中国経済新論:中国の産業と企業

中国家電産業の苦境と希望

王蘊紅
河南財経学院 国際経済学部

中国の家電産業はWTO加盟後、今までにない挑戦に直面し、一方ではかつてないほどのチャンスを迎えることにもなる。その際、家電産業が置かれている現状を理解し、その優位性を活かすことで世界経済の一体化という挑戦に臨むということは、あらゆる家電企業にとって重要な課題である。

中国家電産業の苦境

改革開放以来、中国の家電業界は著しい発展を遂げ、今や競争が最も激しい業界となった。しかし、家電業界には、企業が体制改革の遅れによる過当競争への対応に追われ、コアとなる自らの技術を開発する能力を持っていないという本質的な欠点がある。家電業界は長年にわたり、バリュー・チェーンに沿って補完し合う分業体制ができておらず、単に価格競争を繰り返してきた結果、コアとなる競争力のない組み立て産業になってしまったのである。

中国の家電産業は、長年にわたってぎりぎりの経営を続けており、どの企業も五十歩百歩の状態にある。2001年には産業全体でついに赤字となってしまい、中国全体の生産能力はすでに過剰となっている。

企業間の競争において、技術開発は重要な要素であるが、それには巨額の投資が必要で、しかも不確実性を伴っているというリスクにも注意しなければならない。日本や東南アジアの新興国がこのような巨額の投資やリスクを避け、比較優位に基づいた戦略によって成功を収めてきたのは明らかである。

中国の家電企業は労働コストの低さに比較優位を持っている。コアとなる技術の習得を戦略上重視せず、創業段階における参入リスクを減らし、習得コストを低く抑えるのは経済的な選択である。しかし、企業がコアとなる技術の形成とそれに対する投入を躊躇し続ければ、発展すればするほど経営範囲が狭くなってしまう。これはまさに中国の家電企業が直面している矛盾点であり、成功も失敗も「チャンス」と捉えることが重要である。

現在、家電企業の経営戦略は事実上、製品の取り替えであり、ある製品の利潤がなくなるとすぐ別の製品へと移行する多角化投資を行っているのである。これはある意味、行わなければならない革新と挑戦の回避であり、産業の高度化に対する取り組みを恐れているのである。企業は、中国の市場規模が絶えず拡大しているため、高成長で高いマージンが得られる産業への移転を通じて延命しているだけである。しかし、新しい産業もすぐに飽和状態となってしまうため、カラーテレビに関する価格戦争が、その後、エアコンやコンピュータ、携帯電話などの産業においても繰り返されるわけである。一企業の場合には、多角化の選択は合理的であっても、全企業が同じように戦略転換を行うことは、まさに経済学でいう合成の誤謬を招いてしまうのである。根が深いからこそ葉は生い茂るのである。マイクロソフト、ノキア、ウォルマートおよび中国の華為は最もよい例である。

同様に、販売とサービスの面においても間違った認識が存在している。家電企業は皆、「海爾」「小天鵝」「TCL」に習ってサービスへの投入を強化しているが、その製品の質がよくなければ、サービスがどんなに優れていても無駄である。巨大なサービス組織、長過ぎるサービスチェーン、高すぎるサービスコスト、劣悪で過剰なサービスを抱えるなど、明らかにバリューチェーンの有効性の法則に反しており、かつマージンの低い産業にとっての生存条件にも反している。たとえば、多くの家電企業は市場をコントロールする販売ネットワークを構築し、このネットワークが企業の成功の要因と言われてきた。しかし、マージンの低い時代に、大規模で低成長の、しかも模倣しやすく、効率の悪い営業販売ネットワークは、逆に企業のコスト管理で重い負担となってしまう。

中国の家電業界が窮地に追い込まれた結果、国内の一部のエアコン企業とカラーテレビ企業による値下げと最低価格販売協議についての合意が行われた。これは典型的な寡占行動で、企業競争の基本原則に違反しているため、本来は独占禁止法による制裁を受けるべきである。また、ゲーム理論の観点からは、家電企業の価格連盟は失敗に終わる可能性が高い。経営戦略上、企業連盟は価格連盟ではなく戦略に関する連盟であるべきである。合法かつ有効な戦略連盟は、経営上の資源共有や製品の共同開発、原材料の共同購買、市場の共同開発、資本の関係上の合併・買収などを通じ、規模の経済性による利益を高めるのである。

中国家電産業の展望

十数年にわたる競争の結果、中国の家電業界は販売・営業面において絶えず新たな戦略を打ち出してきた。規模の拡大を目的とする単純な価格戦争から自社ブランド主導の製品統合まで、また販売・営業などのサービスからチャネルや最終クライアントに関する戦いに至るまで、まさにすべての手段を使い果たしてきたと言ってもいいが、依然として苦境から抜け出せていない。果たして、中国の家電産業はどこに行こうとしているのであろうか。

原点に戻って考えると、中国の家電企業は、やはり創造的で個性のある製品を作るべきであり、大衆化から個人化への市場構造の変化に従って内包的成長を求めるべきである。製品の革新を通じて技術進歩や文化を表現し、それと同時に社会や環境への責任を果たすべきである。単に価格やセールスを促進することで勝負するのではなく、理性に対する製品の表現力で勝利すべきである。

家電企業にとって将来の市場開拓の方向性としては、「高所を目指す」、「農村における市場を開拓する」、「海外に進出する」、「西部の大開発に参加する」の4つが考えられる。

「高所を目指す」:ハイエンド市場を開拓することである。長虹の「精顕背投」は段階的成功の一つの好例であり、苦難の調整期を脱出する契機となった。ハイエンド市場をコントロールすることができるようになれば、市場における要所を占領したと言っても過言ではない。

「農村における市場を開拓する」:ローエンド市場から農村市場へと拡大することである。農村は家電産業に巨大な発展の余地を提供し、家電産業が今後も持続的な発展を維持するためには重要な部分である。

「海外に進出する」:販売・営業の国際化を通じて市場を開拓し、そして外国の有利な条件を活かすことによって企業の生存空間を拡大させる。

「西部の大開発に参加する」:中国の地域の発展段階に合わせた戦略と西部大開発のチャンスを活かして企業を発展させる。それによって製品のサイクルを延長し、かつ製品の価格競争力を維持するのである。

現在の同質化の市場の中で家電企業が重視しなければならないのは、製品の革新の主要方式、つまり工業設計であろう。製品設計、イメージ設計、環境設計、設計管理を主な内容とする工業設計を通じて、製品イメージ、ブランドイメージ、企業イメージを融合させ、かつ相互に作用させる。顧客が感じられる取得価値が商品購買決定の鍵となっているため、優れた工業設計によって製品が顧客に与える取得価値を最大化することができるのである。企業がイノベーションを実現するためには、革新と創造性を刺激できる企業の内部環境、特に企業文化を育てなければならない。そして、この文化は寛容的でなければならない。すなわち、間違えを容認し、試行錯誤を繰り返すことこそ、成功を実現するためには重視しなければならないのである。

個人を尊重するということは、個人の利益を尊重し、個人労働を容認するということである。それゆえ、企業は所有権を明確にしなければならない。いくつかの家電企業はすでにこの点を意識し始めた。「美的」「科竜」などが企業の所有権を先行的に明確にし、「長虹」も所有権の改革を発表した。所有権を明確にすることは現代企業制度の基本であり、家電企業が現在の苦境を打開するには、所有権を明確にし、管理面における改革を実施しなければならないのである。

2002年10月28日掲載

出所

経済参考報

2002年10月28日掲載

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