっているのである。
このように、輸出の際に行われる税金還付政策は、異なる貿易方式の間に違いをもたらし、加工貿易製品と一般貿易製品を輸出する際に深刻な不平等が生まれているのである。そして、こうした優遇政策が、わが国の加工貿易に多くの問題を生じさせているのである。
2.不均衡構造のマイナス効果
(1)国内の原材料工業の発展に衝撃を与え、産業構造の高度化に不利な影響を与える
前述のように、わが国の加工貿易では、原材料と市場というバリュー・チェーンの両端を海外に頼らざるを得ず、加工貿易における原材料の大量輸入は、国内における原材料工業の発展に重大なマイナスの影響をもたらした。この数年間で中国の綿花栽培業、繊維業、鉄鋼業のいずれもが大きな衝撃を受けた。特に1997年のアジア通貨・金融危機以降、日本や韓国など、繊維原料やビニール原料の主な輸出国は、加工貿易という形で中国に大量の低価格輸出を行ったため、中国の石油業界や化学繊維業界、および繊維業界は深刻な打撃を受けることとなったのである。
同時に、外資企業が経営主体となることも、わが国の国内関連設備や産業構造の高度化を妨げている。加工貿易は外資利用の重要な方式ではあるが、輸入された原材料に基づく加工貿易の中では外資企業が市場および販売ルートを完全に掌握し、コア技術を厳しく管理し、技術や製品の開発能力は海外に温存しているため、わが国の従来の工業技術の基礎を十分発揮することができず、中国側は加工段階にしか参加できないのである。また、一部の外資企業は、技術レベルが低く、環境汚染がひどい産業をわが国に移転させ、わが国の環境に悪影響をもたらしているのである。
中国の外資導入の主な目的は、海外の優れた技術を導入することによってわが国の産業や製品の技術を向上させることにある。外資の導入に伴い、一部の先進的な設備や技術が導入されたのは事実であるが、全体的には当初の期待から大きくかけ離れていると言わざるを得ない。
(2)国内資源が東部地域へと移動し、地域間の経済格差を拡大させている
前述のように、中国の加工貿易は、主に東南沿海部に集中している。こうした一極集中により、国内における資金や経済資源も東部地域へと移動し、既に存在していた地域間の経済格差がより一層拡大してしまったのである。
加工貿易の東南沿海部への集中の結果、この地域における企業数が非常に多くなり、生産能力も過剰となって生産資源の利用効率が非常に低下してしまった。安価な労働力は、依然としてわが国の加工貿易の発展を支える重要な原動力であるが、東南沿海部の経済成長によって労働賃金が上昇してしまい、こうした優位性を脅かしているのである。一方、中国中西部の生産資源や労働力は豊富で、労働コストは東南沿海部よりもはるかに安くなっている。つまり、加工貿易が東南沿海部に集中してしまったことは、中西部の比較優位性を十分に発揮する上ではマイナスに働いてしまうのである。
(3)加工貿易と一般貿易とのアンバランス
前述のように、普通の貿易方式と比べ、加工貿易に対する優遇政策は非常に多くなっている。輸出製品に関し、国産部分は税制上差別を受けてしまうので、中間投入財の輸入代替も困難となってしまい、その結果、相当数の加工輸出産業が「大進大出」の段階に留まってしまっているのである。さらに、そのような差別のために、多くの企業は加工貿易製品の生産へと転じ、加工貿易と普通貿易の発展におけるアンバランスがもたらされているのである。
また、必要以上の優遇政策は、企業にあまりにも多い補助金を与えることを意味しており、単に数量的に拡張させようとする加工企業でさえ利益を受けることとなり、加工貿易構造の高度化のインセンティブが低下してしまう。その結果、貿易製品の技術度や製品の付加価値は低くなっているのである。一方の外資企業に対しても、加工貿易に対する投資の偏向を促し、その結果、外資によるわが国の産業の高度化や国民経済の発展の推進力が小さくなってしまっているのである。
(4)加工貿易に関する非整合的な政策が違法行為を助長している
中国の加工貿易を優遇する制度の実施には、経済貿易委員会、対外経済貿易部、税関、税務総局および外国為替管理局といった多くの部門の協力を必要としている。この制度は、企業の法律に基づいた経営を促し、加工貿易の健全な発展を推進させる上で一定のプラスの効果をもたらした。しかし、部門間の協力が不十分であったため、有効な総合管理システムが形成されず、分割管理や政策の非整合性の問題が発生してしまい、結果として加工貿易を利用した密輸などの違法行為を可能にしてしまったのである。
加工貿易を利用し、密輸を行う手法には様々なものがあるが、性質的には次の三つに分けられる。一つ目は、実際の申請よりも多くの輸入を試みる、あるいは輸出が少ないにもかかわらずより多くの申請を行うことである。二つ目は、「三つの偽物」(偽手帳、偽書類、偽サイン)を利用した密輸である。三つ目は、管理や審査の隙をついて密輸を試みることである。前二つは各貿易方式でも多く見られる問題であるが、三つ目の問題は基本的に加工貿易特有の問題である。例えば、加工貿易には、異なる地域での加工や輸出入、加工プロセスといった様々な段階があるため、管理上多くの困難が存在し、密輸にとっては非常に都合がいいのである。しかも、経済のグローバル化や情報化により、インターネットが国際貿易においても頻繁に利用されるようになり、加工貿易の方法は日々多様化し、複雑性を増している。そして、インターネットでの売買、世界規模での注文、ソフトウェアの輸出入などの新しい貿易方式に対する政策上の整備が不十分である現在、管理が難しくなっている。
(5)加工貿易が、わが国と先進諸国の貿易摩擦をもたらす一つの要因となっている
貿易摩擦をもたらす要因としては二つ考えられる。一つ目は、加工貿易の多くが他の国や地域のために加工した製品の再輸出に過ぎないにもかかわらず、統計上、中国がその原産地として見なされてしまうということである。これにより、中国と先進諸国との貿易不均衡が拡大し、貿易摩擦の圧力を増大させているのである。二つ目は、中国の加工貿易に関し、原材料輸入と完成品輸出の約70%が香港において取引されているということである。香港の中継貿易による付加価値は、欧米諸国の統計では中国からの輸入と見なされる。その結果、中国からの輸入額、そして中国に対する貿易赤字額を拡大させてしまい、双方の貿易摩擦を激化させているのである。現在、中国の加工貿易は、対欧米諸国の貿易黒字、そして対韓国・台湾の貿易赤字を生む主要な要因となっている。
以上見てきたように、わが国の加工貿易は様々な問題点を抱え、それが中国の経済発展に一定のマイナス効果を与えているのも事実である。わが国の加工貿易が対外貿易の重要な推進力となっていることを考えると、今後、中国が経済発展を持続していくためには、このような問題点の一刻も早い解決が望まれる。
2002年12月2日掲載